サリーは死ぬべきだったのか?

我利我利亡者

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おまけ2 前編 (モブ視点)

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「よう、オーウェン! 早かったな!」
「ああ、ちょっと早めに家を出たんだ。今日はよろしくな、ウルリヒ」
 そう言って軽く片手を上げ、ニヒルな笑みを浮かべるオーウェン。彼は俺の学友だ。この春から通い始めた最高学府で出会った。苦学して返済不要の奨学金を取り、尚且つ学年トップの座を譲ったことのない彼と、裕福な商家である実家の脛を齧り、成績は悪くはないが良くもなくそこそこの俺のどこに通じるものがあったのか分からないが、色々と気があって何かと仲良くさせてもらっている。
「家、直ぐそこなんだ。歩きながら話そう」
「住居と商店が一緒になってるんだっけ? なんかいいな、そういうの。風情がある」
「風情? まっさかぁ! 店の物音が家まで筒抜けだから、朝から晩まで五月蝿いのなんの! ま、確かに色んな話が聞こえて退屈しないし、人の出入りが多くて賑やかだけど、気分が落ち込んで1人になりたい時なんかはウンザリするぜ?」
 俺の実家は石鹸から晴れ着、椅子、フライパン、庭石まで、手広く色んなものを売っているデカい商店だ。支店はあちこちにあるが、中でも本店である実家が店構えも規模も1番大きい。
 当然抱える客数も従業員数も本店が1番。店には経営者である家族も他の従業員と分け隔てなく店表に立って働いているので、営業日の今日は本来なら友人のオーウェンを招いている暇はない。
 では、なぜ今日彼を家に呼んだのか? 実は今日俺はオーウェンのことを客人として呼んだのではない。というのも、今日はオーウェンに店の手伝いのバイトを頼んだのだ。
 順を追って説明しよう。まず、1番上の兄さんのお嫁さん、俺の義姉さんが、この度めでたく待望の第1子を懐妊した。ただいま妊娠8ヶ月。お腹も大分大きくなってきて日々の暮らしの助けも必要になってきていたので、気兼ねなく休める方がよかろうと義姉さんは自分の実家に帰った。妊娠初期から万が一のことを考えて義姉さんには店の手伝いは書類仕事だけにしてもらっていたが、それでも人1人人員が減るのは痛い。
 次に、遠くの支店で急に大きな商談の話が出た。行くのも帰るのも片道5日はかかる場所だ。なんでも創業者一族である俺の家族の判断を仰がなくてはならない程大事で難しい商談らしい。これには2番目の兄さんが出ることになった。サポート役として、兄さんの婚約者と数人のベテランの従業員も。これでまた人員が減った。
 これだけでももうだいぶ苦しいのだが、とどめに司令塔である父さんのギックリ腰。棚卸しの最中にビキッとやってしまった。1人ではトイレもままならない有様なので、付きっきりとまでは言わないまでも、母さんの世話が必要な状態になってしまったのである。これでもうギブアップ。嫁いで家を出た上の姉さんにも戻ってきてもらったが、圧倒的に人手が足りない。仕方なしに普段は野放しにさせてもらっている末っ子の俺まで駆り出されたというわけだ。
 とは言っても俺も甘やかされた末っ子。幼い頃から店の手伝いをしてきたとはいえ、店表に立ってお客さんの相手をするのが精々。そんなのが1人増えたところで焼け石に水。『このままじゃ店を一時的に閉めなきゃならなくなる! 稼ぎどきのこの夏休み期間中によ!? そんなの耐えられない! 私達の方でもツテを頼っているけど、それでもまだ足りないわ! あんた、友達でも知り合いでもなんでもいいから、誰か手伝いを連れてきなさい! 働きに応じてバイト代はタップリ払うから!』とは、守銭奴……いや、商売命の母さんの弁だ。という訳で、俺は折りよくバイトを探していたオーウェンに頼んで、店の手伝いに来てもらうことにあいなったのである。
