赤獣の女王

しろくじちゅう

文字の大きさ
上 下
36 / 108
六章 天国分譲

36、領有をめぐって争う戦場

しおりを挟む
 シチューリア島は、赤獣の女王とルージュが領有をめぐって争う戦場であるからして、明確な境界線が引かれている。島の北部は、赤獣の女王が依然として占領しており、シチューリアと呼ばれる小さな街が今なお存在している。そこを拠点として、南部に位置する約束の地を日々見張り続け、奪還の機会を虎視眈々と狙っているけれど、水精霊の侵攻を食い止めるだけで手一杯になるほどに人手が不足していたし、なにより元帥が反撃に転じようとしなかったので、長らく防戦に徹するばかりであった。
 ノノバラたちを乗せた軍用ヘリコプターは、シチューリアの街に点在しているヘリポートに降り立った。すると、まもなくして騎士が近寄ってきたので、皆は急いで降機した。騎士の一人がノノバラに尋ねた。
「もしや、お前がノノバラ・メデロとかいう騎士か?」
「何か問題でもあるのか?」ノノバラは、質問を返した。
「お前のためだけに元帥代理がカタクリナを手配してくれていると聞いていたのだが、なぜヘリコプターで?」
「この間の襲撃でカタクリナは破壊されたのを知らないのか。修理の目途が立たないらしいから、ヘリに乗せてもらったのさ」
「カタクリナは直ったと、元帥代理が言い張っていたらしい」
「ベネチャン支部では、そんな話聞かなかったぞ」
「情報が交錯しているようだな。なんにせよ、ただちに大聖堂へ来てもらう。詳しい話は、それからだ」
 放っておかないと言った手前、ミキキは、ノノバラを手助けしようと権勢を振るっているのだろうが、やはり指導者としての器や才覚がないのだろう、まるで助けになっていなかった。最初から当てにはしていなかったので、特段何とも思わなかったけれど、先が思いやられるような心持ちはした。
 シチューリアの街並みは、自然と調和したものであり、建物よりも街路樹が際立っているように思えた。人口は、わずかに八百人程度であるらしく、内訳の概ねは赤獣の女王の騎士、及びその家族と関係者であるからして、騎士たちは他の街のように肩身の狭い思いをせずに済む。むしろ大手を振って歩く様に少々戸惑いつつも、ノノバラは、騎士たちに連れられて行き、メロウやユウカリ、シシタといった部外者も何食わぬ顔で連れられた。アマクサは、元よりこの街の大聖堂に勤めていたので、慣れたように闊歩かっぽしていた。
しおりを挟む

処理中です...