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ハラッパバッカのコのセカイ
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自然だけでなく、人間をも敵に回してしまった。トロンは逃亡をしつつも後悔に後悔を重ねたが、それで得られるものなど何一つなく、ただ自らの精神を穢していくばかりであった。原初を手に入れられるのなら罪を犯してもいい、そんな邪な企みの報いを今まさに受けているのだ。これが因果応報というものか。原初の誘惑に負けた自分を忌々しく思うと同時に、少しでもガゼットの住人を危険に晒してしまった事を恥じた。もう金輪際、自然とは関わり合うものか、と今更になって自分を律してみたものの、己の罪が許されるわけはなく、ましてや時間が巻き戻る事もなく、この目を背けたくなるほどの現実から可能な限りの逃亡を続けるしかなかった。こうなった以上、もうガゼットに留まる事はできない。狩人も廃業だ。これからは外界で暮らすか、あるいは他の街を探し出すしかない。“ガゼットのような街は、少なからず世界中に点在している”、とウェザーが以前言っていた事を思い出したが、今の自分では雲を掴むような話だった。ガゼットに守られてきた温室育ちの甘えた人間が、過酷な自然環境の中を生き抜き、何の導きもなく街を探し当てられるだろうか。否、いずれ自然の手にかかり、この心臓を抜き取られるに違いない。進めば自然、退けば人間に殺される。ならば、いっそ神頼みをしてみるか。そうすれば、このトロンを哀れに思った父が、わずかばかりの情けをかけてくれる可能性が、万が一にもあるかもしれない。
トロンはバイクを駆けさせた。追跡してくる警備隊の車両を振り切るべく、とにかく速く駆けさせた。つかず離れずの距離を保ったまま、遂にドームの穴から外界へ飛び出していった。前方に広がる広大な原っぱを進めば、警備隊も諦めてくれるはずである。速度を緩めず、一気に原っぱを突っ切ろうとしたが、突然、はっと目を見開き、思わずバイクを停止させた。目の前に見知らぬ男が立ち塞がっていたからである。その成人男性は、いささか奇妙な風体であった。爆発したかのような鋭い髪を携えた野生児、それでいて見た事もない軍人風の衣装を着用していた。野生と文明の入り混じった変人、そんな印象を受けたが、何やら彼の表情が芳しくないように見える。眉を吊り上げ、口をしかめた憤怒の表情は、なぜかこちらにだけ向けられていた。男の放つ重々しい気迫にトロンが息を呑んでいると、後ろの穴から警備隊の車両が次々と飛び出し、トロンの周囲を取り囲んだ。降車した警備隊は、トロンに銃口を向けながら、じりじりと歩み寄ってきた。俺は何をぐずぐずしているんだ、と我に返ると、男に向かってバイクを急発進させた。その脇をかすめ去ってやるつもりであった。
ところが、名も知らぬ男の横を通り過ぎた瞬間、バイクが運転手の意思に反し、ぴたりと停止した。ハンドルを回してみても、うんともすんとも言わず、バイクは沈黙したままであった。何事かと思い背後に目をやると、信じがたい事に、男がバイクの後輪を片手でわし掴みにし、その回転を完全に止めていたのである。これには驚愕したが、声も発しないうちに、男は前方に向かって軽々とバイクを引きずり倒し、トロンを地面に転がさせた。バイクを片手で止めてしまうなど人間業ではない。トロンは、すぐに立ち上がると、男と対峙し、その怒りの形相をいぶかしげに見つめた。一体何を怒っているのか。もしかしたら自分に対して怒りを表しているのかもしれないが、そんな顔をされる覚えはない。互いに口を開かず、重苦しい雰囲気の中での睨み合いが続いたが、まもなく走り寄ってきた警備隊の存在に気付いたトロンは、男から視線を外し、振り向きざまに威勢よく剣を抜いた。