めぐりしコのエコ

しろくじちゅう

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流せ、綴れ、情愛

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 双子は、我に返り、気を取り直すと、牡鹿を連れて門へと急いだ。門前にて、アスレチックに牡鹿を引き渡すと、約束通り、記念堂の領域へ足を踏み入れる事を許可された。再び門をくぐり、敷き砂の上を進んでいると、いよいよ小屋の立ち並ぶ集落が目前に迫ったが、今度はメルヘンに進路を阻まれる事もなく、記念堂の領域へと歩みを進める事ができた。記念堂は、色とりどりの煉瓦れんがを積み重ねて作られたドーム状の建物であり、その内部には聖なる箱が安置されている。その箱を狙って、双子がこれから窃盗をしようとしている事など住人は知る由もない。人の群れを突っ切り、高台を登っていき、何事もなく記念堂の目の前までやってはきたものの、二人の番兵が入口を守り、注意深く周囲に目を配っていたため、このままでは侵入する事もままならない。そこで、またしてもシフォンが手柄を立てた。指笛を短く鳴らすと、高台上に巨大猪を出没させたのである。猪は番兵の注意を逸らすべく、その眼前を走って通り過ぎていくと、二人の番兵に追いかけ回されつつも何処かへ逃走していった。妹と猪に助けられてばかりで何とも情けない限りだ、とトロンは己の無力を恥じた。そんな兄の心情を察したシフォンは、むしろ役に立てた事を喜んでいるのだろうか、黙してトロンに屈託のない微笑みを向けた。なんとも殊勝な妹である。彼女のためにも、せめて多少なりとも兄らしい所を見せつけてやらねば。トロンは、そう決意すると、シフォンと共に記念堂の内部へ赴いた。
 記念堂に入ると、正面には壁が立ち塞がり、右方を見てみると、緩やかな曲線を描いた回廊が続いていた。他に道もなかったため、双子は迷う事なく回廊を進んだ。人気はなく、かつ静まり返った空間を出来る限り息を潜めて進んでいる内に、回廊が螺旋状にとぐろを巻いている事に気付いた。中心に向かって渦を描いた一本道の先には、きっと聖なる箱が安置されているのだろうが、その箱の傍らでブブゼラが待ち受けている姿も容易に想像できてしまった。いまだ原初の雷を克服できぬまま、再びあの末弟と邂逅かいこうしてもいいのだろうか。トロンは不安を抱きつつも、シフォンと肩を並べて進んでいると、予想だにもしなかった突然の再会に目を剥いた。回廊の端に跪くその青年は、紛れもなくオッド=アインであった。なぜ彼がここにいるのだ。傷つきながらも、その顔を屈辱に歪め、うなだれたように落胆していたが、何があったのだろうか。そんな思考を重ねるだけのトロンとは違い、シフォンはオッド=アインを見るや否や、すぐに駆け寄り、心配の声をかけた。
「だ…大丈夫ですか、オッド=アイン…!?なぜあなたがここに…?」
オッド=アインは、シフォンの肩を借りる事を拒絶し、自力で揺らぎ立つと、「……助けなどいらん!」と双子に向かって虚勢を張り、片足を引きずりながらも長き回廊を単身進もうとしたが、すぐに膝から崩れ落ちてしまった。
「意地っ張りにならないでください…。ほら…」シフォンは、優しくもオッド=アインに手を貸すと、壁を背にして座らせた。「無茶はしないでください。そんな怪我をしたままでは、何もできませんよ」
オッド=アインの表情からは、不本意の三文字が読み取れた。口を閉ざしたまま力なく壁にもたれかかる彼に、トロンはこうたずねた。
「まさかアンタも聖なる箱を盗みに来たのか?」
その問いをオッド=アインは鼻で笑った。「盗むのではない…。破壊するのだ。あの箱には、自然を封印する力が備わっている。そんな異常な力をこの星に存在させておく事は、それこそ自然への冒涜だ。てっきりシュラプルと共に消えたかと思っていたが、いまだ存在していたとは…。今すぐ、この手で消し去らねば…!」
「ブブゼラに阻止された挙句、そんな傷を負わされたままでは勝ち目などない」
「そんな事はどうでもいい!今大事なのは、あの男が原初を持っている理由だけだ!以前は持っていなかったはずなのに、ましてや己が宿命にも従わぬ者が、なぜああまで原初を操れる!?」
「オッド=アイン…。やはり“鳴ル雷族ナルライぞく”は、自然の枠組みから外れているのでは…」シフォンは、小声で意見を述べた。
「そんなはずはない!!」オッド=アインは、シフォンを叱りつけるようにして反駁はんばくした。「自然をうとんじる者に、自然が微笑むはずはない!!あの男の手に原初があるのも、何かの間違いに決まっている!!」オッド=アインは、勢いそのままに立ち上がろうと試みたが、もはやそれすらままならないほどに手負いであった。「……この忌々しい体め!!」
「足手まといは御免だ」トロンは、オッド=アインを置き去りにして回廊を進み始めた。
そんなトロンを見たシフォンは、オッド=アインに「ここで休んでいてください」と告げたのち、兄の後を追っていった。
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