めぐりしコのエコ

しろくじちゅう

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流せ、綴れ、情愛

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 それから、二人はアンデスとメルヘンのいる壁へと戻り、記念堂での経緯を話した。すると、箱を盗み出す事ができなかったにもかかわらず、アンデスは微笑し、こう言った。
「それなりのお手柄ですよ、二人共。聖なる箱を持ち帰れなかったのは残念ですが、おかげで面白い事が聞けました。やはりあの箱は危険です」
「だから、何を言っているのか詳しく話せと言ってるだろ!」メルヘンは、アンデスに散々話をはぐらかされてきたのだろう、相当に苛立っているようだった。
アンデスは、メルヘンを無視すると、双子に「念のため聞いておきます。箱は、ひとりでに空いた。その話に間違いはありませんね?」とたずねた。
「そうでしたよね、お兄様」シフォンは、トロンにそう確認すると、首を縦に振られた。
それを見たアンデスは、粛々と語り始めた。
「いいですか。聖なる箱は、自然を封印するためでなく、保存するために存在していると思われます。理由まではわかりませんが、自然を一時的に保存するために、あの箱は作られたのでしょう。しかし、自然をたちどころに封じる力ばかりに目が行き、シュラプルの人間は、長年に渡って用途を誤っていたのです。あの箱は、自然を無限に封じ込められるわけではなく、ある程度の容量があるのです。その容量を超えた時、箱はひとりでに開き、これまで封じてきた自然を無条件に解放してしまうのです。それがシュラプルにだけ大降伏が起きていた理由であり、原因です。だから、あの箱は危険なんです。今すぐにでも放棄しなければ…」
「そんな馬鹿な話があるか!?」メルヘンは、アンデスの推測を拒絶した。「何を根拠にそんな事を!?あの箱は、シュラプルの繁栄に必要不可欠な大黒柱だぞ!?それを捨てるだなんて…!大体、箱から飛び出しているのなら、その瞬間を誰かが目撃していてもおかしくはないだろう!?」
「箱を開けると、目視できないほどの速度を持った閃光が天に向かって飛んでいき、中身の自然が拡散される仕様なのです。それは以前、箱を開けた時に確認しています。閃光は見えませんでしたが、天井を貫く奇妙な穴が開いていたので間違いはありません。恐らくは長期間封じられていた反動のせいです。シャンパンを開けた時にコルク栓が凄い勢いで飛んでいくでしょう。あれと似たようなものです」
アンデスの話は、荒唐無稽にも聞こえたが、不思議と疑う事はなかった。以前、森で遭遇した謎の女性もまた、聖なる箱を危険視していたからかもしれない。
「でも、確かに箱は開きましたけど、その中身は解放されませんでしたよ。やっぱり、少ししか開かなかったからですか?」シフォンは、アンデスに質問を投げかけた。
「恐らく、それは予兆です。箱の容量に限界が迫っているのでしょう。ブブゼラは、あの箱を依然として頼っていますから、このまま放置しておくと、近い内に大降伏が起きます」
「大降伏になると、奇妙な自然が降って湧いてくるそうだな。不死の獅子や、花の人形のような不自然な自然が」トロンは、さらに質問を重ねた。
「恐らく、聖なる箱には、自然を封じるための特殊な仕掛けが施されており、その影響を受けた自然が何らかの変異をしたのでしょう。その結果として、本来であるならば存在し得ないはずの歪な自然、それも不死の自然体が生まれてしまったのです。ああいった存在は“怪自然”と呼ばれているそうです。これまでシュラプルは、大降伏によって湧き出た怪自然を再び箱に封印する事で対処してきましたが、そもそも箱がなければ大降伏が起きる事もなかったでしょう」
「だが、アンタはシュラプルが消えた日、聖なる箱を開けた」
「聖なる箱の仕組みがわかれば、かつてのシュラプルは救われると思っていたのですが、どうやら当てが外れたようです。自然が飛び出した後の箱の中身は、ものの見事に空っぽでした。封印の原理を把握できれば、それを利用して自然を撃退できる、そう考えた自分が間違いでした。箱だけでは対処しきれないほどの無尽蔵の自然に追い詰められ、切羽詰まっていたから冷静さを欠いた、と言えば言い訳になりますが。しかしながら、あの状況では、自分が箱を開けるか否かにかかわらず、どのみち大降伏は引き起こされていたでしょう。あれほどの自然を封印しようと試みれば、結局の所、箱は開いてしまいますから」
「だから、箱を開けたのか…!?それに、箱の正体をあの時からわかっていたなら、なぜ皆に打ち明けなかった!?」メルヘンは、嘆くように問いただした。
「確証がない事を事実だと信じ込ませるのは罪な事です。ならば、全責任は自分一人で負います…」アンデスは、落胆したように答えた。それから、意を決したようにこう続けた。「とにかく、一刻も早く聖なる箱を放棄しなければなりません。そのためには兄弟仲を取り戻し、ブブゼラを説得すればいいと考えていましたが、そんな猶予もないようです。しかし、まだ方法は残っています」
「この期に及んで、何をしようっていうんだ…!?」メルヘンは、アンデスの言葉から強い意志を感じると、困惑した。
「わたし…シュラプルの皆さんを守るためなら、なんでもします!もちろん、あなたがた三兄弟も仲良くさせます!」シフォンは、罪滅ぼしがしたいと意気込んだ。
アンデスは、トロンから取り上げていた小瓶を取り出した。「やはり彼の力を借りるしかないようです。誉れ高き神速のエシレウス、その力を」
「でも、そんな事をすれば、あなたの弟たちが争いを…!」シフォンは、眉を曇らせた。
「信じましょう。彼は、あなたが思っているよりも、ずっと愛深き男ですから」アンデスは、小瓶に目を据え、静かではあるが、強い語気で言った。
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