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流せ、綴れ、情愛
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ところが、思いもよらぬ出来事が二人の戦いを中断させた。天から降りしきる小雨のような光線を見たのである。その虹色の光は、黒雲を突き抜け、村中だけでなく、その周辺にも彗星の如く降り注いだ。
「いかん!!」アスレチックは青ざめた。「大降伏がやって来たぞ!!よりにもよってこんな時に来てしまうとは!!」
「住人のほとんどは、大再起で戦い疲れているのに…!」メルヘンは、皆と共に高台から村中を見下ろした。
実に色とりどりな大量の怪自然が光線の落下地点から村中に溢れ出していた。不自然な光沢を放つ桃色の宝石から作られた土偶、七色のレーザーライトを針山のように放つ白煙の塊、ジャックランタンをかたどったおどろおどろしい南瓜などの特異な怪自然の数々が、無差別に建物を破壊し、住人を見かけるや否や、獰猛なまでに襲いかかった。その中でも、稲光に目と口を光らせる南瓜だけは、明らかに見覚えがあり、それはエシレウスが呼び寄せた鳴ル雷族の面影を残していた。アンデス曰く、大降伏とは、聖なる箱がひとりでに開く事によって引き起こされる。ならば、大降伏によって発生する不死の怪自然は、元々は箱に封じられていた自然なのだろう。
「自然を侮った報いだ!!父の怒りを思い知れ、人間たちよ!!」オッド=アインは、大降伏の有様に歓喜し、悦に入った。それからエシレウスに「見るがいい!これが真に自然な自然の仔の真なる力だ!この俺こそが、あれらの新たな自然を呼び寄せたのだ!」
エシレウスは、黙して村中を見下ろしていた。その表情は、やはり重苦しく、廻仔の宿命に従っていない何よりの証拠であった。
「かつてのシュラプルが消えた時と同じです…!風変りな自然が、あんなにもたくさん…!」シフォンは、疲労体に鞭打って自然と戦う住人の姿を不安そうに眺めていた。
「確か、聖なる箱のおかげで被害は最小限に食い止められる、と言っていたな」トロンは、アスレチックにたずねた。
「もちろんだ。あれらを一刻も早く箱に封じねば…」
アスレチックの祈りが通じたのか、怪自然は記念堂の方角へと吸引されていった。聖なる箱を用いたブブゼラの仕業である。怪自然は、まるで排水溝に流れゆく水の如く、箱の中へ吸い込まれていくと、瞬く間に災いは鎮められた。しかし、箱から飛び出したものを、再び箱にしまい込んで問題はないのだろうか。
「これで一安心だ!!はっは!!」アスレチックは、大降伏が鎮められた事を素直に喜んだ。
「やはりあの箱を破壊しなければ…!」オッド=アインは、シュラプルが救われた事を不愉快に思った。それから記念堂に体を向けると、大股で歩き出した。
ブブゼラの元へ行かせるわけにはいかない。すかさずシフォンは呼び止めた。「また兄弟を傷つけに行くのですか?お願いですから、むやみやたらと自分の家族を傷つけるのは、もうやめにしてください」
オッド=アインは立ち止まると、シフォンに恨めしい眼差しを向けた。「その言葉、人間たちにも突きつけてやるがいい。この集落の愚者たちもまた、我らの家族を、父を平然と傷つけているではないか」
シフォンは、少々黙り込んだのち、思い切ったように口を開いた。「……わたしたち廻仔が、人間たちに関わる必要なんてないと思うんです。人間には人間の、廻仔には廻仔の生き方があると思うんです。そして、その生き方が矛盾し、頑なに交わる事がないのなら、最初から関わりなんて断ち切ってしまえば…」
「この愚か者が!!」オッド=アインは、シフォンを青筋を立てて怒鳴りつけると、その言葉を遮った。「人間の生き方そのものが自然に害を為すが故に、父は人間を在るべき姿に戻そうとしているのだぞ!!そんな事すらも忘れたか、シフォン!!」
シフォンは、オッド=アインの迫力に圧倒されると、萎縮し、口をつぐんだ。そんな妹を見て見ぬ振りで済ませられるはずもなく、トロンはオッド=アインに強い語勢でこう言った。
「これ以上、人間の平穏を脅かすのはやめろ。そうでなければ、俺はアンタの前に何度でも立ち塞がる」
「己が宿命を捨てろと言うのか?それこそ馬鹿らしい」オッド=アインは、ふっと冷笑した。「だが、今日の所は引いてやろう。ただし、どんな手を使おうともシュラプルは必ず自然に帰してみせる。この俺の手でな」
オッド=アインは、シュラプルから立ち去っていった。厄介者の退場に皆は胸を撫で下ろしたが、まもなく、エシレウスが忽然と消えている事に気付いた。さっきまで共に村中を見下ろしていたはずであるのに、いつの間にかその姿が見えなくなっていたのだ。
