MARVELOUS ACCIDENT

荻野亜莉紗

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第三章 イナズマ組

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 帰る機会を伺っていた飛華流だったが、気づけば彼らと共に昼食を過ごす事になってしまっていた。洞窟の前で腰を下ろし、皆で鍋を囲む。

「ほら、これ……お前の分」
 
 ドロドロとした薄オレンジ色のスープを、飛華流は永戸に差し出された。

「あっ、はい……ありがとうございます」
 
 どうしようかと迷ったが、飛華流は永戸から奇妙なスープを受け取った。この、見るからに怪しいスープは何なのだろう。

 不信感があり、飛華流はなかなかそれを食べる勇気が出なかった。しかし、皆はこのスープを、とても美味しそうに体内へ流し込んでいる。

 せっかく料理をご馳走してもらい、ずっと眺めている訳にもいかず、飛華流は思い切ってそれを口へ運んだ。味はシンプルに美味しい。

 口の中でとろける様な感覚と、魚の様にさっぱりとした旨味が癖になる。温かいスープは、肌寒いこの季節には最高だった。

 川で釣った魚なんかを細かく刻み、スープにしたのかそんな味がした。
 
 スープで頬を膨らませる飛華流に、優が聞く。

「どうだ……美味しいかー?」

「はい。こんな美味しい料理、食べた事ないです」

「……それは良かったぜ。遠慮せずに、どんどん食ってくれ」
 
 空になった飛華流の皿に、スープを注ぎ、優は彼に優しく笑いかけた。

 ここに居ると気を遣うし、何だか窮屈だ。早いうちに家に帰りたい。お代わりのスープを飲み干し、飛華流は腰を上げる。

「あの……そろそろ僕、家に帰ります」

「分かった……だったら、家まで送ってやるよ」

「よーし、じゃあ俺も行くぜー」
 
 永戸に続き、優も動き出す。そうして、飛華流は永戸のスケルトンホースバイクの後ろに乗せてもらい、家を目指す。

 その後ろから、永戸と同じ骨のバイクを走らせ、優がついてきていた。
 
 どうして、イナズマ組は、あんな不便な場所に住んでいるのだろうか。せっかく、人が暮らせる町もあるというのに。

 そもそも、イナズマ組って何の目的で作られたのだろう。そんな事を飛華流が考えているうちに、森を抜けて彼らを乗せたバイクは住宅等を次々にすり抜けていった。

 それから、数分後――赤い屋根の小さな家が、徐々に近づいてきた。これで、やっと家でゴロゴロできるぞ。我が家を目にした飛華流は、ホッとした。

「あ、あの……あれが僕の家です」

「へー、結構立派な家に住んでるじゃねーかよー。羨ましいな」
 
 飛華流が我が家を指し示すと、優は目を輝かせた。そして、川沿いの細道にバイクを停止させ、二人は飛華流と共にバイクから降り、目の前の家を見上げる。

 こんな普通な家でも、森暮らしの人からとったら、だいぶ豪華に見えるものなのだなと飛華流は思った。

「ねえ、飛華流……その子達はお友達?」
 
 ベランダで洗濯物を取り込んでいた守莉が、目を丸くさせている。それもそのはず。息子が、柄の悪い二人の少年と一緒に居るのだから。

「ママー、ただいま。えっと……この人達はね」

「えー、飛華流……母ちゃんの事をママって呼んでんの? 可愛いじゃねーか」
 
 優は飛華流の話を遮り、次は守莉に挨拶する。

「……えーっと、飛華流の母ちゃん、初めまして。俺、飛華流の友達で、イナズマ組の高木優です。宜しくお願いしまーす」

「……俺は三島永戸だ、す。宜しくしやがれ下さい」

 日本語もまともに話せない永戸に、飛華流は呆れていた。敬語を正しく使いこなしているつもりなのだろうが、かなり間違ってるぞ。馬鹿の域を超えている。

「え、ええ……気をつけて帰ってねー」

 守莉は彼らに笑顔でそう言いつつも、かなり困惑しているみたいだ。今起きている状況なか、思考が追いついていないのだろう。

「はーい、さようならー。飛華流もまたなー」

 優は飛華流と守莉に手を振ると、バイクにまたがり、永戸と共に風の様に走り去っていった。

 その魔法のバイクが見えていなかった守莉には、二人がいきなりパッと消えた様にしか思えず、何が起きたのかとパニックになっていた。

 飛華流は、彼らと友達になったつもりはない。けれど、家族に自分がイナズマ組と仲が良いと誤解されてしまうかもしれない。

 なんだか、とても面倒な事になってしまった。そんな不安を抱きながら、飛華流は守莉に引きつった笑みを見せて玄関へ入った。

 これが、飛華流とイナズマ組の出会いだ。
 



 我が子と雪遊びをしながら、今日訪ねてきた弱々しい中学男子の事を菊谷は思い出す。あの坊やには……最初から、居場所があるんだな。

 普通の子供と同じく、あいつは恵まれている。だから、あいつはこの組のメンバーにはふさわしくはない。
 
 菊谷が雪玉を遠くへ放り投げると、仁は目を輝かせて彼の真似をする。仁の放った雪玉は、数メールしか飛ばなかった。

「……俺も、お父さんみたいにやりたいよ」

「アッハッハ……力がついてこれば、お前もこのくらい楽勝に出来る様になるさ」
 
 綺麗な赤毛を菊谷に撫でられながら、仁は素直な気持ちを言葉にする。

「俺も早く、お父さんみたいになりたいなー。あのね、お父さん……俺、大きくなったらイナズマ組に入りたーい」
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