学校の怪談

結城朔夜

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第二章 想いの壁

case.11

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七星学園。
初等部と中等部がある一貫校。
古き伝統を学びに励み、学び・努力・自立・本気・健康・愛情・友情の七つの言葉を刻んだ星を校章にし、子供達は伸び伸びとした学園生活を送る。

今年は創立100周年という節目も兼ねて、七夕に当たる7月7日の創立記念日に合わせて、記念式典も開かれることになっている。
その日があと半月ほどと近づいてきているためか、教員達は忙しなく事務作業に追われていた。

そんなことは関係無しに、生徒達は各自自由に日常を送り、今日も変わらぬ日々を送っていた。

初等部5年1組の教室も、普段と変わらぬ様子で賑わっていた。
その中心はいつもお騒がせな由宇だった。
クラスメイトを巻き込んで、面白おかしな話を持ち込んでは皆の興味を惹き、談笑している。
一葉達は近くで「またやってる」と呆れつつも、傍らで見守っていて、いつもと何ら変わらぬ光景だった。

唯ひとつだけ、変わったことと言えば、一葉達だけが知る秘密の友達の話。

今年に入り起きた怪奇現象の一つ、行方不明になっていた生徒達が無事に戻ってきたこと。
その原因となった、旧校舎の怪異『家庭科室の大鏡に映る少女の霊』だ。
怪我を負った生徒も含め、全て巫子と永遠による悪戯だったことが判明。
紆余曲折を経て、ようやく解決した末に、仲良くなった二人の存在は、一葉達だけの秘密だった。

普段は大人しくしてるが、一度羽目を外すと手に負えなくなる二人に、手を焼きながらも一緒に遊ぶようになるにつれ、次第に信頼関係も結ばれていった。

そんな日常の中、また新たな怪奇が忍び寄っていることに、まだ誰も気付くことはなく。


式典に向けて、初等部のコーラス部と中等部の吹奏楽部が合同演奏合唱を披露することが決まり、その練習を音楽室でしていた。
音楽専門の教員が指揮を振り、伴奏担当の生徒がピアノを弾く。
指揮に合わせて吹奏楽部の生徒が演奏し、コーラス部の生徒が合唱を歌っている。
教員は一度演奏を止めて、指導に移った。

「テノールが響いてないわ。もっと声を出して」

そして再び指揮棒を振り、生徒達の歌声がキレイに響くと、「良いわ。その調子よ」と皆を讃えた。

「はい、では今日はこの辺で終わりにしましょう。皆さん、体調管理はしっかりとね。無理はせずに、本番に向けて頑張りましょう!」
「「はい!!」」

そして練習を終え、皆が帰宅の準備をして、教員も仕度をまとめた。

「気をつけて帰りなさい」
「はい、先生。さようなら」
「はい、さようなら」

皆が帰宅の途につくのを確認し、教員は音楽室の鍵を取り出し、鍵をかけた。
そして、職員室へ戻ろうと、足を踏み出した瞬間。

―――ぽーん………―――

不意に、ピアノの音が聞こえてきた。
先ほど、生徒は全員帰ったのを確認したはずだが、まだ残っている生徒がいたのだろうか?
そう思って、再び鍵を開けて中を確認するが、そこには誰の姿もなく、不思議に思っていると、またぽーん………とピアノの音が鳴った。

「え?」

ピアノの前には誰の姿もない。
しかし、確かにピアノの音がした。

そして………。

ぽーん………ぽーん………

触れてもいないのに、ピアノがひとりでに音色を奏で始めたのだった。
その音色に聞き覚えがあった。

そう、それはベートーヴェンのピアノソナタ第14番「月光の曲」だった。

最初はゆっくりと、そして次第に早く強くなり、旋律を奏でていく。
教員はただ呆然とその音色に耳を傾けるしか出来ず、棒立ちのまま曲が鳴り響いていた。
そして第一楽章が鳴り終わると、また再び同じ第一楽章が鳴り始めた。

二度目の演奏で教員は我に返ると、流石に不気味に思い、声を上げた。

「誰?悪戯してるのは!隠れてないで出てきなさい!」

教員がそう言うと、ピアノの音が不意に止り、それきり音はしなくなった。
出てくる気は無いのかと思い、教員はとりあえずまた音楽室の鍵をかけて職員室へと戻っていった。
そして帰宅の途につこうと、車に乗り込んだのだが………。

