MARVELOUS ACCIDENT

荻野亜莉紗

文字の大きさ
15 / 51
第二章 怪しい森

15

しおりを挟む

 
 もう二人は一時間近く歩いているが、それらしい建物はどこにも見当たらない。

 もしかして、凛は僕を騙して遊んでいるの? 本当は魔女なんて、存在しなかったりしてな。

 少しずつ不安になり、飛華流は凛に不信感を抱き始めた。
 
 一本の細い倒木を、二人はふらふらと渡っていく。その約五メートル下には、荒れた川が流れていて、落下すれば最悪の事態になってしまう。

 慎重な足取りで、飛華流は凛の後に続いていく。果たして、二人は魔女の住む屋敷へと辿り着く事が出来るのであろうか――
 
 ガサガサガサッ……。
 
 茂みから物音がし、飛華流は咄嗟に縮こまった。怖いな。何が出てきたんだ? 熊か……それとも、狼?

「飛華流君、大丈夫だよ。ほら、見て! 可愛いリスちゃんだよー。前歯二本が大きい、飛華流君と少し似てるね」
 
 凛の指差す先には、つぶらな瞳で二人を見つめるリスが居た。その純な可愛さに、二人の心は癒された。撫でようと凛が近づくと、リスは彼女に警戒してどこかへと逃げていってしまった。
 
 地面の崩れやすい道、崖っぷち、そんな道なき道を二人は超えていく。ドジな飛華流は、足を滑らせて転んで落下しそうになったりと、何度か死にかけた。

 この調子では、命がいくつあっても足りないと、飛華流は感じていたのであった。



 辺りが暗くなってきた頃、自分の屋敷へと近づいてくる二人の影を窓から見下ろしている者が居た。

 顔見知りの美少女が、気弱そうな少年を連れてこちらへと歩いてくる。彼女は一目で、その二人が客人であると分かった。

「あれは……飛華流さん。随分と立派に、成長されましたね」
 
 そう呟くと、ゴシック調のワンピースをひらりとさせた華奢な女は、プクプクと泡の立つ紫色の液体の入った鍋にそっと蓋をした。

 女が出て行くと、棚がズラリと並んだ部屋の明かりがパッと消えた。

 レンガ造りの立派な屋敷は、寒さのせいで凍りついており、紫色の怪しい光をほんのりと放っている。

 その頭上では、何匹ものカラスが飛び回っており、更に雰囲気を醸し出していた。とんがった三角の屋根に、氷柱が伸びている。あれが降ってきて体に刺さったら、恐ろしい事になるだろう。

「やっと着いたね……これが、魔女の屋敷だよ。話を聞いてもらいながら、少し休ませてもらおうね」

 立派な洋館を凛と一緒に見上げ、飛華流はその迫力に息を呑む。うわっ……なんか、めっちゃ不気味だな。流石、魔女の住む家って感じだ。
 
 スラッとした細い人影が、二階の出窓から自分らを覗いている事に飛華流は気づいた。ビ、ビックリした――誰か居る。あの影の正体が、エミナーと言う魔女なの?
 
 小さく洒落た漆黒の門の前で、二人は足を止めた。すると、門は自動で開き、二人はその先へ進んでいく。次は中くらいの門があり、その奥へ行くと、豪華で巨大な門があった。

 いや、シュールだな。門なんて三つも必要か? なんか、マトリョーシカみたいだと、飛華流は少し呆れていた。
 
 とげとげと尖った柵に囲まれた広々とした庭へ、二人は足を踏み入れる。赤々と目を光らせる猫やカラスの彫刻に、特殊な水を噴き出す噴水――この、見た事の無い奇妙な空間に、飛華流は酷く興奮し、大いに感動した。

「エミナーちゃん、お邪魔しまーす」
 
 凛が声を上げると、庭の中にある屋敷の扉が同時にゆっくり開いた。

 そこから姿を現したのは、水色の髪でショートカットの、可愛らしい小柄な娘だった。えっ? この人が、エミナーなの? 

 なんか、僕がイメージしていた人物とはかなり違うな。しわくちゃの老婆を想像していた飛華流は、目の前の品のある美少女に困惑した。

 優しく微笑み、エミナーと言うその魔女は丁寧に二人を招き入れる。

「ようこそ。さあ、中へお入り下さいませ」
 
 エミナーに連れられ、二人は玄関前の大きな両階段を上がっていく。そして、二人はある部屋へと案内された。綺麗に飾られたインテリアは、全て洋風で高価そうな物ばかり。

 そんなリッチな空間で、エミナーとテーブルを挟んで向かい合い、二人は腰を下ろす。ふかふかなソファーはとても座り心地が良く、森を歩き疲れた二人の体を癒す。

「何か、飲み物はいかがですか?」
 
 エミナーにそう聞かれ、凛が答える。

「……えーっとねー、私はホットココアが飲みたいな」

「畏まりました……飛華流さんは、何に致しますか?」

「ぼ、僕? えっと……冷たいお茶をお願いします」

 初対面のエミナーにいきなり名前を呼ばれ、飛華流は驚きを隠せなかった。

「あ、あの……エミナーさんはなんで、僕の名前を知ってるんですか? 僕らが会うのは、初めてなのに……それも、魔法の力なんですか?」

「それは……私は魔女だからですよ」
 
 エミナーは平気で、質問になっていない返事を飛華流にした。そして、ニコニコと飛華流に微笑み、エミナーは再び言葉を発する。

「上野飛華流さん……ですか。ご両親から、素敵な名前を貰いましたね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...