学校の怪談

結城朔夜

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第二章 想いの壁

case.13

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ピアノに残されたシミの音階が、『月光』の曲であることに気付いた那音。
しかし、それが何を意味しているのかは、分からないままで。
どうしたものかと悩む那音の様子を見て、何かを感じた梨音は、敢えて追求はせず、那音の次の言動を待っていた。

「………これ以上調べても、何も分からない以上、長居は無用だな。一旦出るか?」
「そうだな。コレといって手がかりが何も無いんじゃ、どうしようもないからな」
「じゃあ、一旦俺たちは出ようか」

そうして一葉達は一度音楽室から出ようと、その場を離れようとした。

「………」
「二葉、どうかしたのか?行くぞ」

ふと、二葉がピアノを見つめたまま立ち竦んでいて。
一葉が二葉の手を引こうとするも動こうとせず、どうしたのかと様子を窺っていると。
二葉は目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をし、再び目を開くと、徐にピアノに向かった。
そして、何を思ったのか、そっとピアノに触れ、また目を閉じた。

「………」

暫くそうしていると、ふと二葉がまた目を開き、ゆっくりと一葉達の方へと視線を向ける。
そして、何を思ったのか、徐にそのまま出口の方へと向かって歩きだしたのだった。

「二葉?」
「………大丈夫。愛依お姉ちゃん達なら、………”✕✕✕✕✕”にいるから」
「え?……ごめん、聞き取れなかったんだけど。愛依達の居場所が分かるのか?」
「………大体なら。でも、………邪魔されてる。”あの子”を、なんとかしないと………」
「あの子………?二葉、一体何の話を………」
「………とりあえず、一旦出よう?お兄ちゃん………」

訳が分からぬまま、二葉にそう促されて。
一葉達は疑問に思いながらも、音楽室から出た。

暫く廊下を歩き、人気がいなくなったところで、二葉がふと足を止めて。
何かを考えているのだろうか。
口元に手を当てて、黙り込んだまま、佇んでいた。

「二葉、一体どうしたんだよ?………何か、また視えたのか?」
「………」
「二葉ちゃん?」

和也も由宇も、二葉の行動が読めず困惑していると、ふと、那音が何かに気付き、二葉に話しかけた。

「二葉ちゃん、もしかして………彼女の何かが視えたんですか?」
「え?那音君、彼女って一体………?」
「う~ん………どう言ったら良いんでしょう?………皆さん、前に音楽室のピアノでの検証したときのこと、覚えてますか?」
「ああ、あの日のことか?そりゃ覚えてるよ。確か、那音がピアノを弾いてたけど、何にも起きなかったよな。それがどうかしたのか?」
「………」
「那音君、もしかして………」

一葉が何かを感じ取り、恐る恐る尋ねると、那音は頷いて答えた。

「はい、あの時に弾いた『月光』の曲について、僕も疑問に思ってました。巷では音楽室のピアノの怪異と言えば、『エリーゼのために』って曲が主流だって、姉も言ってました。でも、この学園では『エリーゼのために』ではなく、『月光』の方です。その曲に、何か意味があるんだと思ってましたが、やはり、理由がありました」
「理由?………それってもしかして、さっき言っていた人のこと?」
「はい………。もう随分昔のことなのですが、祖母から聞いたことがあるのです。むかし、この学園で起きた、悲惨な出来事について………」

そういって、那音は祖母から聞いたというその話を語ろうとしたが、二葉が那音の服の裾をつかんでそれを止めた。

「今は未だ、その刻じゃない………。もう少しだけ、待って」

そう言って、二葉は那音にお願いした。
那音は最初、疑問に思ったが、また何かを感じ取ったのか「わかった」と言って、その話をするのはまた今度にすると告げた。

祖母から聞いたという話が、一体何を意味しているのか。
一葉達は訳が分からない状態で、ただ、二人の様子を窺うしかなかった。

それにしても、最初は一人だけの不明者が出るだけだったのが、なぜ今回は複数人が一緒に消えてしまったのか?
那音が言おうとしていた、この学園の過去に、何か関係があるのだろうか?
何にせよ、異常事態が起きているのは確かで。
一葉達は、いなくなった愛依達の安否と、原因と成っているものが何か、情報が少なすぎてこれ以上の検討はしようがなかった。

「何とか二人と連絡が取れれば良いんだけど………」
「………今のところ、その手段も分からず仕舞いだもんな」
「………」

八方塞がりとは、この事を言うのだろうと、一葉はやるせなく空を仰いだ。
そんな兄の姿を見て、二葉はぎゅっと胸に当てた手を握りしめていた。

一方、その頃愛依達は、愛鈴と何とか話が出来ないかと、模索して。
扉の前に立ち、大きく息を吐いてから、永遠はその扉を叩いた。

ーーーコンコンコン………。

やはりと言って良いように、返事はない。
暫くしてもう一度扉を叩くも、やはり返事はなく、永遠は諦めモードに成りながら、声を掛けた。

『お~い、愛鈴。聞こえているんだろう?ここ開けてくれよ!』

暫く待った後、扉の向こうからか細い声が聞こえた気がして。
耳を澄ますと何かを歌っているようで。

「何か、歌ってる?」
「え、歌?どんなの?」
「う~ん………よく聞こえないから、わかんないけど。何か歌ってるみたい」
「どれどれ?」

傍に様子を見守っていたコーラス部の子達も気になって、扉に耳を押し当てた。
そして、耳を澄ませると、彼女の歌声なのか、微かに聞こえてきた。

~~~♪~~~
ら~ららら~ ら~ら~ら~ ら~ら ららら~ら
ら~ら ら~ら ら~ら~
ら~ららら~ ら~ら~ら~ ら~ら ららら~ら
ら~ら ら~ら ら~
~~~♪~~~

