学校の怪談

結城朔夜

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第三章 真白の闇

case.20

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その日の夜。
下校時にポケットからでてきたメモについて、一葉は考えていた。
もしかしたらあれは、紅映さんが仕込んだのかもしれない、と。
以前紅映とあったときに、彼女が紙を自在に動かしていたことを思い出した。
そのことから、恐らくそうなのだろうという結論に至ったのだ。
いつの間に仕込ませたのかはわからないが、あれは紅映からのメッセージだったのだろう。

―――目に見えるものだけが、真実とは限らない―――。

その言葉の真意はいかに。
ベッドに横たわりそんなことを考えていると、部屋の扉をノックする音がした。

「お兄ちゃん、今いい………?」
「二葉か?良いよ、入りな」

キイッと扉を開ける音がして、二葉が顔を覗かせた。

「こんな時間にごめんね。でも………どうしてもお兄ちゃんに話したいことがあって」
「話したいこと?こっち来て、言ってみな」
「うん………。あのね、お兄ちゃん………今日のことなんだけど。あの場にいた人って、全員で何人いたかな?」
「え………?う~ん、俺たち7人と、引率の先生、それに愛鈴さんで9人………じゃなかったっけ?」
「………9人………廊下には、誰もいなかったよね?」
「たぶん………いや、誰もいなかったと思うぞ?放課後だったし、ほとんどの生徒は帰ってるはずだから。………なにか、気になることでもあったか?」

すると二葉は何か言いづらいのか、悩んだ表情を見せて。
どう説明すれば良いのかわからない、といった感じなのだろう。
「う~ん、と………」と言葉を詰まらせながら、少しずつ話し出した。

「なんとなくなんだけど、私たち以外にあの場所にいたって言うか………。視線を感じた気がするの。どこからかはわからないんだけど、たぶん音楽室全体が見える位置にいたみたいなの………」
「え?それってつまり、俺たち以外の誰かが覗いていたってことか?」
「う~ん………上手く言えないんだけど。音楽室の中からの視線だったのは感じたけど、その場には以内みたいな………。何かを通してみてる、みたいな感じかな?」
「………マジか、それ………」
「………お兄ちゃんも、なにかあった?」

二葉に問い掛けられ下校時のメモのとこを話すと、「たぶんその人だと思う」と二葉が答えて。
「もしかしたら、紅映さんかもしれない」とも言った。

一体何のために紅映がこんな事をしているのか?
何か意図がありしているのだろう事は分かるが、それが何を意味しているのかが、まったく持って見当も付かない。

「目に見えるものだけが、真実とは限らない………か」

それはまるで、音楽室で愛依が言っていた「何か誤解している」と言うことに関係しているようにも思えて。
目に見えてないもので、何かを誤解しているという解釈も出来なくもない。
だが、一体何を誤解しているというのだろうか?

「う~ん………。謎は深まるばかり、だな………」

一葉はお手上げだとでも言うように、ベッドに倒れ込むように体を投げ出す。

「ねぇ、お兄ちゃん。愛鈴さんとは普通に話していたけど………、なんで今まで、誰も愛鈴さんの話を聞こうとしなかったのかな?」
「ん?どうした急に?」
「ちょっと、気になって………。あんなに普通に会話できるのに、なんで他の人たちはまともに話を聞かないで、愛鈴さんを避けたりしてたのかなって………」
「………確かに、言われてみればそうだな。俺たち、普通に愛鈴さんと会話してたけど、別にこれといって違和感もなかったな。………何でだろう?」

ふと、二葉の言葉に不思議に思い考えてみるが、それもまた謎が深まるばかり。
まるで何か見えない力で、真実をねじ曲げられているような………そんな感覚がして、一葉は難しいい顔で考え込んでいた。

結局その夜は何にも答えが出ないまま更けていった。

翌朝。
普段と変わらぬ朝の登校時間になり、生徒達が登校してくる。
そんな中、一晩中考え事をしていた一葉は、少し眠たそうに大きなあくびをした。

「おはよう、随分と眠たそうね。大丈夫?」
「おはよう、愛依。ちょっと昨日のこと、考えていたら眠れなくてさ………。あれから巫子からの連絡あったか?」
「全然進展なしね。巫子も昨夜は寝ずに連絡取ろうと頑張ってくれてたみたいで、流石に疲れてるみたい」
「う~ん………。紅映さん、本当に何で連絡付かないんだろう?」

