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ハラッパバッカのコのセカイ
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ところが、いくばくかが経過した頃、唐突に暗闇は切り裂かれた。青紫の電光が上空に轟くと、久しぶりの光明だった事もあり、そのあまりの眩しさに目を背けた。その放射状に丸く発光する電光が、こちらに向かって降下してくると、ますます直視する事は叶わず、両目を閉じた。自ら視界を絶った矢先、「おい!!無事か!!」と聞き覚えのある声、シンバルの声を耳にし、おもむろに目を開けた。すると、目の前にシンバルが立っており、その右手には電光を纏った槌が握られていた。一瞬だけ幻覚かと思ったが、「やっぱりこの洞窟にいたか!!」とシンバルの声を再び聞き、彼は幻でもなんでもなく正真正銘の当人である事を悟った。トロンは立ち上がると、シンバルの登場を不思議に思い、物静かな語勢でたずねた。
「なぜアンタがここへ?」
「無性にオマエが心配になってな。もしかしたら危険な目に遭ってるんじゃないかって。だから、アースガル総出で研究所の炎どもを片付けてから、すぐに飛び出して来たんだ。でも、岩山に着いても誰も見つけられなかった。付近を探そうと思ったら、……奇妙な話なんだが、一頭の猪を見つけてな。最初は敵かと思ったが、なにやらソイツはオレをどこかへ案内しようとしている素振りだったんで、その後をついて行ったのさ。そしたら、森の中に洞窟を見つけただけでなく、その入り口にバイクが停まっていたのを見つけたんだ。もしやと思って、中を調べてみたら、この有様だ!一体何だってこんな真っ暗な所にいたんだ!?」
トロンは、ほっと安堵した。洞窟前にバイクを停車させていたおかげで、最悪の事態は免れた。それにしても、シンバルを案内した猪とは何なのだろうか。いや、今はそれどころではない。まさかこの男が助けに来るとは思わなかったが、なんにせよ心根からの恩を感じていた事に変わりはなかった。しかし、その気持ちを口に出して述べるのは、いささか恥ずかしく、とてもじゃないが意気地がなかった。かわりに、この状況に陥った経緯を洗いざらい話し、それを礼代わりとした。申し訳程度の礼にもならないどころか、感謝の意すらも伝わらないだろうが、情けない事に今のトロンにはそれが精一杯であった。
トロンから話を聞き終えたシンバルは、ひどく仰天した。「ガゼットの住人を自然に帰そうとしてる廻仔がいるのか!?しかも、原初を持っていかれちまうなんて、どう考えても原初の力でガゼットを潰す気だぞ!!」
「だから、何としても止めなければ」
「それにしても、あのメガネのウェザーめ…!」そのシンバルの表情は、苦虫を噛み潰したようであった。「最初から怪しいと思ってたんだ!変な炎を化け物を呼んだのもアイツなんだろ!?やっぱり自然の仲間だったんだ!!」
トロンはシンバルの手にしている電光を纏う槌が気になり、目を細めながらも注視した。外見は金槌のようであったが、その材質は鏡のような謎の物質であり、不可解な事に絶え間なく電光を発生させていた。「それは、なんだ」
「これか?これはオレの秘密兵器だ!」シンバルは槌をトロンに見せつけ、少し誇らしげにした。「数年前にガゼットを雷が襲った事があっただろ。その時に偶然手に入れてな。たぶん自然物なんだろうが、これのおかげで雷から人々を守れたんだ。だから、それ以降、お守りがわりに大事に持ってるんだが、いかんせん雷を出すからな…。あまり人前では使えないから、いざって時にだけ使うようにしているんだ」
確か、随分前にガゼットを雷が襲撃した事があった。その頃のトロンは駆け出しの狩人であったため、戦いに身を投じる事になったのだが、雷が相手では思うように戦果が上げられず、苦戦を強いられていた。結局、知らぬ間に雷は退けられたのだが、それは奇妙な槌を手にしたシンバルのおかげだったのかもしれない。