―――ぽーん………―――

不意に、車のデッキからピアノの音が鳴り出した。
何故?と思った瞬間、ピアノの音の他にノイズが入ってきた
誰かが何かを喋っているみたいだが、上手く聞き取れず、教員はボリュームを少しずつ上げて確認した。
すると、今度ははっきりとした声で、それは喋った。

『なんで、弾かせてくれないの………?』
「っ!!」

直後、デッキの音が止み、普通のラジオが流れてきた。

「………何、今の………?」

教員は驚き、デッキを確認するが特に異常は見られず、その後も変化は見受けられなかったので、とりあえず車を動かし、帰宅についた。

翌日。
その教員から、急病で休むとの連絡が入り、その後連絡がとれなくなのだった。

式典まで日数がなく、吹奏楽部とコーラス部の部長を中心に何とか練習を続けていた。
そしてその日の練習を終え、皆が帰宅したのを確認して、吹奏楽部の部長は音楽室の鍵を掛けようとした。
しかし、その時もまた誰もいないはずの音楽室からピアノの音が聞こえてきた。

「………まだ、誰かいるの?」

しかし返事はなく、代わりにピアノの音がまた響いた。
そして、教員の時同様に、ベートーヴェンのピアノソナタ第14番「月光の曲」が流れ始めて。
部長は驚いて、その場に立ち竦み、その間もピアノの旋律は鳴り続けて、ちょうど4回繰り返された時だった。

『………聴いてくれて、ありがとう………』

ふいに、知らない声が聞こえてきて。
その声でようやく我に返った部長は、恐怖のあまり声を出せずにいると、ピアノの鍵盤に、ぽたり………と赤い液体が零れ落ちてきて。
恐る恐る天井を見ると、そこにはまるで染みのような血溜まりが出来ていて。
そこから滴る血が、またぼたり………と鍵盤に落ちると、部長は恐怖のあまり気を失ってしまったのだった。

そしてその夜、その部長が未だに帰ってこないと、家族が学園と警察に連絡を入れたのだった。

立て続けに関係者が二人もいなくなってしまい、部の生徒達は流石に不安になり、学園に式典での合唱の演目を変更できないかと訴えるが、学園側は考えすぎだと受け入れず、式典での合同演奏合唱は予定通り行うと宣言した。

生徒達は悩んだ末、一人の生徒が愛依の知り合いだったこともあり、相談してみることにした。
話を聞いた愛依は、「一応、何が起きてるか占ってみようか?」とタロットを出して、状況を見極めることにした。
そしてタロットカードで占った結果、あることに気づいた。

「逆位置の塔と審判が出てる………。これは何か良くないことが起きてるわね。それに、聞くところだと中等部の吹奏楽部で、他にも怪我をした生徒がいるみたい………なぜなのかしら?」

結局、原因が何なのか見当もつかず、ただ練習が終わってから顧問の教員や吹奏楽部長がいなくなったことしか分からなかった。

「う~ん………、念のためお祓いした方が良いのかしら?ちょうど今月末に近くの神社で大祓の儀が行われる予定だから、そこで厄払いとでもしましょうか」
「大祓の偽?それって、茅の輪をくぐって歩くアレのこと?」
「そうよ、知ってるなら話は早いわ。部員全員でその茅の輪くぐりを行ってみてはどうかしら?少しは気が紛れると思うし、お守りももらえるみたいだから」
「………うん、分かった。みんなに言ってお守りもらってくる。ありがとう、愛依ちゃん」

そう言ってその生徒は、部員の子達にその話をして、皆で大祓の儀に参加することになったのだった。

「何も問題が無ければいいんだけど………」

先ほどのタロットの占い結果を気にして、愛依はそっと呟いた。

『それはたぶん、無理だろうな』

不意に、永遠の声が頭に響いて。
愛依はスマホをポケットから取り出すと、画面に永遠が映っているのを確認して、返事をした。

「今の話、聞いてたの?それで?無理だってどういう事?」
『そのままの意味だよ。今の話は確実に俺たちみたいな怪異が関わってる。ちょっとやそっとのお祓いだけじゃ、対処しようがないってことさ』
「じゃあ、どうすれば良いの?」
『どうもこうも、まずは現状視察だな。また練習をするって成ったら、付き添ってやれ。もちろん、この通信も繋いでおいてな』
「分かったわ」