そんな会話をしながら、一葉は昨夜二葉が言っていたことを思い出した。

―――あのメンバー以外に、誰かがいたかもしれない―――

そのことを話した方が良いのかと悩んでいると、愛依がさりげなく言葉を掛けた。

「そう言えば、昨日なんだけど………。あの時音楽室にいたのって、私たちと引率の先生、それと愛鈴さんの7人だけだったわよね?気のせいだと思いたいけど、もう一人誰かがいたような気がするのだけど、気づいてた?」

その言葉に一葉は驚いて一瞬言葉を詰まらせた。
その反応から、愛依は何か気付いたことがあるのかと問うと、「俺じゃなくて、二葉が気付いて言っていた」と話すと「やっぱり、そうなのね………」と呟いて口元に手を当てていた。

二葉だけでなく、愛依も気づいていたのには驚いたが、やはりあの場所にもう一人いたことに確信が持てた。
そして、一葉は「もしかしたら、紅映さんだったかも知れない」とも言うと、愛依も「私もそう思ってる」と返した。

いったい何故、あの場所に紅映がいたのか?
そして、何故紅映はこちらと連絡を取り合おうとしないのか?

謎が謎を呼び、一葉も愛依も頭を悩ませていると。

「おっはよ~、二人とも。朝から何難しい顔してるんだよ?」

陽気な声で由宇が登校してきて、声をかけてきた。

「お前はいつでも脳天気で良いよな」
「なんだよ、いきなり棘のある言葉だな。それで?何の話をしていたんだよ」
「ああ、昨日のことでちょっとな………」

そう言って一葉は簡単に説明すると、何故か由宇はおとなしくなり、その後難しい表情をしながらこう返した。

「俺もちょっと確認してもらいたいことがあるんだけどさ………」
「確認って、何だよ?」
「昨日愛鈴さんと話してる時、俺写真撮っていただろう?その時の写真で気になる部分があってさ………」

そう言って、由宇はポケットから現像した写真を取り出すと、一葉達にみせた。
そこには、反射光みたいなものが映り込んでいるが、ぼんやりと愛鈴の姿も映っていて。
ぱっと見たところではこれといって気になるところは見受けられなかった。
だが、ある1枚の写真を見た時に、一葉も愛依も驚いた。

そこには、本来なら有名な作曲家たちの肖像画が飾られているはずなのに、なぜかまるで何かの扉のようなものが映り込んでいた。
そしてさらに、その扉が少し開いていて、扉の向こう側の風景が見える。
どこか旧校舎の美術室のように思え、おもわず「ん………?」と呟いた。

「なんだ、これ………?」
「おかしいだろ?音楽室にあった肖像画を撮ったはずの写真に、こんなものが映り込んでいるなんてさ」
「それと見たところこれ、旧校舎の美術室じゃない?こんな偶然ってある?」

それはつまり、この写真の原因は紅映に関係していると判断しても良いだろう。
そんなことを思って居ると。

「あれ、皆何してるんだよ?」

ようやく登校してきた和也の声に、皆が顔をあげた。
一葉が一通り説明すると、和也は由宇が取ったという写真を見た。
愛鈴が映り込んでいること。
そして何より、不思議な扉が写り込んだ写真。
それらを一通り見た和也は、あることに気付いて問い掛けた。

「なあ、愛鈴さんがいた場所には変な光みたいなのが映り込んでいるのに、この扉が写り込んだ写真には光みたいなのが入ってないってどういう事だ?」
「言われてみれば、そうだな………何でだろう?」
「そこまで気づかなかったわ。………確かにそうね、それも不思議なことよね?」
「う~ん………。写真撮ってる時は、特に何もなかったはずなんだけどなぁ………」
「念のため、もう一度音楽室に行ってみるか?それと………また行ってみる?」

