MARVELOUS ACCIDENT

荻野亜莉紗

文字の大きさ
20 / 51
第三章 イナズマ組

20

しおりを挟む

 
 我に返り、永戸はスッと動き出す。

「こいつを助ける理由なんて……わざわざ言わなくたって、あんたもよく分かってんだろうよ菊谷さん……」
 
 そう呟き、永戸は屋根から白く染まったアスファルトへ身軽に飛び降りた。


 ボコボコにされた飛華流は、勢安の足元で転がってしまっていた。涙で顔を濡らす飛華流を見て、勢安は楽しそうに笑う。

 こいつ……僕の苦しむ顔見て笑っていやがる。血も涙もない悪魔だよ。
 
 通行人は、見て見ぬ振りをして去ってしまう。飛華流に救いの手を差し伸べる者は、誰一人いない。
 
 まあ……いつもの事だけど、この町は冷たい人間ばかりだな。飛華流が、そう思っていた時――

「なあ……そいつをいじめるのが、そんなに楽しいか?」
 
 突如聞こえたクールな男の声が、勢安の動きを止める。顔を上げる飛華流の目に、自分らの方に鋭い瞳を向ける永戸の姿がぼやけて映った。

 その状況が、飛華流には全く理解できない。み、三島永戸っ? 町の悪が、何をしにここに来た……まさか、勢安に加わって僕を痛めつけるつもりでは? 

 もしかして、これが人を呪った僕へ訪れる不幸? やっと今日は終業式で、明日からは夢の冬休みだっていうのに……頼むから勘弁してくれっ!
 
 永戸を視界に入れるなり、勢安は怯えた様子で体を震わせた。

「坪砂……やばいぞ。三島永戸が出たーー」

 こんな、間抜けな勢安を見るのは初めてだな。普段の自分みたいに臆病になってしまっている勢安を見るのが、飛華流は少し面白かった。

「あ、俺……ちょっと急用だから帰るなー」
 
 そう言いながら、坪砂は彼らに小さな背を向け、永戸から全速力で逃げていく。

「ちょ、待てよ坪砂っ! アハッ、永戸さーん……相変わらず、今日もカッコ良いですねー。さ、さようならー」
 
 坪砂に続き、勢安も焦って走り去っていく。その途端、風の様な速度で、永戸は一瞬にして二人に追いついた。

「……平気で人泣かせるお前らに、何されても文句言う資格なんかねーな」

 すると突然、坪砂と勢安はパタリと倒れた。そして、そのまま二人はビクとも動かなくなる。

 僅か数秒の事で、何が起きたのかがはっきりとは分からない。けれど、きっと永戸が攻撃を仕掛け、二人をやっつけたのだろうと飛華流は理解した。
 
 自分の目の前で、いじめっ子が倒れ込んでいる――そんな光景を眺め、飛華流から自然と笑みがこぼれた。ふっ……いい気味だ。このまま、永遠に停止してろよクズ野郎っ!

「お前、大丈夫か?」
 
 突然、永戸に声をかけられ、飛華流は酷く慌てる。えっ? 今、僕に言ったの? えっと……何でか知らないけど、彼は僕を助けてくれたんだよね? それなら、お礼を言わないと。
 
 自分へと近づいてくる永戸に怯み、飛華流は後退りする。口を開くが、恐怖のせいか飛華流は上手く声が出せない。

「あっ、あ……あ」
 
「落ち着けよ。俺は、お前の敵じゃない」

 そんな永戸の言葉で、飛華流は少し緊張がほぐれた。そして、なんとか彼に返事をする。

「あ、はい……あの、ありがとうございます」

「……お前の存在は前から知ってた。この辺を通る時、よく見かけたからな」
 
 救ってもらっといてあれだが――と思いつつ、飛華流は永戸の発言に不満を感じずにはいられなかった。それなら、もっと早く助けてくれても良かったのに――

「お前はどうして、やりたくない事を頑張るんだ?」

「え、それは……やらないといけない事だから……です」

 永戸の唐突な質問に、飛華流はそう答えた。だが、本当にそれが正しいのかは飛華流には曖昧だ。

「やらないといけない事って、何だよ……そんなのは、他人に振り回されず、自分で決めれば良いじゃねーか」

 いや、僕にそんな事を言われても困る。こうして、ただあんたにコクリと頷くだけだぞ。しかし、飛華流は全く永戸に共感できない訳ではなかった。

「……お前、名前は?」
 
 名前を聞かれた飛華流は、永戸に答える。

「う、上野飛華流です」

「飛華流……ちょっと、一緒に来い」
 
 突然、永戸に誘われた飛華流は、戸惑いを見せる。

「え、でも……僕は家に帰らないと……」

「……いいから、黙って来い」
 
 永戸の勢いに負け、飛華流は彼の誘いを断る事に失敗してしまった。一体、僕はどこへ連れていかれるの?
 
 道路沿いを進んでいく永戸の後ろを恐る恐るついていくと、彼は飛華流の方へ振り返った。

「お前とまともにノロノロ歩いていたら、日が暮れる」
 
 そう言って、永戸は「ヒュー」と口を鳴らす。何がしたいんだこの人……意外と愉快だな。

 いや、きっと相当頭がおかしいんだ。飛華流は永戸に、そんな印象を抱いた。

 ビューーーーッ!
 
 その直後、風が勢いよく音を立てて彼らの体を通り抜けていった。それが、飛華流には何故か馬の鳴き声の様に聞こえたのだった。

 ……ん? 馬の声? そんな訳ないか……風だよな?

 彼らの目の前に、白骨化した馬が現れた。永戸の合図でやって来たそれは、ただの馬の骨ではない。奇妙な事に、馬の骨がバイクと一体化しているのだ。

 しかし、飛華流にはその骸骨馬のバイクが見えていなかった。

「よっ……今日も頼むぜ」
 
 永戸が呼びかけると、骸骨馬は嬉しそうにくるくると回り出す。そんな事が起きているとは知らない飛華流は、ただ永戸がいきなり独り言を呟いた様にしか思えなかった。

 えっ、何っ? かなり怖いんだけど……空気にでも話しかけてるの? 永戸は、自分の想像以上にヤバい人間だと――そして、この人とは絶対に関わってはいけないと飛華流は感じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...