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ハラッパバッカのコのセカイ
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廻仔らの視界は黒霧によって濁され、さらには重苦しい不快感にも襲われたが、強き意志を宿した彼らはものともせず、暗闇を切り払って前進し、枯れきった森を抜け、禁止区域と市街地の狭間にたどり着くと、遂にスコアとの再会を果たした。原初の悪を両手に乗せ、兄弟たちを嬉々として待ち受けていた。
「戻ってくると思ってたよ。キミたちが、ガゼットを見捨てるはずがないもんね」
「少なくとも、俺は父によって遣わされた。ガゼットなど、もはや眼中にない」オッド=アインは、他の兄弟と同等に扱われる事を嫌った。
「オレもだぜ。もっとも、眼中にないってほどじゃないが」シンバルは、オッド=アインに多少なりとも同調した。「今はガゼットどころか、この星そのものが危ういんだ。自然を滅ぼせば、この星も滅びる。スコア、オマエは世界を破滅させてでも、自然に復讐がしたいのかよ?」
「いいんだ、もう…。自然さえ消えてなくなってくれれば、後はもうどうだっていいんだ」スコアは、やさぐれたように言葉を吐き捨てた。「自然に一矢報いられれば、それでいいんだ。人々の負の感情を煽るためだけに、ドームに穴を開けたし、悪い噂も流したし。すべては自然の滅ぼすためなんだ…。そうさ……それだけでいいんだ…」
「いや、違う!!」トロンは毅然と即答した矢先、帯刀していた歴戦の剣を鞘ごと放り出すと、スコアに向かって一直線に駆け出していった。「アンタは、もう後戻りできなくなってるだけだ!!」
「来ないでよ!!!」スコアは、原初の悪から黒き濃霧を放つと、トロンに向かって放射した。
トロンの足は、吹雪のごとき濃霧に進路を阻まれ、その動きを止めた。あまりの悪意に圧倒され、半歩たりとも前進できない。意志の強さに反して、その身体は貧弱そのものであり、廻仔としての肉体的限界をも感じ始めた。足よ、一歩だけでも前へ。しかし、足は凍てついたかのように不動であり、感情ばかりが空回りしていた。
「ボクの人生は、来たるべき瞬間のためにあったんだ!!自然が一片残らず滅び去る、その瞬間のために!!」スコアは、わずかに大声を震わせ、あたかも涙声のように発した。
トロンの抱いた強き意志は、悪の濃霧にあてられ続け、次第にほころびが生じ始めていた。固く結んだ意志の糸口が一旦緩んでしまうと、続けざまに解れていき、脆くも崩れ去りかけた。このままではスコアの元までたどり着けない。そう弱気になった頃、目の前にたくましい背中が立ち塞がった。シンバルである。その身を挺して、トロンを守る盾となり、濃霧が吹きつける中を強引に突き進むと、スコアへの道を切り開こうと試みた。
「オレを踏み台にしてでも……前へ行け!!」
シンバルは、濃霧からトロンを遮りつつも一歩一歩確かな足取りで前進した。目を細め、歯を食いしばり、ある程度はスコアとの距離を縮めはしたが、じきに限界を迎えると立ち止まってしまった。そんな二人に対し、スコアは、その心に宿りし憎悪の感情を高ぶらせると、濃霧の放射を強め、情け容赦なく浴びせかけた。まもなくして、シンバルはトロンの身代わりとなって吹き飛ばされ、濃霧の中へと姿をくらましていった。トロンもまた、シンバルの後追いをするかのように吹き飛ばされかけたが、思いがけない事に、誰かに背中を支えられ、かろうじて首の皮一枚で繋がった。シフォン、及びラブ=ラドールの二人は一致団結すると、トロンが濃霧に負けぬように全力で背を押し、また、吹き飛ばされぬように必死で背を押さえ込んだ。
「お兄様!!あと少しです!!」
シフォンはトロンに声援をかけ、ラブ=ラドールは口を固く結んで踏ん張った。ところが、一時は盛り返したかに見えた勢いは、あっという間に失速し、三人は一歩たりとも前進叶わなくなった。
