30 / 51
第三章 イナズマ組
30
しおりを挟む優と永戸が、バイクにまたがろうとしたその時――可愛らしい少女の声が、どこからか永戸を呼ぶ。
「永戸君――! やっほー」
声のする、川を挟んだ向かい側の道へ皆は顔を向けた。クルクルとしたツインテールの少女が、元気よく永戸に手を振っている。
イナズマ組のメンバー、愛羅が現れた。そう思った飛華流だったが、自分らの方へ走って近づいてくる少女の顔をよく見ると、それが別人だと分かった。
容姿や雰囲気は、愛羅と見間違えるくらいによく似ている。顔立ちは、この少女の方が愛羅より整っていた。丸々とした大きな瞳を輝かせ、少女は勢いよく永戸に抱きつく。
「こんな所で永戸君に会えるなんて、菜月ちゃん嬉しいなー。えっへへ」
「な、菜月……こ、こんな人前で……」
顔を真っ赤に染め、永戸はまともに喋る事すら出来なくなっていた。
「別にいいでしょ? だって、菜月ちゃん達は仲良しカップルなんだからー」
「うぐっ……あっ、そうだ菜月……これ、お前が欲しがってたぬいぐるみ。これ、お前にやるよ」
永戸は菜月から離れ、彼女にいくつものぬいぐるみを差し出す。彼から受け取ったぬいぐるみに頬をすりよせ、菜月はとても喜んだ。
「わーい! ありがとう永戸君―。菜月ちゃん、嬉しい! ずーっと、大切にするね」
「それなら良かった……菜月、また後で会おうな」
ニコニコしている菜月に癒されているのか、永戸は穏やかな表情で菜月の頭を撫でた。
「うん、分かったよ永戸君。あのね、菜月ちゃん……可愛いお洋服と、バックが欲しいの。だからね、今夜はファッションビルに行きたいなー」
上目遣いで、菜月は永戸におねだりをする。彼女は、相当な甘え上手だった。
「じゃあ、そうするか。俺はアジトに戻るから、そろそろ行くぞ」
そう言って、永戸は菜月と別れ、バイクに乗って皆と死んだ森を目指す。永戸は飛華流を、優はワンダを後ろに乗せ、バイクを走らせた。
「可愛い彼女が居て、羨ましいぜー。ヒューヒュー」
優は、楽しそうに口を鳴らした。
「べ、別に照れてなんかねーし」
永戸は、自分から本音を出してしまった。あの菜月と言う少女は、永戸の恋人だ。性格や容姿まで、愛羅とそっくりな少女だった。
その少女に、永戸はかなり照れていたな。クールな永戸は実は、ツンデレだったのか。あんな永戸を初めて目にした飛華流は、彼の普段とのギャップに驚かされた。
永戸は、菜月を大切にしているが――菜月は違った。彼女は永戸と別れた後、小さな公園で別の少年と会っていた。
綺麗なブラックの髪と瞳の、爽やかイケメン。個性的ではない、どこにでも居る一般的な少年だが、永戸よりも高身長で高学歴。最初から、菜月は彼と会う為、あの川沿いを一人、歩いていたのだ。
公園では、子供達が元気よく遊んでいる。人目も気にせず、菜月は少年とギュッと体を抱きしめ合っていた。
「菜月……愛してる」
「菜月ちゃんも、愛してるよ。ずーっと、一緒に居ようね」
菜月が少年に返したその言葉に、噓偽りは無かった。永戸ではなく、こちらの少年が菜月の本命の相手だった。
こうして、純な愛を確かめ合う二人は、傍から見たらただのバカップルだった。けれど、激しく美しい愛を求めあう二人の若い男女にとったら、そんな事はどうでもいい事だった。
町を走り抜けて森の中へと入り、飛華流達はアジトの近くまでやって来た。そして、菊谷家が暮らす洞窟の側でバイクを降りる。
スケルトンホースバイクを初めて目にしたワンダは、疑問を口にする。
「死んだ馬……動く。はてな?」
「まあ、初めてこいつを見ればびっくりしちまうよなー。これはな、魔法のバイクなんだぜ」