やぶれかぶれの抵抗を試みたが、やはり人を斬るのは気が引けた。それでも今だけは心を鬼にし、峰打ちで済まそうと剣を構えたその時、背後から獣のごとき獰猛なうなり声が聞こえ、咄嗟に振り返った頃には、男がこちらに向かって飛びかかってきていた。男は両手足を地面についた四足歩行で走行し、涎をまき散らしながら狂犬のごとく襲い掛かってきた。やはり自分に敵意を持っている。そう判断し、反撃に打って出るべく即座に剣を男に向けた。ところが、男はトロンには目もくれず、その横を何事もなく通り過ぎていくと、警備隊に対して猛攻を加え始めた。獣に匹敵するほどの俊敏性と自らの鋭い爪を武器とし、警備隊の纏う頑丈な防具をことごとく切り裂いていった。まるで人の姿をした獣だ、とトロンは男の荒々しい戦闘を目の当たりにし、思わず目を見張った。
警備隊は、男の猛攻を前に、たまらず撤退を始めた。車両に乗り込み、ドームの穴からガゼットへ退いていくと、ただ二人、トロンと男は原っぱの中に取り残された。男は、去りゆく警備隊の車両を恨めしそうに見つめ、その様子をトロンは真摯に見つめていた。この時、トロンは男の正体に関し、ある一つの結論にたどり着きつつあった。彼は廻仔だ。その人並み外れた身体能力は、確信を抱かせるには十分すぎるほどの判断材料であった。まさか、この男がウェザーの言っていた“真に自然な自然の仔”なのか。文明にも頼らず、己が宿命に従う事を是とする自然の仔なのか。確かに、その容姿は、とても文明社会の中で過ごす人間のものとは思えない。だとすると、ガゼットに動物たちを差し向けたのも、この男なのか。ガゼットの住人を自然に帰そうと画策しているのか。確証はないが、もしそうであるならば、自分に対して怒りの矛先を向ける理由も思いつく。己が宿命に、自然に逆らう廻仔を目の敵にするのは、それこそ自然な事であろうから。
と、その時、警備隊の車両と入れ替わるようにドームの穴からシンバルとスコアが飛び出してきた。彼らはトロンを見つけると駆け寄ろうとしたが、名も知らぬ男の放つ異様な雰囲気に、つい足を止めた。近寄りがたい雰囲気を放つ男を挟み、シンバルは息を荒げながらもトロンに声をかけた。
「おい、さっき警備隊の車両とすれ違ったぞ!!追い払ったのか!?」
「怪我とかしてないよね、トロンさん!?」スコアもトロンを気遣っていた。「あと、その男の人は誰!?知り合い!?」
「この男は廻仔だ!ガゼットに動物を差し向けたのは、この男の仕業かもしれない!」トロンは二人に向かって推測を述べた。
「なんだと!?」シンバルは仰天したが、すぐにいきり立ち、電光の槌を手にすると男に「オマエは誰だ!?本当にガゼットの住人を自然に帰そうとしているのか!?」と叫んだ。
男は口を一切開かず、それどころか犬のように鼻を盛んに動かし、あたりの匂いを嗅ぎ始めた。投げかけられた質問を無視し、夢中になって匂いを嗅いでいると、何かに気付いたのか嗅ぐのをやめ、それからシンバルを鋭い眼差しで睨みつけ、怒りの矛先がトロンからシンバルに移ると、募った怒りを発散するがごとく、有無を言わせず飛びかかった。
質問の答えは、聞かずとも明らかであった。この男は敵、そう認識したシンバルは、槌を振り上げ、戦闘態勢をとった。「動物どもの親玉だってんなら上等だ!!これ以上、ガゼットには一歩たりとも入れさせないぜ!!」
男は爪を振りかざし、シンバルは槌をもって迎撃しようとした。槌は雷を伴って振り下ろされたが、男は難なく回避してみせた。それからもシンバルは槌を絶え間なく振り回したが、男の素早い動きを一向に捉えられず、打撃は虚しく空を切るばかりであった。一方、男はというと、無造作に振り回される槌の連打を前に思うように接近できず、やっとこさ繰り出した爪の一撃も槌に阻まれてしまい、苛立ちで歯ぎしりをするほどに攻めあぐねていた。膠着状態から中々抜け出せない戦いをトロンとスコアは遠巻きに眺めていた。シンバルに加勢をしたい気持ちはあったが、男の気迫に圧倒され、戦いに割り込む隙を見出す事ができずにいた。さらに、スコアに関しては、得物であるステッキを既に破損させていたが故に丸腰であり、もはや戦意喪失したのか、原っぱに低く屈みこみ、まるで天敵を恐れる草食動物のように身を隠していた。