一葉は他のクラスメイトにわからないように、言葉を濁した。
旧校舎に行って確認するかと言うことだ。
皆それを理解して視線のみで確認すると、複雑な表情を浮かべつつも考え、そして「行くしかないだろ」と返した。

「それじゃあ、また放課後に行ってみるか?」
「あ、その前に一度音楽室に行ってからでもいいかしら?愛鈴さんにも報告しておかないと………」
「そうだな………じゃあ、その後にってことで」
「ああ」

そう返事をすると同時に、始業のチャイムが鳴り響き、その後で担任が教室に入ってくる。
とりあえず皆各自席に着き、放課後までの時間を待った。

そして放課後。
まずは音楽室に向かい、写真のことを説明しようと愛鈴を呼んだ。

「愛鈴さん、いらっしゃいますか?ちょっと見てもらいたいものがあるんですけど………」

呼びかけに答えるように、愛鈴が姿を見せた。
だが何か様子がおかしく、何処かぼんやりとしている。
それに気づいた一葉は、再び愛鈴へ呼びかけるが何故か返事がなく、ただぼんやりとした表情を浮かべて一点を見つめていた。

「愛鈴さん?………聞こえますか?」
『………』

何度か呼びかけてみるも、やはり返事はなく、どうしたのだろうかと皆が戸惑っていると、ふと愛依はポケットに入れていた鏡が熱を帯びたように感じて。
同時に、巫子の声が聞こえてきて、すぐに鏡を取り出した。

『皆、聞こえる………?』
「聞こえてるわ、巫子。紅映さんと、連絡が付いた?」
『紅映とは相変わらずだけど………今は別のことで呼んだの』
「何かあった?」
『あのね、あまり時間が無いから、簡潔に言うけど。どうも紅映の能力で妨害されてるの。あの子、霊力が強いから、私じゃ敵わなくて………』
「紅映さんの、能力?それって………」
『ごめんなさい。今は説明できる程余裕も無いから、あとでするわ。ともかく、あの子を早く抑えないと、大変なことになるわ!』
「大変なことって………?巫子、お前は大丈夫なのか?」
『私はそこまで影響ないけど、皆は身の危険を感じてほしいわ。このままじゃ、あの子………』

そう言っている途中で急に巫子の声がノイズの入った声になり、上手く聞き取れない。

「ちょっと巫子?何?上手く聞こえないんだけど………」
『・・・・・・・・・』

すると突然、鏡にまるで絵の具を殴りかいたように、紫色で大きなバツ印が記されて。

「え?なに、これ………」

訳が分からぬまま、混乱する愛依。
すると何故かさきほどまで、ぼんやりとしていた愛鈴にも異変が起きる。
急に何かに苦しむように、頭を抱えて唸りだした。

『う……・…あ………』

その光景に二葉が何かを感じたのか、はっと顔を上げたかと思うと、由宇に向かって叫んだ。

「由宇兄ちゃん!カメラを動画にして回して!早く!!」
「え?お、おう………」

由宇は二葉の聲に驚きながらも、言われたようにデジカメを動画モードにして回した。
するとどういうことか、カメラに映し出される映像に、由宇は思わず声を上げる。

「なんだ、これ!?」

其処に映し出されたのは、以前旧校舎へ迷いこんだときに見た、あの歪んだ空間だった。
由宇は無意識にその空間へ手を伸ばそうとしたが、それに気づいた二葉が再び声を上げて叫ぶ。

「それに、触っちゃダメ……!」

だが言うには遅く、由宇の伸ばした手が空間に触れてしまう。

「あ………!!」

その瞬間、その場に居た全員が空間に飲み込まれるように、眩い光に包まれ目を閉じた。
そして再び目を開いたときには、またあの不気味な校舎の中に迷いこんでしまっていた。


―――運命の刻は廻る。
―――まるで終わりのない物語のように。
―――そして、彼らもまた。
―――抗えぬその運命から、逃れられないように。

かごめかごめ
かごのなかのとりは
いついつでやる
よあけのばんに
つるとかめがすべた
うしろのしょうめん
だぁれ

―――その唄は、何を意味するのか?
―――全ての真相は、未だ闇の中………。

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