「さぁ、立ち話はこのくらいにして、早く洞窟から脱出しようぜ!グズグズしてたらガゼットが潰されるかもしれない!」シンバルは電光を照明代わりにし、崖下をずかずかと探索し始め、トロンも追従した。
断崖絶壁を登る事は、流石の廻仔でも困難であったため、崖上に繋がる道を探さなければ、この洞窟から脱出する事はできない。崖下には、平凡な岩場が広がっていた事が電光によって明らかになったが、おかしな事に食い散らかされた果実や毛皮の毛布といった、あたかも人が住んでいるかのような痕跡が見受けられた。果実に関しては、綺麗に芯のみを残して食べられていたが、最近のものなのか、いまだみずみずしさも残っていた。この洞窟には何者かが住んでいる。そう結論付けると、二人は気を引き締め、より一層用心深く探索を続けた。それからほどなくして、上がり坂を見つけ、迷わず登り始めたその矢先、シンバルがトロンにこんな事をたずねた。
「オマエは、狩人稼業は長いのか?」
トロンは黙って頷いてから、「もう五年ほどになる」
「五年か!狩人にしては長生きな方だな。やっぱり廻仔だからか。五年前と言ったら、まだアースガルもなかった頃だから、狩人は貴重品のごとく扱われていたっけな。…だからと言って、オレがアースガルを設立したのは、別に狩人の負担を和らげてやろうだとか、そういう理由じゃないんだぜ」シンバルは槌に視線を向けると、さらに続けて「これを手にした時からオレは変わったんだ。それまでは、どうしようもないくらいの不良でさ。街で喧嘩を吹っかけてきたヤツだけじゃなく、身内にも暴力を振るうほどのバカだったんだ。でも、ガゼットが雷に襲撃された時……自分の正体を知ったんだ。人間を自然に帰すという自らの宿命に気付かされたのさ。でも、……受け入れられなかった。ただ命令されるのが気に入らなかっただけかもしれない。だから、逆に人間を助けてやろうと思った。この槌を振るって雷どもを叩きのめし終わった時、俺の中の何かが変わった。周囲から白い目で見られてたはずなのに、誰もがオレに感謝し始めた。そのせいなのかな、人間を守りたいなんて柄でもない事を言い出したのは」
「家族がいるのか」
「もういないさ。かつては母方の家族がいたんだがな。結局、ろくに親孝行もできなかった…。でもよ、今はスコアがいる。まだ出会って一年くらいだが、一応兄妹…つっても、あんまり実感はないけどな」
それからは、両者とも口をつぐんだ。トロンは、シンバルに家族がいた事をうらやましく思うと同時に、幼い頃に失くした己の母、及び、仮の父となってくれた“あの人”との記憶を思い出していた。決して微笑ましいものではなかったが、それでも共に過ごした思い出には違いなかった。しかし、いつまでも感傷に浸ってはいられない。仮の父を失くした時に決意したのだ。“目に見えるものに逆らい、孤独を享受せよ”、その授けられた言葉を己が信条にし、これまで孤独に生き抜いてきたのだ。ひたむきに仕事に打ち込むだけの人生ではあるが、ほどほどに満足はしている。ただ、迷いがないわけではなかった。もしかしたら自分は信条を間違って解釈しているのではないか、と時々思い悩む事があり、その度に強烈な不安に襲われていた。目に見えるものとは何か。逆らうとは具体的に何を意味するのか。どのように孤独を享受するのか。大人に近づけども、その意は理解できぬまま、抱いた信条は揺らぎ続けていた。その度に、今だけはそれでもいい、と自分を励まし、これまで通りに生き抜いていく事に全身全霊を注ぎ続けてきたのだ。
一本道の上がり坂を登りきると、いともあっさりと崖上に出る事ができた。この洞窟は上から下まで直線の道で繋がれているようだった。あとは出口に向かって踵を返し、一本道を歩くと、出口の光が前方に見えてきた。遂に脱出できる、そう思ったのも束の間、突然、思いもよらぬ事に出口が徐々に閉じ始めた。二人は激しく動揺し、同時に駆け出した。楕円形の光は、まぶたが閉じるかのように細まっていき、急いで駆けて行ったものの、たどり着いたころには、完全に出口は閉鎖されてしまった。
シンバルは岩壁と化した出口を目の前にして愕然とした。「…ダメだ!!閉じ込められたか!?」
