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流せ、綴れ、情愛
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その時、広場の入り口から短槍が飛来すると、宙に浮かぶ原初の雷に命中し、叩き落した。まもなく、オッド=アインが双子の前に躍り出ると、苔生す槍を拾い上げ、有無を言わせずブブゼラに飛びかかった。それを迎え撃つべく、ブブゼラは、地面を転がる原初の雷を足で蹴飛ばした。原初はオッド=アインの手前で放電し、双子もろとも蜘蛛の子を散らすように退かせると、意思を持っているかのように所有者の元へと戻っていった。
ブブゼラは、原初を片手で掴み取ると、「こうも懲りないとはな…!」とオッド=アインの登場に辟易した。「何度やっても結果は同じだ!それとも、格の差すら理解できないほどに愚鈍なのか!?」
「真に愚鈍なのは、どちらだ、兄弟よ」オッド=アインは、厳かに言い返した。「原初は、お前のような愚者にはふさわしくない。直ちに父へ返せ」
「自然が父とは笑わせてくれるぜ。だったら、父は俺に力をくれたに違いない。ある日突然、空から原初が降って来たんだし、そう思うのが普通だろ?それをお前は、また奇妙な力で横取りする気なんだろうが、俺は兄とは違う!!」ブブゼラは、原初を掲げると、光り輝かせ、まもなく激しい落雷を呼び寄せた。「自然に消えた皆の仇だ!!三人まとめて痺れてしまえ!!」
オッド=アインは、苔生す槍を地面に突き刺すと、柱のように太い蔓を広場の至る所から生やし、雷から身を守る盾とした。双子も蔓の影に隠れ、なんとか雷をやり過ごそうと試みた。その光景に、ますます憎悪を高めたブブゼラは、さらに熾烈な雷撃を繰り出し、新緑の盾を焦がしたが、次から次へと新たな蔓が生え続ける様に憤懣する始末であった。
ところが、状況は思わぬ方向へと急転する事となる。台座の上に安置された聖なる箱が、何の前触れもなく、ひとりでに開いたのだ。微々たる隙間ではあったが、鈍重な音と共に蓋が本のようにして開き、その瞬間を誰もが目を丸くして目撃していた。なぜ開いたのか。誰もが原因を思案し始めたのも束の間、箱の隙間から思いがけず、七色の人形が漏れ出してきた。それは全身を色鮮やかな七色の花々で隙間なく彩り、成人男性と大差ない背丈をしており、それでいて節々の関節が不確かなのか、四肢の至る所を盛んに伸び縮みさせる異形の自然であった。その異常な風体は、見る者を不快にさせはしたが、同時に、神秘的な舞踊を彷彿とさせる動作は見る者を魅了した。四人は、熱い視線を七色の花人形に浴びせかけ、無我夢中になって観察を続けた。すっかり雷鳴も止んだ頃、四人は自らの体に起こった異常に気が付いた。やけに目が疲れた。とてもではないが、これ以上は見ていられない。面々は疲れ目を感じる事によって我に返っていった。
「これは……自然なのか…?いや、こんな滑稽なものを自然物と認めていいのだろうか…?」オッド=アインは、ぼそりと呟いた。
トロンも同意見だった。とてもではないが、自然物には見えない。花々を纏っている事から、恐らくは植物を司る蒔ク種族の一員なのだろうが、ガゼットで見た個体とは、あまりにも違い過ぎる。掘ル岩族の素浪人と同様、遥か東方の出身かもしれないが、それを考慮しても大幅に一線を画している。あれは、この世界とは違う世界からやってきた未知の生命体なのかもしれない。
「あの時と同じだ…!!」ブブゼラは、全身をわなわなと震わせた。「かつてのシュラプルが消えた時もそうだった…!!わけのわからない自然が箱から飛び出して、誰もかれもが消えていったんだ…!!」
