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流せ、綴れ、情愛
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「既に勝敗は決した。強者は一人残らず敗れ去り、これにて大再起は閉幕したのだ」エシレウスは、戦いの余韻に浸りつつも、息一つ乱さずに宣言した。
「いえ、我々は前座に過ぎません!!」メルヘンは、泥土にへたり込みながらも威勢よく発した。「まだシュラプルには、神の如きエラクレスが残されています!!シュラプルの代表たる彼らを倒さない限りは、大再起が幕を閉じる事はありません!!」
「その通りですぞ、将軍!!あの三兄弟は、満を持して登場し、必ずや貴公の不敗を打ち崩す槍となってみせましょうぞ!!」アスレチックもまた、三兄弟の再起を信じ、期待を寄せていた。
「敵に背を向ける臆病者は断じて強者ではなく、従って大再起に参加する資格を有しない」エシレウスは、冷淡に言い放った。
「私に一日だけ猶予をください!その間に、三兄弟を結束させ、必ずやこの場に!」メルヘンは、すがるようにして頼み込んだ。
「…その意気に免じ、丸一日だけ待つ事にしよう。しかし、定刻を過ぎれば、大再起と共にシュラプルまでもが最期に至る事を忘れるな」
そのエシレウスの言葉からは、浮かれたような響きが宿っているように聞こえてならなかった。少なくともトロンには、そう聞こえたのだ。すると、エシレウスに関する一つの疑念が、ふいに頭をよぎった。エシレウスが真に自然な自然の仔を自称し、シュラプルを自然に帰そうとしているのは、住人に一致団結を促し、とりわけエラクレス三兄弟の仲を修復させるためなのではないか。そのために自らが必要悪となり、忌むべき敵を演じる事で、否が応にも三兄弟を結束させようと目論んでいるのではないか。その考えは、所詮は落想に過ぎないのだが、まもなくトロンに奇妙な自信を抱かせるほどに確固たるものとなっていた。きっとエシレウスは、三兄弟と戦う事を望んでいる。そのために、わざわざ大再起を催し、その規則を曲げ、あまつさえ猶予まで与えたのだ。だとすれば、やたらとポワソンに肩入れしていたのは、決定的なまでに力を集約させれば、彼は自ずから和解の道を切り開いてくれると期待していたからに違いない。兄弟間のパワーバランスを崩壊させれば、もはや力を競い合う必要はなくなり、さらには統治者となったポワソンによって話し合いの機会が設けられる。そう期待していたのだが、無情にもポワソンは強大な力に飲み込まれ、暴君と化してしまった。結果はなんであれ、エシレウスは最初から三兄弟の不仲を案じていたのだ。シュラプルを自然に帰すなどという文言は、ただの脅し文句でしかなく、その真意は死してなおシュラプルの行く末を案じようとする強き里心だったのだ。在りしシュラプルの繁栄を蘇らせるためには結束が必要不可欠だと皆に教えるべく、エシレウスは生き残った者たちを鼓舞したいのだ。
その事をこの場で打ち明けるべきだろうか。トロンは揺れに揺れ動いたが、いっそ打ち明けてしまおうと言葉が喉まで出かかった時、ふと泥土に向かって毅然とした歩み寄ってくるオッド=アインの姿を目撃し、思わず言葉を呑んでしまった。やがてエシレウスやメルヘンといった面々も、その存在に気付くと、黙して出方をうかがった。オッド=アインは、苔生す槍を携え、泥土の手前までやってくると、足元に槍を突き刺した。すると、泥土から数多の植物が芽生え、たちまち新緑の草原へと変えてしまった。これにはメルヘンとアスレチックも憤慨した。
「このような植物で大再起の場を穢すとは、いささか礼儀を知らんと見える!!」アスレチックは、すくっと立ち上がると、オッド=アインに詰め寄っていった。
「何をしに来たんだ!?ここはお前のような者が来るべき場所じゃない!」メルヘンは、珍しく血相を変えて声を荒げた。
「お前たちに用はない、兄弟よ…!」オッド=アインは、尋常でないほどに殺気立っていた。「俺は、偽りの廻仔を葬り去るためにここへ来た…!あのまがい物の存在だけは許しておけないのだ!!」
「また恥をかきたいのなら、いくらでも相手になってやろう。愛をもって」エシレウスは、王者の風格を漂わせつつも、快く受けて立った。