トロンは岩壁に異変を感じ、じっと凝視した。すると、岩壁に巨大な女性の顔面が浮かび上がっているのを目撃した。憤怒に満ちた眼力をもって、こちらを見つめ返しており、目を合わせただけで背筋が凍るようであった。
「この洞窟も自然物!そうやすやすと帰してはくれないという事か!上等だ!!」シンバルは、電光の槌をぶるんと腕ごと振り回すと、高々と振り上げた。
トロンは剣を抜きかけたものの、すぐに収め直した。岩壁が相手では、どうせ役に立たないだろう、と懸命な判断を下し、厳しいだろうがこの場はシンバルに任せる事にした。刃こぼれした剣では、岩はおろか、木を切断する事すらも危うい。このありふれた剣とは長い付き合いではあるが、そろそろ潮時、これからは廻仔の身体能力に見合った新しい得物を帯刀しなくてはならない。
「こんな顔面に足止めなんか食らってられないんだよ!!」シンバルは軽く助走をつけると、岩壁に向かって渾身の力で槌を叩きつけた。
目も眩むような光が一瞬だけ洞内を照らすと、トロンは反射的に目を覆った。様子を細目で垣間見てみると、厚い岩壁を槍状の轟雷が貫き、崩れ落ちた岩壁が霧のように離散していた。それに伴う轟音によって、鼓膜をひどく痛めつけられたが、絶大なる槌の威力を目の当たりにしたおかげか、まるで意にも介さなかった。あの槌の前では厚い岩壁も、ちり紙のように薄く、脆く、頼りないものであった。まさかこれほどまでとは、とトロンは自然のもたらした武具に強い興味を抱いた。自然の仔である廻仔だからこそ扱えるその武具が、喉から手が出るほどに欲しくなってしまった。しかしながら、あの槌には自我がないのだろうか。自然に反するシンバルが扱えるという事は、きっとそうなのだろう。それに槌から放たれる雷にも自我がないように思える。ただの推測でしかないが、あれは自然物ではないのだろう。だとすれば、人工物、つまり人の手によって作られたものに違いなかった。
雷光が収まると、閉じる前よりも大きく、丸々とした出口が眼前に出現し、シンバルは一仕事終えたかのように額の汗を拭った。「岩なんて所詮この程度!その場しのぎの妨害にもならないぜ。さぁ、もうこんな陰気な場所とはオサラバだ!」
二人は急いで出口から出ると、岩壁の破片の散らばる中に停車されたバイクに二人乗りし、急いで森を引き返し、ガゼットへと向かった。運転手であるトロンは、ガゼットの危機に胸をざわつかせながらも、ハンドルを強く握り、風よりも速くバイクを駆けさせた。
「なぜアンタがここへ?」
「無性にオマエが心配になってな。もしかしたら危険な目に遭ってるんじゃないかって。だから、アースガル総出で研究所の炎どもを片付けてから、すぐに飛び出して来たんだ。でも、岩山に着いても誰も見つけられなかった。付近を探そうと思ったら、……奇妙な話なんだが、一頭の猪を見つけてな。最初は敵かと思ったが、なにやらソイツはオレをどこかへ案内しようとしている素振りだったんで、その後をついて行ったのさ。そしたら、森の中に洞窟を見つけただけでなく、その入り口にバイクが停まっていたのを見つけたんだ。もしやと思って、中を調べてみたら、この有様だ!一体何だってこんな真っ暗な所にいたんだ!?」
トロンは、ほっと安堵した。洞窟前にバイクを停車させていたおかげで、最悪の事態は免れた。それにしても、シンバルを案内した猪とは何なのだろうか。いや、今はそれどころではない。まさかこの男が助けに来るとは思わなかったが、なんにせよ心根からの恩を感じていた事に変わりはなかった。しかし、その気持ちを口に出して述べるのは、いささか恥ずかしく、とてもじゃないが意気地がなかった。かわりに、この状況に陥った経緯を洗いざらい話し、それを礼代わりとした。申し訳程度の礼にもならないどころか、感謝の意すらも伝わらないだろうが、情けない事に今のトロンにはそれが精一杯であった。
トロンから話を聞き終えたシンバルは、ひどく仰天した。「ガゼットの住人を自然に帰そうとしてる廻仔がいるのか!?しかも、原初を持っていかれちまうなんて、どう考えても原初の力でガゼットを潰す気だぞ!!」