スコアは、自らの兄弟に対しても一切手を抜かず、とめどなく噴霧を続けていると、突如として頭上から一本の短槍が飛来し、咄嗟の回避を余儀なくされた。噴霧を中断し、真横に跳躍すると、降りかかってきた短槍、苔生す槍は、鋼鉄の大地に浅く突き立った。すると、回避によって体勢を崩した所を狙い澄ましたかのようにオッド=アインが勇猛と飛びかかってきたものの、すかさず濃霧を発して反撃した。
オッド=アインは真正面から濃霧の吹雪を浴び、吹き飛ばされる間際、トロンに向かって「おぶさられた借りは…返してやったぞ!!」と言い残して散っていった。
トロンは、オッド=アインの作ってくれた隙を見逃すまいと、スコアに向かって単身全力疾走し、やっとこさ目の鼻の先まで迫ったが、そこで惜しくも濃霧に足止めを食らわされた。手を伸ばせば、原初の悪に届きそうなほどの至近距離で濃霧を浴びせかけられ、トロンは筆舌に尽くしがたいほどの悪意を味わい、心を折りかけた。ガゼットの住人がこれまで感じていたであろう自然への恐怖、憎悪、憤怒が三位一体となって襲ってきたばかりか、自然によって愛する人を失った愁傷までもが胸を引き裂こうとした。めくるめく負の感情の災禍に、トロンの精神は悲鳴を上げた。ところが、彼は後退もしなければ、前方から目を背けもしなかった。両目を開き、前だけを向き、前進できずとも、せめてその場に留まってみせた。それは負の感情と向き合うためであり、ガゼットの住人、ひいてはスコアの抱く邪な感情を身をもって体感し、少しでも彼女たちの苦しみを理解しようとする心意気そのものであった。そのおかげで、なぜ彼女が世界を犠牲にしてでも父に復讐を遂げようとするのか、痛いほどに理解できた。もし彼女に父親がいれば、こんなにも苦しい思いをせずに済んだだろうに。もし彼女に人並みの父親がいれば、まったく違った人生を送る事ができただろうに。もし彼女に真っ当な父親がいれば、ありふれた温もりを注いでもらえただろうに。あぁ、薄情な父は、なぜ自らの仔たる廻仔のそばにいてやらなかったのだろう。父となったからには、それなりの義務が生じるものだろうが、人間の範疇を超えた父には、その事が理解できなかったのだろうか。なんと嘆かわしい。しかし、過去は過去と割り切り、未知なる未来へと進んでみるのも一つの手。人生の歩み方など他にいくらでもあるんだ、という事をスコアに思い知らせてやりたいのだ。
スコアの険しい表情は、すぐ目前にありはしたが、濃霧に拒絶され、手を伸ばそうとも触れるには至らない。トロンは、もどかしい感情を抱えつつも、押し寄せる悪に堪えていた、そんな時、何の前触れもなく現れた渦巻く水流が彼の全身を包み込み、その身を濃霧から守ってくれた。水流は、その水量をもって悪の前に立ち塞がり、自然物であるが故に蒸発こそしたが、それでも絶えず水を供給し、頑なにトロンを守る水流の盾であり続けた。水と悪が衝突し、せめぎ合う最中、奇しくもトロンの口に水しぶきが入り、舌が痺れるほどのしょっぱさを感じると、その自らを守ろうとする強き意志の正体を察した。周囲を見回してみると、察しの通り、ウェザーが自分からほど近い所に立っており、その手に掲げられた弾痕一つ残らぬ原初の海から海水を生み出し、水流の盾としてトロンに遣わしていた。
「自然を滅ぼす悪といえども、無尽蔵の蓄えを持つ海の力を容易に消し去る事はできないようですね」ウェザーは黒霧の中でも平然と、それどころか、やけにのうのうとしており、原初の悪を興味深く観察しているようだった。
「なぜここに…!?」トロンは、驚きを伴ってたずねた。
「あなたたちと同じですよ。父の頼みとあらば、傍観しているわけにもいかないでしょうに。それに自然が滅びてしまっては、私の望みも完全に潰えてしまいますから。さ、海と悪が相殺し合っている今がチャンスです。こんな機会は、またとありませんよ…」
