MARVELOUS ACCIDENT

荻野亜莉紗

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第三章 イナズマ組

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「おー、そういう事なら自己紹介しねーとな。俺は、
「おー、そういう事なら自己紹介しねーとな。俺は、高木優たかぎゆうだ。宜しくなー」

 優と名乗った少年は、飛華流に優しい笑顔を見せた。悪そうな顔つきをしているけど、見た目よりも良い人そうだ。

 でも、彼の名前は菊谷ではなかった。だから、この人はボスではないらしいな。そう考えながら、飛華流は優に軽く頭を下げる。

「そんな、堅くならなくて良いんだぞ。なんたって、ここは自由の楽園だからなー」
 
 緊張している飛華流の頭を撫で、優は彼にニコニコと微笑むと再び口を開いた。

「飛華流って何歳?」

「えっと、十二歳です……」

「へー、永戸の四つ下かー。因みに俺は、お前の六つ上だぞ」

「そ、そうですか……」
 
 反応に困り、飛華流はぎこちなく首を縦に振った。そんな事はどうだっていいから、とにかく早く飛華流は家へ帰りたかった。

 洞窟の付近に、複数の雪だるまが飾られていた。薄暗い穴の前で、小さな男の子と背の高い赤髪の男が雪玉を転がしていた。そんな二人の元へ、飛華流は連れられる。

「ねえ、上手に出来たよお父さーん! 雪だるまさんに、頭付けてあげようよ」
 
 男の子が、赤髪の男を見上げて無邪気に笑う。
 
「ああ、これは上出来だな。さて、お父さんと一緒に、こいつも雪だるまにしてやろうか」
 
 優しい口調でそう言って、赤髪の男は男の子と雪玉を持ち上げ、それを自分らの近くに置かれた雪玉の上へそっと乗せた。そして、二人は雪だるまに石を埋め込んで器用に顔を作っていく。