微かに聞こえるその歌は、聞いたことがないが、なぜか胸が苦しくなるような、そんな哀しくも切ない曲だった。

しかし、その歌声を聴いた直後だった。

コーラス部の1人が、不意に不自然な動きをして、そのままステージ上のピアノの前に立つと、徐にピアノを弾き始めたのだった。
その曲は、なぜか先ほど扉の向こうから聞こえてきた曲と同じ旋律で。

「ねぇ、どうしたの急に。あなた、ピアノを弾けたの……?」

別のコーラス部の子が疑問に思い、声を掛けるが、なぜかその子は返事をせず、ただ無心にピアノを弾き続けている。
何か様子がおかしい。
そう思い、愛依がその子をピアノから離そうと、肩を掴み引き離そうとするが、なぜか身体が重く、びくともしない。

「何コレ………。どういうこと?」

もう一度、その子を引き離そうとするも、やはり身体が重く、まったく歯が立たない。
その間にも、その子は何度も何度も同じ箇所をピアノで弾き、だんだんと音が大きくなっていく。
すると、今まで傍観していた他のコーラス部のメンバー達が、一斉にうめき声をあげ始めた。

「うぅ………、頭痛い……」
「なに………これ………」
「うぅぅ……あぁぁぁぁぁっ!」
「え?皆、どうしたの?」

愛依は突然の事に、一瞬だけ呆然とするも、すぐに非常事態だと認識して。
うめき声から、次第に叫び声に変わっていくメンバー。
やがて叫び声を上げたかと思えば、次の瞬間には、1人、また1人と倒れていった。

「ちょっと、何がどうなってるのよ………?!」
『やばいな………これは』
「永遠?あなた何か知ってるの?」
『………』
「もう、永遠ってば!はっきり言ってよね。一体何が起きてるっていうのよ!」

コーラス部の子たちが次々に倒れていく様子を見て、原因が何もわからない愛依は永遠に問い詰める。
一方、永遠はやはり何かを知っているらしいが、なぜかはっきりとは言わない。
明らかに、何かがおかしいのはわかっている。
でも、原因もわからないのに、対処のしようがない。
一人あたふたとしている愛依とは逆に、至って落ち着いている永遠に、愛依は問い詰めた。

「永遠、あなたやっぱり何か知ってるんでしょう?この状況、いったい何なの?」
『………呪い歌だよ』
「え………?呪い歌………?」
『ああ、愛鈴は別名、【悲嘆のローレライ】って言われてるんだ』
「ローレライって………確か、歌で人を惑わして舟を沈めるって言うあのローレライ?」
『ああ、それだよ。愛鈴の場合は舟じゃなくて、歌を聞いた者の精神をかき乱すんだ』
「精神を、かき乱す………?もしかして、皆それでおかしくなって叫んだりしたの?でも、意識まで失うなんて、ちょっとおかしくない?」
『いや、歌そのものの力じゃ普通はここまでじゃないけど、愛鈴が念を込めて歌っているとなると、話は別だ。念を込めた歌には、呪いの力が込められてるんだ。下手すると皆、唯じゃすまないかもしれない………』
「そんな………。でもそれなら、私と永遠には何ともなかったのはどうして?一緒に彼女の歌を聞いていたのに」
『う~ん。たぶん、耐性を持ってたってことしか分からないけど、たぶん、俺も愛依も、愛鈴の歌の力が効かない何かがあるんだと思う。それが何かは俺にも分からないけど………ごめん、こんな中途半端な情報で』
「ううん、充分よ。少なくとも、その歌に原因があるのは分かったわ。なら尚更、彼女に出てきてもらえるようにするしかないわね。彼女なら、きっとその呪いを解く方法も知ってるだろうから………。でも、どうすれば出てきてくれるのかしらね」

どうすれば愛鈴をここに連れ出すことが出来るのか、その方法も見つからず、八方塞がりの状態の愛依と永遠は、閉ざされた扉を見つめていた。

すると、先ほどまで倒れていたコーラス部の子達の意識が戻り、ゆっくりと起き上がったのだった。
そして、ぼんやりとした表情を浮かべながらも、周りを見渡して、何も状況が変わってないことを知ると、再び落胆した表情を浮かべていた。

愛依はコーラス部の子達に声を掛け、問題は無いかと問い掛けると、なぜか皆、口を動かしても言葉が出てこない。
自身の声が出ないことに疑問を抱いて、何度か言葉を発せようとするも、やはり声はでず、ただ口をパクパクとさせるだけだった。

「どうしたの?」
「………っ」
「…っ!!………っ!!」
「もしかして、みんな、声が出ないの?」
「………!」

再びパニックに陥るメンバーに、愛依は落ち着くように声を掛けるも、動揺が抑えきれず、愛依もまたパニックになりかけていた。

『お前までパニックになってたら、意味ないだろう?とりあえず落ち着け』
「………ごめん。でも、どうして皆、急に声が?」
『………たぶん、呪いの影響かもな。その辺は俺もどういう事なのかはっきりとは分からないけど………』
「そう………」

困惑する二人に、コーラス部の子達は不安を募らせて。
何人かは声を出せないまま、涙を流してしまう子も出てきて、状況は悪化していく一方だった。

(早く、なんとかしなきゃ。でも、一体どうすれば………?)

考えても考えても、結論は出ず、八方塞がりのまま。
愛依は目を瞑り、心の中で由宇達に助けを求めるように、祈った。
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