MARVELOUS ACCIDENT

荻野亜莉紗

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第二章 怪しい森

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 どう反応したらいいのかと戸惑いつつ、飛華流はエミナーに軽く頭を下げる。その数秒後、どこからかマグカップが飛んできて、そっとテーブルに置かれた。

 うわっ……ビックリした。コップさんこんにちはって感じだよ。なんて、非現実的なんだ最高だよっ! 
 
 アニメでしか見た事の無い現象が目の前で起こり、飛華流は目をキラキラと輝かせた。日々、死人の様な顔をしている、人生に絶望しきった少年が、今はすっかり夢見る少年となって心を輝かせている。

 マグカップへ口をつけ、飲み物を体内へ流し込む二人にエミナーが話しかける。

「わざわざ遠くから来て下さって、本当に嬉しいです……それで、どの様なご用件でしょうか?」

「私は、いつものをお願いね」
 
 そう凛に頼まれ、エミナーは怪しい小さな紙袋を彼女に差し出す。

「はい、体の炎症や発作を抑える薬ですね。では、こちらをどうぞ」

 えっ? り、凛……もしかして、何かの病気なの? 訳を聞きたそうにしている飛華流を見て、凛はそれを察すると彼に教える。

「私ね……急に脳が停止して、動けなくなっちゃう時があるの。原因不明の病で、はっきりとした治療法はまだ分かってないんだー」

 体にそんな疾患があるのに、普通に学校に通ったり日常生活を過ごしているだなんて、凄いな。世の中には、彼女の他にも原因不明の病で苦しめられている人間が数多くいる。

 そのせいで、不自由な生活をしている者も存在するだろう。だが、そんな悩みもエミナーなら魔法で簡単に解決してくれるみたいだ。

 飛華流は、魔女の力の凄まじさを実感した。そして、皆からモテはやされ、順風満帆に見えたマドンナの知られざる苦労を飛華流は知ったのだった。

「……それでは次、飛華流さんの相談を受けましょう」
 
 エミナーは、神秘的なレッドの大きな瞳を飛華流に向けた。

「あっ、はい……僕、人を呪いたいです」

「ちょっと、飛華流君……そんな事したら駄目だよ。何を考えてるの?」
 
 真剣な表情を浮かべる飛華流に、凛は眉をひそめる。

「……畏まりました。それでは、呪いたい方のお名前を教えて下さい」
 
 飛華流が口を開きかけた時、凛がエミナーを止めようと声を上げる。

「エ、エミナーちゃん! ちょっと待ってっ! そんな危険な行為、私はしてほしくないよ」

「……私の仕事は、お客様の願いを叶える事なんです。ですから、お願いされた事が私の力の範囲内なら、どんな依頼でも受けさせて頂きます」
 
 エミナーの発言で、凛は静かになった。けれど、彼女は「やめて」と目で飛華流に訴える。しかし、飛華流は凛から視線を逸らし、話を進める。

「呪いたいのは……凛ちゃんを除く、一宝中学校全ての人間です」
 
 クラスメイトで唯一、自分に優しく接してくれる凛だけは呪わないでおこうと飛華流は決めた。凛ちゃんは、皆と一緒になって僕を笑わない。だが、他の奴らは全員、僕の敵だっ!

「それは可能ですが……人を一人呪うごとに、必ず自分にもよくない事が起こります。それが、学校の全人口さんの数になると、貴方は命を落とす事になりますが宜しいのですか?」
 
 エミナーにそう問われ、飛華流は直ぐに依頼内容を変更する事にした。心から恨んでいる三人だけを呪う事にし、その男達の名前をエミナーに伝える。
 
 飛華流が呪った人物は――メインのいじめっ子、坪砂と勢安。担任の教師、葉だ。こいつらだけは、何があっても絶対に許さないっ!

「その方々を呪ってしまうと、貴方も必ず不幸になります。そして、命の保証は致せません。……それでも、本当に宜しいですか?」

「そうだよ飛華流君っ! ……人を呪わば穴二つなんだから」
 
 エミナーに続き、凛が飛華流に強くそう言った。だが、飛華流は迷う事無くエミナーに頼む。

「どうなっても構いません……呪いをお願いします」

 元から不幸な僕に、失うモノなんて何一つ無いからな。自分に害があったとしても、自分の憎んでいる彼らが苦しんでくれるのなら十分だと、飛華流は本気で考えていた。

「……畏まりました。それでは、目を閉じ、呪いたい三人の姿を頭に浮かべて下さい。そして、貴方の強い恨みを全開に引き出して下さい」
 
 エミナーに言われた通り、飛華流は憎らしい三人の顔を頭に浮かべた。そして、「地獄に落ちろっ!」と強く念じる。

 すると、その数秒後、飛華流の頭からどす黒く太い影が出てきた。得体の知れないそれは、エミナーの方へ向かって飛んでいく。

「はい、ありがとうございます。貴方の憎悪の塊を、取り出す事に成功しました。……貴方の闇は、海の様に深く大きなモノの様です」
 
 エミナーの言葉に、飛華流は深く納得する。そうかこれは、僕の黒い部分なんだ。まるで、影は生きているかの様に、エミナーの綺麗な手の中で激しく動いている。

「お次に、貴方の髪の毛一本と、一滴の血液を頂きますね」
 
 採血をするのかと怯えている飛華流に、エミナーは声をかける。

「怖がる必要はございません……もう、貴方の体内から、勝手に頂きましたので。髪の毛の抜き取りも終わりましたよ」
 
 宙に浮く血の雫と一本の黒い毛を、エミナーが親切に飛華流に見せた。

 魔女って何でもありかよと、飛華流はエミナーにこうしてまた、驚かされたのだった。凄いを通り過ぎて、もう怖いよ。
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