皆が注意深く用心し始めてからまもなく、七色の花人形は、ぴたりと舞踊をやめた。それから、気を付けの姿勢をとると、突如、爆発したかのように四散した。撒き散らされた無数の花弁は、広場を渦巻く竜巻となり、すべてを見境なく襲った。花弁は刃物のように鋭く、触れたものをたちどころに切り刻んだ。聖なる箱は堅牢なのか、傷一つ付きはしなかったが、廻仔らは到底無傷では済まなかった。
「お兄様、早く逃げましょう!!」シフォンは、トロンのそばまで駆けてくると、退避を促した。
出来る事なら聖なる箱を持ち帰りたかったが、もはや一秒たりともその場に留まっていられない。トロンは、両腕で花弁から身を守りつつ、シフォンと共に出口へ走った。
オッド=アインもまた、逃げ出した。流石の彼でも刃の嵐を持ちこたえる事はできなかったようだ。
ところが、ブブゼラだけは違った。彼は退避するどころか、かつての惨事を思い出し、逆に怒りを爆発させ、原初の雷を光り輝かせたのだ。「あの時以来だ…!!こんなにも五感が苛立ったのはっ!!!」
花弁と落雷の嵐を潜り抜け、双子とオッド=アインは、広場から脱出した。長い回廊を全速力で疾走し、ようやく災禍に別れを告げた。
双子は広場の外に出たが、いまだ速力を衰えさせず、村中めがけて一気に下っていき、高台のふもとでようやく足を止め、荒れた息を整えた。
「なんだったんでしょうか、あの自然は…」シフォンは、トロンにたずねた。
そこでトロンは、オッド=アインがいつの間にか消えている事に気付いたが、すぐにどうでもよくなった。それよりも、あの奇妙な自然の事ばかりが思考を支配した。ふと、自分の肩の上に赤い花弁が一枚だけ乗っかっているのに気付いた。手に取って見てみると、意外な事実が判明した。その花弁は、目の細かい布でできていた。つまり、あの花々は、すべて布製であり、そもそも自然物ではなかったのだ。思わずトロンは首を傾げた。
「どうしましたか?」シフォンは、トロンの手にする花弁を摘まみ取ると、まじまじと観察したのち、息を呑んだ。あまりにも奇妙な事実に、思わず首を傾げた。
ブブゼラは、原初を片手で掴み取ると、「こうも懲りないとはな…!」とオッド=アインの登場に辟易した。「何度やっても結果は同じだ!それとも、格の差すら理解できないほどに愚鈍なのか!?」
「真に愚鈍なのは、どちらだ、兄弟よ」オッド=アインは、厳かに言い返した。「原初は、お前のような愚者にはふさわしくない。直ちに父へ返せ」
「自然が父とは笑わせてくれるぜ。だったら、父は俺に力をくれたに違いない。ある日突然、空から原初が降って来たんだし、そう思うのが普通だろ?それをお前は、また奇妙な力で横取りする気なんだろうが、俺は兄とは違う!!」ブブゼラは、原初を掲げると、光り輝かせ、まもなく激しい落雷を呼び寄せた。「自然に消えた皆の仇だ!!三人まとめて痺れてしまえ!!」
オッド=アインは、苔生す槍を地面に突き刺すと、柱のように太い蔓を広場の至る所から生やし、雷から身を守る盾とした。双子も蔓の影に隠れ、なんとか雷をやり過ごそうと試みた。その光景に、ますます憎悪を高めたブブゼラは、さらに熾烈な雷撃を繰り出し、新緑の盾を焦がしたが、次から次へと新たな蔓が生え続ける様に憤懣する始末であった。