「ごめんな、折角の夏休みに。本当は勉強とか遊びとかしたかったろうに、手伝いなんか頼んじゃって」
「いや、いいんだ。勉強ばっかりでも疲れるしね。それに、遊ぶ相手もろくにいないし、バイトもしたかったしで丁度都合が良かったんだ」
 遊ぶ相手もいないって、今のオーウェンのファン達が聞いたら泣き叫ぶぞ。オーウェンは学校ではかなり人気がある。さもありなん。苦手なことなんてあるのかと聞きたくなる程文武両道で、微笑むだけで誰しも恋に落ちてしまうくらい眉目秀麗。これでオマケにお前は天使の生まれ変わりかと聞きたくなるような性格のよさとくりゃ、人気が出ない方がおかしい。当然、オーウェンとお近づきになりたいと思っている人間はごまんといる。
 ただ、あまりにも人気が過ぎて、取り合いの末の無用な争いを避ける為の不可侵協定のようなものができているのだ。オーウェンの方から声をかけてこない限り、友人付き合いも知り合い面もしては駄目。うちの学校の生徒なら誰もが知っている言わずと知れた共通認識である。オーウェン自身はそのことを知っているのかいないのか。彼と仲良くなりたいのに取り決めでそうもいかない隠れシンパ達が血涙を流してる横で、ノンビリノホホンと俺のように自分の気にいった友人とだけ交流を深めていた。
「あ、ほら。あそこの人集りができてるところ。あそこが俺ん家。おーい、姉さん! 戻ったよ」
「もう、おっそいわよ、ウルリヒ! 役立たずのあんたでも、1人抜けるだけでその皺寄せがこっちに……」
 お客様に聞こえないように小声で、しかし俺にだけはしっかり聞こえるようこっちに詰め寄り、キツい口調で文句を言いかけた未婚の下の姉さんの言葉が途中で止まる。何かと思って見ればその視線は俺の背後、オーウェンの方に向けられているようだ。姉さんは暫く我を失って夢見るようにボーッとオーウェンの方を見ていたが、俺がどうしたの? と声をかけるとハッと自分を取り戻す。次の瞬間には手を掴まれたかと思うと、うら若き乙女とは思えない剛力で物陰に引きずり込まれた。
「ちょっ、痛っ、姉さん、何!?」
「何!? じゃないわよ! そんなの、こっちが言いたいくらいだわ! ちょっとウルリヒ! 一体誰よ、あんたの連れてきたあのイケメンは!」
「誰って、昨日夕飯の席で言ってたこと聞いてなかったの? 友達のオーウェンさ。今日は店の手伝いに来てくれたんだ」
「勿論聞いていたわ! 聞いていたけど……。学校でモテモテだっていうけど、それは閉ざされた狭い世界の中だけのことで実際は大したことない、自信だけが肥大したスカした嫌な奴だと思ってたのに。なのになによ、あの子! とんでもなくカッコイイじゃない!」
「見た目だけじゃないぜ。オーウェンは中身もカッコイイ」
「ええ、ええ、そうでしょうとも。昨日あんたに散々聞かされたわ。友達の欲目だと思って話半分に聞いてたけど、もっと真面目に聞いておくんだった……。って、そうじゃない! ウルリヒ、単刀直入に言うわ。彼には恋人はいるの?」
「ね、姉さん何を急に! ……まさか」
「ええ、そのまさかよ! ウルリヒ、彼を私に紹介しなさい!」
 下の姉はハッキリ言ってかなり可愛い。昔何度も町の美少女コンテストで優勝して殿堂入りしたし、働き者で明るい性格も相まって、町の男達からの求婚が引きも切らない状態だ。けれど、商売大好きな母さんの血を濃く受け継いで『私は仕事をしている時がいちばん楽しいから、仕事と結婚するわ!』と豪語して求婚者達を全員袖にしていたのに。そんな姉さんを一瞬で落とすとは。流石オーウェンマジック、恐るべし。
 俺としては、オーウェンと義理の兄弟になれたら、それはもうとんでもなく嬉しいと思う。彼は俺の自慢の友達だし、尊敬できる人間だ。縁続きになれたらそれはこれ以上ない幸運だ。