「この雪だるまさんはね、優しい顔してるから良い子だよ」

「そうか……それならお前と一緒だな。雪だるまも、お前に生み出してもらえて喜んでるぞ。かっこよく作ってくれて、ありがとうってな」
 
 幼い子供と楽しそうに遊んでいる赤髪の男の前へ、優が飛華流を突き出した。

「菊谷さーん……はいっ! 俺達の組に入れたい奴、連れてきましたー。こいつです」

「んっ? 誰だこの坊やは」
 
 雪だるまに木の枝を刺して手を生やし、菊谷はもじもじとしている飛華流に目を向けた。状況を理解していない彼に、永戸が言う。

「雪だるま作って、遊んでやがる所悪いです。こいつは、飛華流……菊谷さんが、助けてやれって言ってた奴だ」

「ああっ! そいつは、あのか弱き坊やか」
 
 菊谷はスッと立ち上がり、飛華流へ接近する。

「お前が、飛華流だな。永戸から、お前の話は聞いてるぞ。……俺は、菊谷茂きくやしげる。イナズマ組のボスだ」

「は、はい……初めまして。僕が、飛華流です」
 
 思った以上に巨大な菊谷に怯みながらも、飛華流はとりあえず彼に挨拶をした。だが、飛華流は状況整理が追いついていなかった。

 この呑気な感じのお兄さんが、ヤンキーグループの頭なのか? こんな危ない連中の仲間にさせられるなんて、初耳だ。

 僕が、イナズマ組に入団するなんて、絶対に不可能だ。命がいくつあっても足りやしない。飛華流は、恐怖と不安に押し潰されそうになっていた。

「なあ、飛華流……お前、俺達が怖いのか?」

「い、いやそんな……助けてもらって、とても感謝してます」
 
 素直に「イエス」とは答えられず、飛華流は戸惑いながら菊谷にそう返事をした。

「怖くて、震えていた訳じゃないんだな。……お前が、俺達に感謝する必要は無い。俺達はただ、当然の事をしただけだからな」

「えっ? でも、僕は永戸さんに救われたので」

「細かい事はどうだっていい。……俺達は、神様の力でこの星に生まれたんだ。同じ星の家族じゃないか」
 
 菊谷は、ニコニコと笑って飛華流の肩をポンと叩いた。彼のその笑顔は、子供の様に純粋で綺麗だった。

 ヤンキーのボスらしくはない、ピュアで穏やかな人物だった。それが分かり、飛華流が彼に抱いていた恐怖心が小さくなった。
 
 小さな手で一生懸命に雪を丸めていた男の子が、彼らに近寄って丁寧に頭を下げる。

「皆、こんにちは」
 
 礼儀正しく挨拶をする男の子は、菊谷と同じ赤毛の髪をしていた。良い子そうな顔をしているのに、可愛そうだな。

 絶対に訳を分からず、親に染められたのだろう。保育園児くらいのその男の子を、飛華流は憐れんだ。

「よーじん。元気にしてるかー? 茂お父さんは、優しいかー?」
 
 優は、優しく男の子を抱き上げた。茂お父さんと言う事は、この仁って男の子は菊谷の息子なのだろう。

 でも、菊谷の奥さんはどこに居るのだろう。家族で洞窟暮らしって、相当いかれているな。あまりにも現実離れしている彼らに、飛華流は驚きを隠せなかった。

「うん、優しいよ。それに、優お兄ちゃんも他のお兄ちゃんもね」

「お前はまだ五歳なのに、本当にしっかりしてるなー。よしよし、良い子だ良い子だ」
 
 優に可愛がられ、仁は幸せそうな笑みを浮かべていた。彼は、優に相当懐いている様だ。優だ。宜しくなー」

 優と名乗った少年は、飛華流に優しい笑顔を見せた。悪そうな顔つきをしているけど、見た目よりも良い人そうだ。

 でも、彼の名前は菊谷ではなかった。だから、この人はボスではないらしいな。そう考えながら、飛華流は優に軽く頭を下げる。

「そんな、堅くならなくて良いんだぞ。なんたって、ここは自由の楽園だからなー」
 
 緊張している飛華流の頭を撫で、優は彼にニコニコと微笑むと再び口を開いた。

「飛華流って何歳?」

「えっと、十二歳です……」

「へー、永戸の四つ下かー。因みに俺は、お前の六つ上だぞ」

「そ、そうですか……」
 
 反応に困り、飛華流はぎこちなく首を縦に振った。そんな事はどうだっていいから、とにかく早く飛華流は家へ帰りたかった。

 洞窟の付近に、複数の雪だるまが飾られていた。薄暗い穴の前で、小さな男の子と背の高い赤髪の男が雪玉を転がしていた。そんな二人の元へ、飛華流は連れられる。

「ねえ、上手に出来たよお父さーん! 雪だるまさんに、頭付けてあげようよ」
 
 男の子が、赤髪の男を見上げて無邪気に笑う。
 
「ああ、これは上出来だな。さて、お父さんと一緒に、こいつも雪だるまにしてやろうか」
 
 優しい口調でそう言って、赤髪の男は男の子と雪玉を持ち上げ、それを自分らの近くに置かれた雪玉の上へそっと乗せた。そして、二人は雪だるまに石を埋め込んで器用に顔を作っていく。

「この雪だるまさんはね、優しい顔してるから良い子だよ」

「そうか……それならお前と一緒だな。雪だるまも、お前に生み出してもらえて喜んでるぞ。かっこよく作ってくれて、ありがとうってな」
 
 幼い子供と楽しそうに遊んでいる赤髪の男の前へ、優が飛華流を突き出した。

「菊谷さーん……はいっ! 俺達の組に入れたい奴、連れてきましたー。こいつです」

「んっ? 誰だこの坊やは」
 
 雪だるまに木の枝を刺して手を生やし、菊谷はもじもじとしている飛華流に目を向けた。状況を理解していない彼に、永戸が言う。

「雪だるま作って、遊んでやがる所悪いです。こいつは、飛華流……菊谷さんが、助けてやれって言ってた奴だ」

「ああっ! そいつは、あのか弱き坊やか」
 
 菊谷はスッと立ち上がり、飛華流へ接近する。

「お前が、飛華流だな。永戸から、お前の話は聞いてるぞ。……俺は、菊谷茂《きくやしげる》。イナズマ組のボスだ」

「は、はい……初めまして。僕が、飛華流です」
 
 思った以上に巨大な菊谷に怯みながらも、飛華流はとりあえず彼に挨拶をした。だが、飛華流は状況整理が追いついていなかった。

 この呑気な感じのお兄さんが、ヤンキーグループの頭なのか? こんな危ない連中の仲間にさせられるなんて、初耳だ。

 僕が、イナズマ組に入団するなんて、絶対に不可能だ。命がいくつあっても足りやしない。飛華流は、恐怖と不安に押し潰されそうになっていた。

「なあ、飛華流……お前、俺達が怖いのか?」

「い、いやそんな……助けてもらって、とても感謝してます」
 
 素直に「イエス」とは答えられず、飛華流は戸惑いながら菊谷にそう返事をした。

「怖くて、震えていた訳じゃないんだな。……お前が、俺達に感謝する必要は無い。俺達はただ、当然の事をしただけだからな」

「えっ? でも、僕は永戸さんに救われたので」

「細かい事はどうだっていい。……俺達は、神様の力でこの星に生まれたんだ。同じ星の家族じゃないか」
 
 菊谷は、ニコニコと笑って飛華流の肩をポンと叩いた。彼のその笑顔は、子供の様に純粋で綺麗だった。

 ヤンキーのボスらしくはない、ピュアで穏やかな人物だった。それが分かり、飛華流が彼に抱いていた恐怖心が小さくなった。
 
 小さな手で一生懸命に雪を丸めていた男の子が、彼らに近寄って丁寧に頭を下げる。

「皆、こんにちは」
 
 礼儀正しく挨拶をする男の子は、菊谷と同じ赤毛の髪をしていた。良い子そうな顔をしているのに、可愛そうだな。

 絶対に訳を分からず、親に染められたのだろう。保育園児くらいのその男の子を、飛華流は憐れんだ。

「よー仁《じん》。元気にしてるかー? 茂お父さんは、優しいかー?」
 
 優は、優しく男の子を抱き上げた。茂お父さんと言う事は、この仁って男の子は菊谷の息子なのだろう。

 でも、菊谷の奥さんはどこに居るのだろう。家族で洞窟暮らしって、相当いかれているな。あまりにも現実離れしている彼らに、飛華流は驚きを隠せなかった。

「うん、優しいよ。それに、優お兄ちゃんも他のお兄ちゃんもね」

「お前はまだ五歳なのに、本当にしっかりしてるなー。よしよし、良い子だ良い子だ」
 
 優に可愛がられ、仁は幸せそうな笑みを浮かべていた。彼は、優に相当懐いている様だ。
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