「まさか……聖なる箱を破壊しに行ったんじゃ…!?丸一日は待ってくれるよう頼んだはずなのに…!!」メルヘンは、自らの交わした約束が反故にされているかもしれないと慌てふためき始めた。「だとしたら、ブブゼラが危ない!!早く記念堂へ行かなければ!!」
「待て、メルヘンよ!!」アスレチックは、はち切れんばかりの大声でメルヘンを叱咤した。「将軍との約束は、鉄鎖よりも硬く、ちぎれない!!たとえ立場を翻されようとも、不信を抱く余地などないはずだ!!そうだ、将軍は必ず約束を守ってくれるとも!!」
トロンは、この際なので思い切って告白してみた。「エシレウスが箱を壊しに行く事はない。シュラプルを自然に帰す気などこれっぽっちも持ち合わせていないからだ。あの男が望むのは、シュラプルの一致団結であり、そのために自らが敵となり、住人の結束を促しているんだ」と、その後も細々とした推測を洗いざらい打ち明けた。
それを聞いたアスレチックは、目を剥いて驚嘆した。「おぉ、そう言われればそうかもしれん!いや、きっとそうだ!そう思う事にしようぞ!!」
「お兄様はエシレウスさんを信じているのですね」シフォンは、実に嬉しそうに微笑んだ。「だったら、わたしもエシレウスさんを信じてみます。正直に言うと、人間を信じるのは少し億劫なのですが…」
「だが、将軍は、自らの手元に自然物を呼び寄せた。あれは、真に自然な自然の仔にしか使えない力だとアンデスは言っていた」メルヘンは、トロンの言葉をいまだ信じていないようだった。
「ラブ=ラドール、いや、タフの体に憑依しているからだ。タフは、真に自然な自然の仔へと成長を遂げるよう洞窟に育てられた男だ。ならば、あの力を行使するだけの素質を秘めていてもおかしくはない。あとは、心の持ちようだけでどうにでもなるのだろう」
それを聞いたメルヘンは、意を決したように皆にこう言った。「それが本当かどうか、将軍に直接確かめるしかないな。当てはないが、捜索を手伝ってはくれないか?」
「もちろんです!」シフォンは、二つ返事で頷いた。「お兄様とアスレチックさんと四人で探せば、きっとすぐに見つかるはずです!」
「いや、アスレチックは病床へ帰す」メルヘンは、きっぱりと言い切った。それから、アスレチックに面と向かって強く念を押すように「もう怪我人に無理はさせられない、いいな?」と迫った。
「別に構わんぞ!だが、退屈を持て余したら、散歩がてらに手伝ってやろう!」アスレチックは、笑顔で快諾した。
「いかん!!」アスレチックは青ざめた。「大降伏がやって来たぞ!!よりにもよってこんな時に来てしまうとは!!」
「住人のほとんどは、大再起で戦い疲れているのに…!」メルヘンは、皆と共に高台から村中を見下ろした。
実に色とりどりな大量の怪自然が光線の落下地点から村中に溢れ出していた。不自然な光沢を放つ桃色の宝石から作られた土偶、七色のレーザーライトを針山のように放つ白煙の塊、ジャックランタンをかたどったおどろおどろしい南瓜などの特異な怪自然の数々が、無差別に建物を破壊し、住人を見かけるや否や、獰猛なまでに襲いかかった。その中でも、稲光に目と口を光らせる南瓜だけは、明らかに見覚えがあり、それはエシレウスが呼び寄せた鳴ル雷族の面影を残していた。アンデス曰く、大降伏とは、聖なる箱がひとりでに開く事によって引き起こされる。ならば、大降伏によって発生する不死の怪自然は、元々は箱に封じられていた自然なのだろう。
「自然を侮った報いだ!!父の怒りを思い知れ、人間たちよ!!」オッド=アインは、大降伏の有様に歓喜し、悦に入った。それからエシレウスに「見るがいい!これが真に自然な自然の仔の真なる力だ!この俺こそが、あれらの新たな自然を呼び寄せたのだ!」
エシレウスは、黙して村中を見下ろしていた。その表情は、やはり重苦しく、廻仔の宿命に従っていない何よりの証拠であった。
「かつてのシュラプルが消えた時と同じです…!風変りな自然が、あんなにもたくさん…!」シフォンは、疲労体に鞭打って自然と戦う住人の姿を不安そうに眺めていた。
「確か、聖なる箱のおかげで被害は最小限に食い止められる、と言っていたな」トロンは、アスレチックにたずねた。
「もちろんだ。あれらを一刻も早く箱に封じねば…」
アスレチックの祈りが通じたのか、怪自然は記念堂の方角へと吸引されていった。聖なる箱を用いたブブゼラの仕業である。怪自然は、まるで排水溝に流れゆく水の如く、箱の中へ吸い込まれていくと、瞬く間に災いは鎮められた。しかし、箱から飛び出したものを、再び箱にしまい込んで問題はないのだろうか。
