邪神の嫁として勝手に異世界召喚されたけど、邪神がもろタイプだったので満更でもないです

我利我利亡者

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 さて、そんなこんなで邪神との賑やかな昼飯を終えた俺は、トコトコと神殿の中を歩いていた。神殿というのはあれだ。俺の惚れ込んだ邪神の神殿で、言わば職場兼自宅のようなもの。一応邪神の神子である俺は、ここに部屋を用意してもらって滞在先としていた。邪神は俺の事は俺を召喚したあの施設? どっかの宗教的に重要な建造物? 預かりにしたかったようだが、俺が邪神の傍に居たい! と押し切ってここに居着いた形である。

 いや、向こうは俺を元の世界に帰すつもりだから、別れが寂しくならないようにあまり親しくしたくない気持ちも分かるっちゃ分かるけどさ。というよりは迫られるのが嫌で近くに置きたくないのかもしれないが……。なんにせよ俺の方は帰る気は更々ないし、なんなら嫁として彼の隣に未来永劫居座る気満々だから、親睦を深める為にも絆す為にもここは相手のパーソナルスペースにどんどん乗り込まなくては! と思ったんだよね。いわゆる押しかけ女房的な? 女房……ああ、なんて素敵な響き!

 最近では以前よりも、邪神の俺に対する言動が軟化してきた気がする。気がするだけかもしれないし、そうでなければあまりの執拗さに対応が面倒で諦められただけかもしれないが、もしも……もしもだ。万が一にでも邪神と俺との仲が深まっているのなら……! これ程嬉しい事はないし、俺の押しかけ女房作戦は大成功って訳さ! この調子でどんどん邪神との距離を詰めて仲良くなって、そして行く行くは……目指せゴールイン! ああ、その時が待ちきれない。この調子で頑張るぞ!
 
「おやおやおや? そこに居るのは、最近噂になってる邪神の神子かな?」
 
 今度は邪神にどんなアピールをしよう。彼は甘いものは好きだろうか? メインの料理の次は、デザートに何か拘って作るのはどうだろう? 試しに良さそうなのを見繕って作って持って行こうか……。そんな事を考えながら住まわせてもらっている神殿の一角に面する廊下を歩いていたら、聞き慣れない男の声に後ろから突然そう話しかけられた。今日は誰か知らんけど大事なお客様が来てるらしくただでさえ少ない人手は全て表に出払ってる筈で、居住区に当たるこの区画には人気がない。更に言えば一応邪神の神子である俺にこんな風に気軽に話しかけてくる奴なんて居ないのに。不思議に思って声の聞こえた方を振り向くと、そこに居たのは。
 
「……あんた達、誰?」
 
 声の聞こえてきた背後に視線を向けると、そこには2人の人物が立っていた。……いや、より細かく言うのなら、彼等は人間なのか? 正直それはちょっと怪しいぞ。何故そう思ったのかって? だって、彼等の身につけている装束を見たらそう思うのも当然だ。頭のてっぺんから爪先まで、隙なく体を覆っていて肌が一切出ない作りの白い服。これによって素肌が見えないため、体が被毛に覆われているか否かが分からない。更には裾の丈が長くゆったりとしたローブのような上着。これによって足元や下半身がこちらからは全く見えない。それはつまり、尻から尻尾が生えていたりひょっとしたら翼や尾羽根なんかがあってもこちらからは全く分からないという事だ。

 またそれだけじゃなく、頭からすっぽりと被ったヴェールのような覆い。俺の世界で言うところの真っ白いブルカのような作りのそれは長さこそ肩の辺りを少し過ぎるくらいだが、顔はスッポリと覆われていて覗き穴替わりの目元のメッシュ越しでも人相は全く判別つかなくなっている。まあここまでグダグダ長く語ったが、一言に纏めるとつまりは『頭からスッポリ隠れるように布を被っているせいで、相手が普通の人間か獣人タイプの神様の一族か分からない』と言ったところか。
 