 だが、オーウェンはどうだろう。このまま順当に行けば、優秀な彼は官僚になると思う。何年か前にこの国に移住してきたという彼は血筋的には異邦人ではあるものの、帰郷の予定はなくこの国に骨を埋めるつもりらしいからね。官僚になるとしたら、結婚相手は慎重に選ばなくてはならない。官僚になるならそれこそ、出世の為に上司に命ぜられるままどこかのご令嬢と結ばれることが多いだろう。婚姻によって繋がりを作るのは、上流階級の常套手段だから。
 だとしたらオーウェンにとって姉さんと結婚する旨味は皆無だ。実家は裕福とはいえ、姉さんは家付き娘ではないし、上流階級になにか強力なコネがある訳でもない。ただの一市民。家が大きくて平均より多く金を持ってるだけの一般人なのである。そこに愛があるならいざ知らず、ただの友人の1人である俺の姉と結婚するのは、あまりにもオーウェンに利益がない。
 そんな俺の考えを目敏く察したのだろう。姉さんはギッと両目を釣りあげ、ギリッと俺の手を捻りあげた。
「ね、姉さん。痛いよ」
「男の癖にグチグチ言ってんじゃないわよ! いい、ウルリヒ。私は彼を見た瞬間、天啓を受けたの。『彼こそがこの私の婿がねに相応しい』って! 要は一目惚れね。彼以上に私の相手としてピッタリの人間はいないわ」
「仕事と結婚するんじゃなかったの?」
「仕事は2番手にするって今決めたわ! 私が生きた人間と結婚する気になったって聞いたら、父さんや母さんも泣いて喜んで応援してくれるわよ! 兎に角。彼に恋人はいるの? 早く教えないと、手首外すわよ」
 俺の手首を捉えた姉さんの手に力が込められる。まいったな。下の姉さんは悪い人では無いのだけれどとんでもなく頑固で、傍若無人だ。よくいえば一本気でひたむき。悪くいえば猪突猛進で我が強い。幼い頃から周りに可愛い可愛いとチヤホヤされて育った結果である。恋に狂った今、自分の思い通りにする為ならば宣言通り弟の俺の手首くらい平気で外すだろう。
 流石にそれは勘弁願いたい。痛いのは苦手だ。渋々ながら、これくらいなら友達を売ることにはならないだろうと自分の知っていることを正直に話す。
「し、知らないよ! あいつとはそういったことは全然話さないんだ!」
「なんで知らないの!? 本当に友達なの、あんた!? それなら、早く聞いてきなさいよ!」
 恐ろしい表情で俺に迫る姉さん。無茶言うなよ、そんな個人的なこと聞いて、万が一オーウェンの機嫌を損ねたりしたらどうするんだ。オーウェンは何故かは知らないが、プライベートなことを突っ込まれるのを嫌がるきらいがある。昔のことなんか、殆ど話もしない。そんな些細なことで友達をやめられる程オーウェンは心が狭くはないと思うが、これでやんわり避けられ初めたりしたらどうしてくれるんだ。それをきっかけに友情が破綻でもしたら目も当てられない。俺はまだ彼の友達をやめたくなんてないぞ!
 そうして始まる姉さんと俺のいいからさっさと聞いてこい、嫌だ、の押し問答。だんだん手首を捉えた手に本気の力が籠ってくる。店の手伝いで商品の上げ下ろしをする姉さんは、細腕に似合わず力が強い。これはいよいよ手首を外される、と思った、その時。
「あのー……。どうかしたんですか? なにかトラブルでも?」
「っ! あ、あら。私ったら! ごめんなさいね、お客様を放って話し込むなんて。ちょっと弟と商品のことで相談しなくてはいけないことがあったものですから。ごめんあそばせ、オホホホホ」
 心配そうに俺達姉弟が滑り込んだ物陰を覗き込むオーウェン。姉さんは慌てて猫を被り、嫋やかな淑女のフリをする。助かった。お陰で手首を外されずに済んだよ。
「都合が悪いようなら俺、帰りますけど」
「都合が悪いなんてそんな! ないない、ぜーんぜんないわ! さ、そんなことよりも、中に入って! 色々と説明しなくちゃいけないことが沢山あるから!」
 そう言ってちゃっかりオーウェンの手を取り、導く姉さん。オーウェンに見えないように俺を睨みつけ、プレッシャーをかけるのも忘れない。さっき言ったこと、忘れんなよ、と言外に伝えているのだ。姉さんに引かれてオーウェンがワタワタと歩いていくのを眺めつつ、俺は溜め息が出るのを抑えきれないのであった。





