責任取るのは俺の方でした

我利我利亡者

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 あの日カーティスから大金を受け取った後の家族がどうなったか、俺は知らない。俺との一切の関わりを絶てという条件を守って家族は俺に接触してこなかったし、俺としても態々カーティスの優しさで縁を切ってもらったのを台無しにしてまで会いに行きたい相手でもない。そのまま連絡もしなくなって実家にも帰らず、また公衆の面前であれだけ大騒ぎして絶縁したので、俺に家族の近況を教える人も居らず。カーティスやコーエン侯爵家の面々との話題にも特に上らなかったので本当に正真正銘今があの日以来初めて家族に関して接触した瞬間なのだが、どうやらあまり碌な目には会わなかったようだ。

 目の前に立っている父の姿は、もうズタボロ。あれだけ身だしなみには気を使っていて常に洒落っ気のある格好をしている衣装持ちだったのに、父さんが今着ている服は見るからに着古して色褪せた流行遅れの代物だ。生まれて以来オーダーメイド以外に着た事がないのが自慢だったのに、見るからに体型にあっていないあれは古着屋で買ってきた吊るしの既製品だろう。カフスやタイリングを付けるなんて、とんでもない。装身具を身に付けるどころか、服のボタンが1個飛んでなくなっていた。あー……これは、良くない予感……。

「オリバー、元気そうじゃないか」
「はぁ、優秀な伴侶のお陰で、何不自由ない暮らしをさせていただいています」

 本当なら何かしらこの後に父さんを気遣う言葉を添えて話を繋げるのが礼儀なのだろうが、とてもじゃないがそんな気になれない。あの様子を見るに、向こうは絶対金に困ってる。1億もの金を受け取っておいてどうやったらたった1年であれだけ落ちぶれられるのか。全く興味がないと言ったら嘘になるが、だからと言ってそれはあの疫病神に関わってまで知りたい情報ではない。どうこの場を切り抜けようか、と考えて黙り込んだ俺に、父さんは話を繋げて貰えなかった苛立ちを抑えながらも、図々しく話しかけてきた。

「なぁ、オリバー。お前は今随分といい暮らしをしているみたいだが、それは一体誰のお陰だと思う?」
「徹頭徹尾丸っと全部カーティスとコーエン侯爵家、そしてカーティスに関わる人々のお陰ですね」
「違う! 私のお陰だ! 私がパメラと結婚して、お前を授かり産むという決断をしてやったからこそ、お前の今の幸せがあるんだ!」
「そこまで遡ります? まあそれもそうか、あなた達俺を育てたとか口が裂けても言える立場じゃないですもんね」
「五月蝿い! 口答えするな! 黙って私の話を聞け!」
「いや、そんな義理こっちにはないじゃないですか。しかも、父さんあなた俺への接触をカーティスに禁止されてましたよね? この条件を破ったら結納金として巻き上げた1億返す事になってるの、忘れたんですか? 見るからに切羽詰まってますけど、1億もの借金背負うのが分かっていてまでここに来る程ですか?」
「そんなの、お前が伴侶のカーティスに条件の免除を嘆願すればいい話だろう! あいつだってお前から頼まれたら、無下にはできない筈だ!」

 いや、頼まねぇよ? 逆になんで頼むと思った? 俺からしてみれば父さんは幼い頃から理不尽な理由で俺を窮地に追い込んできてた、血が繋がってる分余計に嫌な家族という最悪の集団の一員だ。俺が食うに困っても嘲笑うだけだったのに、自分が困ったら助けろ? ご冗談を。折角カーティスが大金払って縁を切ってくれたのだし、その犠牲を忘れて切ってもらった縁を再び結びたいと思える程の相手ではないのは明白だ。

 そんな簡単な事も分からないなんて……。いや、分からないと言うよりは、理解する気がないんだろうな。所詮父さんにとって俺は、利用するものという認識だけしかないのだろう。そこには、俺も生きた1人の人間であるという当たり前の大前提は存在しない。俺は父さんにとって都合のいい道具なんだから、利用されて当たり前、利用されるのを拒絶し反抗するなんて有り得ない! みたいな思考回路なんだろうな。やれやれ、どうしようもないな。まあ、こっちがそれに付き合ってやる義理は、毛頭ないが。