その言葉を受け、オッド=アインは、草原と化した競技場に足を踏み入れた。
「お願いですからもうやめてください、オッド=アイン!!」シフォンは、ただならぬ殺気に不吉を予感し、オッド=アインを制止させようとしたものの、そっけなく無視されてしまった。
「致し方ないが、ここは将軍に任せよう…」アスレチックは渋々ではあるが、不服の態度を貫くメルヘンの手を引き、その場から遠ざかっていった。
オッド=アインは、不遜なエシレウスに激怒していた。真に自然な自然の仔を詐称する事は、父たる自然に対する不敬であり、万死に値すると彼は考えていた。そればかりか、以前の戦いで味わわされた屈辱も忘れはしなかった。掌底を受けて吹っ飛んだ挙句、自然物を奪われたあの醜い汚点は、彼の誇りを著しく傷つけ、廻仔としての面目を潰していた。その際に植え付けられた悔恨は、暗く、根深く、それでいて灼熱に燃え上がる業火のようであった。そんな悔恨から発せられる殺気をひしひしと身に受けているにもかかわらず、エシレウスは微動だにせず、しかと剣を構えるだけであった。
オッド=アインは、槍を足元に突き立てておくと、さりげなく深呼吸をした。それから一転して激怒を露わにすると、「お前は、この俺を本気で怒らせた!!冥途に送り返してやるぞ!!ラブ=ラドール・エシレウス!!」
その時、奇妙な事ではあるが、オッド=アインの怒りに呼応するかのように天候がその顔色を変え始めた。黒雲が快晴を覆い尽くすと、強風が吹き荒れ、雷鳴が轟き、大粒の雹が降りしきった。真に自然な自然の仔たるオッド=アインは、あらゆる自然を引き寄せ、自らの力に変えようと天変地異を引き起こしたのである。
荒天の中、オッド=アインは、槍を手に取ると、猛然とエシレウスに飛びかかった。両者が斬り合いを演じている最中、自然はオッド=アインに肩入れし、露骨なまでの逆風をエシレウスに吹かせた。雹に背面を打ち付けられ、風に視界を狭められ、苦闘を強いられたエシレウスであったが、あくまで戦いのみに徹し、集中を乱されないよう心身ともに敵だけを見据えた。その姿勢が功を奏したのか、戦況は終始エシレウスの優勢であった。オッド=アインの気迫を見事にいなし、槍の猛攻を受け流しつつも力のこもった一撃で反撃してみせた。
「いえ、我々は前座に過ぎません!!」メルヘンは、泥土にへたり込みながらも威勢よく発した。「まだシュラプルには、神の如きエラクレスが残されています!!シュラプルの代表たる彼らを倒さない限りは、大再起が幕を閉じる事はありません!!」
「その通りですぞ、将軍!!あの三兄弟は、満を持して登場し、必ずや貴公の不敗を打ち崩す槍となってみせましょうぞ!!」アスレチックもまた、三兄弟の再起を信じ、期待を寄せていた。
「敵に背を向ける臆病者は断じて強者ではなく、従って大再起に参加する資格を有しない」エシレウスは、冷淡に言い放った。
「私に一日だけ猶予をください!その間に、三兄弟を結束させ、必ずやこの場に!」メルヘンは、すがるようにして頼み込んだ。
「…その意気に免じ、丸一日だけ待つ事にしよう。しかし、定刻を過ぎれば、大再起と共にシュラプルまでもが最期に至る事を忘れるな」
そのエシレウスの言葉からは、浮かれたような響きが宿っているように聞こえてならなかった。少なくともトロンには、そう聞こえたのだ。すると、エシレウスに関する一つの疑念が、ふいに頭をよぎった。エシレウスが真に自然な自然の仔を自称し、シュラプルを自然に帰そうとしているのは、住人に一致団結を促し、とりわけエラクレス三兄弟の仲を修復させるためなのではないか。そのために自らが必要悪となり、忌むべき敵を演じる事で、否が応にも三兄弟を結束させようと目論んでいるのではないか。その考えは、所詮は落想に過ぎないのだが、まもなくトロンに奇妙な自信を抱かせるほどに確固たるものとなっていた。きっとエシレウスは、三兄弟と戦う事を望んでいる。そのために、わざわざ大再起を催し、その規則を曲げ、あまつさえ猶予まで与えたのだ。だとすれば、やたらとポワソンに肩入れしていたのは、決定的なまでに力を集約させれば、彼は自ずから和解の道を切り開いてくれると期待していたからに違いない。兄弟間のパワーバランスを崩壊させれば、もはや力を競い合う必要はなくなり、さらには統治者となったポワソンによって話し合いの機会が設けられる。そう期待していたのだが、無情にもポワソンは強大な力に飲み込まれ、暴君と化してしまった。結果はなんであれ、エシレウスは最初から三兄弟の不仲を案じていたのだ。シュラプルを自然に帰すなどという文言は、ただの脅し文句でしかなく、その真意は死してなおシュラプルの行く末を案じようとする強き里心だったのだ。在りしシュラプルの繁栄を蘇らせるためには結束が必要不可欠だと皆に教えるべく、エシレウスは生き残った者たちを鼓舞したいのだ。
