めぐりしコのエコ

しろくじちゅう

文字の大きさ
19 / 124
ハラッパバッカのコのセカイ

19

しおりを挟む
 トロンとラブ=ラドールは岩山へ向かう事になったが、その道のりは困難であった。そのすべての原因はラブ=ラドールにあり、彼の無知と身勝手さに、トロンは嫌というほど手を焼く事になった。ラブ=ラドールは、バイクの存在を知らず、また、それにまたがるという発想もなかったため、危なっかしくて二人乗りなどさせられず、結局は徒歩で岩山へ向かう事になった。それだけでなく、どうにも彼が乗り気ではなく、思うようについてきてくれなかったため、数百歩ごとにガゼット産の培養肉を与えるようにし、おびき寄せる形でついてこさせた。ラブ=ラドールは培養肉がよほど気に入ったのか、まるでカルガモの子のように追従し、やっとこさ岩山までたどり着く事ができた。ところが、やはり掘ル岩族の姿は見当たらず、ふもとは散漫としていた。族王は、世界中を転々としている故、既に岩山を立ち去ってしまったのだろうか。それでも、簡単には諦めず、根気よく捜索しようとした矢先、ラブ=ラドールが奇声に近い雄叫びを上げた。耳を塞ぎたくなるほどに耳障りな金切り声が、青空に鳴り響いた途端、岩山の頂上から一つの大岩が転がってくると、ラブ=ラドールの前でぴたりと停止した。なめらかな表面を持った灰色の大岩は、ゆっくりと変形を始め、ようやく終わってみれば、そこに立っていたのは掘ル岩族王であった。スコアの言っていた通り、ラブ=ラドールは岩の洞窟に住んでいるがために、掘ル岩族と面識があるのだ。
 「久しき再会だ、仔よ」掘ル岩族王はラブ=ラドールとの再会を喜んでいるようだった。それから、トロンに「今し方ぶりの再会だ、仔よ」
「アンタは始めから俺に原初を渡すつもりはなかったのか」トロンは開口一番、掘ル岩族王に文句を言った。
「ブードゥー、真に自然な自然の仔のみが手にできる。これ、自然の摂理」掘ル岩族王はトロンに罪悪感を抱いているわけでもなく、むしろ王らしく堂々と振舞った。「しかし、これからの行動次第では、お前もまた、真に自然な自然の仔となれる」
「俺は自然になど従わない。今までも、そして、これからも」トロンは恐れる事なく宣言した。「俺がここへ来たのは他でもない、掘ル岩族に手を貸してもらいたいからだ」
「すべてわかっている、仔よ。自然、常に仔を見守ってるからだ。だが、手を貸す事、できぬ。真に自然な自然の仔の意思、我々の意思でもあるからだ」
「同族を殺したガゼットに恨みを抱いているからか」
「研究所、か。我々、同族が人間に利用されようが、気に留めてすらいない。なぜなら、この星が存在する限り、自然は無限であり、我々同族もまた、無限」
「愚問だった」トロンは口をつぐんだ。案の定、力を貸してはもらえないと判断し、族王に背を向け、岩山から立ち去ろうと歩き出した。
「待て、仔よ」掘ル岩族王はトロンを呼び止めた。「この仔、ここまで導いてくれた事、感謝する。おかげで、最後に一目、見る事できた。お前、やはり真に自然な自然の仔となれる」
トロンが向き直ると、掘ル岩族王に頭を撫でられるラブ=ラドールの姿を見た。二人の関係を不審に思い、静かに問いただしてみた。
「その男と仲がいいのか」
「この仔、我々の同族が育てた。つまり、我が実仔、同然」掘ル岩族王はラブ=ラドールの過去を語り出した。「この仔、産まれて間もなく母に先立たれ、行き場もなかった所、我らが拾った。それから、真に自然な自然の仔に育むよう、洞窟に面倒を一任した。洞窟、手塩にかけてこの仔を育て上げ、見事に役目、果たした。この仔、いまだ無知ではあるが、いずれ己が宿命に目覚めるだろう。トロン・F・レインよ、お前、この仔に随分と気に入られている。やはり、お前、この仔の宿命を目覚めさせる者か」
掘ル岩族王は、また勘違いをしている。ラブ=ラドールは培養肉を気に入っているだけなのだ。しかし、以前の事もある。もしかしたら、こちらの経過を知った上で言っているのかもしれない。自然は常に廻仔を見守るが故に、すべてが白日の下に晒されてしまう。だとすれば、餌付けをする事がラブ=ラドールのためになるとでも言うのか。彼は、自我を宿す洞窟、つまりは自然によって育てられた廻仔であるからして、言葉には不自由であるし、やけに野性的な性格をしているのだ。真に自然な自然の仔に仕立て上げ、人間を自然に帰す手伝いをさせようと目論んだのだろうが、その思惑が失敗している事は日の目を見るより明らかである。ラブ=ラドールは己が宿命ではなく、己が本能のままに生きているだけなのだ。薄情な父は、子育てをも誤った。こちらにとっては好都合ではあるが、父はラブ=ラドールを見放してはいない。彼を宿命に目覚めさせるべく、、と族王は息巻いているのだから。