「オリバー、今家族は大変なんだ。お前の結納金を貰った直後は良かったが、何故か私の事業が上手く回らず……それからネイサンが投資に失敗して……いや、パメラの際限ない浪費も良くなかった……それに、クリッシーが金にあかせて遊び回るようになったし……」

 どうやら同時多発的に様々な失敗が起きたようだが、俺は分かるぞ。その失敗達の大元の原因はたった1つ。ズバリ、公衆の面前で醜態を晒し、カーティスから大金をせしめて俺と縁を切るのを承諾した事だ。別に俺という幸運の天使を手放したから……とかそういう頭のおかしい事を言う気はない。ただ、人前であれだけ暴れて暴言吐いたら悪い噂は出回るし、大声で大金の話をしたら金を持ってるいいカモだと思われる。すると自然に、心良き善人程付き合いを控え、逆に金目当ての悪人はワラワラと寄ってくる。至極当然の話であろう。やれやれと溜息をつきながら、誰も聞いていない不幸話をして場の空気を暗くしている父さんに意識を向け直す。

「土地屋敷は抵当に入っていて追い出されてしまって、今は借金取りから逃げ回っている最中で」
「父さん、それ以上はもういいです。何を聞いても、俺から言える事は一つだけですから」
「金をくれるのか!?」
「なんでだよ。しかも、貸すじゃなくてくれるって言うところが図々しいな。……なんにせよ、俺からあなたにお渡しできるものは1つもありません。カーティスが戻ってくる前に大人しくお帰りください。今帰るなら、俺から進んで誰かに会ったとか、彼には言いませんから」

 まあ聞かれたら普通に答えるし、カーティスの事だから直ぐにいつもの謎の情報網で俺と父さんの接触を知る事になるだろうけど。そして後顧の憂いを断つ為に、確実にカーティスは俺の家族を纏めて排除する。カーティスは優しく思いやりに溢れた人間だが、俺に関する事にだけはかなりの過激派だ。縁を切らせたはずの父さんが俺に接触して金の無心をしたなんて知ったら、どうなる事か……。まあ、俺が心配する事でもないか。

 俺のこの冷たい態度に、当然父さんは納得しない。父さんにとって自分に踏み付けられ礎となるのが当たり前の俺が、言う事を聞かなかったのだ。そりゃ怒るのも当然だ。また暴れて殴られるかもしれないが、大人しく殴られてやる義理はない。今回は前回と違ってそれなりに距離があるし、向こうは困窮した酷い生活のせいで体調が万全とは言えない。俺の方も外交官の家族として過ごすに当たって万が一の時最低限は身を守れるよう、ささやかながら護身術を身に付けている。もう簡単にはやられはしない。仮に殴りかかってきても、避けた後事故のフリして背中を押して勢いそのままバルコニーから突き落としてやろうか。そんな邪悪な事を考える俺だったが……どうも父さんの様子がおかしいのに気がつく。

 望みが絶たれいつもなら激昂し暴れ回っているタイミングなのに、父さんは全く暴れる気配がない。それ所か、余裕綽々笑みまでうかべている。ハッキリ言って不気味だ。さてはまだなにか企んでいるな? 警戒を深め身構える俺に、相変わらずのニヤニヤ笑いで父さんは口を開く。

「フンッ。カーティス・コーエンと結婚して、すっかり調子に乗りおって。予備の計画を立てておいて正解だったな」
「予備の、計画……?」
「フフン、私がお前をここに引き止めている間、お前の夫はどこで何をしていると思う?」
「はぁっ!? おいあんた、カーティスに何かしたのか!?」

 カーティスが心配で、思わず声を荒らげる。焦った様子の俺に、意趣返しができたと思ったのだろう。さっきとは打って変わって上機嫌になった父さんが、嫌な笑みを浮かべながらとんでもない事を言う。

「お前の夫、カーティス・コーエンな……。元婚約者だったリリアナ王女殿下と会っているんだ」
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