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第二章 怪しい森
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しおりを挟むもう二人は一時間近く歩いているが、それらしい建物はどこにも見当たらない。
もしかして、凛は僕を騙して遊んでいるの? 本当は魔女なんて、存在しなかったりしてな。
少しずつ不安になり、飛華流は凛に不信感を抱き始めた。
一本の細い倒木を、二人はふらふらと渡っていく。その約五メートル下には、荒れた川が流れていて、落下すれば最悪の事態になってしまう。
慎重な足取りで、飛華流は凛の後に続いていく。果たして、二人は魔女の住む屋敷へと辿り着く事が出来るのであろうか――
ガサガサガサッ……。
茂みから物音がし、飛華流は咄嗟に縮こまった。怖いな。何が出てきたんだ? 熊か……それとも、狼?
「飛華流君、大丈夫だよ。ほら、見て! 可愛いリスちゃんだよー。前歯二本が大きい、飛華流君と少し似てるね」
凛の指差す先には、つぶらな瞳で二人を見つめるリスが居た。その純な可愛さに、二人の心は癒された。撫でようと凛が近づくと、リスは彼女に警戒してどこかへと逃げていってしまった。
地面の崩れやすい道、崖っぷち、そんな道なき道を二人は超えていく。ドジな飛華流は、足を滑らせて転んで落下しそうになったりと、何度か死にかけた。
この調子では、命がいくつあっても足りないと、飛華流は感じていたのであった。
辺りが暗くなってきた頃、自分の屋敷へと近づいてくる二人の影を窓から見下ろしている者が居た。
顔見知りの美少女が、気弱そうな少年を連れてこちらへと歩いてくる。彼女は一目で、その二人が客人であると分かった。
「あれは……飛華流さん。随分と立派に、成長されましたね」
そう呟くと、ゴシック調のワンピースをひらりとさせた華奢な女は、プクプクと泡の立つ紫色の液体の入った鍋にそっと蓋をした。
女が出て行くと、棚がズラリと並んだ部屋の明かりがパッと消えた。
レンガ造りの立派な屋敷は、寒さのせいで凍りついており、紫色の怪しい光をほんのりと放っている。
その頭上では、何匹ものカラスが飛び回っており、更に雰囲気を醸し出していた。とんがった三角の屋根に、氷柱が伸びている。あれが降ってきて体に刺さったら、恐ろしい事になるだろう。
「やっと着いたね……これが、魔女の屋敷だよ。話を聞いてもらいながら、少し休ませてもらおうね」
立派な洋館を凛と一緒に見上げ、飛華流はその迫力に息を呑む。うわっ……なんか、めっちゃ不気味だな。流石、魔女の住む家って感じだ。
スラッとした細い人影が、二階の出窓から自分らを覗いている事に飛華流は気づいた。ビ、ビックリした――誰か居る。あの影の正体が、エミナーと言う魔女なの?
小さく洒落た漆黒の門の前で、二人は足を止めた。すると、門は自動で開き、二人はその先へ進んでいく。次は中くらいの門があり、その奥へ行くと、豪華で巨大な門があった。
いや、シュールだな。門なんて三つも必要か? なんか、マトリョーシカみたいだと、飛華流は少し呆れていた。
とげとげと尖った柵に囲まれた広々とした庭へ、二人は足を踏み入れる。赤々と目を光らせる猫やカラスの彫刻に、特殊な水を噴き出す噴水――この、見た事の無い奇妙な空間に、飛華流は酷く興奮し、大いに感動した。
「エミナーちゃん、お邪魔しまーす」
凛が声を上げると、庭の中にある屋敷の扉が同時にゆっくり開いた。
そこから姿を現したのは、水色の髪でショートカットの、可愛らしい小柄な娘だった。えっ? この人が、エミナーなの?
なんか、僕がイメージしていた人物とはかなり違うな。しわくちゃの老婆を想像していた飛華流は、目の前の品のある美少女に困惑した。
優しく微笑み、エミナーと言うその魔女は丁寧に二人を招き入れる。
「ようこそ。さあ、中へお入り下さいませ」
エミナーに連れられ、二人は玄関前の大きな両階段を上がっていく。そして、二人はある部屋へと案内された。綺麗に飾られたインテリアは、全て洋風で高価そうな物ばかり。
そんなリッチな空間で、エミナーとテーブルを挟んで向かい合い、二人は腰を下ろす。ふかふかなソファーはとても座り心地が良く、森を歩き疲れた二人の体を癒す。
「何か、飲み物はいかがですか?」
エミナーにそう聞かれ、凛が答える。
「……えーっとねー、私はホットココアが飲みたいな」
「畏まりました……飛華流さんは、何に致しますか?」
「ぼ、僕? えっと……冷たいお茶をお願いします」
初対面のエミナーにいきなり名前を呼ばれ、飛華流は驚きを隠せなかった。
「あ、あの……エミナーさんはなんで、僕の名前を知ってるんですか? 僕らが会うのは、初めてなのに……それも、魔法の力なんですか?」
「それは……私は魔女だからですよ」
エミナーは平気で、質問になっていない返事を飛華流にした。そして、ニコニコと飛華流に微笑み、エミナーは再び言葉を発する。
「上野飛華流さん……ですか。ご両親から、素敵な名前を貰いましたね」
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