その事をこの場で打ち明けるべきだろうか。トロンは揺れに揺れ動いたが、いっそ打ち明けてしまおうと言葉が喉まで出かかった時、ふと泥土に向かって毅然とした歩み寄ってくるオッド=アインの姿を目撃し、思わず言葉を呑んでしまった。やがてエシレウスやメルヘンといった面々も、その存在に気付くと、黙して出方をうかがった。オッド=アインは、苔生す槍を携え、泥土の手前までやってくると、足元に槍を突き刺した。すると、泥土から数多の植物が芽生え、たちまち新緑の草原へと変えてしまった。これにはメルヘンとアスレチックも憤慨した。
「このような植物で大再起の場を穢すとは、いささか礼儀を知らんと見える!!」アスレチックは、すくっと立ち上がると、オッド=アインに詰め寄っていった。
「何をしに来たんだ!?ここはお前のような者が来るべき場所じゃない!」メルヘンは、珍しく血相を変えて声を荒げた。
「お前たちに用はない、兄弟よ…!」オッド=アインは、尋常でないほどに殺気立っていた。「俺は、偽りの廻仔を葬り去るためにここへ来た…!あのまがい物の存在だけは許しておけないのだ!!」
「また恥をかきたいのなら、いくらでも相手になってやろう。愛をもって」エシレウスは、王者の風格を漂わせつつも、快く受けて立った。
その言葉を受け、オッド=アインは、草原と化した競技場に足を踏み入れた。
「お願いですからもうやめてください、オッド=アイン!!」シフォンは、ただならぬ殺気に不吉を予感し、オッド=アインを制止させようとしたものの、そっけなく無視されてしまった。
「致し方ないが、ここは将軍に任せよう…」アスレチックは渋々ではあるが、不服の態度を貫くメルヘンの手を引き、その場から遠ざかっていった。
オッド=アインは、不遜なエシレウスに激怒していた。真に自然な自然の仔を詐称する事は、父たる自然に対する不敬であり、万死に値すると彼は考えていた。そればかりか、以前の戦いで味わわされた屈辱も忘れはしなかった。掌底を受けて吹っ飛んだ挙句、自然物を奪われたあの醜い汚点は、彼の誇りを著しく傷つけ、廻仔としての面目を潰していた。その際に植え付けられた悔恨は、暗く、根深く、それでいて灼熱に燃え上がる業火のようであった。そんな悔恨から発せられる殺気をひしひしと身に受けているにもかかわらず、エシレウスは微動だにせず、しかと剣を構えるだけであった。
オッド=アインは、槍を足元に突き立てておくと、さりげなく深呼吸をした。それから一転して激怒を露わにすると、「お前は、この俺を本気で怒らせた!!冥途に送り返してやるぞ!!ラブ=ラドール・エシレウス!!」
その時、奇妙な事ではあるが、オッド=アインの怒りに呼応するかのように天候がその顔色を変え始めた。黒雲が快晴を覆い尽くすと、強風が吹き荒れ、雷鳴が轟き、大粒の雹が降りしきった。真に自然な自然の仔たるオッド=アインは、あらゆる自然を引き寄せ、自らの力に変えようと天変地異を引き起こしたのである。
荒天の中、オッド=アインは、槍を手に取ると、猛然とエシレウスに飛びかかった。両者が斬り合いを演じている最中、自然はオッド=アインに肩入れし、露骨なまでの逆風をエシレウスに吹かせた。雹に背面を打ち付けられ、風に視界を狭められ、苦闘を強いられたエシレウスであったが、あくまで戦いのみに徹し、集中を乱されないよう心身ともに敵だけを見据えた。その姿勢が功を奏したのか、戦況は終始エシレウスの優勢であった。オッド=アインの気迫を見事にいなし、槍の猛攻を受け流しつつも力のこもった一撃で反撃してみせた。
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