学校の怪談

結城朔夜

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第一章 鏡の間

case.10

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『結局、私をまたひとりにさせるつもりなのでしょう?………そんなの、絶対にさせないから!!』

怒りを露わにして、巫子が両手を掲げると、皆の前に鏡が現れ、映し出された自身の姿が揺らめき、話しかけてくる。
しかし、その言葉は心を抉るような、冷たい言葉で。

『偽善者』
『見栄っ張り』
『お節介』

「「「!?」」」

にやりと笑う鏡の中の自分が、痛いところを突いてきて。
一葉達は、戸惑いながら鏡の自分に向き合い、息を呑む。

「………確かに俺たちは偽善者で見栄っ張りでお節介だよ。でもそれがどうした?自覚してるなら問題ないだろう?」
『………』

一葉は一呼吸置いて、反論の言葉を口にする。
それに対して鏡の自分たちは言い返すことなく、ただ冷たい視線を向けたまま、消えて行った。

「なんだよ、言いたいだけ言って消えるのかよ?随分と自分勝手だな」

調子に乗って由宇がそう言うと、巫子はさらに怒りを彷彿させて。

『………ふざけないで。このまま一生此処から出られなくさせても良いの?』
「それは困る。それに、ふざけてなんかいないよ。僕たちは真剣だ。だから君も、本当の気持ちを教えてくれないか」
『うるさい、うるさい、うるさい!!そうやってまた私を嵌めようとするに決まってる!』
「そんなことしないよ。でも、ねえ、さっきから何をそんなに怯えているの?僕には君が何かを怖がってるようにしか見えないけど」
『私が怖がってるですって?そんなこと、あるわけないじゃない』
「でも、現に君は今すごく何かを怖がって、それを嫌がって怒ってるんでしょう?」
『………違うわ。別に、怖がってなんか………』
「“ひとりは嫌だ”って言ってたじゃないか。それって、孤独になるのを怖がってることじゃないの?」
『………』

痛いところを突かれて、巫子は言い返すことが出来なかった。
確かに巫子は先ほどから『ひとりは嫌』と言って、そうなることを拒んで怒っていた。
それは結局のところ、孤独を怖がっているのと同じ事で。
それに気付いて一葉達は、ある決断をしていた。

「巫子さん、もし嫌でなければ僕たちと友達になってくれませんか?」

それが、一葉達の答えだった。

巫子を仲間に迎え入れること。
友達として、もっと互いを知りたいと思ったのだ。

『………何言ってるの?友達なんていって、所詮は口先だけの紛い物でしょう?』

しかし、巫子は意地でも一葉達の想いを受け入れず、拒んだ。

『どうせ利用するだけ利用して、要らなくなったら捨てるんでしょう?そんなの、分かってるんだから。いつもいつも皆同じようなことを言って、利用して、邪魔になったら切り捨てて。………私はいつだってひとりぼっち。だからもう、絶対にその手には乗らないから!』
「………」
「………愛依?」

ふと、愛依が巫子に近寄っていき、再びパチンと頬を叩いた。

「確かに、そうやって利用するために友達に成る子もいるわ。私だって、最初はそうだったわ。でもね、途中で気付いたの。どうして私には本当の友達が出来ないんだろうって。
そして分かったの。私自身が、他人を拒んでいたから、誰も本当に友達だって思えないんだって事に。それを教えてくれたのは、由宇だったわ。最初はお互い、変な奴だって思ってたわよ。でも、由宇は自分の想いにまっすぐで、それでいて誰とでもすぐに打ち解けた。
それに比べて、私は自分のことも嫌いで、誰にも心を開けなかった。だから、誰も本心を見せてくれないんだって事を教えてくれたのも、由宇よ」
『………だから何?結局私が悪いっていってるんでしょう?』
「そうね、悪いのは自分の気持ち。素直になれず、偽りの自分を演じて振る舞って、努力して。それで誰も見向きしないんだから、とても惨めでしょうね。でも、ほんの少しでも本心を見せれば、誰かしらその想いに答えてくれる人がいるはずよ。現にあなたにはもう、友達とは言えなくても、信頼できる相手はいるじゃない」

そう言って、愛依は永遠の方へと視線を向けると、今まで無言で見守っていた永遠が気付き、『なんだよ………』照れくさそうに返した。
最初は信じられずにいた巫子は、『永遠が?』とでも云いたそうな表情で、愛依に叩かれた頬を擦っていた。