トロンはスコアに向き直ると、水流の盾を頼りに、吹きつける濃霧を押しのけながら歩き出した。あと一歩、もうあと一歩だ、と心の中で繰り返し呟きながら歩き出した。意志は、固く結び直され、かつてのような確固たる強さを取り戻し、スコアの元へと肉体を運んでいった。それは彼一人では決して為し得なかっただろうが、今、彼の背中には、五つの強き意志が背負わされており、それらに後押しされる形で事を為し得たのだ。そして、遂にトロンは、スコアに向かって右手を伸ばし、彼女の手にする原初の悪を鷲掴みにした。
「やめてよっ!!」スコアは、原初の悪を掴まれると、自らも両手で原初を掴み、トロンから引き剥がそうと躍起になった。「これが…この原初の悪こそがボクのすべてなんだ!!何を犠牲にしてでも自然を滅ぼす、ただその願いを掴むためだけにボクは生きてきたんだよ!!!」
そこでトロンは死に物狂いで反駁した。「一生を懸ければ、どんな道でも後戻りできるんだ、スコア!!そして、掴み直せ!!その手は、自然よりも美しいものすら掴めるはずだ!!」
スコアの険しかった表情が、わずかに緩み、心なしか涙ぐんでいるように見えた。それだけでなく、彼女の両手から力が抜けていくようにも感じた。その隙をトロンは見逃さず、スコアの手から原初の悪を奪い取り、そのまま右手で握り潰してしまおうと試みた。すると、悪の原初は所持者を拒んでいるのか、その右手を介して耐えがたい激痛を全身に巡らせ、死に至らしめようとした。しかし、トロンは強かった。痛みに負けず、悪意にも負けず、ただ精神力のみで自らを強く保ち、全身全霊の力で原初の悪を握り続けた。両目を全開させ、うめき声を上げ、歯ぎしりを繰り返したが、今の彼には見て呉れなどに気を遣う余裕はなく、右手だけに全力を集中させ、なりふり構わず一心不乱に握りしめた結果、遂に、原初の悪を粉々に砕け散らしたのだった。それは白き意志が黒き悪に勝った瞬間であった。黒霧の塊は、木っ端微塵に割断され、その効力を失うと、ガゼットを覆っていた黒霧が、まるで日の出のごとく刹那の間に晴れていったばかりか、あらゆる自然に彩りが甦り、その生命をことごとく吹き返した。まさに、すべては救済されたのだ。廻仔らの強き意志によって悪の脅威は退けられ、ガゼット、及び世界は安堵を覚えただけでなく、密かに歓喜した事だろう。
「戻ってくると思ってたよ。キミたちが、ガゼットを見捨てるはずがないもんね」
「少なくとも、俺は父によって遣わされた。ガゼットなど、もはや眼中にない」オッド=アインは、他の兄弟と同等に扱われる事を嫌った。
「オレもだぜ。もっとも、眼中にないってほどじゃないが」シンバルは、オッド=アインに多少なりとも同調した。「今はガゼットどころか、この星そのものが危ういんだ。自然を滅ぼせば、この星も滅びる。スコア、オマエは世界を破滅させてでも、自然に復讐がしたいのかよ?」
「いいんだ、もう…。自然さえ消えてなくなってくれれば、後はもうどうだっていいんだ」スコアは、やさぐれたように言葉を吐き捨てた。「自然に一矢報いられれば、それでいいんだ。人々の負の感情を煽るためだけに、ドームに穴を開けたし、悪い噂も流したし。すべては自然の滅ぼすためなんだ…。そうさ……それだけでいいんだ…」
「いや、違う!!」トロンは毅然と即答した矢先、帯刀していた歴戦の剣を鞘ごと放り出すと、スコアに向かって一直線に駆け出していった。「アンタは、もう後戻りできなくなってるだけだ!!」
「来ないでよ!!!」スコアは、原初の悪から黒き濃霧を放つと、トロンに向かって放射した。
トロンの足は、吹雪のごとき濃霧に進路を阻まれ、その動きを止めた。あまりの悪意に圧倒され、半歩たりとも前進できない。意志の強さに反して、その身体は貧弱そのものであり、廻仔としての肉体的限界をも感じ始めた。足よ、一歩だけでも前へ。しかし、足は凍てついたかのように不動であり、感情ばかりが空回りしていた。
「ボクの人生は、来たるべき瞬間のためにあったんだ!!自然が一片残らず滅び去る、その瞬間のために!!」スコアは、わずかに大声を震わせ、あたかも涙声のように発した。