風の様に素早く走り去っていく二台のバイクを、不思議そうに眺めているワンダに、優がそう説明した。
「マオウノ……バイク?」
「アッハッハハ……姉ちゃん、面白い事言うなー。最高だ」
ワンダの言い間違いをジョークだと捉え、優は愉快に笑い出す。当然の事だが、理解できない日本語が彼女にあるだなんて、優は思ってもいなかっただろう。
薄暗い穴の前で、赤髪の大きな男と幼い男の子が腰を下ろしていた。今日も立派に、菊谷は父親として、仁の面倒を見ている。
落ち葉の山で転がる、痩せこけた犬を二人は心配そうに眺めていた。小さな手に握られた赤い木の実を、仁は犬にそっと差し出す。
「ワンちゃん、大丈夫? これ食べて、元気になってね」
犬がパクリと木の実を口へ入れると、菊谷は安心した笑みを浮かべた。そして、ボロボロで薄汚れた犬の体を優しく撫でる。
「心配するな犬っ! お前は、必ず助かる。俺達に任せろ」
「……菊谷さん! その犬、どうしたんですか?」
衰弱した犬を見るなり、優は菊谷達の元へ駆け寄る。飛華流らも、優の後に続いた。
「ああ……こいつはな、仁と町を散歩している時に会ったんだ。段ボールの中で倒れていたから、放って置けなくてな」
0
あなたにおすすめの小説
氷結の夜明けの果て (R16)
ウルフィー-UG6
ファンタジー
Edge of the Frozen Dawn(エッジ・オブ・ザ・フローズン・ドーン)
よくある異世界転生?
使い古されたテンプレート?
――そうかもしれない。
だが、これはダークファンタジーだ。
恐怖とは、姿を見せた瞬間よりも――
まだ見えぬまま、静かに忍び寄るもの。
穏やかな始まり。ほのかな優しさ。
だが、石の下には、眠る獣がいるかもしれない。
その時が来れば、闇は牙を剥く。
あらすじ
失われた魂――影に見つめられながら。
だが、英雄とは……本当に常に“光”のために戦う者なのか?
異国の大地で、記憶のないまま、見知らぬ身体で目を覚ます。
生き延びようとする本能だけが、彼を前へと突き動かす。
――英雄か、災厄か。それを分けるのは、ただ一つの選択。
冷たく、謎めいた女戦士アリニアと共に、
彼は武器を鍛え、輝く都市を訪れ、古の森を抜け、忘れられた遺跡へと踏み込んでいく。
だが、栄光へと近づく一歩ごとに、
痛みが、迷いが、そして見えない傷が刻まれていく。
光の道を歩んでいるかのように見えて――
その背後で、影は静かに育ち続けていた。
――これは、力と希望、そして自ら築き上げる運命の物語。
🔹 広大で容赦のない世界が、挑む者を待ち受ける。
🔹 試練と沈黙の中で絆を深めていく、二人の仲間。
🔹 「居場所」を探す旅路の果てに待つものとは――。
ヴェイルは進む。
その選択はやがて、一つの伝説を生み出すだろう。
それが光か、闇か。――決めるのは、あなた自身だ。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
借金5億で異世界転移、よりによって金本位制の世界だった
夜明け一葉
ファンタジー
32歳の個人トレーダー・佐藤慧は、5年間の雪辱を賭けたトレードで5億円の借金を抱え、意識を失った。目覚めると、そこは剣と魔法が存在する見知らぬ世界だった。常識が通じない異世界で、金貨を見るだけで嘔吐する「金アレルギー」を抱えながら、若き冒険者リナと出会い、生き延びる術を探し始める。諦めることだけができなかった男が、新たな世界で再び立ち上がる異世界サバイバル譚。
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる