学校の怪談

結城朔夜

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第二章 想いの壁

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『―――…い、………おい、…きこ…るか?めい……おい、愛依!』

誰かが、愛依を呼ぶ声が聞こえて。
愛依は声に促されるように、ゆっくりと目を開けると、いつの間にか姿を現していた永遠が、自分に呼びかけていた。

「う………ん………永遠………?」
『はぁ、ようやくお目覚めかよ………』

そう言って、ちょっとだけ安堵の表情を浮かべる永遠は、頭を掻いていた。

「私、どうして寝ちゃってたの?確か音楽室で、コーラス部の子達と合唱の練習に付き添って………それから………」
『例の怪異が発生して、みんな飛ばされたってわけだ』
「そうだ、他のみんなは?無事?!」
『ああ、他の奴らも全員、ここでまだ寝てるぜ。それより、全員の安否も大事だけど、状況の確認も怠るなよ………?』
「え………?」

そう言われて、愛依は改めて周りを見渡して、気がついた。
自分が今いる場所が、たくさんの連なった椅子の1つに座っていたこと。
他の子達も、点々とそれぞれ椅子に座るような形で眠っていること。
そして、どうやらそこは何処かの小さな劇場のような場所であることが窺えた。

「ここ、何処………?何でこんな場所に………?」
『………まあ、なんとなく見当はつくけどな………』

そう言って、永遠が親指で指した方向には、ステージらしきものがあり、そこに1台のピアノが置かれていた。
まるで、これからピアノの演奏会でもするかのように、ステージはスポットライトに照らされていて、演者の姿だけがまだ見えず、静寂に包まれていた。

「…………う……ん…………」

 やがて他の子達も皆目が覚めて、周りを見渡すも状況を把握出来ず、混乱していると。

―――コツ、コツ、コツ………

ステージから誰かの足音が聞こえてきた。
皆がその音に、一斉にステージへと視線を向けると、そこに現れたのは、一人の少女だった。

彼女はそのままピアノに向かい、椅子に座ると、静かに演奏を始めたのだった。

~♩♩♩ ♩♩♩ ♩♩♩ ♩♩♩~
~♩♩♩ ♩♩♩ ♩♩♩ ♩♩♩~

それは、音楽室で聞こえた、あの『月光』の曲だった。

「「……………」」

皆が息を呑み、無言でその演奏を聴いていた。
しかし、彼女はなぜか途中までで演奏をやめてしまった。
どうしたのだろう?と、疑問に思っていると、不意に彼女は立ち上がり、そして………。

「………まだ、違う………」

そう呟いて、バーンと鍵盤を乱暴に叩くと、そのままステージから立ち去っていったのだった。

再び静寂に包まれた劇場の中、皆呆然としたまま、誰一人として口を開く者はいなかった。
そんな中、唯一平然とした表情で、はぁっ………と溜息をつく永遠。

『………またかよ』

永遠のその言葉に、愛依ははっと我に返り、永遠に問い掛けた。

「またって、どういうこと………?………今の子は一体………」
『………アイツにはあまり関わらない方が良いぜ。碌な事がねえ………』
「知ってる子なの?」
『………』
「永遠…?」

なぜか永遠は、さっきの子との関係を話そうとはせず、無言で彼女が去って行ったステージの袖を見つめていた。
一体何なのだろうか、と、愛依は疑問に思うも、今考えるのはそこではない。
ここが何処なのか?元の場所へ戻れるのだろうか?
それを考えるのが先決だと直感的に思って、まずはポケットに入れておいたスマホを取りだして確認すると、やはり思ったとおりだった。

「電波が、ない………。それに、また変な表記がでてる………」

それは、以前巫子と永遠によって異空間に飛ばされたとき同様、電波がないものの画面には記号のようなものが浮かび上がっていた。
それもまた前回同様、ルーン文字の1つだ。
他の子達が同じようにスマホを確認しても、やはり電波は届いてなく、同じルーン文字が浮かび上がっていた。

「この文字は、確か………『エオロー』ね。逆位置だから、意味は、えっと…確か確か『疑心暗鬼・人間関係の見直し』?」
『嫌な意味合いだな………。』
「そんなこと言わないの。………ねぇ、こっちは連絡が取りようが無いけど、永遠は巫子と繋がってるんじゃないの?巫子に連絡取れないかしら?」
『さっきからやってるけど、全然反応なし。たぶん、俺たちの繋がりも切られてるかもしれないな………。巫子の存在が感じられない』
「嘘………。じゃあどうやってここから出られるの?通信手段も何もないんじゃ、私たちがここにいること自体、ほかの人にはわからないままってこと?」
『だろうな。まぁとりあえず、まずは情報収集しようぜ。俺もこの形態はしらないし』
「それもそうね………。まずは情報を集めなきゃ………」

そう言って、愛依と永遠はそれぞれ周辺を探索し、情報を集めていった。
そしてわかったことは、出入口が全くなく、ステージ脇に扉があったが、そこは小道具を置くための物置スペースだった。
反対側にも扉があったが、こちらはなぜか鍵がかかっていて開かない。
そこは先ほどの少女が去っていった方向で、おそらく彼女が鍵をかけたのだろうか?
仕方なく、他に何かないかと探索を続けてはみたものの、これと言ってほかの情報は得られなかった。

「出入口がない代わりに、ステージ両脇に扉があるのみ。そして片方は鍵がかかってて開けられない、と………。これくらいしかわからないのね。さて、どうしたものかしら………」

あまりに情報の少なさに、愛依も永遠もお手上げだった。
とりあえず、他の子たちに状況を説明し、これ以上は何もわからないことを告げると、皆不安に駆られた表情を浮かべていた。

愛依は何とかこの状況を打破する方法はないかと、考えを巡らせていると、永遠はステージ脇の鍵の掛かっている方の扉を見つめていた。
そう言えば、ふと先ほどの子を知っているような言い方をしていたことを思いだして、愛依は問い掛けてみた。

「ねぇ永遠、さっきの子のことなんだけど………。何か知ってるの?」
『………』
「永遠………?」
『………アイツは、俺らと同じで違う存在。俺らは唯遊びたくて皆を連れ込んでたけど、アイツはそうじゃない。………関わってはいけない存在だよ』
「………どういう事?」
『………』
「………?」

それきり、永遠はまた黙り込んで、何かを考えるように腕を組んで、扉を見つめていた。

『アイツの名前は音咲愛鈴(ねさき ありす)。いつもピアノを弾いてるやつだよ。弾く曲はどれも暗い感じのばかりだけどな………。俺から話すことはこれくらい。………俺もまだはっきりと知ってるわけじゃないし、あやふやな部分があるから。ただ、アイツに関わった奴らは、全員まともな状態ではなくなるってことしか、俺には分からないから………』
「まともな状態じゃなくなる………?」
『アイツは、………呪われてるんだ』
「………」

その言葉に、愛依は顔を歪めた。
それは、愛依も過去に言われたことのある言葉だったからだ。

『アイツは呪われている』

そう言われて、異端の目で見つめられて、蔑まれて、拒絶されて。
それでも、由宇達がいたから、自身をずっと保っていることが出来たのだ。
だが、愛鈴はそうではないのだろう。
そう思うと、愛依は胸を痛くなり、苦しそうな表情を浮かべた。
そして愛鈴のことを、もっと知りたいと感じ始めていた。

「ねぇ永遠。その愛鈴って子に話ができないかしら?」
『はぁ?お前、俺が今言ったこと聞こえなかったのかよ?アイツに関わったら、お前が………』
「わかってるよ。だから、話してみたいの!実際にそうなのか、自分で確認したいから………。ねぇ、お願いできない?」
『………』
「永遠………お願い………!」
『………あ~もう!わかったよ。でも、どうなっても俺は知らないからな………』
「ありがとう!もちろん、永遠には迷惑かけないようにするから………」
『………とはいえ、アイツがまともに答えてくれるとは限らないぞ?』

ブツブツと小言を言いながらも、先ほど姿を消した扉の方へと向かう永遠に、愛依は感謝の意を込め、そして意気込んだ。
不安はないとは言えないが、少しでも愛鈴のことが知れるのならと、わずかな期待を抱いて。
永遠が扉の前に立ち、扉をノックした。

