めぐりしコのエコ

しろくじちゅう

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流せ、綴れ、情愛

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 それからすぐに双子とメルヘンは、シュラプル中を探し回った。エシレウス、そしてポワソンをも見つけ出そうと躍起になって歩き回った。ある時は一塊になって動き、またある時は散り散りになって捜索を続けたものの、影も形も見つけ出せなかった。次第に日没し、闇が訪れると、ますます捜索は困難となった。それでも諦める事はなく、ランタンを片手に探し回っていた折、シュラプル周辺の森の中にて、ぽつんと立ち尽くすエシレウスを発見した。照明の類も持たず、人知れず木陰の隙間から夜空の星を仰いでいるようだったが、その表情は、心なしか緩んでいるように見えた。星を観察するのが好きなのだろうか。なんにせよ、三人は、喜びと疲労感を堪えつつも、エシレウスへと近寄っていった。
「将軍、散々探しましたよ。なぜこんな夜中に森へ?」メルヘンは、物静かに言い寄った。
エシレウスは、おもむろに顔を三人に向けた。「夕涼み、と言いたいが、とうに夕刻は過ぎてしまったな」
「アンタの本心はわかっている。三兄弟を仲直りさせたいのだろう」トロンは、誰に遠慮する事もなく率直に述べた。
「もう退け。下手に首を突っ込んだ結果、痛い目を見る事も少なくない。シュラプルは、シュラプルの人間によってのみ築き上げられるべきなのだ」エシレウスは、特に動じる事もなく、淡々としていた。
「そうはいきません!!わたしには、シュラプル再建をお手伝いする責任があります!!」シフォンは、心の内を伝えようと一生懸命になった。「わたしやオッド=アインのせいで皆さんは故郷を失ってしまいました…!だから、せめてもの罪滅ぼしとして、やれるだけの事はやりたいんです!たとえ微力でも、皆の力添えになっているのなら本望なんです!邪魔者でも構いません!皆さんに許されなくたって構いません!これからも恨まれ続けるとしても、わたしは誠心誠意の気持ちをもってシュラプルに尽くしたいんです!」
「なんとも押しつけがましく、鬱陶しい…。だが、そんな気持ちをあの時のタフも感じていたのだろうな…」エシレウスは、感傷に浸ったように言った。「かつてのシュラプルが存亡の危機に瀕した際、このエシレウスも身を挺して戦ったものの、結局は撤退を余儀なくされ、意識朦朧と敗走するばかりであったが、そんな最中、奇しくもタフに救われたのだ。彼は、言葉を話せはしなかったが、自分でも不思議なほど、すぐに打ち解ける事ができたと感じた。しかし、それは勝手な思い込みだったのかもしれない」
「だが、タフはアンタの名前を名乗っていた。それはアンタを慕っていたからなんじゃないのか?」トロンは、エシレウスにたずねた。
「今となっては、そうだと信じ込む事しかできない」エシレウスは、自らの手のひらをじっと見つめた。「タフが、このエシレウスの名を継ぎ、かつてのシュラプルを守ろうと立ち上がった事は知っている。しかし、その真意は、最後まで分からずじまいだった。このエシレウスの言動に感化されただけなのか、それとも心からシュラプルを守ろうとしていたのか。あるいは、死地へと舞い戻った私の後を追ってきただけなのか。いや、そんな事は些細だな…。彼がシュラプルを守ろうとした事には変わりない」
「タフはアンタによって愛という感情を知った、そう育ての親が言っていた。あの男の中には、確かにアンタから受け継いだ愛の心があるのだろうが、それを言い表すだけの知恵を持っていないだけだ」
「だからこそ、このエシレウスの知恵をくれてやろう。それが現世に舞い戻ったもう一つの理由なのだ。タフは、無知ではあるが、確固たる優しさを持っている。このエシレウスが与えたものではない、その生まれ持った生粋の優しさに……今は亡き息子の面影を見たのだ」
「将軍…!!きっと彼は、まだ…!」メルヘンは驚動したが、すぐに言葉を濁した。
「いいのだ。息子は、自ずから父を選び取ったに過ぎないのだからな」エシレウスは、メルヘンを抑え留めた。それから、双子に「このエシレウス、折り入って頼みがある。将軍ではなく、タフの……そう、父として」と頼み込んだ。
「わたしたちに出来る事なら、なんでも…!」シフォンは、どんな願いでも聞き届ける気でいた。
「もし、もしタフが今後、人の道を踏み外すような事があれば、なんとしても正してほしい。己が宿命などというものに決して屈しないよう、タフを正しく導いてほしいのだ。迷惑千万な頼みだと思うだろうが、このエシレウスの本願を叶えてはもらえないだろうか。せめて……せめて二度目は心残りを苦にする事もなく、清々しいままで逝きたいのだ」
「やはりタフの将来が気がかりなのですね」シフォンは、にっこり微笑んだ。「でも、心配しないでください。彼もまた、わたしの家族ですから。どんなに道を踏み外そうが、わたしたちが必ず正してみせます」
「復活したとはいえ、再び往生する定めなのですね、将軍…」メルヘンは、ふとエシレウスの勇士を追懐ついかいし、物悲しい表情を浮かべた。「ところで……もう池水は残り少ないのですか?」
「もう二日とて留まってはおれんだろう」エシレウスは、自らの死期を悟ってはいたが、どこか清々しい表情であった。
突如としてメルヘンがエシレウスに頭を下げたかと思うと、「それでも、どうか………どうか池水を数滴だけでも分けてもらえませんか!!」と無理を承知で頼み込んだ。
ところが、その意を察しているかのようにエシレウスは、小瓶を取り出すと、メルヘンに丸々差し出した。「朝までだ。さすれば、明日はシュラプルの新たな歴史の出発点となるだろう」
メルヘンは、小瓶を受け取ると、中身を確認するために軽く何回か振ってみた。かすかに液体が揺れるような音を耳にし、もはや一口分すら残ってはいない事を悟った。「朝までには、なんとしても」
「何をするつもりなのですか!?」シフォンは、メルヘンの考えを見越せずにいた。
「もう帰ろう。すべては明日だ」メルヘンは、双子の背を押し、三人揃ってその場から強引に去っていった。双子に戸惑われながらもエシレウスから遠ざかると、トロンに向けて「良い考えがあるんだ…!」と耳打ちをし始めた。
トロンは、メルヘンの考えを密かに打ち明けられたが、素直に聞き入れるしか方法はないように思えた。
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