めぐりしコのエコ

しろくじちゅう

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流せ、綴れ、情愛

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 四人は、アンデスの居座る壁まで逃げのびてくると、各々がため息を吐いた。とんだ災難であった。そんな心労も露知らず、アンデスは、彼らに向かってこう言った。
「割と良い方法を既に思いついているのですが、皆さんに手伝ってもらわなければ、とても成功は見込めません」
そんなアンデスに、アスレチックは呆れかえってしまった。「相も変わらぬ横着者おうちゃくものだなぁ!シュラプルは、今にも混沌の戦火に包まれようとしているというのに!」
「でも、シュラプルをよくするために、いつも頑張って色々考えてくれるんですよ」シフォンは、アンデスを庇い立てた。
「そう思うのなら、是非とも話を聞いて行ってください」アンデスは、恩着せがましい物言いをしたのち、饒舌じょうぜつに語り出した。
「いいですか。争いを止め、聖なる箱を放棄し、シュラプルに平和をもたらすには、我々三兄弟、特に強力な力を持つポワソンとブブゼラを無力化する必要があり、そのためには、彼らの持つ武器、原初の雷と三又の鉾を強引にでも取り上げなければなりません。決して容易ではありませんが、真に自然な自然の仔の協力を得られれば、この考えも現実味を帯びてきます。どうやら彼は、あらゆる自然物を味方につける事ができるようですので、その力をもって原初と鉾を取り上げてもらえばいいのです。そこで、あなたたちには、オッド=アインに協力の得るため、彼の居所を突き止めてほしいのです。それができれば、後は……この嘆きのエラクレスが話をつけます」
「珍しいじゃないか。お前が自分から動くなんて」メルヘンは、ようやく壁から離れる決心をしたアンデスに感心した。
「自然を味方につける、とはなんだ」トロンは、アンデスにたずねた。
すると、シフォンが出しゃばった。「彼は自然の寵愛ちょうあいを受けていますから、あらゆる自然物を自らの元へと引き寄せる事ができるのです。ただ、ある程度は距離が近くないと引き寄せられませんし、感情が不安定な時も同様です。この力は、あくまでも自然、すなわち父に対する敬意から生まれるものであって、極端に感情が高ぶってしまうと消失してしまうようなんです」
「そういう事らしいです」アンデスは、シフォンに微々たる会釈をした。「そういう事なので、頑張って探してきてください」
「馬鹿言うな!」メルヘンは、アンデスに異議を申した。「あの男に原初を渡したりなんかしたら、すぐにシュラプルを自然に帰そうとするに決まってる!絶対、反対だからな、私は!」
「敵に塩を送ってやるのは、いただけないがなぁ。いやはや、なんとも…」アスレチックは優柔不断になっていた。
「大丈夫です。これがありますから」アンデスは、T字型の鼻当てを有した月桂樹の冠を懐から取り出した。「メルヘンは既に知っているでしょうが、これは“忍び兜”といいます。かぶった人間を透明にする事ができる自然物なのですが、残念ながら弟たちには仕組みがばれているので通じません。しかし、オッド=アインからなら即座に武器を取り返せるはずです」
それは兜と呼ぶには、あまりにも無防備であった。かぶった所で頭部の大部分は露出し、せいぜい鼻くらいしか守れないだろう。しかし、かぶると、透明になれるらしい。念のため、その入手先をトロンは聞いてみる事にした。
「それをどこで手に入れた」
「ずっと昔にポワソンから貰いました。彼曰く、お土産、だそうです。ブブゼラは、格好悪いとの理由で欲しがりませんでしたが、あの時、その真の力に気付いていれば、きっと今頃は彼の手にあったでしょう」そこでアンデスの表情に微笑が浮かぶと、来し方を懐かしみ始めた。「しかしながら、あの時のブブゼラは、いつまでも拗ねていましたね。お土産がなかった事が余程不満だったのでしょう。そこで、ポワソンと自分は、彼の好きだったミサンガを作り、なんとか機嫌を取ろうとしたのですが、まったくと言っていいほど受け取ろうとはしませんでした。そこでメルヘンに理由を問いただしてもらった所、“ミサンガは、各々の願いを込めた糸を持ち寄って作るものだと思うから、兄弟三人で作らないと意味がない”との返答が返ってきました。結局、三人でミサンガを作ると、ブブゼラは機嫌を直してくれましたが」
かつてのエラクレス三兄弟の姿が、垣間見えたような気がした。胸を焦がしながらもトロンは、アンデスへの質問を重ねた。「ポワソンは、母を失くした事を後悔しているようだった。アンタもそうなのか?」
「人生に後悔はつきものです。自分の場合は、とりわけ顕著だったおかげか、今では妙なほどに慣れてしまいました」アンデスは、ぶつくさと懺悔の念を述べた。「母は、きっと天国で子の親不孝を嘆いている事でしょう。我々の現状を見れば、なおさらです。もしかしたら母は自然を恨んでいるのかもしれません。何の予兆もなく仔を産まされ、望まずして母にされたのですから」
「会って聞いてみればいい。池水の力があれば、それができる」
「それは恐ろしい事です。母に会えば、何と言われるか…。想像しただけで、無性に怖くなってしまうのです。できれば、二度と母とは対面したくありません。もうこれ以上の痛みは、ごめんです」
トロンは、口を閉ざし、傷心に土足で踏み込んでしまった事を悔いた。
「とにかく。オッド=アインを探してきてください。すべてはそれからです」アンデスは、追い払うようにして皆を送り出した。それから、メルヘンに手招きをすると、「ただ、メルヘンだけは残ってください。個人的な話がありますから」
彼の考え自体は、特段悪くないようにも思えた。しかし、どうせオッド=アインを見つけた所で協力させるなど不可能だろう。アンデスに、あの男を説き伏せられるとは到底思えない。トロンは、ひどく消極的であった。
「お兄様。わたし、きっとうまくいくと思うんです」シフォンは、どうにかトロンに重い腰を上げさせようと説得を開始した。「とりあえずは、三兄弟から力を取り上げるのが先決だと思うんです。それさえできれば、きっと皆、考えを改めてくれるはずです。その後、仮にオッド=アインがシュラプルを自然に帰そうとしたら、わたし、命を懸けてでも彼を止めてみせます。だから、お願いです。ここはアンデスさんの考えに賭けてみませんか?」
この妹は行動力にあふれていた。とりあえず、やってみる。それが行動理念なのだろう。そんな妹に時として自制を促すのが兄としての務めなのではないだろうか、と思いもした。しかし、手前勝手な妹に好き勝手やらせてやろう、と一度決め込んだからには、その言葉通り、今だけは好きにさせてやらなければならない。トロンは、こくりと頷いた。
「ありがとうございます、お兄様!わたし、オッド=アインを探すのは得意なんです!」シフォンは、兄の承諾を得ると、健気に張り切った。
アスレチックは、仲睦まじい双子を眺めると、うんうんと頷いた。
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