「今度こそ、と言われても、俺はアンタの期待には沿えない」トロンは、そっけなく言い放った。
「お前、自然の仔ならば、同族を目覚めさせるのも、また務め。人間に毒されたこの仔を変えられるの、もうお前しかいない。あのラブ=ラドール・エシレウスの思想を払拭ふっしょくし、己が宿命、教えてやってくれ」掘ル岩族王は、しつこく食い下がってきた。
「やはり、その男はラブ=ラドール・エシレウスではないのか」
「この仔、名前はない。今から二年ほど前、一人の人間が洞窟の前で行き倒れた。その男の名こそ、ラブ=ラドール・エシレウス。その男、この仔に救われた。だが、そのせいで、この仔に要らぬ思想が根付いてしまった。廻仔には到底不要な思想、人間は“愛”と呼ぶその思想を、ラブ=ラドール、教えてしまった。廻仔、生まれながらに自然の仔。初めから愛よりも尊いもの、持っている。しかし、この仔、哀れにも愛に固執している。お前の手で変えてくれ。当然、それなりの礼、する」
「礼などいらん。俺は誰も変える気はない」
「だが、力、欲しいはず」掘ル岩族王は、トロンの帯刀している剣を指差すと、「人間の武器など、自然物に到底及ばない事、お前もわかってるはず。そこで、新たな武器、やろう。ただし、条件、二つある」
トロンは、以前の経験を彷彿とさせる申し出に不信感を強めた。「聞くだけだ」
「一つ目、この仔を己が宿命に目覚めさせる事。二つ目、“歴戦の剣”の所持者と戦い、見事勝利する事」
「歴戦の剣…?」
「決して刃こぼれする事なく、壊れる事もない、鋼鉄の剣。我らより生み出されし自然物であり、古来より使い手の技術を記憶するまったき剣。自然の仔であるお前なら、使いこなせるやもしれん」
トロンは、その武器に興味を抱いた。腰にぶら下がる得物は、今や無残に刃こぼれしており、もはや使い物にならない。それはそうと、族王の話を聞いて真っ先に思い出したのが、シンバルの槌である。雷からしくも手に入れたというその槌もまた、尋常ならざる武器であった。歴戦の剣とは、あの電光の槌と同類なのだろうか。だとすれば、自我のない加工物であるはずだ。そうでなければ、宿命に抗う廻仔に大人しく扱われはしないだろう。しかし、族王は、確かに自然物と言った。
「自然の生み出した武器には自我があるのか」トロンは族王にたずねた。
「すべての自然物、自我が宿る。歴戦の剣も、そして、あの自然の仔の槌も例外ではない。あの仔、槌が進んで力を貸している事に気付いてないだけ」
シンバルが槌を手に入れた経緯は存ぜぬが、雷に好かれている事だけは確かだった。なんにせよ、岩や鉱石を司る掘ル岩族の長がくれると言っているのだ、まさか剣に背かれる事はあるまい。自然物を得物にする以上、いくらかの不安は付きまとうが、やはりあの槌の威力を見せつけられていては、到底素通りなどできない。一度使ってみて不都合があるようなら、どこへでも捨ててしまえばいい。トロンは、歴戦の剣を所持する事に関しては前向きであったが、そのために達成しなければならない条件には、いささか後ろ向きであった。戦いは得手であるが、自然の都合のいいように動くつもりはない。ラブ=ラドールが宿命に目覚め、もしそれに順ずるようならオッド=アインの同志が増えてしまう。いやはや、どうしたものか。
「この仔を目覚めさせるの、相当の時間かかる。なので、二つ目の条件を満たせれば、歴戦の剣、ひとまずお前に預けよう」掘ル岩族王は、トロンにとって都合の良い条件を提示した。
「その剣は、本当に俺にも使えるのか」トロンは、断じて二の舞は踏むまいと疑り深くなっていた。
「使えるかどうか、見定めるための戦いだ。歴戦の剣の所持者、ちょうどこの岩山を訪れている。お前、運がいい。あの同族がいなければ、お前に武器を与える事、できなかった」
トロンは意を決した。これは好機だ、見逃す手はない、と自分の中から疑いを強引に拭い去った。「やるだけやってやる」
「ならば、すぐにあの同族、ここへ呼ぼう」掘ル岩族王は、視線をやや上に向けると、そのまま硬直してしまった。まるで瞑想でもしているかのようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

道化たちの末路

希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。

処理中です...