そして通信を終えて、名はスマホをしまい、窓の外に視線を向ける。

(どうか、皆無事でいられますように………)

心の中で祈り、愛依はそっと目を閉じた。

そして大祓の儀が行われる日。
先に神社に特別祈祷をしてもらうことに成り、部員全員での祈祷を行った。
まず、形代―カタシロ―と呼ばれる人の形をした真っ白な紙に自分の名前を書き、息を吹き込む。
そしてその形代を神殿に置き、神主が祓い、「祓い賜え、清め賜えと、恐み恐み白す」と祝詞を唱え、清めた。

そして夕方に成り、茅の輪くぐりに参列し、「水無月の 夏越の祓へ する人は 千歳の命 延というなり」と歌を唱えながら茅の輪を左回り右回り左回りと三回くぐってから、手水で手を清めて、本殿にお参りをし、健康と無病息災をお祈りした。
全員がお祈りを済ませ、神事に参加した人に渡される茅の輪のお守りも受け取り、これで少しは気が紛れたのか、皆笑顔で帰宅についたのだった。

そして翌日、合唱の練習を再開しようと、部員達がみな音楽室へと集まっていた。
昨日の茅の輪のお守りも鞄に付けて、これでひとまずは安心だろうと、部員達は気を紛らわせ、合唱練習を再開させた。
練習中は愛依が同伴し、異常が無いか確認するも特に問題は無く、そのまま下校時間になった。

「今日はここまでにしようか」

パートリーダー達がそう口にすると、皆仕度をまとめ始めた。
しかし、その時だった。

窓は開いてなかったのに、不意にどこからか生温かい風が靡いて。
愛依はその風に何かを感じ取って、ポケットに忍ばせていたスマホに向かって、「何か感じる?」と問うと、通信を繋いでいた永遠が異変を察知した。

『どうやら、お出ましのようだぜ………』
「………」

グッと息を呑み、周囲を警戒する。
そして次の瞬間。

ポーン………

誰も触れていないはずのピアノが、不意に鳴り出した。

部員達は一斉にピアノの方へと視線を向け、誰もいないことを確認し、呆然と立ち竦んでいた。
なぜ、ピアノが鳴ったのか。
誰モがそう思っていると、再び、ポーン………とピアノの音が鳴り、次第に生徒達の顔が青ざめていく。

そして………。

ピアノが旋律を奏で始めて、「月光」の曲が鳴り響いた。


~ ♩♩♩ ♩♩♩ ♩♩♩ ♩♩♩ ~


『………まずいな、これ………』

ふと、永遠が呟いた。

『“コレ”に耳を貸すな!引き込まれるぞ!』

そう言われて、愛依は咄嗟に耳を塞ごうとした。
が、なぜか体が動こうとしない。
まるで金縛りにでも遭ったかのように、指一本も動かせない。

(何、どうなってるの………?!)

声も出すことが出来ず、そのままピアノの旋律だけが鳴り響き、曲が鳴り終わって、また再び鳴り始めると、今度は次第に意識が遠のいていく。

『―――まだ、帰さないよ………』

突如、頭の中でそんな声が聞こえて。
そして次の瞬間、目の前が暗転した。


同時刻。
先に帰宅し、夕飯の準備をしていた一葉の元に、巫子から連絡が入った。

―――永遠の居場所が掴めない。

最初はまた何処かに隠れて居るのかと思ったが、どこを探しても気配が掴めないとのこと。

『こんなこと、初めてでどうしたら良いのか分からないわ。いつもは隠れて居ても気配を掴めてたのに、今は何も感じない………』
「どうしたんだろう?確か、愛依と一緒だったと思うけど、こっちも確認するよ」

そして、愛依の携帯に電話を掛けるが、電波が繋がらないか電源が入ってないというアナウンスが流れて、結局こちらも連絡が取れずにいた。

「う~ん………。こっちも繋がらないな。また時間置いて連絡してみるよ」
『………なにか、嫌な予感がするの』
「………分かった。とりあえず、後でまた確認しておくよ。それで良い?」
『お願い出来るかしら………』

不安そうな巫子の声に、一葉は「大丈夫」と励ますが、結局その後も愛依に連絡が取れずにいた。
そしてその夜、由宇からも愛依と連絡が取れないと電話があり、何か異様な胸騒ぎを抱いたのだった。
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