「よーし、ウルリヒ! それ運んだら昼休憩入っていいぞ!」
「はーい」
 ベテランの従業員に言われるがまま、手にしていた箱を指定の場所に置いて、ありがたく休憩に入る。やれやれ、これでやっと飯が食えるな。炊事場に行き、大量に作り置いてある食事を自分が食べられる分だけ皿によそった。
 素人で仕事に慣れていないオーウェンは俺より一足早く休憩を貰っている。どうせなら彼と一緒に食べよう。いや、姉さんに言われてオーウェンに恋人の有無を聞かなきゃいけないからじゃないよ? 純粋な友情からの行動だ。念の為。
 それにしても、午前は凄かったな。こんだけ顔が良ければ娘連中にウケがいいという母さんの判断でオーウェンを店表に立たせたのだけれど、失敗だった。いや、あれは成功し過ぎたと言った方がいいのか? オーウェンのモテ力を舐めていた。物腰穏やかで見た目も美しいオーウェンは、娘連中どころか女性客、それどころか男性客にまで老幼男女の別なく受け入れられたのである。
 お陰で見たことのない王子様のような青年が接客をしていると噂になり、噂が噂を呼んで店の前は黒山の人集りが。騒ぎのせいで店の前の道は一時は通行止め。最終的には町の警備兵まで出てくる騒ぎとあいなった。どんだけモテるんだよ、オーウェン。凄すぎる。勝手にオーウェンを未来の自分の旦那と決め込んでいる姉さんが黒いオーラを出してて、俺は胃が痛かった。
 なんにせよ、オーウェンと少しでも話をしようと沢山の人が商品を買っていった為、店としては嬉しい悲鳴だ。この調子だと、今日は売るものがなくなって早じまいするかもな。オーウェンは一足先に昼飯を食べ終えているかもしれないが、一先ず店表の人集りが落ち着くまでは休んでいてくれと言われていたし、俺が飯を食べる間くらいは彼と一緒にいられるだろう。
 そう思ってオーウェンの姿を求めて皿を持ってウロウロと辺りを探すが、一向に見つからない。あれ、おかしいな? どこにいったんだろう? 暫くその辺を彷徨い歩いて、小さな中庭で漸く彼の姿を見つけた。飯でも食っているのか、後ろからは彼が下を向いていることしか分からない。
「やあ、オーウェン。お疲れ様。こんな所にいたのか」
「っ!」
 急に声をかけられて驚いたのだろう。オーウェンの体がビクリと揺れ、彼の手元からハラリと1枚の紙が落ちた。そよ風に吹かれて足元に運ばれてきたそれを、俺はなんとはなしに拾い上げる。
「オーウェン、なにか落ちたぜ」
 紙にはなにか文字が書かれていた。その気はなかったのだけれど、短い文だったのもあり反射でついつい読んでしまう。
『オーウェンへ
 お昼ご飯、あなたの分も作っておいたから、良かったら食べて
 お仕事頑張ってね
 愛をこめて サリーより』
「ウ、ウルリヒ! それ返して!」
 慌てて俺の手から紙を取り戻すオーウェン。顔が赤い。その隣には、開いた包の中に鎮座する美味しそうなサンドウィッチが。……あちゃー、これは……。
「えっと、賄いが出ることは知ってたんだけど、お弁当作ってくれるって言われて嬉しくて断れなかったんだ。ごめん。無駄になるようなら申し訳ないから、そっちも食べるよ」
「あ、いや、いいんだ。どうせ今日はオーウェンのお陰で仕事が増えて、皆てんてこ舞いだから、いつも以上に腹が空いて1人分くらい食べなくても余るどころか足りないくらいさ」
 アハハッ、と笑って答えるが、それ以上話が続かず気まずい沈黙が2人の間に流れる。どう誤魔化そうかと思案したが、下手に知らないフリをするのも変かと思って、俺の方から意を決して言葉を続けた。
「……その手紙、若しかしてなんだけど……恋人から?」
「あ、うん。そうだよ」