「だから、何としても止めなければ」
「それにしても、あのメガネのウェザーめ…!」そのシンバルの表情は、苦虫を噛み潰したようであった。「最初から怪しいと思ってたんだ!変な炎を化け物を呼んだのもアイツなんだろ!?やっぱり自然の仲間だったんだ!!」
トロンはシンバルの手にしている電光を纏う槌が気になり、目を細めながらも注視した。外見は金槌のようであったが、その材質は鏡のような謎の物質であり、不可解な事に絶え間なく電光を発生させていた。「それは、なんだ」
「これか?これはオレの秘密兵器だ!」シンバルは槌をトロンに見せつけ、少し誇らしげにした。「数年前にガゼットを雷が襲った事があっただろ。その時に偶然手に入れてな。たぶん自然物なんだろうが、これのおかげで雷から人々を守れたんだ。だから、それ以降、お守りがわりに大事に持ってるんだが、いかんせん雷を出すからな…。あまり人前では使えないから、いざって時にだけ使うようにしているんだ」
確か、随分前にガゼットを雷が襲撃した事があった。その頃のトロンは駆け出しの狩人であったため、戦いに身を投じる事になったのだが、雷が相手では思うように戦果が上げられず、苦戦を強いられていた。結局、知らぬ間に雷は退けられたのだが、それは奇妙な槌を手にしたシンバルのおかげだったのかもしれない。
「さぁ、立ち話はこのくらいにして、早く洞窟から脱出しようぜ!グズグズしてたらガゼットが潰されるかもしれない!」シンバルは電光を照明代わりにし、崖下をずかずかと探索し始め、トロンも追従した。
断崖絶壁を登る事は、流石の廻仔でも困難であったため、崖上に繋がる道を探さなければ、この洞窟から脱出する事はできない。崖下には、平凡な岩場が広がっていた事が電光によって明らかになったが、おかしな事に食い散らかされた果実や毛皮の毛布といった、あたかも人が住んでいるかのような痕跡が見受けられた。果実に関しては、綺麗に芯のみを残して食べられていたが、最近のものなのか、いまだみずみずしさも残っていた。この洞窟には何者かが住んでいる。そう結論付けると、二人は気を引き締め、より一層用心深く探索を続けた。それからほどなくして、上がり坂を見つけ、迷わず登り始めたその矢先、シンバルがトロンにこんな事をたずねた。
「オマエは、狩人稼業は長いのか?」
トロンは黙って頷いてから、「もう五年ほどになる」
「五年か!狩人にしては長生きな方だな。やっぱり廻仔だからか。五年前と言ったら、まだアースガルもなかった頃だから、狩人は貴重品のごとく扱われていたっけな。…だからと言って、オレがアースガルを設立したのは、別に狩人の負担を和らげてやろうだとか、そういう理由じゃないんだぜ」シンバルは槌に視線を向けると、さらに続けて「これを手にした時からオレは変わったんだ。それまでは、どうしようもないくらいの不良でさ。街で喧嘩を吹っかけてきたヤツだけじゃなく、身内にも暴力を振るうほどのバカだったんだ。でも、ガゼットが雷に襲撃された時……自分の正体を知ったんだ。人間を自然に帰すという自らの宿命に気付かされたのさ。でも、……受け入れられなかった。ただ命令されるのが気に入らなかっただけかもしれない。だから、逆に人間を助けてやろうと思った。この槌を振るって雷どもを叩きのめし終わった時、俺の中の何かが変わった。周囲から白い目で見られてたはずなのに、誰もがオレに感謝し始めた。そのせいなのかな、人間を守りたいなんて柄でもない事を言い出したのは」
「家族がいるのか」
「もういないさ。かつては母方の家族がいたんだがな。結局、ろくに親孝行もできなかった…。でもよ、今はスコアがいる。まだ出会って一年くらいだが、一応兄妹…つっても、あんまり実感はないけどな」
