心の傷は残り続ける

濃霧

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1 突然の涙

遭遇

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 ふと鳴ったチャイムによって、まるで目覚まし時計のアラームで目覚めたかのように、自分は我を取り戻した。
 とりあえず、教室に戻ってみんなに一応このことを伝えようと職員室を出ようとしたとき、ある一人の女の子とぶつかりそうになった。
 「あ、ごめん」
 反射的に自分が謝った。その女の子は小沼さんだった。
「あ、玉井君。こっちこそごめん」
 生まれてはじめて小沼さんから「玉井君」と呼ばれた気がした。小沼さんとは特に面識がなく、小沼さんの落とした消しゴムを自分が拾ってあげたときくらいしか言葉を交わさなかった。
 「ねえ、あの・・・」
 小沼さんは自分に対して何かを話しかけようとしていた。ただ、緊張しているのか頬を赤らめており、なかなか言葉が出てこなかった。そんな表情を見せられると、なんだか自分も緊張して、頬を赤らめてしまう。きっと、そのときの自分もそうだったのだろう。
 「先生、いた?」
 なんだか勿体ぶった割にはそこまで大した話じゃない普遍的な話だった。小沼さんが、喋るのが苦手だという印象は、自分は持っていなかったため、彼女の様子が少し異常に感じられた。
 「いや、いなかったよ」
このときの自分は、彼女の様子が変だということを感じ、少し動揺していた。その動揺を紛らわすためにシンプルに返答した。
 「そう。ありがとう」
彼女は頬を赤らめたまま、そう述べた。
 自分からすれば、別に彼女に感謝される筋合いはない。ただ、日本人の特性ともいうべきか、何事に関しても感謝の気持ちを述べるということはあるので、別にその感謝の言葉が不快感を与えたり、嫌疑の気持ちを引き起こしたりするものではない。どちらかというと、彼女がなぜ職員室にわざわざ降りてきたのかということや、なぜ自分と目を合わせた途端に頬を赤らめ緊張した様子を見せるのかという不可解なことが起きていて、自分の脳が混乱している状態にあるといった方がいい。別に彼女に対して言葉を交わすこと自体が二回目くらいであったため、彼女に対して恋愛感情は起きないが、もしかしたら彼女が・・・・・・という妄想もないといえば嘘になる。
 彼女、小沼梨乃は高二になって初めてクラスメイトになったわけだが、結構色んな女子と会話している印象でおしゃべり好きといった感じの子だ。現に、今さっきまで湖さんと廊下で話していたわけだし。髪は前髪、後ろ髪ともに短めで、髪色はクラスで一番黒いといっても過言ではない。瞳の色も黒よりで、彼女の色素は結構黒が強めである。あとは、眉間から鼻のまわりにそばかすがある。彼女は目立たない子といえば目立たない子といえるのかもしれないが、別にひっそりとしているタイプではなく、前述したとおりおしゃべり好きな性格ではあるから、みんなとうまくコミュニケーションをとっていけるタイプだろうと勝手に自分で推測している。
 そんな印象であるからこそ、自分との対面になったときに推測と現状とのギャップが生まれたわけではあるが、彼女に対しての疑問を自分から埋めようとする勇気は全く起きなかった。
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