「これで一安心だ!!はっは!!」アスレチックは、大降伏が鎮められた事を素直に喜んだ。
「やはりあの箱を破壊しなければ…!」オッド=アインは、シュラプルが救われた事を不愉快に思った。それから記念堂に体を向けると、大股で歩き出した。
ブブゼラの元へ行かせるわけにはいかない。すかさずシフォンは呼び止めた。「また兄弟を傷つけに行くのですか?お願いですから、むやみやたらと自分の家族を傷つけるのは、もうやめにしてください」
オッド=アインは立ち止まると、シフォンに恨めしい眼差しを向けた。「その言葉、人間たちにも突きつけてやるがいい。この集落の愚者たちもまた、我らの家族を、父を平然と傷つけているではないか」
シフォンは、少々黙り込んだのち、思い切ったように口を開いた。「……わたしたち廻仔が、人間たちに関わる必要なんてないと思うんです。人間には人間の、廻仔には廻仔の生き方があると思うんです。そして、その生き方が矛盾し、頑なに交わる事がないのなら、最初から関わりなんて断ち切ってしまえば…」
「この愚か者が!!」オッド=アインは、シフォンを青筋を立てて怒鳴りつけると、その言葉を遮った。「人間の生き方そのものが自然に害を為すが故に、父は人間を在るべき姿に戻そうとしているのだぞ!!そんな事すらも忘れたか、シフォン!!」
シフォンは、オッド=アインの迫力に圧倒されると、萎縮し、口をつぐんだ。そんな妹を見て見ぬ振りで済ませられるはずもなく、トロンはオッド=アインに強い語勢でこう言った。
「これ以上、人間の平穏を脅かすのはやめろ。そうでなければ、俺はアンタの前に何度でも立ち塞がる」
「己が宿命を捨てろと言うのか?それこそ馬鹿らしい」オッド=アインは、ふっと冷笑した。「だが、今日の所は引いてやろう。ただし、どんな手を使おうともシュラプルは必ず自然に帰してみせる。この俺の手でな」
オッド=アインは、シュラプルから立ち去っていった。厄介者の退場に皆は胸を撫で下ろしたが、まもなく、エシレウスが忽然と消えている事に気付いた。さっきまで共に村中を見下ろしていたはずであるのに、いつの間にかその姿が見えなくなっていたのだ。
「まさか……聖なる箱を破壊しに行ったんじゃ…!?丸一日は待ってくれるよう頼んだはずなのに…!!」メルヘンは、自らの交わした約束が反故にされているかもしれないと慌てふためき始めた。「だとしたら、ブブゼラが危ない!!早く記念堂へ行かなければ!!」
「待て、メルヘンよ!!」アスレチックは、はち切れんばかりの大声でメルヘンを叱咤した。「将軍との約束は、鉄鎖よりも硬く、ちぎれない!!たとえ立場を翻されようとも、不信を抱く余地などないはずだ!!そうだ、将軍は必ず約束を守ってくれるとも!!」
トロンは、この際なので思い切って告白してみた。「エシレウスが箱を壊しに行く事はない。シュラプルを自然に帰す気などこれっぽっちも持ち合わせていないからだ。あの男が望むのは、シュラプルの一致団結であり、そのために自らが敵となり、住人の結束を促しているんだ」と、その後も細々とした推測を洗いざらい打ち明けた。
それを聞いたアスレチックは、目を剥いて驚嘆した。「おぉ、そう言われればそうかもしれん!いや、きっとそうだ!そう思う事にしようぞ!!」
「お兄様はエシレウスさんを信じているのですね」シフォンは、実に嬉しそうに微笑んだ。「だったら、わたしもエシレウスさんを信じてみます。正直に言うと、人間を信じるのは少し億劫なのですが…」
「だが、将軍は、自らの手元に自然物を呼び寄せた。あれは、真に自然な自然の仔にしか使えない力だとアンデスは言っていた」メルヘンは、トロンの言葉をいまだ信じていないようだった。
「ラブ=ラドール、いや、タフの体に憑依しているからだ。タフは、真に自然な自然の仔へと成長を遂げるよう洞窟に育てられた男だ。ならば、あの力を行使するだけの素質を秘めていてもおかしくはない。あとは、心の持ちようだけでどうにでもなるのだろう」
それを聞いたメルヘンは、意を決したように皆にこう言った。「それが本当かどうか、将軍に直接確かめるしかないな。当てはないが、捜索を手伝ってはくれないか?」
「もちろんです!」シフォンは、二つ返事で頷いた。「お兄様とアスレチックさんと四人で探せば、きっとすぐに見つかるはずです!」
「いや、アスレチックは病床へ帰す」メルヘンは、きっぱりと言い切った。それから、アスレチックに面と向かって強く念を押すように「もう怪我人に無理はさせられない、いいな?」と迫った。
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