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第三章 イナズマ組
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しおりを挟む「かなり弱ってるな……可哀想に」
優が眉をひそめると、永戸も声を上げる。
「……エミナーに診てもらった方がいいだろ」
「やあ、飛華流! よく来たな。調子はどうだ?」
二人をガン無視し、菊谷は立ち上がると、飛華流に接近した。
「あっ、えっと……お邪魔してます」
「なあ、飛華流……お前、イナズマ組に入らないか?」
こんないかれた連中の一員になんて、なりたい訳が無い。だが、素直に断る事なんて出来やしない。唐突な菊谷の誘いに、飛華流は酷く戸惑った。
「遠慮する事は無いぞ。まあ、今直ぐ決める必要は無い。お前が、入団したいなら歓迎してやるって事だ。どう生きたいかは、自分で考えろ」
「あ、あの……僕なんかとても、貴方達の仲間になれる様な人間ではな……」
飛華流の話を遮り、菊谷がワンダについて問う。
「それで? お前の隣に居る、そのお嬢ちゃんは誰なんだ?」
「俺、ワンダ。人間」
飛華流より先に、ワンダが菊谷に答えた。
「ハッハハ……そうか。俺も人間だぞ。宜しくなワンダ」
陽気に笑った後、菊谷は再びワンダを見つめる。
「……変な事を聞くが、ワンダは本当に人間なのか?」
「な、何を言ってるんですか……当たり前じゃないですか」
怪しいくらいに、飛華流は動揺してしまう。
「そうか? だが、そいつには変な角と尻尾が生えているじゃないか」
「あ、ああ、これは……本物じゃないですよ。えっと……これは、両方ともアクセサリーです」
菊谷にヒヤッとする質問をされ、飛華流はなんとかそう誤魔化した。
「変、言うな! これ、俺、嫌だ。コンプレックスだぞ」
ムッとするワンダに気づき、菊谷は素直に謝る。
「気を悪くさせてしまったなら、すまない。俺はただお前を、人間に似た新種の生物なのではないかと思っただけだ。だから、決してお前を貶した訳ではない。……普通の人間には無いものを持っているなんて、素晴らしいじゃないか。その角も尻尾も、独特でかっこいいな」
この前に会った時から分かっていたが、発言からして菊谷はまともな人間ではないと飛華流は感じた。
死にかけの動物の命を救おうとする、心優しき人間ではあるが、彼がかなりの変わり者である事は間違いない。見た目によらず、とてもピュアな彼は子供がそのまま大人となった様な人物だった。
突然、洞窟の奥から女性の綺麗な声が響いた。
「ねえ、茂……私、出かけてくるから仁を宜しくね」
かかとの高いヒールを履き、洒落た服に身を包んだ狐顔の美女が姿を現した。
高価そうなバックを手に、耳や首にキラキラ輝くアクセサリーを付けた、ブランド品らしき物で自分を飾っているそのツンとした女性は――まるで、金持ちの奥さんみたいだった。そのツンとした美女の背を、菊谷は温かい眼差しで見送った。
「分かったぞ乃絵瑠(のえる)……仁は、俺に任せろ。気をつけて行って来い」
「なんか、乃絵瑠さんって……出かけてばかりだよな」
乃絵瑠と呼ばれる女が、どんどんと洞窟から離れていくと、優が少し言いづらそうにそう発した。すると、永戸も乃絵瑠に悪い印象を抱いているのか、そんな感じの発言をする。
「あいつ、遊び歩いてばかりいやがる……ほとんど、仁の世話してねーぞ」
「仁だって、母ちゃんに甘えたいだろうにな。なあ、菊谷さん……乃絵瑠さんに、あんな自由気ままな生活をさせていいんですか? こんな事、あんまり言いたくはないですけど……あの人、どこかで他の男と会ったりしてるかもしれませんよ?」
優の言葉で、菊谷は微かに表情をこわばらせる。だが、直ぐに落ち着きを取り戻すと、妻の消えた霧がかかった獣道に、菊谷は汚れの無い綺麗な瞳を向けた。
「……俺は、あいつを信じている。大丈夫だ乃絵瑠なら絶対にな……夫として、俺はあいつを決して疑わない」
悲しげな微笑みを絶やさず、菊谷は再び口を開く。
「……俺のせいで、あいつには貧しい生活をさせてしまっている。だから、せめてあいつの好きな様に過ごさせてやりたいんだ」
悲しげな微笑みを絶やさず、菊谷は再び口を開く。
「……俺のせいで、あいつには貧しい生活をさせてしまっている。だから、せめてあいつの好きな様に過ごさせてやりたいんだ」
「………………菊谷さん」
菊谷なりの、妻への愛や信頼を知り、優はこれ以上は何も言えなかった。それは、彼の話を聞いていた他の皆も同様だった。
そのまま、菊谷と別れ、飛華流達はツリーハウスへ向かった。彼らの後に続き、飛華流は木に掛けられたボロいハシゴを、ゆっくりと登っていく。
足をかける度、ハシゴは軋んだ音を立てる。ここから落下すれば、大怪我では済まされない。飛華流は慎重に、進んでいった。
数秒後、何とか無事に辿り着いた飛華流は、彼らと共に木製の建物の中へ入る。その途端、小屋はギシギシと悲鳴を上げ、床が抜けてしまわないだろうかと、飛華流は不安になった。
そこでは、数人の少年らが固い床に横たわり、くつろいでいた。意外と広々とした空間に、いくつかのインテリアが置かれている。どれも、彼らが町から盗んできた物だろう。
「ほら、ふかふかだし……お前ら、そこ座れよ」
座り心地の良さそうなソファーを永戸に譲ってもらい、飛華流はワンダとそこへ腰を下ろした。そして、永戸と優は背もたれの無い椅子へ座り、ゲーム機を起動させる。
しばらく、飛華流はアジトで二人とゲームをして過ごした。その様子を、ワンダは黙って見つめている。
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