その頃、由宇からの連絡を受けた一葉は、梨音と那音に連絡を取り、愛依がまだ帰ってきてないことを知ると、胸騒ぎを覚えた。
先ほどの巫子の言葉を思い出す。

『嫌な予感がする………』

もしかしたら、また何かおかしなことに巻き込まれているのかもしれない。
そう思い、一葉は和也に連絡を取り、相談した。

「確か、今日はコーラス部の子たちの練習に付き添うって言ってたから、その子たちと一緒にいるんだと思うけど、いまだに連絡なしに帰ってないっておかしいな。それに、永遠の居場所もわからないんだろ?絶対、何かあったのかもしれないな………」
「コーラス部の顧問も部長もいなくなって、今度は部員全員がいなくなって、それに愛依も巻き込まれた………?」
「おそらくな………。憶測の域を越えられないけど、そうとしか考えられない」
「だよなぁ………」

一葉は頭を掻き、どうしたものかと考えを巡らせるも、答えは出ない。

「う~ん………。とりあえず、明日の放課後に音楽室を調べてみるか?」
「そうだな。何か手掛かりが残ってるかもしれないし………」
「一応、梨音と那音にも声を掛けておくか?二人なら何か気づくことがあるかもしれないからな」
「わかった。じゃあ明日な」

そう言って通話を終え、一葉は再び梨音たちに連絡を取り、明日一緒に音楽室を調べることに決まった。

しかし翌日、コーラス部の子の親が警察に連絡していたらしく、音楽室に立ち入り禁止のテープが張られてしまっていた。
教員と警察の人が交互に音楽室を出入りしているのを、一葉たちはただ見ていることしかできないでいた。

「どうする?これじゃあ中に入れないよ」
「さすがに警察に連絡されてるとはな。まぁ、状況を考えれば普通のことかもしれないけど………」

だが、警察ではどうにも解決はできないことも、一葉たちは知っている。
怪異が関係しているのは確かだ。
だからなおさら警察に連絡されるのは、避けたかったことなのだが。
コーラス部の部員全員がいなくなってしまった以上、何かの事件に巻き込まれたと思うのは仕方のないこと。
しかし、このままでは何かしらの手掛かりが、警察によって持ち出されてしまう可能性がある。
その前に、何か対策を考えなければと、一葉と和也は互いに悩んでいると、不意に那音がある提案を持ち掛けた。

「僕なら、中に入れそうな気がする………」

そういうや否や、那音は一人の教員に何やら話を持ち掛けていた。
そしてしばらくすると、教員は警察に何かを話していて、しばらくして返答をもらえたようだった。

「あの人たちも一緒にいいですか?」

そんな那音の言葉が聞こえて、顔を向けると、警察の人は少し考えて、承諾してくれた。

「ありがとうございます」

そう言って、那音は一葉たちに手招きすると、「中、入れてもらえるって」といった。

どうやら、話をしていた教員と仲がいいらしく、いなくなった生徒の中に、姉の愛依がいることを告げると、教員はそのことを警察の人に話し、承諾してもらえたのだ。
那音の行動に感謝しつつ、一葉たちは音楽室の中へと入ることができた。

音楽室の中に入ると、警察の人たちが現場検証をしていて、窓ガラスやピアノから指紋を取っていた。
どうやら、皆の鞄は残されているらしく、中身もそのままだ。
鞄には先日訪れた神社でもらったという茅の輪のお守りがつけられているのが見えた。
結局、このお守りの効果は効かなかったのかと思いつつ、他に何か残っているものがないかと、周りを見渡していると。
ピアノを調べていた警察の人が声を掛けてきた。

「すみません、何かの跡らしきものが残っていたのですが………。何かわかりますか?」

一葉たちはピアノを確認すると、確かに鍵盤のところにかすかに何かのシミのようなものがあるのがわかる。
だが、何のシミなのかは見当もつかず、「わからないです」と答えるしかなかった。
しかし、那音はシミがついていた鍵盤を見て、何かに気づいたらしく、ピアノをじっと見つめていた。

「那音?どうかしたの?」

梨音に声を掛けられて、我に返った那音は咄嗟に「何でもない………」と返すものの、実際にあることに気づいたのだ。
鍵盤についていたシミの跡。
その音階が、あの『月光』の曲のものであることに………。
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