めぐりしコのエコ

しろくじちゅう

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不死鳥の背の上で

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 それからいくばくかした頃、バスポテトは約束を遵守するため、掘っ建て小屋から四人の仔らを追い出すと、トロンとスコアを椅子に据えた。捕らわれた仔の救出に手を貸したため、その見返りとして廻文字について軽く手ほどきする手筈となったが、それはあくまでも宿命稼ぎに対抗するための頭数を増やし、無事に脱出を成し遂げるためである。廻文字を所持していながら、まるで扱いを知らないままでは、あまりにも心もとない。自然の力を弱めたり、静止させたりに止まらず、摩訶不思議な道具を作り出すまでに及ぶ廻文字の本質を、バスポテトは雄弁に語り始めた。
「まず、大事なのは、廻文字っていうのは一つだけではその真価を発揮できないって事なの。いくつもの文字が集まって初めて意味のある言葉ができるように、廻文字も多くを寄せ集めてやらないと価値ある戦力とはならないから。単独の廻文字は、自然の力を弱めたり、その動きを一時的に止めたりできるけど、それだけでは自然と渡り合えないって事は、これまでの経験から理解できているはずよね。だから、その取るに足らない力を持ち寄り、一つの大きな力へと変えてやる必要があるのよ。要するに、廻文字を持つ者が二人以上集まると、“”っていう特殊な道具を作り出す事ができるようになるんだけど、それは以前、私とホームズがやってみせたわよね」
「あの火打ち道具だよね。すごい炎を出してたけど、すぐに壊れちゃってたよね?」スコアは、かつて見た惨烈な光景を思い起こしつつたずねた。
「廻の具には、いくつか種類があって、どれも並大抵の自然を退けられるほどに強力なんだけど、一度でも使うと壊れてしまうの。廻の具を作り出すために息吹くのは、それなりに疲労するし、いくら強力と言っても親船に乗ったように頼れるわけじゃないのよ。だから、数少ない機会を有効に使わないとね」
「へぇ、じゃあボクもやろ」スコアは、頑迷がんめいにも一心不乱に息吹き始めたが、まもなく眩暈めまいに襲われただけに終わった。「あぁ…。ダメだ、酸欠になっちゃった…」
「手を胸に当ててみなさい。その廻文字の刻まれた左手をね」
その言葉通り、スコアは左手を胸にてがってみると、廻文字が胸元に転写された。「胸に移ったけど、これでいいの?」
「ええ。口は心の門って言うでしょう。言葉は、心から出るものだから、廻文字もまた、心に宿るのよ。まぁ、心と言っても、正確には心臓なんだけど。とにかく、それで息吹くための準備も整ったし、あとは実際にやってみれば覚えも早いはずよ」
 説明に区切りをつけると、バスポテトは二人に外へ出るよう促した。「わかってるとは思うけど、一刻の猶予もないから手短に教えるわ。ただ、申し訳ないんだけど、トロンは子どもたちの面倒を見ててくれないかしら。いかんせん、廻文字を持ってないから」
トロンは、渋々ではあるが頷き、黙諾したが、やはり後ろ髪を引かれるような気がしたので、念のため「廻文字は、どうやって手に入れられる?やはり、めぐりし遺産を探し回るしかないのか?」と聞いてみた。
バスポテトは、声の調子を下げると、「それもあるけど、現存する遺産は、数が少ないから難しいと思うわ。廻文字自体の数は、少なくはないんだけど、探し回るのが面倒なら、いっそ自力で作ってしまうのも手ね。でも、それはあくまでも最後の手段にしておきなさい。廻文字は、特別な原初から作られてるんだけど、それがまた厄介な代物でね。下手をすれば、この星そのものが滅びかねないから、生半可な覚悟で手を出すべきじゃないと思うわ」
「原初の悪か。まさか、あれが廻文字の元になっていたとはな」トロンは、スコアに目をやったが、そっけなく視線を逸らされた。
「じゃ、ボク、息吹いてくるね」スコアは、しらを切ると、逃げるように掘っ建て小屋から出て行った。
 「あら、人の原初を見た事があるのかしら」バスポテトは、ふいに驚かされた。「滅多に御目にかかれないんだけど、随分と運がいいのね。いえ、むしろ悪いのかしら」
「あんな禍々しい物体から廻文字が作られたとは到底思えない…」トロンは、心なしか悪感に見舞われ、ぶつくさと言った。
「人の心は表裏一体。悪があるなら、善もあるとだけ言っておくわ。廻文字が作られる過程までは教えられないもの」
「作り方がわからなければ、そもそもどうしようもない」
「下手な考えを起こされるのも厄介だし、なにより、あなたが危険をおかしてまで施してくれた恩には報いたつもりよ」
「だが、あのルルリリは、廻文字の作り方を知っているような口ぶりだった」
「私と出会う前から既に知ってたのよ。誰に聞いたかまでは知らないけど。とにかく、廻文字が欲しければ、幸運を祈る事ね」バスポテトは、掘っ立て小屋から出て行こうとし、その間際「子どもたちの面倒、よろしくね。きっと装甲車を整備してると思うから」と言い残していった。
 せめて廻文字を生み出す方法さえ聞き出せれば御の字だと思っていたが、心外のままに終わってしまった。トロンは、気の毒にしてしまうほどに落胆し、歯を噛みさえした。このままでは廻文字を手に入れられず、あまつさえ妹を取り戻す事も危ういままであった。それでも手元には、この無駄足を補償するための担保として、あらかじめ真鍮の魔笛が残されていた。その手触りに心が軽くなった反面、あたかも見越したように心頼りを持たされていたかと思うと、複雑な心境に至った。その積極と消極の分水嶺ぶんすいれいを仕切っていたのは、他でもないサニーの心遣いであり、そんな過保護に甘えるばかりの己を情けなく思った。やはり廻文字を手にしなければ。そう思い立ち、わずかな足掛かりを求めて小屋を出ると、ルルリリを問いただすべく装甲車を捜し歩いた。
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