 でもまあ、それでも分かる事だって多少はある。例えば背丈。2人連れの片方は男の俺でも見上げる程に背が高く、この世界で俺が見た限りで割り出した平均身長からしても高い方だと思う。反対にもう1人の方は背が小さい。俺よりも低いくらいだ。ひょっとすると、俺が最近料理を習っている厨房の料理番であるマダムよりも小さいかも。この2人、お互いに話をしようと思ったら身長差で声が届かなさそうだな。人相も分からないような格好をしてるし、アイコンタクトや表情を読み取るのも無理だろう。なんて余計な心配をしてしまう。今みたいに頭からベールを被っていたら、余計に声が通らなくて意思疎通に苦労しそうだ。
 
 この2人は背丈の他に、体格もかなり違う。背が高い方はダブダブの服の上からでも何となく分かる程に鍛えられて引き締まった体つきをしている。対する背の低い方は華奢で細っこい体型のように見受けられた。何にせよ、頭からすっぽり全身を布で覆う様な装束のせいで、良くは分からないが。そんな感じで背丈や体格、全体的にそれくらいしかこちらには伝わってこない。向こうの性別すらもこっちからは曖昧だ。さっき声をかけてきた男の声の持ち主がどちらかなのかすら分からない。まあ、偏見を承知で言わせてもらえれば、多分背丈が高くて体格のいい方が声をかけてきた男なのだろう。背が低い方は……女、かな……? 全体的に見てそう感じたが、その判断が正しいかどうかは今のところ体格以外に判断材料がないので、正直疑問符が付く。
 
「先に質問したのはこっちだぜ? 質問に質問で返すのはどうかと思うけどな」
「それなら、先に質問する前に先ず名乗れって話だ。どこの誰とも分からん不審な相手に、おいそれと自分の個人情報を渡せる訳がないだろう。危な過ぎる」
「ふーん、言うじゃねぇか……。まあいい、その台詞だけで十分だ。こっちが知りたい事は、大体分かったからな」

  満足気な言葉と共に腕を組んだのは、大柄な方。その声を聞くに、さっき声をかけてきたのはやはりこっちだったらしい。纏った大量の布越しでも身振りから分かるその尊大な態度と、知りたい事は分かったという台詞に俺は片眉を跳ね上げる。俺はただ向こうから声をかけられて、それに答えるべきか見極める為に誰何を返しただけだ。それで一体何が分かるというのだろう。

 異世界とは言えこっちの世界も、俺の世界で言うところのモンゴロイドっぽい人種も、コーカソイドっぽい人種も全部揃ってる。見た目だってマチマチで、目や髪の色だって異世界にありがちなピンクとか青とかの突飛なのはなく、普通に金髪とか黒目とか一般的な色味ばかり、顔立ちや髪とか目とか肌の色で異世界人だろうなんて区別するのは不可能。俺が今着てる服だってこっちに来て初めて支給されたものではあるが、そうであってもある程度来てから時間が経っているので着慣れていない訳ではない。パッと見の見た目や仕草で俺がどこの誰か、言わんや異世界人か否かすらも向こうには知りようがないと思うのだが……? これで神子だけが身につける事を許された特別な唯一無二のアイテムでもあれば別だが、そんな婚約指輪的な俺としては嬉しいアイテムは、残念ながら貰っていない。本音を言うなら滅茶苦茶欲しいのに!
 
 訝しげな態度の俺に、向こうは何を思ったのだろう。クククッ、と軽く笑う声がして、肩を軽く震わせている。その様子に馬鹿にされているのだろうかと俺がムッとしてなにか言おうと口を開くその前に、背の高い男は突然自らの頭から被ったベールに手をかけ、勢いよくそれを剥ぎ取った。何をするつもりだと身構えたのは一瞬だけ。ベールの下から現れた姿に、俺は大きく目を見開く。そして、そのベールの下から現れた顔を見て、俺が口にした台詞とは。
 
「ワオッ! 真っ白モフモフわんちゃんだぁ!」
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