赤獣の女王

しろくじちゅう

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十一章 水龍と水剣

74、その精強をまざまざと

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 対女王戦陣の活躍を、ノノバラは傍観していたから、その精強をまざまざと見せつけられて、呆気にとられていた。龍の大群と戦うのは、七つの目の聖碑石を争奪した時にもあったけれど、対女王戦陣は、水精霊剣の力を借りながらも、たった三人でもって数的不利を跳ね返して、誰一人死傷する事なく勝利を収めてしまった。幼子おさなごであるチマリを背負ったアナウンシアや、先刻まで試験を受けていたであろうメロウでさえも、ことごとく龍を切り伏せて蒸発させてしまうくらいには剣術に卓越していたので、御株を奪われたような心持ちさえして、ノノバラは、心ともなく羨望の眼差しを四人に浴びせていた。
 劇場に静けさが取り戻されると、水精霊剣の軍勢は、陣頭の元へと集って、円陣を張って宙に留まり待機した。その様を横目に、ノノバラは、やっとこさ陽光剣を拾い上げて腰に差し、舞台を飛び降りて、そそくさと観客席を横切って行こうとした。IDによって指定された最大地下墓地とは、ベネチャン県にある古代の墓であり、その名の通り広大な敷地を有している。そこにミキキが人質として捕らわれているのなら、たとえ敵の術中に陥ろうとも救助に向かわなければならないと、ノノバラは先を急ごうとしたが、案の定メロウに呼び止められた。
「ちょっと、黙ってどこ行くのよ!」
ノノバラは、ひたと足を止めて、早口で「分かってるだろ。ミキキを助けに行く」
「じゃあ、あたしも行く。絶対に罠だもん、ノノバラ一人じゃ行かせられないし。それに、その右腕、やっぱり痛んだりするんでしょ?さっきそんな感じだったもん」
「違うって。たまたま調子が悪かっただけだ。たとえ罠だろうと、今度は僕一人でやってみせる。そもそも、なんでお前、アナウンシアの仲間になったりしたんだよ」
「だって、時給が良いから、花屋よりもずっと稼げるし。それに、早くルージュを倒さないと、いつまで経ってもノノバラが、まともな仕事に就いてくれないでしょ。だったら、いっそあたしが一肌脱ごうかなって」
「いいって。お前がそこまでする必要ないから」
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