めぐりしコのエコ

しろくじちゅう

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ハラッパバッカのコのセカイ

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 やがてガゼットへたどり着くと、トロンとシンバルは、我が目を疑ってしまった。木々によって塞がれていたはずのドームの穴が、なんと開かれていたのだ。木々がすぼまったかのように隅に寄り、トラック一台が通れるほどの隙間ができていた。それだけでなく、その穴を取り囲むようにして、鹿や熊、虎といった多種多様な動物たちが集結していたのだ。動物でありながら、皮の鎧や兜を着こみ、まるで兵士のような出で立ちであった。既にガゼットを自然が襲っている。自然物たる動物を前にしてもトロンは怖気づく事もなく、穴に向かってバイクを全速力で走らせた。
「よし、それでいい!そのままガゼットに突っ込んで行け!」シンバルは背後で叫んだ。
 動物たちがバイクのエンジン音に気付き、トロンとシンバルに振り向いた。猛進してくるバイクに逃げ惑うかと思いきや、逆に駆け寄り、躊躇なく飛びかかかってきた。ここで足止めされるのは面倒だ、とトロンはバイクのハンドルを持ち上げ、空高く跳躍すると、動物たちの頭上を越えていき、着地後、そのまま穴からガゼット内部へと入っていった。
 市街地を目指して木炭の森を抜ける最中、木炭の木々から緑の葉が根付いているのが視界に入り、二人は愕然とした。熱によって焦がされた木々は、恐るべき生命力をもって徐々に枝葉を生やし、かつての緑あふれる鬱蒼とした森の佇まいを取り戻そうとしていた。
「なんてこった…!!やっぱりダメだったか…!この調子だと、あと一か月もすれば、元通りになるな…!」シンバルの言葉からは悔しさが滲み出ていた「リーダーとしての責任は免れないってとこだな…。だが、今は…住人を助けるのが先決だ…!」
トロンは黙したままバイクを走らせると、木炭の森を抜け、禁止区域を越え、ようやく市街地に到着したが、既に戦いは熾烈しれつを極めていた。熊や虎といった肉食獣だけでなく、水牛、象、サイ、果てには大型の蛇までもが、誰それ構わず人間に襲いかかり、存分に猛威を振るっていた。トロンとシンバルは、アースガルの隊員と武装した動物たちが街中で争う光景を見ると、すぐにバイクを降り、各々が猛然と戦いに身を投じた。トロンは剣を、シンバルは人目を忍んでいるのか両拳を使い、獰猛極まりない動物たちと一戦を交えた。動物たちは数こそ多くはなかったが、個々の力は強く、まさに少数精鋭、流石のトロンも苦戦を強いられたものの、狩人としての意地を見せつけ、剣の不備すら物ともせず、見事なまでに拮抗きっこうしてみせた。一匹を手負いにすると、また新たな動物が絶え間なく襲い掛かり、苦しい連戦を強いられていたが、突如、動物たちが何の脈絡もなく撤退を始めた。木炭の森へ向かって列をなして逃げていくのを確認すると、アースガル隊員たちが一斉に勝利の歓声を上げた。
 シンバルは全身の所々に軽傷を負っていたが、まるで気にも留めず、すぐにそばの隊員を呼びつけると、こうたずねた。
「あの動物は、なんなんだ!?一体何があった!?」
「それが……動物たちが唐突にガゼットに押し寄せてきたんです!隊長は不在でしたが、我々は何とか動物を追い払おうと戦いました!しかし……あの動物たち、自然のくせに妙な行動を…!住人をさらえる状況にあるにもかかわらず、誰も住人をさらわないのです!ただ威嚇を繰り返すのみでして、特に建物を破壊するような事もありませんでした!」
「なんだ…?アイツらは、何をしにガゼットへ…?」
その会話をトロンは耳をそばだてて聞いていた。目的不明の襲撃は腑に落ちなかったが、今はガゼットを守れた事を素直に安堵する事にした。それにしても、素人の寄せ集めであるはずのアースガルがシンバルを抜きにして、よくもここまで健闘したものだ。怪我人は、少なくはなかったが、猛獣を食い止めた事は賞賛すべきだろう。そんな事を考えていると、突然、右肩を軽く二回だけ叩かれた。振り返ってみると、そこにはスコアが照れ臭そうに立っていた。彼女も動物と懸命に戦っていたのだろう、その両手に持ったステッキが傷だらけになっていただけでなく、中ほどから真っ二つに折れていた。
「お帰り!二人が来てくれて、助かったよ!それで、どうなったの?」スコアは、族王の課した証明の結末をたずねた。
トロンは、おもむろにシンバルを指差すと、「アイツに聞け」
「え?なんで?」スコアは首を傾げた。
トロンはスコアの相手を面倒に思うと、その場を離れて行こうとした。ウェザーに連れられて外界に出てからというものの、色々ありすぎて、ほとほとくたびれた。これからもガゼットには自然の魔の手が忍び寄るだろうが、ここで一旦、休息をとるべきであり、そのために家へ帰ろうとしたその矢先、思いもがけない事態に遭遇した。
 街角から何人もの警備隊が躍り出ると、トロンをぐるりと取り囲んだのである。そして、警備隊長らしき人物がトロンの前に進み出ると、面と向かってこう言った。
「トロン・F・レイン!!研究所への放火、及び不法侵入の罪でお前を逮捕する!!確たる証拠は、防衛ロボットに記録された映像等により、既に出揃っている!!もはや言い逃れはできないぞ!!」
 最も恐れていた事態にトロンは虚を突かれたように驚き、冷や汗をかいた。案の定、あの程度の作戦では、罪の所在を有耶無耶にできなかったのだ。不法侵入はともかく、自然物たる火を生み出す放火は、このガゼットにおいて大重罪である。恐らくは極刑に処されるだろう。しかし、自分は断じて放火などしておらず、その罪を償うべきなのはウェザーを置いて他にはいない。濡れ衣を着せられるなど理不尽極まりなく、ましてや、あのウェザーの身代わりになるなどとは笑止千万。事情をわかってくれるであろうシンバルとスコアも驚きのあまり硬直しており、ここは己が力のみで逃げおおせるしかない。
 トロンは走った。警備隊の列を突き飛ばし、乗ってきたバイクにまたがると、警備隊の制止を無視し、外界へ向けての逃亡を開始した。来た道を引き返し、ドームの穴を目指して木炭の森を走り抜けた。やはり自分は判断を誤った。しかし、後悔先に立たず、既に何もかもが手遅れであった。結局、自然への証明によって得られたものは、罪人の烙印らくいん、ただそれだけであった。
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