「今の関係がどうでも、長く一緒にいた時間は変わらない。そうやって、いつの間にか、友達って出来るものなのよ。だから、いつまでも自分の殻に篭もってたら、いつまで経っても何も変わりはしないわ。ほんの少しで良いの、自分の本当に気持ちに素直になってみたらどう?」
『自分の、本当の気持ち………?』
「そう、あなたの本当の気持ちを、おしえてくれないかしら」

そう言って、愛依は膝をつくように座り、微笑みながら首を傾げた。

『………』

その微笑みに巫子は戸惑い、それもでもまだ信じられないと、視線を逸らして。
けれど、巫子の中で燻っていた想いに変化が起きていたことは確かで。
ふいに巫子に頬に一筋の涙が伝う。
なぜ?と戸惑う巫子に、永遠がそっと近寄って。
ポンポンと頭を撫でてくれた。

『………なんのつもり?』
『いや、なんとなく?』
『なによ、それ………』

そう言って涙を拭う巫子に永遠はずっと頭を撫で続けていた。
その温もりが少し気恥ずかしくて。
でも、ほんのりと暖かくて、嬉しくて。
拭っても拭っても溢れてくる涙に、巫子は耐えきれず、そのまま泣きだした。

『………本当は、ずっと寂しかった………。独りになるのが………怖かったの………』

泣きながら、ぽつりぽつりと本音を口にする巫子に、永遠は『うん』とだけ答えて、頭を撫で続けていた。

『ずっと、友達が欲しかったの………。でも、誰も私に気付いてくれなくて……。ただ、誰かと一緒に遊びたかっただけなのに………』
「でも、だからって無理矢理一緒に遊んだって、ちっとも楽しいとは思えないわ。そうでしょう?」
『そうね。最初は良くても、次第に皆楽しそうにしなくなっていった。でも、ずっと一緒にいれば、また楽しく遊べると思って、ここに閉じ込めてたのに………それも間違いだってわかってたのに』

『うわあああん』と声を上げてなく巫子に永遠はずっと優しく頭を撫で続けていて。
その光景に、愛依はやれやれといった表情で、一葉達の方へ向くと、一葉は無言で頷き、そしてあるものを手渡した。

「巫子ちゃん、あなたさえ良ければ、私たち本当に友達になりたいと思ってるのよ。その証として、これを受け取って欲しいの」
『………これは?』
「ミサンガよ。願いを込めて編み込んで、手首や足首に付けるの。そしてやがて切れた時に、願いが叶うっていわれてるの。黄緑色なのは、友情を意味していて、利き足首に巻くと、友情運がアップするわ、どう?付けても良いかしら?」

そう言って、一つのミサンガを出し、巫子に聞くと、どうしようかと悩む巫子は永遠に視線を投げかけた。
永遠は好きにしなよと言いたげな表情で首を傾げて。
そして一葉達の方へも視線を向けると、それに気付いた一葉が、微笑んで自身の利き足を見せた。
そこには既にミサンガが着けられていて、他のメンバーも皆、同じように利き足にミサンガを着けていたのだった。
それを見て、巫子は戸惑いながらも、『………良いわ』と答えると、愛依は「じゃあ付けるね、利き足はどっち?」と聞き『右足』と答えると、右足首にミサンガを着けてくれた。

「はい、出来た。これで皆とお揃いね。いつかは切れちゃうけど、その時はもう、大丈夫よね」
『………お揃い』
「ええ、皆友達って意味よ。この友情が、続きますようにって願いを込めて編んだから、そう簡単には切れて欲しくないけど。巫子ちゃん、これからも、よろしくね」

そう言って、愛依は右手を差し出し、微笑んだ。
巫子は戸惑い、恐る恐る手を伸ばて。

『………嘘ついたら、赦さないから』

と、捻くれた返事ではあるが、愛依の手を握り返していた。

「よし、そうと決まれば皆でまた何か一緒に遊ぶか?」
「おーけー!何して遊ぶ?」
「皆で出来る遊びと言えば、やっぱ鬼ごっこか?」
「それさっき散々やったから違うのでも良いか?」
「じゃあ何する?」
「う~~ん………」

愛依と巫子が互いに手を繋いで、「何して遊ぼうか?」と言い合い、巫子は恥ずかしそうに小声で『してみたかったことはある』と言い、愛依に耳打ちすると、「じゃあそれにしましょう!」と提案した。