いつまでも続くかと思われた戦いは、唐突に終わりを告げた。男はシンバルへの攻勢をやめたかと思うと、いくらかの距離を取ってから、またしても周囲の匂いを嗅ぎ始めたのだ。全神経を鼻に集中させ、盛んに動かしていると、はっとしたように両目を全開させた。すかさず、ドームの穴へと四本足で走行していくと、ガゼット内部へと侵入してしまったのである。その車に勝るとも劣らない速力に三人は焦心した。
「おい、逃がすか!!」シンバルは男を追いかけ、ガゼットに突入していった。
スコアも追いかけようとしていたが、トロンは躊躇していた。今や自分は追われる身。ガゼットの危機に対処する前に、自らの境遇を苦慮するのが先である。すると、その場から動き出そうとしないトロンを不思議に思ったのか、スコアが歩み寄ってくると、気の毒そうに声をかけた。
「……キミだけの罪じゃないからさ。ボクらだって同罪みたいなものだし…」
トロンは無言で剣を収めると、倒れたバイクを起こし始めた。
「ねぇ…!別にガゼットを出ていく事はないんじゃないかな…。自然の中で生きていくのって……つらいんだよ?」スコアの表情に影が落ちると、目を伏し、静かに呟いた。それから、打って変わって笑顔になると、「どうせ行く当てもないならさ、アースガルの基地に隠れてみない?あそこの地下室なら警備隊の目からも隠れられると思うんだ。心配しなくても、キミを警備隊に売ったりしないからさ。だって、ボクら…兄妹でしょ?」
廻仔は皆、兄弟。忘れかけていたその事実は、孤立しつつあるトロンに安心感を与えた。ウェザーには裏切られたが、シンバルやスコアは自分を見捨てないでいてくれる。やはり兄弟だからだろうか。同じ父を持ち、同じ宿命を持つ者同士、実は見えない絆で繋がっているのだろうか。その絆は信用に値するのだろうか。しかし、今は信じたかった。父は信じられなくとも、同じ兄弟なら信じられるかもしれない。そう思うのは、ただガゼットから出て行きたくないだけかもしれないが、彼女を信じたいという気持ちは、確かに胸に宿っており、それは他のどの感情よりも強かった。同じ兄弟とはいえウェザーとは違う、そう信じてみる事にした。
トロンは、起こしたバイクにまたがると、スコアに「乗れ…」と一言だけ呟いた。
「早くシンバルを追いかけないとね」スコアはトロンの意図を察しているのか、迷う事なくバイクにまたがった。
二人乗りのバイクは、ドームの穴を抜け、木炭の森へと突き進んでいった。
トロンはバイクを駆けさせた。追跡してくる警備隊の車両を振り切るべく、とにかく速く駆けさせた。つかず離れずの距離を保ったまま、遂にドームの穴から外界へ飛び出していった。前方に広がる広大な原っぱを進めば、警備隊も諦めてくれるはずである。速度を緩めず、一気に原っぱを突っ切ろうとしたが、突然、はっと目を見開き、思わずバイクを停止させた。目の前に見知らぬ男が立ち塞がっていたからである。その成人男性は、いささか奇妙な風体であった。爆発したかのような鋭い髪を携えた野生児、それでいて見た事もない軍人風の衣装を着用していた。野生と文明の入り混じった変人、そんな印象を受けたが、何やら彼の表情が芳しくないように見える。眉を吊り上げ、口をしかめた憤怒の表情は、なぜかこちらにだけ向けられていた。男の放つ重々しい気迫にトロンが息を呑んでいると、後ろの穴から警備隊の車両が次々と飛び出し、トロンの周囲を取り囲んだ。降車した警備隊は、トロンに銃口を向けながら、じりじりと歩み寄ってきた。俺は何をぐずぐずしているんだ、と我に返ると、男に向かってバイクを急発進させた。その脇をかすめ去ってやるつもりであった。
