MARVELOUS ACCIDENT

荻野亜莉紗

文字の大きさ
1 / 51
一巻 未知の始まり  第一章 始まりの時

01

しおりを挟む
 
 
 これは、不思議で歪んだ世界の物語。
 
 闇に狂わされた、酷く悲しく残酷だけれど、儚くとても美しい――そんな複雑な世界の話。ここから、行き場を無くした、若きはぐれ者たちの人生が大きく変わり始める。


 この世の終わり――そんな絶望で染まった顔を涙で濡らし、とある少年がベッドに転がっている。この世の全てを恨む様な表情を枕で隠し、カーテンの閉まった薄暗く狭い部屋で嘆いている。

「ううっ……僕なんか、消えちゃえばいいのに」
 
 心の底から湧き出した言葉を、彼は恨めしそうに漏らした。ただ一人、果てしない孤独を抱え――たった十二歳の少年は、日頃のストレスや不満をこうして目から流していく。

 ドドドドッ……ガッシャーーーーンッ!

 突然聞こえた音に、少年はビクッと飛び跳ねた。そして、何が起きたのかと、音がしたクローゼットの方へ怯えた瞳を向ける。それは、まるで何かが落下したみたいな音だった。

 意味不明な状況に少年が頭を悩ませていると、クローゼットの中から生き物が動く様な物音が聞こえてくる。

 ガサガサ……カタンッ!

 それを耳にし、少年は良からぬ事を想像すると、自らを恐怖で支配していく。誰か居るのだろうか――まさか、泥棒や殺人鬼や幽霊?

 彼は足を忍ばせ、恐る恐るクローゼットへ近づいていく。きっと、ねずみか何かに違いないと自分に言い聞かせ、震える手でクローゼットを開けた。

 その中に居たのは、虫や小動物なんかではなかった。なんと、そこには丸い角の様なものを生やした、小柄な少女の姿があったのだ。

 おもちゃ箱から飛び出したぬいぐるみの山に、少女はちょこんと乗っかっている。そこから、ルビーの様な輝きのある綺麗な瞳で、青ざめた顔をした少年をじっと見つめている。

「ぎゃーーーーーーーーーーっ!」

 あまりの恐怖に絶叫し、少年は勢いよく自室から逃げ出した。何度か足を踏み外しそうになりながら、階段を駆け下りていく彼は――どうして、僕のクローゼットの中から見知らぬ女の子が出てくるのかと、大きな疑問を抱いていた。

 その謎の少女との未知の出会いが、これから起きる全ての始まりとなる――

 ただのいじめられっ子であるこの少年、上野飛華流うえのひかるはまだ何も知らない。日常に潜む非日常へと、己が少しずつ引きずり込まれていく事さえ――今はまだ気づけやしない。


 えっ? 何だよこの急なホラー展開っ! さっき、アレと思いっきり目が合ったぞ。もしかして、あの子は生きた人間なの? 

 だとしたら、誰だよあの子――あの頭から生えた、角みたいなのは何? 頭の上で、カタツムリでも育ててるの? 

 飛華流の脳内は、パニックを起こしていた。

 真っ暗な廊下を必死に走り、素足の冷えを感じながら、飛華流は助けを求めて声を上げる。

「うわぁーーーーっ! た、助けてーーっ! ママーーーーッ! パパーーーーッ!」

 上品な顔を歪ませた中年の女性が、ダイニングルームから出てきた。この女性は、飛華流の母親の上野守莉うえのまもりだ。守莉は、飛華流に注意する。

「ちょっと、静かにしなさい。今、何時だと思ってるの。近所迷惑だよ!」

「ママ、あのね……僕の部屋に知らない女の子が居るんだ」

 涙目になりながら必死に訴えてくる飛華流に、守莉は垂れた目を丸くさせる。

「え、それって……本当に?」

 飛華流が頷きかけた頃には、守莉は急ぎ足でリビングルームへ向かっていた。彼女の後ろに、飛華流はついていく。

「た、大変っ! ちょっとー、パパーーッ!」

 慌てた様子で接近してくる守莉を、コーヒーを飲んでくつろいでいた中年の男性が不思議そうに眺める。

「……んっ?」

「どうしよう。飛華流の部屋に、誰か居るの……ねえ、一緒に来て!」

 守莉の言葉を聞くなり、中年男性はコーヒーを口から盛大に吹き出してしまう。

「ブフォーーーーッ!」

 彼は一家の大黒柱、上野直志うえのただし。突然、耳を疑う様な衝撃的な話をされたのだから、驚いてしまうのは仕方がない事だ。

 けれど、カーペットへ寝そべってゲームをしている幼い少年は、そんな父の間抜けなミスを許さない。気が強い彼は、上野真誠うえのまこと。飛華流の、五つ年下の弟だ。

「うっわ……吐くなよ汚いな」

 息子に冷たい目で睨まれている事など気にもせず、直志は驚きを露わにする。

「えーーっ! うっそー! まじでー?」

 飛び散ってソファーに染み込んだコーヒーを、直志はウエットティッシュでゴシゴシと拭き始めた。そして、再び口を開く。

「――でも、どうやって飛華流の部屋に侵入してきたのー?」

 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...