「何々?何か決まった?」
「皆で出来る遊び。これにしましょ」

「『フルーツバスケット』」

愛依と巫子が声を合わせて言うと、皆「オーケー!」と返事をして。
永遠も加わり、皆でフルーツバスケットをして、4回残ったら罰ゲーム!と決めた。

それから思う存分皆で遊んで、巫子も他の子達も楽しそうに笑って、走り回った。
やがて何度か繰り返して、ふと時計を見ると気付けばもう午前3時を回っていて。
流石に遊び疲れたのか、年少組は眠たそうに目を擦り、あくびをしたりしていた。
そろそろお開きにしようかといい、とりあえず仮眠を取ろうと皆で丸まって寝転がった。
満足したのか、巫子は愛依の隣で丸まって既に寝息を立てていた。
その姿を見て、愛依は背中に手を伸ばし、ポンポンと優しく寝でていた。

それか暫く皆で一緒に仮眠を取り、目が覚めた後。
そろそろ元の世界へ帰らなければと、巫子に告げると『また、遊びにくてくれるよね?』と不安そうな表情で見つめる巫子に、愛依は「いつだって、一緒だよ」と笑顔で小指を差し出して、ユビキリを交わした。

『じゃあ、皆を元の世界へ返すね。また一緒に遊びましょう』

そう言い大きな鏡を出して元の世界へと繋げた。
皆はようやく解放されたと、安堵の表情を浮かべて。
ひとり、またひとりと、鏡を通って元の世界へと帰って行った。

「これで残るは俺たちだな」
「また、遊びに来るからね」
「怖い鬼ごっこはもう止してくれよ?」

和也の言葉に『考えておくわ』と笑顔で答えて。

「じゃあ、またね」
「また一緒に、遊びましょう」

そう言って、和也を先頭に、源の世界に戻っていた。
その足首に、お揃いのミサンガを着けて。

そして皆が帰った後、巫子は懐に入れていた小さな巾着を取り出して、中身を再び取り出した。
中に入っていたのは、小さな手鏡と櫛。
昔ある子からもらった唯一のプレゼント。
それらにそっと手を当てて『私にも、お友達が出来たよ………』と呟き、そっと目をとして胸に抱え込んだのだった。

気付くと、一葉達は体育館の中にいた。
窓からは眩しい程の朝日が差し込んでいて。
囚われていた子達も皆、無事に全員元の世界に戻れたことを確認すると、皆安堵の表情を浮かべていた。

「本当に、元の世界に戻れたのね。良かった………」

愛依がそう言うと、由宇が「あ!」っと声を上げて。
どうしたのかと尋ねると、「切名と紅映にお礼いうの忘れた………」と言った。
しかし、どうやってまたあの世界へ繋がれるのか分からずにいると、不意に永遠の声が聞こえた。

『その心配なら要らないよ』

こえのした方へと向くと、にっこり笑った永遠の姿があった。

「え?え?なんでお前がここにいるんだよ?!」

驚いた由宇は永遠を指さして慌てていると、永遠はにんまりした顔で『だって俺何処にでも行けるし』と言って、両手を後ろ頭に組んで、ふふんと鼻を高くして言った。
そして『巫子だって、繋がってるぜ』とパチンと指を鳴らすと、一つの鏡がぽんと出てきて、そこに巫子の姿が映っていた。

『皆、ちゃんと帰れたかしら?』

巫子は両手を頬に当てるように覗き込んで。
皆無事なことを告げると、『私がいつでも、道を繋いであげる』と言った。

どうやら、あの世界には巫子が道を作ったかららしく、その空間の歪みに一葉達が迷いこんだらしいのだった。
さらに、二葉がなくしたと言っていたブローチも、巫子が拾っていたことを知り、返してもらうと、二葉は「ありがとう………」と小さく照れながらお礼を言った。

『迷惑かけて、本当にごめんなさい。でも、また遊びに来てくれるって約束したんだから、忘れないでよね』

ちょっと拗ねた感じで言う巫子に、愛依が「分かってる。でも、ありがとう。また日を改めて遊びにいくわ。約束ね」と告げて。

『忘れないように、俺が見張っててやるぜ!』

と、永遠は親指を立てて告げると、「え~?」と由宇が嫌そうな顔をして。
なんだかんだ言いながらも、楽しそうな姿に、皆が声を上げて笑っていた。

その後、また鏡を通して皆を家まで帰し、自分たちも部屋へと繋いでもらうと、その日は平穏な一日に成ったのだった。



それから暫くして。
一葉達は、相変わらず賑わっていた。
時偶、鏡を通して巫子と会話をする愛依や、永遠と一緒に悪戯して怒られる由宇。
いつもと変わらぬ日常に、戻っていく中。

「ねぇ、聞いた?吹奏楽の子、また怪我したんだって………」
「また?………これで何人目?」

ふと、そんな話が飛び交っていたのに気付かないまま。
異変はまだ密かに息を潜めていたのだった。
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