めぐりしコのエコ

しろくじちゅう

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信条に架ける風

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 時間を要したが、三人は、ようやく雲上へとたどり着いた。雪原のような雲に押し入ると、救世主の根城たる宮中へ侵入しようと試みたが、その入り口にて待ち受けるユライと鉢合わせてしまった。やはり天仔との遭遇を避けて通る事は叶わない。あらかじめ覚悟はできてきたため、動揺はしなかったものの、それでも怯む心が一切ないと言えば嘘になる。
「帰れ。ここにお前の求めるものは何一つない」ユライは、突き放すような態度でシフォンに言った。
「ここには、お兄様がいるはずです。ただちに返してください」シフォンは、矢面に立ってたずねた。
「お前のよく知る兄は、とっくに死んだ。それでも、この宮に足を踏み入れるつもりか?」
「蒔ク種族王からすべて聞きました。ミハルが救世主を装い、お兄様を陥れた事は既に明白です。そして、その企みにあなたも加担していた。そうですよね?」
「俺については、どう思おうと構わない。だが、ミハルをそしるのはやめておけ。あの男の性格は、よく理解しているはずだ」
「それでも、わたしは屈しません。卑劣な手段で人を苦しめているのなら、なおさらです」
「ミハルに勝るだけの権威を、お前は有していない。万が一にも勝ち目はないのだ」
「ミハルには勝てずとも、あなたとなら互角に渡り合えます。わたしは、あなたと同じ第五位の権威を持っているのですから」そこでスコアとウェザーに向かって「この場は、わたしが引き受けます。ですから、お兄様をどうかよろしくおねがいします」
「え、もしかして一人でユライと戦う気なの!?」スコアは、つい耳を疑った。
「本人がやる気になっていますし、別にいいんじゃないでしょうか」ウェザーは、シフォンの行方に無頓着であった。それから「では、お言葉に甘えて。失礼」と言い残すと、宮の入口に向かって歩を進めた。
「う~ん…。ここは酷だけど、頑張ってもらうしかないね。結局の所、救世主に会えないと意味ないし」スコアは、若干迷った素振りを見せたのち、ウェザーの後を追った。
 宮に土足で踏み込もうとする二人を、ユライが黙って見過ごすはずもなく、「大王の都より下れ」とささやくと、その権威によって外敵を排除しようと試みた。しかし、シフォンも負けじと「二人に災難はなく、むしろ幸運が舞い降りますように」と囁くと、対等の権威を相殺させ、何事もなく二人を宮に送り届けた。彼女は、権威によってユライに拮抗きっこうしてみせたのだ。
 シフォンに背中を押された二人は、宮中を突き進み、遂に玉座の間に到達した。救世主の忍ぶ純白の帳は目と鼻の先に迫ったが、玉座に悠然と腰かけるミハルだけでなく、その配下に成り下がったトロンとも対峙してしまった。薄笑いを浮かべるミハルに反し、トロンは依然として目を瞑っていたにもかかわらず、敵の気配だけは察しているのだろう、すかさず歴戦の剣を引き抜き、身構えた。あくまでもミハルの配下としての役目を果たすつもりでいるのだ。そんな姿勢を哀れに思ったスコアは、こう呼びかけた。
「もういい加減に目を覚まして!!ミハルの言いなりになってるキミの姿なんか、誰も見たくないんだよ!!」
「よくここまで昇ってこれたな。いや、蒔ク種族王の背信のおかげか」ミハルは、高みの見物に徹するつもりなのか、玉座から立ち上がりはしなかった。「それにしても、初めてだろうな。ここまで信条を、救世主をないがしろにしてしまった者どもは。もはや弁解の余地すらない」
「うるさい!!救世主の名をかたってトロンをおとしめたくせに!!」スコアは、ミハルの鼻に突くような態度に悪印象を抱き、怒りに任せて詰問きつもんした。「第一位の権威って、要するにヘイヴンで一番偉い天仔って事でしょ!?なのに、トロンに付き従った住人を殺すなんて、人でなしだよ!!」
「天仔が宿命に目覚めるのならば、住人が何人死のうが構わんだろうに。たかが人間など掃いて捨てるほどいるのだ。多少切り捨てたとて、何も問題はない」ミハルは、悪びれる事もなく、堂々と自らの所作を認めた。
「どうして!?人の命を犠牲にしてまで天仔を宿命に目覚めさせたいの!?」
「自然と人間の融和。それが自然の意思。そして、その大いなる大義を達成するには、一人でも多くの天仔が必要なのだ。迷える子羊たちを真の平和へと導く渡し守がな」
「平和もなにも、多くの住人を犠牲にしちゃったら本末転倒なんじゃないの?」
「お前のような不心得者には、到底理解できぬほどの大義だ」ミハルは、やや機嫌を損ねると、トロンに「ちょうどいい機会だ。その無礼者どもを罰してやるがいい」と命じた。
 トロンは、命令を受けるや否や、純白の翼を生やし、従順にもスコアとウェザーに斬りかかった。ところが、どこか意志を感じさせず、それでいて、おぼつかない剣捌きでは、かすりもさせられず、ことごとく回避されるばかりであった。いくら躍起になって剣を振り回そうが、スコアの俊敏さには敵わず、あろう事かウェザーにすら鼻で笑われる始末であった。
「今のあなたは、薄馬鹿に見えますよ。もはや見据えるべき敵すら誤るようになりましたか」
 スコアは、どうにかトロンを正気に戻そうと懸命になって考えた。見ざる聞かざる言わざるを貫くばかりのトロンに目を開かせ、耳で聞かせ、口で語らせるための方法をひたすらに考え続けた。ところが、何一つ思いつけず、無性にもどかしくなった。そこで、救世主の権威を当てにすると、純白の帳に向かってこう叫んだ。
「ねぇ!!そこから見てるんでしょ!?何か言う事ないの!?こんな状況になっても何も言わないなんて、やっぱりミハルの横暴を黙認してるって事なの!?救世主っていうのは、皆の救い主なんじゃないの!?だったら、黙ってないで何か言ってよ!!」
 必死の訴えであるにもかかわらず、純白の帳は、揺らめきもせず、無情にも沈黙を押し通していた。
 「真におそれ多い奴め」ミハルは、玉座からスコアを冷笑した。「誰も救世主に声をかける事は許されない。なぜなら、誰も救世主の権威に勝る事はないからだ。それなのに、お前ときたら、分不相応にもほどがあるぞ」
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