トロンの抱いた強き意志は、悪の濃霧にあてられ続け、次第にほころびが生じ始めていた。固く結んだ意志の糸口が一旦緩んでしまうと、続けざまに解れていき、脆くも崩れ去りかけた。このままではスコアの元までたどり着けない。そう弱気になった頃、目の前にたくましい背中が立ち塞がった。シンバルである。その身を挺して、トロンを守る盾となり、濃霧が吹きつける中を強引に突き進むと、スコアへの道を切り開こうと試みた。
「オレを踏み台にしてでも……前へ行け!!」
シンバルは、濃霧からトロンを遮りつつも一歩一歩確かな足取りで前進した。目を細め、歯を食いしばり、ある程度はスコアとの距離を縮めはしたが、じきに限界を迎えると立ち止まってしまった。そんな二人に対し、スコアは、その心に宿りし憎悪の感情を高ぶらせると、濃霧の放射を強め、情け容赦なく浴びせかけた。まもなくして、シンバルはトロンの身代わりとなって吹き飛ばされ、濃霧の中へと姿をくらましていった。トロンもまた、シンバルの後追いをするかのように吹き飛ばされかけたが、思いがけない事に、誰かに背中を支えられ、かろうじて首の皮一枚で繋がった。シフォン、及びラブ=ラドールの二人は一致団結すると、トロンが濃霧に負けぬように全力で背を押し、また、吹き飛ばされぬように必死で背を押さえ込んだ。
「お兄様!!あと少しです!!」
シフォンはトロンに声援をかけ、ラブ=ラドールは口を固く結んで踏ん張った。ところが、一時は盛り返したかに見えた勢いは、あっという間に失速し、三人は一歩たりとも前進叶わなくなった。
スコアは、自らの兄弟に対しても一切手を抜かず、とめどなく噴霧を続けていると、突如として頭上から一本の短槍が飛来し、咄嗟の回避を余儀なくされた。噴霧を中断し、真横に跳躍すると、降りかかってきた短槍、苔生す槍は、鋼鉄の大地に浅く突き立った。すると、回避によって体勢を崩した所を狙い澄ましたかのようにオッド=アインが勇猛と飛びかかってきたものの、すかさず濃霧を発して反撃した。
オッド=アインは真正面から濃霧の吹雪を浴び、吹き飛ばされる間際、トロンに向かって「おぶさられた借りは…返してやったぞ!!」と言い残して散っていった。
トロンは、オッド=アインの作ってくれた隙を見逃すまいと、スコアに向かって単身全力疾走し、やっとこさ目の鼻の先まで迫ったが、そこで惜しくも濃霧に足止めを食らわされた。手を伸ばせば、原初の悪に届きそうなほどの至近距離で濃霧を浴びせかけられ、トロンは筆舌に尽くしがたいほどの悪意を味わい、心を折りかけた。ガゼットの住人がこれまで感じていたであろう自然への恐怖、憎悪、憤怒が三位一体となって襲ってきたばかりか、自然によって愛する人を失った愁傷までもが胸を引き裂こうとした。めくるめく負の感情の災禍に、トロンの精神は悲鳴を上げた。ところが、彼は後退もしなければ、前方から目を背けもしなかった。両目を開き、前だけを向き、前進できずとも、せめてその場に留まってみせた。それは負の感情と向き合うためであり、ガゼットの住人、ひいてはスコアの抱く邪な感情を身をもって体感し、少しでも彼女たちの苦しみを理解しようとする心意気そのものであった。そのおかげで、なぜ彼女が世界を犠牲にしてでも父に復讐を遂げようとするのか、痛いほどに理解できた。もし彼女に父親がいれば、こんなにも苦しい思いをせずに済んだだろうに。もし彼女に人並みの父親がいれば、まったく違った人生を送る事ができただろうに。もし彼女に真っ当な父親がいれば、ありふれた温もりを注いでもらえただろうに。あぁ、薄情な父は、なぜ自らの仔たる廻仔のそばにいてやらなかったのだろう。父となったからには、それなりの義務が生じるものだろうが、人間の範疇を超えた父には、その事が理解できなかったのだろうか。なんと嘆かわしい。しかし、過去は過去と割り切り、未知なる未来へと進んでみるのも一つの手。人生の歩み方など他にいくらでもあるんだ、という事をスコアに思い知らせてやりたいのだ。