ところが、状況は思わぬ方向へと急転する事となる。台座の上に安置された聖なる箱が、何の前触れもなく、ひとりでに開いたのだ。微々たる隙間ではあったが、鈍重な音と共に蓋が本のようにして開き、その瞬間を誰もが目を丸くして目撃していた。なぜ開いたのか。誰もが原因を思案し始めたのも束の間、箱の隙間から思いがけず、七色の人形が漏れ出してきた。それは全身を色鮮やかな七色の花々で隙間なく彩り、成人男性と大差ない背丈をしており、それでいて節々の関節が不確かなのか、四肢の至る所を盛んに伸び縮みさせる異形の自然であった。その異常な風体は、見る者を不快にさせはしたが、同時に、神秘的な舞踊を彷彿とさせる動作は見る者を魅了した。四人は、熱い視線を七色の花人形に浴びせかけ、無我夢中になって観察を続けた。すっかり雷鳴も止んだ頃、四人は自らの体に起こった異常に気が付いた。やけに目が疲れた。とてもではないが、これ以上は見ていられない。面々は疲れ目を感じる事によって我に返っていった。
「これは……自然なのか…?いや、こんな滑稽なものを自然物と認めていいのだろうか…?」オッド=アインは、ぼそりと呟いた。
トロンも同意見だった。とてもではないが、自然物には見えない。花々を纏っている事から、恐らくは植物を司る蒔ク種族の一員なのだろうが、ガゼットで見た個体とは、あまりにも違い過ぎる。掘ル岩族の素浪人と同様、遥か東方の出身かもしれないが、それを考慮しても大幅に一線を画している。あれは、この世界とは違う世界からやってきた未知の生命体なのかもしれない。
「あの時と同じだ…!!」ブブゼラは、全身をわなわなと震わせた。「かつてのシュラプルが消えた時もそうだった…!!わけのわからない自然が箱から飛び出して、誰もかれもが消えていったんだ…!!」
皆が注意深く用心し始めてからまもなく、七色の花人形は、ぴたりと舞踊をやめた。それから、気を付けの姿勢をとると、突如、爆発したかのように四散した。撒き散らされた無数の花弁は、広場を渦巻く竜巻となり、すべてを見境なく襲った。花弁は刃物のように鋭く、触れたものをたちどころに切り刻んだ。聖なる箱は堅牢なのか、傷一つ付きはしなかったが、廻仔らは到底無傷では済まなかった。
「お兄様、早く逃げましょう!!」シフォンは、トロンのそばまで駆けてくると、退避を促した。
出来る事なら聖なる箱を持ち帰りたかったが、もはや一秒たりともその場に留まっていられない。トロンは、両腕で花弁から身を守りつつ、シフォンと共に出口へ走った。
オッド=アインもまた、逃げ出した。流石の彼でも刃の嵐を持ちこたえる事はできなかったようだ。
ところが、ブブゼラだけは違った。彼は退避するどころか、かつての惨事を思い出し、逆に怒りを爆発させ、原初の雷を光り輝かせたのだ。「あの時以来だ…!!こんなにも五感が苛立ったのはっ!!!」
花弁と落雷の嵐を潜り抜け、双子とオッド=アインは、広場から脱出した。長い回廊を全速力で疾走し、ようやく災禍に別れを告げた。
双子は広場の外に出たが、いまだ速力を衰えさせず、村中めがけて一気に下っていき、高台のふもとでようやく足を止め、荒れた息を整えた。
「なんだったんでしょうか、あの自然は…」シフォンは、トロンにたずねた。
そこでトロンは、オッド=アインがいつの間にか消えている事に気付いたが、すぐにどうでもよくなった。それよりも、あの奇妙な自然の事ばかりが思考を支配した。ふと、自分の肩の上に赤い花弁が一枚だけ乗っかっているのに気付いた。手に取って見てみると、意外な事実が判明した。その花弁は、目の細かい布でできていた。つまり、あの花々は、すべて布製であり、そもそも自然物ではなかったのだ。思わずトロンは首を傾げた。
「どうしましたか?」シフォンは、トロンの手にする花弁を摘まみ取ると、まじまじと観察したのち、息を呑んだ。あまりにも奇妙な事実に、思わず首を傾げた。
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