 なんてアッサリ! 姉さんの失恋確定! 俺が姉さんに八つ当たりでボコボコにされるの待ったナシ! 今から考えるだに恐ろしい! まあ、そりゃそうだ。これだけでカッコイイオーウェンに、恋人が居ない方がおかしい。むしろ今までよく隠し通せたなってくらいだ。
「ソ、ソウナンダネ! 大事なものなのに気安く触ってごめんよ! あ、あとちょっと読んじゃった。重ね重ねごめん!」
「いや、いいんだ。俺が落としたから拾ってもらったわけだし、そんな大層なことが書いてある訳でもないから」
 言いつつ愛おしげに手紙を見つめるオーウェン。今にも手紙にキスしそうだ。うひゃー、こりゃぁ恋人にベタ惚れだわ。見ただけで分かる。その表情があまりにも幸せそうで、なんだか見てるこっちまで顔が熱くなった。
「それにしてもオーウェンに恋人が居るなんて、知らなかったなぁ」
「ああ、そういえば言ってなかったね。俺の恋人は可愛い人でね、恥ずかしがるからあんまり外では言いふらさないようにしてるんだ」
 恋人のことを思い出したのだろう。ウットリと顔を蕩けさせるオーウェン。結構表情の変化が控えめな奴だと思ってたけど、こんな甘ったるい顔をすることもあるのか。オーウェンにこんな顔をさせるその『恋人』に俄然興味が湧いてくる。
「どんな人か聞いてもいい?」
「本人にバレたら怒られるから、ちょっとだけなら」
「ちょっとでいいから聞きたい!」
「それじゃあちょっとだけ。まず、俺より少し年上で綺麗な見た目をしてて」
「ふんふん」
「家事全般が得意で中でも特に料理が上手で」
「ほーう」
「性格はとっても優しくて控えめで思いやりに溢れてて」
「成程」
「頭が良くって思慮深くて」
「それで?」
「俺の事を、世界で1番に愛してくれるんだ」
 オーウェンが話してくれたことを総合して、彼の恋人の『サリー』さんを思い浮かべた。先ず、『サリー』と言うからには女の子だろ。んで、年上の綺麗系で料理が得意な家庭的で慎み深い性格に、オーウェンのことを1番に愛してくれるって……。なにそれ、男の考えるメッチャクチャ理想の恋人じゃん。そんなの現実にいたのかよ! やっぱオーウェンが選ぶくらいだから、色んな意味で完璧な人なんだろうな……。畜生、羨ましい!
「今日もね、サリーってば自分が仕事でお弁当だから、ついでで良ければあなたの分も作ってあげる、って言って忙しいのに俺の分のサンドウィッチまで作ってくれたんだ。優しいよねぇ。サリーと付き合えて、本っ当に俺は幸せ者だよ」
 そう言ってオーウェンが見せびらかしたサンドウィッチの野菜は瑞々しく、パンは香ばしくて食べ盛りの男子用に肉もタップリ入っていて、実に美味しそうだ。そりゃあ、こんな愛妻弁当持たされちゃ、賄いなんて食べていられないわな。
「……どこでどうやったらそんな理想の恋人に出会えるんだよ……」
「聞きたい? 聞きたいよね? どうせここまで聞いたのなら、俺達の馴れ初めも聞いて言ってくれよ! 今まで誰にも話さずにいたから恋人自慢ができなくて、ウズウズしてたんだ! サリーとはまだ母国にいた時に知り合ってね。どうしても一緒になりたかったんだけど互いの立場上許されなくて、思い切って駆け落ちしたんだ!」
「え、まさかこの国に来たのって……」
「そう、サリーと結ばれる為さ!」
「オーウェン、この国に来た時13歳だったって前に言ってなかったっけ?」
「愛の前には年齢なんて関係ないよ。運命と出会ってしまったら、その瞬間から行動理念の全てがその相手の為だけになるんだからね! サリーと出会ったのは、丁度俺が荒れてた時期でね……」
 オーウェンの恋人自慢は止まらない。いかにオーウェンが恋人のことを思っているか、サリーさんがどれだけオーウェンのことを大切にしくれているか。後から後からどんどん言葉が溢れてくる。結局俺は、休憩時間いっぱいオーウェンの恋人自慢という名の甘ったるい惚気に付き合わされたのだった。
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