それからは、両者とも口をつぐんだ。トロンは、シンバルに家族がいた事をうらやましく思うと同時に、幼い頃に失くした己の母、及び、仮の父となってくれた“あの人”との記憶を思い出していた。決して微笑ましいものではなかったが、それでも共に過ごした思い出には違いなかった。しかし、いつまでも感傷に浸ってはいられない。仮の父を失くした時に決意したのだ。“目に見えるものに逆らい、孤独を享受せよ”、その授けられた言葉を己が信条にし、これまで孤独に生き抜いてきたのだ。ひたむきに仕事に打ち込むだけの人生ではあるが、ほどほどに満足はしている。ただ、迷いがないわけではなかった。もしかしたら自分は信条を間違って解釈しているのではないか、と時々思い悩む事があり、その度に強烈な不安に襲われていた。目に見えるものとは何か。逆らうとは具体的に何を意味するのか。どのように孤独を享受するのか。大人に近づけども、その意は理解できぬまま、抱いた信条は揺らぎ続けていた。その度に、今だけはそれでもいい、と自分を励まし、これまで通りに生き抜いていく事に全身全霊を注ぎ続けてきたのだ。
一本道の上がり坂を登りきると、いともあっさりと崖上に出る事ができた。この洞窟は上から下まで直線の道で繋がれているようだった。あとは出口に向かって踵を返し、一本道を歩くと、出口の光が前方に見えてきた。遂に脱出できる、そう思ったのも束の間、突然、思いもよらぬ事に出口が徐々に閉じ始めた。二人は激しく動揺し、同時に駆け出した。楕円形の光は、まぶたが閉じるかのように細まっていき、急いで駆けて行ったものの、たどり着いたころには、完全に出口は閉鎖されてしまった。
シンバルは岩壁と化した出口を目の前にして愕然とした。「…ダメだ!!閉じ込められたか!?」
トロンは岩壁に異変を感じ、じっと凝視した。すると、岩壁に巨大な女性の顔面が浮かび上がっているのを目撃した。憤怒に満ちた眼力をもって、こちらを見つめ返しており、目を合わせただけで背筋が凍るようであった。
「この洞窟も自然物!そうやすやすと帰してはくれないという事か!上等だ!!」シンバルは、電光の槌をぶるんと腕ごと振り回すと、高々と振り上げた。
トロンは剣を抜きかけたものの、すぐに収め直した。岩壁が相手では、どうせ役に立たないだろう、と懸命な判断を下し、厳しいだろうがこの場はシンバルに任せる事にした。刃こぼれした剣では、岩はおろか、木を切断する事すらも危うい。このありふれた剣とは長い付き合いではあるが、そろそろ潮時、これからは廻仔の身体能力に見合った新しい得物を帯刀しなくてはならない。
「こんな顔面に足止めなんか食らってられないんだよ!!」シンバルは軽く助走をつけると、岩壁に向かって渾身の力で槌を叩きつけた。
目も眩むような光が一瞬だけ洞内を照らすと、トロンは反射的に目を覆った。様子を細目で垣間見てみると、厚い岩壁を槍状の轟雷が貫き、崩れ落ちた岩壁が霧のように離散していた。それに伴う轟音によって、鼓膜をひどく痛めつけられたが、絶大なる槌の威力を目の当たりにしたおかげか、まるで意にも介さなかった。あの槌の前では厚い岩壁も、ちり紙のように薄く、脆く、頼りないものであった。まさかこれほどまでとは、とトロンは自然のもたらした武具に強い興味を抱いた。自然の仔である廻仔だからこそ扱えるその武具が、喉から手が出るほどに欲しくなってしまった。しかしながら、あの槌には自我がないのだろうか。自然に反するシンバルが扱えるという事は、きっとそうなのだろう。それに槌から放たれる雷にも自我がないように思える。ただの推測でしかないが、あれは自然物ではないのだろう。だとすれば、人工物、つまり人の手によって作られたものに違いなかった。
雷光が収まると、閉じる前よりも大きく、丸々とした出口が眼前に出現し、シンバルは一仕事終えたかのように額の汗を拭った。「岩なんて所詮この程度!その場しのぎの妨害にもならないぜ。さぁ、もうこんな陰気な場所とはオサラバだ!」
二人は急いで出口から出ると、岩壁の破片の散らばる中に停車されたバイクに二人乗りし、急いで森を引き返し、ガゼットへと向かった。運転手であるトロンは、ガゼットの危機に胸をざわつかせながらも、ハンドルを強く握り、風よりも速くバイクを駆けさせた。
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