ところが、名も知らぬ男の横を通り過ぎた瞬間、バイクが運転手の意思に反し、ぴたりと停止した。ハンドルを回してみても、うんともすんとも言わず、バイクは沈黙したままであった。何事かと思い背後に目をやると、信じがたい事に、男がバイクの後輪を片手でわし掴みにし、その回転を完全に止めていたのである。これには驚愕したが、声も発しないうちに、男は前方に向かって軽々とバイクを引きずり倒し、トロンを地面に転がさせた。バイクを片手で止めてしまうなど人間業ではない。トロンは、すぐに立ち上がると、男と対峙し、その怒りの形相をいぶかしげに見つめた。一体何を怒っているのか。もしかしたら自分に対して怒りを表しているのかもしれないが、そんな顔をされる覚えはない。互いに口を開かず、重苦しい雰囲気の中での睨み合いが続いたが、まもなく走り寄ってきた警備隊の存在に気付いたトロンは、男から視線を外し、振り向きざまに威勢よく剣を抜いた。やぶれかぶれの抵抗を試みたが、やはり人を斬るのは気が引けた。それでも今だけは心を鬼にし、峰打ちで済まそうと剣を構えたその時、背後から獣のごとき獰猛なうなり声が聞こえ、咄嗟に振り返った頃には、男がこちらに向かって飛びかかってきていた。男は両手足を地面についた四足歩行で走行し、涎をまき散らしながら狂犬のごとく襲い掛かってきた。やはり自分に敵意を持っている。そう判断し、反撃に打って出るべく即座に剣を男に向けた。ところが、男はトロンには目もくれず、その横を何事もなく通り過ぎていくと、警備隊に対して猛攻を加え始めた。獣に匹敵するほどの俊敏性と自らの鋭い爪を武器とし、警備隊の纏う頑丈な防具をことごとく切り裂いていった。まるで人の姿をした獣だ、とトロンは男の荒々しい戦闘を目の当たりにし、思わず目を見張った。
警備隊は、男の猛攻を前に、たまらず撤退を始めた。車両に乗り込み、ドームの穴からガゼットへ退いていくと、ただ二人、トロンと男は原っぱの中に取り残された。男は、去りゆく警備隊の車両を恨めしそうに見つめ、その様子をトロンは真摯に見つめていた。この時、トロンは男の正体に関し、ある一つの結論にたどり着きつつあった。彼は廻仔だ。その人並み外れた身体能力は、確信を抱かせるには十分すぎるほどの判断材料であった。まさか、この男がウェザーの言っていた“真に自然な自然の仔”なのか。文明にも頼らず、己が宿命に従う事を是とする自然の仔なのか。確かに、その容姿は、とても文明社会の中で過ごす人間のものとは思えない。だとすると、ガゼットに動物たちを差し向けたのも、この男なのか。ガゼットの住人を自然に帰そうと画策しているのか。確証はないが、もしそうであるならば、自分に対して怒りの矛先を向ける理由も思いつく。己が宿命に、自然に逆らう廻仔を目の敵にするのは、それこそ自然な事であろうから。
と、その時、警備隊の車両と入れ替わるようにドームの穴からシンバルとスコアが飛び出してきた。彼らはトロンを見つけると駆け寄ろうとしたが、名も知らぬ男の放つ異様な雰囲気に、つい足を止めた。近寄りがたい雰囲気を放つ男を挟み、シンバルは息を荒げながらもトロンに声をかけた。
「おい、さっき警備隊の車両とすれ違ったぞ!!追い払ったのか!?」
「怪我とかしてないよね、トロンさん!?」スコアもトロンを気遣っていた。「あと、その男の人は誰!?知り合い!?」
「この男は廻仔だ!ガゼットに動物を差し向けたのは、この男の仕業かもしれない!」トロンは二人に向かって推測を述べた。
「なんだと!?」シンバルは仰天したが、すぐにいきり立ち、電光の槌を手にすると男に「オマエは誰だ!?本当にガゼットの住人を自然に帰そうとしているのか!?」と叫んだ。
