旅する創造主――アノンの世界観

ぼん

文字の大きさ
53 / 70
伝承時代:冒険者ギルド誕生譚

【冒険者ギルド誕生譚】 プロローグ:「新たな時代の風」

しおりを挟む
 静けさの中で、私は歩みを止めた。

 遠く、水平線の向こうから風のような気配が押し寄せてくる。

終わりなき旅路の、その続きを私――アノンは、ただ静かに見つめていた。

 記憶の底では、潮騒と祈りの残響が風に混じっていた。

 かつて港町の片隅で、多くの命と手を取り合った日々――

 それは確かに存在し、今なお胸のどこかで光っている。

 けれど、物語の終わりは必ず新しい問いを連れてくる。

 すべての旅は、次の旅の始まりになるのだ。

 私はいま、外なる領域――

 時の形すら持たない、静かな世界の只中にいた。

周囲には創造主の使いのエリウスたちが、淡い光の揺らめきとなってなり、次第に姿を現す。

「アノン様。時代はまた、大きく揺れております」

 エリウスの声は、遠い雷鳴のあとに残る静けさのようだった。

 私は視線を上げ、空間に浮かぶ無数の街並みへ目を向ける。

 そこには、風景が流れるように『今の世界』が映し出されていた。

「世界はずいぶん騒がしいな。港の潮騒も砂漠の熱も……いつの間にか、大陸そのもののざわめきに変わってしまった」

 ラクシアが、風の揺らぎをまとって言葉を重ねる。

「市場には新しい人の波が生まれ、旅人も商人も、かつてより遠くを目指すようになりました」

 オルドは言葉を発しないが、その沈黙には揺るぎない重みがあった。

 静かに、だが確かに私へと『次の選択』を促してくる。

「……道は増え、石は削られる。それでも誰かが道標を立てれば、また旅は始まるものだ」

 私は小さく笑みをこぼした。

「何かが終われば、何かが始まる。違いは本当に隔たりなのか……それとも、新しい力の芽吹きなのか」

 ヴァルガが、燃える芯を抱くような声音で応えた。

「アノン様。街の片隅で、誰かが祈っています。それはまだ名もなき願い……ですが、いずれ命の流れを変えるものになるでしょう」

 祈りは、まだ『力』と呼ばれるには遠い。

 だが、誰かが心の奥で求めるたび、世界は僅かに色を変えていく。

「時代の風は、どこへ向かうのだろうな。喧噪も静けさも……未来の地図には、まだ描かれていない」

 イストの声は、夜明け前の星のように淡く響いた。

「新しい時代を恐れる声もあります。ですが、誰かが歩き出さなければ、物語は始まりません」

 私は静かに頷いた。

「すべての旅は、次の旅の始まりとなる。問い続けること――それこそが、世界のかたちだ」

 遠い港の記憶。

 広場の喧騒。

石畳を行き交う人々の声。

 そのすべてが、いまも私の胸の奥でさざめいている。

 私は「次の問い」を抱えながら、新しい時代の風へ――確かに足を踏み出した。

◇◇◇

 世界の底で、微かな痛みが走った。

 それは、名のない誰かの胸からこぼれた、ひとしずくの願い。

 時代は静かに移ろうが、その変化は穏やかなものだけではない。

 ここはエルディア大陸。

 森と山脈に抱かれ、古き王都の余韻と、新しい時代の気配が混ざり合う土地。

 路地を抜ければ、活気のある市場が広がる。

 人間、エルフ、獣人――さまざまな声や笑いが交差し、旅の荷車が行き来し、果物と香草の匂いが風に流れる。

 遠くで吟遊詩人が、未来の歌を奏でていた。

 だが賑わいの奥底には、名もなき不安や、誰にも届かぬ願いが潜んでいる。

 私は、世界の底に立ち上る『問い』を感じ取った。

『なぜ歩き出さなければならないのか』

『なぜ知らぬ地平を目指したいのか』

 それは誰か一人のものではない。

 この大陸に生きるすべての命が抱える、普遍の問いだった。

 祈りにも似たその衝動は、誰の胸にも潜んでいる。

 絶望の底でも、憧れの先でも――未来へ手を伸ばす、その小さな気配。

 私は静かにその衝動に導かれる。

 強い祈り、強い願い、あるいは――どうしようもない絶望。

 そうした感情が世界から溢れたとき、私はただの観察者ではいられなくなる。

 知りたくて仕方なくなるのだ。

 この時代に何が芽吹き、どこへ向かおうとしているのか。

『冒険』と呼ぶには、まだ遠い。

 だが――石畳の片隅に、小さな光の揺らめきが確かに生まれようとしていた。

◇◇◇

 市場の喧噪の奥に、ひとりの若い女性がいた。

 木箱の上で膝を抱え、通り過ぎる旅人たちをじっと見つめている。

 長く編んだ茶色の髪が背中に揺れ、麦色の肌が夕陽に照らされていた。

 その瞳の奥には、誰にも語らぬ『問い』が秘められていた。

『この街を出て、まだ見ぬ地平を見てみたい』

『誰かの物語を聞くだけじゃなく、自分の足で確かめたい』

 彼女の想いが胸に触れた瞬間、私はわずかに息を呑んだ。

 願いはまだ名もなく、ささやかな火種にすぎない。

 それでも――その『問い』には確かな力の芽があった。

 私はゆっくりと、彼女へ歩み寄る。

 観察者として。

 そして、彼女の抱えた小さな光を確かめるために。

 世界の輪郭を変えるかもしれない、まだ誰も知らぬ旅路の始まり。

 この大陸には、まだ答えのない『未来』が満ちている。

 冒険と呼ぶには遠い。

 けれど確かに動き出していた『何か』があった。

 私は静かに、彼女の瞳の奥から世界を眺め始める。

◇◇◇

 遠く、街の塔の上で風見鶏が回る。

 東の森から新しい風が吹き、西の川沿いには見知らぬ商人の隊列が進んでいく。

 木箱に座っていた彼女が、そっと立ち上がった。

 その瞬間、私の内側でひとつの問いが生まれる。

――この願いは、どこへ向かうのだろう?

 彼女の歩みはまだゆっくりだ。

 だがその一歩は、確かに『旅の始まり』を予感させた。

 エルディア大陸の中心で、新たな物語の風が、確かに世界を貫いていった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

処理中です...