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第三章 イナズマ組
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しおりを挟む我に返り、永戸はスッと動き出す。
「こいつを助ける理由なんて……わざわざ言わなくたって、あんたもよく分かってんだろうよ菊谷さん……」
そう呟き、永戸は屋根から白く染まったアスファルトへ身軽に飛び降りた。
ボコボコにされた飛華流は、勢安の足元で転がってしまっていた。涙で顔を濡らす飛華流を見て、勢安は楽しそうに笑う。
こいつ……僕の苦しむ顔見て笑っていやがる。血も涙もない悪魔だよ。
通行人は、見て見ぬ振りをして去ってしまう。飛華流に救いの手を差し伸べる者は、誰一人いない。
まあ……いつもの事だけど、この町は冷たい人間ばかりだな。飛華流が、そう思っていた時――
「なあ……そいつをいじめるのが、そんなに楽しいか?」
突如聞こえたクールな男の声が、勢安の動きを止める。顔を上げる飛華流の目に、自分らの方に鋭い瞳を向ける永戸の姿がぼやけて映った。
その状況が、飛華流には全く理解できない。み、三島永戸っ? 町の悪が、何をしにここに来た……まさか、勢安に加わって僕を痛めつけるつもりでは?
もしかして、これが人を呪った僕へ訪れる不幸? やっと今日は終業式で、明日からは夢の冬休みだっていうのに……頼むから勘弁してくれっ!
永戸を視界に入れるなり、勢安は怯えた様子で体を震わせた。
「坪砂……やばいぞ。三島永戸が出たーー」
こんな、間抜けな勢安を見るのは初めてだな。普段の自分みたいに臆病になってしまっている勢安を見るのが、飛華流は少し面白かった。
「あ、俺……ちょっと急用だから帰るなー」
そう言いながら、坪砂は彼らに小さな背を向け、永戸から全速力で逃げていく。
「ちょ、待てよ坪砂っ! アハッ、永戸さーん……相変わらず、今日もカッコ良いですねー。さ、さようならー」
坪砂に続き、勢安も焦って走り去っていく。その途端、風の様な速度で、永戸は一瞬にして二人に追いついた。
「……平気で人泣かせるお前らに、何されても文句言う資格なんかねーな」
すると突然、坪砂と勢安はパタリと倒れた。そして、そのまま二人はビクとも動かなくなる。
僅か数秒の事で、何が起きたのかがはっきりとは分からない。けれど、きっと永戸が攻撃を仕掛け、二人をやっつけたのだろうと飛華流は理解した。
自分の目の前で、いじめっ子が倒れ込んでいる――そんな光景を眺め、飛華流から自然と笑みがこぼれた。ふっ……いい気味だ。このまま、永遠に停止してろよクズ野郎っ!
「お前、大丈夫か?」
突然、永戸に声をかけられ、飛華流は酷く慌てる。えっ? 今、僕に言ったの? えっと……何でか知らないけど、彼は僕を助けてくれたんだよね? それなら、お礼を言わないと。
自分へと近づいてくる永戸に怯み、飛華流は後退りする。口を開くが、恐怖のせいか飛華流は上手く声が出せない。
「あっ、あ……あ」
「落ち着けよ。俺は、お前の敵じゃない」
そんな永戸の言葉で、飛華流は少し緊張がほぐれた。そして、なんとか彼に返事をする。
「あ、はい……あの、ありがとうございます」
「……お前の存在は前から知ってた。この辺を通る時、よく見かけたからな」
救ってもらっといてあれだが――と思いつつ、飛華流は永戸の発言に不満を感じずにはいられなかった。それなら、もっと早く助けてくれても良かったのに――
「お前はどうして、やりたくない事を頑張るんだ?」
「え、それは……やらないといけない事だから……です」
永戸の唐突な質問に、飛華流はそう答えた。だが、本当にそれが正しいのかは飛華流には曖昧だ。
「やらないといけない事って、何だよ……そんなのは、他人に振り回されず、自分で決めれば良いじゃねーか」
いや、僕にそんな事を言われても困る。こうして、ただあんたにコクリと頷くだけだぞ。しかし、飛華流は全く永戸に共感できない訳ではなかった。
「……お前、名前は?」
名前を聞かれた飛華流は、永戸に答える。
「う、上野飛華流です」
「飛華流……ちょっと、一緒に来い」
突然、永戸に誘われた飛華流は、戸惑いを見せる。
「え、でも……僕は家に帰らないと……」
「……いいから、黙って来い」
永戸の勢いに負け、飛華流は彼の誘いを断る事に失敗してしまった。一体、僕はどこへ連れていかれるの?
道路沿いを進んでいく永戸の後ろを恐る恐るついていくと、彼は飛華流の方へ振り返った。
「お前とまともにノロノロ歩いていたら、日が暮れる」
そう言って、永戸は「ヒュー」と口を鳴らす。何がしたいんだこの人……意外と愉快だな。
いや、きっと相当頭がおかしいんだ。飛華流は永戸に、そんな印象を抱いた。
ビューーーーッ!
その直後、風が勢いよく音を立てて彼らの体を通り抜けていった。それが、飛華流には何故か馬の鳴き声の様に聞こえたのだった。
……ん? 馬の声? そんな訳ないか……風だよな?
彼らの目の前に、白骨化した馬が現れた。永戸の合図でやって来たそれは、ただの馬の骨ではない。奇妙な事に、馬の骨がバイクと一体化しているのだ。
しかし、飛華流にはその骸骨馬のバイクが見えていなかった。
「よっ……今日も頼むぜ」
永戸が呼びかけると、骸骨馬は嬉しそうにくるくると回り出す。そんな事が起きているとは知らない飛華流は、ただ永戸がいきなり独り言を呟いた様にしか思えなかった。
えっ、何っ? かなり怖いんだけど……空気にでも話しかけてるの? 永戸は、自分の想像以上にヤバい人間だと――そして、この人とは絶対に関わってはいけないと飛華流は感じていた。
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