男は口を一切開かず、それどころか犬のように鼻を盛んに動かし、あたりの匂いを嗅ぎ始めた。投げかけられた質問を無視し、夢中になって匂いを嗅いでいると、何かに気付いたのか嗅ぐのをやめ、それからシンバルを鋭い眼差しで睨みつけ、怒りの矛先がトロンからシンバルに移ると、募った怒りを発散するがごとく、有無を言わせず飛びかかった。
質問の答えは、聞かずとも明らかであった。この男は敵、そう認識したシンバルは、槌を振り上げ、戦闘態勢をとった。「動物どもの親玉だってんなら上等だ!!これ以上、ガゼットには一歩たりとも入れさせないぜ!!」
男は爪を振りかざし、シンバルは槌をもって迎撃しようとした。槌は雷を伴って振り下ろされたが、男は難なく回避してみせた。それからもシンバルは槌を絶え間なく振り回したが、男の素早い動きを一向に捉えられず、打撃は虚しく空を切るばかりであった。一方、男はというと、無造作に振り回される槌の連打を前に思うように接近できず、やっとこさ繰り出した爪の一撃も槌に阻まれてしまい、苛立ちで歯ぎしりをするほどに攻めあぐねていた。膠着状態から中々抜け出せない戦いをトロンとスコアは遠巻きに眺めていた。シンバルに加勢をしたい気持ちはあったが、男の気迫に圧倒され、戦いに割り込む隙を見出す事ができずにいた。さらに、スコアに関しては、得物であるステッキを既に破損させていたが故に丸腰であり、もはや戦意喪失したのか、原っぱに低く屈みこみ、まるで天敵を恐れる草食動物のように身を隠していた。
いつまでも続くかと思われた戦いは、唐突に終わりを告げた。男はシンバルへの攻勢をやめたかと思うと、いくらかの距離を取ってから、またしても周囲の匂いを嗅ぎ始めたのだ。全神経を鼻に集中させ、盛んに動かしていると、はっとしたように両目を全開させた。すかさず、ドームの穴へと四本足で走行していくと、ガゼット内部へと侵入してしまったのである。その車に勝るとも劣らない速力に三人は焦心した。
「おい、逃がすか!!」シンバルは男を追いかけ、ガゼットに突入していった。
スコアも追いかけようとしていたが、トロンは躊躇していた。今や自分は追われる身。ガゼットの危機に対処する前に、自らの境遇を苦慮するのが先である。すると、その場から動き出そうとしないトロンを不思議に思ったのか、スコアが歩み寄ってくると、気の毒そうに声をかけた。
「……キミだけの罪じゃないからさ。ボクらだって同罪みたいなものだし…」
トロンは無言で剣を収めると、倒れたバイクを起こし始めた。
「ねぇ…!別にガゼットを出ていく事はないんじゃないかな…。自然の中で生きていくのって……つらいんだよ?」スコアの表情に影が落ちると、目を伏し、静かに呟いた。それから、打って変わって笑顔になると、「どうせ行く当てもないならさ、アースガルの基地に隠れてみない?あそこの地下室なら警備隊の目からも隠れられると思うんだ。心配しなくても、キミを警備隊に売ったりしないからさ。だって、ボクら…兄妹でしょ?」
廻仔は皆、兄弟。忘れかけていたその事実は、孤立しつつあるトロンに安心感を与えた。ウェザーには裏切られたが、シンバルやスコアは自分を見捨てないでいてくれる。やはり兄弟だからだろうか。同じ父を持ち、同じ宿命を持つ者同士、実は見えない絆で繋がっているのだろうか。その絆は信用に値するのだろうか。しかし、今は信じたかった。父は信じられなくとも、同じ兄弟なら信じられるかもしれない。そう思うのは、ただガゼットから出て行きたくないだけかもしれないが、彼女を信じたいという気持ちは、確かに胸に宿っており、それは他のどの感情よりも強かった。同じ兄弟とはいえウェザーとは違う、そう信じてみる事にした。
トロンは、起こしたバイクにまたがると、スコアに「乗れ…」と一言だけ呟いた。
「早くシンバルを追いかけないとね」スコアはトロンの意図を察しているのか、迷う事なくバイクにまたがった。
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