スコアの険しい表情は、すぐ目前にありはしたが、濃霧に拒絶され、手を伸ばそうとも触れるには至らない。トロンは、もどかしい感情を抱えつつも、押し寄せる悪に堪えていた、そんな時、何の前触れもなく現れた渦巻く水流が彼の全身を包み込み、その身を濃霧から守ってくれた。水流は、その水量をもって悪の前に立ち塞がり、自然物であるが故に蒸発こそしたが、それでも絶えず水を供給し、頑なにトロンを守る水流の盾であり続けた。水と悪が衝突し、せめぎ合う最中、奇しくもトロンの口に水しぶきが入り、舌が痺れるほどのしょっぱさを感じると、その自らを守ろうとする強き意志の正体を察した。周囲を見回してみると、察しの通り、ウェザーが自分からほど近い所に立っており、その手に掲げられた弾痕一つ残らぬ原初の海から海水を生み出し、水流の盾としてトロンに遣わしていた。
「自然を滅ぼす悪といえども、無尽蔵の蓄えを持つ海の力を容易に消し去る事はできないようですね」ウェザーは黒霧の中でも平然と、それどころか、やけにのうのうとしており、原初の悪を興味深く観察しているようだった。
「なぜここに…!?」トロンは、驚きを伴ってたずねた。
「あなたたちと同じですよ。父の頼みとあらば、傍観しているわけにもいかないでしょうに。それに自然が滅びてしまっては、私の望みも完全に潰えてしまいますから。さ、海と悪が相殺し合っている今がチャンスです。こんな機会は、またとありませんよ…」
トロンはスコアに向き直ると、水流の盾を頼りに、吹きつける濃霧を押しのけながら歩き出した。あと一歩、もうあと一歩だ、と心の中で繰り返し呟きながら歩き出した。意志は、固く結び直され、かつてのような確固たる強さを取り戻し、スコアの元へと肉体を運んでいった。それは彼一人では決して為し得なかっただろうが、今、彼の背中には、五つの強き意志が背負わされており、それらに後押しされる形で事を為し得たのだ。そして、遂にトロンは、スコアに向かって右手を伸ばし、彼女の手にする原初の悪を鷲掴みにした。
「やめてよっ!!」スコアは、原初の悪を掴まれると、自らも両手で原初を掴み、トロンから引き剥がそうと躍起になった。「これが…この原初の悪こそがボクのすべてなんだ!!何を犠牲にしてでも自然を滅ぼす、ただその願いを掴むためだけにボクは生きてきたんだよ!!!」
そこでトロンは死に物狂いで反駁した。「一生を懸ければ、どんな道でも後戻りできるんだ、スコア!!そして、掴み直せ!!その手は、自然よりも美しいものすら掴めるはずだ!!」
スコアの険しかった表情が、わずかに緩み、心なしか涙ぐんでいるように見えた。それだけでなく、彼女の両手から力が抜けていくようにも感じた。その隙をトロンは見逃さず、スコアの手から原初の悪を奪い取り、そのまま右手で握り潰してしまおうと試みた。すると、悪の原初は所持者を拒んでいるのか、その右手を介して耐えがたい激痛を全身に巡らせ、死に至らしめようとした。しかし、トロンは強かった。痛みに負けず、悪意にも負けず、ただ精神力のみで自らを強く保ち、全身全霊の力で原初の悪を握り続けた。両目を全開させ、うめき声を上げ、歯ぎしりを繰り返したが、今の彼には見て呉れなどに気を遣う余裕はなく、右手だけに全力を集中させ、なりふり構わず一心不乱に握りしめた結果、遂に、原初の悪を粉々に砕け散らしたのだった。それは白き意志が黒き悪に勝った瞬間であった。黒霧の塊は、木っ端微塵に割断され、その効力を失うと、ガゼットを覆っていた黒霧が、まるで日の出のごとく刹那の間に晴れていったばかりか、あらゆる自然に彩りが甦り、その生命をことごとく吹き返した。まさに、すべては救済されたのだ。廻仔らの強き意志によって悪の脅威は退けられ、ガゼット、及び世界は安堵を覚えただけでなく、密かに歓喜した事だろう。
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