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第三章 イナズマ組
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しおりを挟む優と永戸が、バイクにまたがろうとしたその時――可愛らしい少女の声が、どこからか永戸を呼ぶ。
「永戸君――! やっほー」
声のする、川を挟んだ向かい側の道へ皆は顔を向けた。クルクルとしたツインテールの少女が、元気よく永戸に手を振っている。
イナズマ組のメンバー、愛羅が現れた。そう思った飛華流だったが、自分らの方へ走って近づいてくる少女の顔をよく見ると、それが別人だと分かった。
容姿や雰囲気は、愛羅と見間違えるくらいによく似ている。顔立ちは、この少女の方が愛羅より整っていた。丸々とした大きな瞳を輝かせ、少女は勢いよく永戸に抱きつく。
「こんな所で永戸君に会えるなんて、菜月ちゃん嬉しいなー。えっへへ」
「な、菜月……こ、こんな人前で……」
顔を真っ赤に染め、永戸はまともに喋る事すら出来なくなっていた。
「別にいいでしょ? だって、菜月ちゃん達は仲良しカップルなんだからー」
「うぐっ……あっ、そうだ菜月……これ、お前が欲しがってたぬいぐるみ。これ、お前にやるよ」
永戸は菜月から離れ、彼女にいくつものぬいぐるみを差し出す。彼から受け取ったぬいぐるみに頬をすりよせ、菜月はとても喜んだ。
「わーい! ありがとう永戸君―。菜月ちゃん、嬉しい! ずーっと、大切にするね」
「それなら良かった……菜月、また後で会おうな」
ニコニコしている菜月に癒されているのか、永戸は穏やかな表情で菜月の頭を撫でた。
「うん、分かったよ永戸君。あのね、菜月ちゃん……可愛いお洋服と、バックが欲しいの。だからね、今夜はファッションビルに行きたいなー」
上目遣いで、菜月は永戸におねだりをする。彼女は、相当な甘え上手だった。
「じゃあ、そうするか。俺はアジトに戻るから、そろそろ行くぞ」
そう言って、永戸は菜月と別れ、バイクに乗って皆と死んだ森を目指す。永戸は飛華流を、優はワンダを後ろに乗せ、バイクを走らせた。
「可愛い彼女が居て、羨ましいぜー。ヒューヒュー」
優は、楽しそうに口を鳴らした。
「べ、別に照れてなんかねーし」
永戸は、自分から本音を出してしまった。あの菜月と言う少女は、永戸の恋人だ。性格や容姿まで、愛羅とそっくりな少女だった。
その少女に、永戸はかなり照れていたな。クールな永戸は実は、ツンデレだったのか。あんな永戸を初めて目にした飛華流は、彼の普段とのギャップに驚かされた。
永戸は、菜月を大切にしているが――菜月は違った。彼女は永戸と別れた後、小さな公園で別の少年と会っていた。
綺麗なブラックの髪と瞳の、爽やかイケメン。個性的ではない、どこにでも居る一般的な少年だが、永戸よりも高身長で高学歴。最初から、菜月は彼と会う為、あの川沿いを一人、歩いていたのだ。
公園では、子供達が元気よく遊んでいる。人目も気にせず、菜月は少年とギュッと体を抱きしめ合っていた。
「菜月……愛してる」
「菜月ちゃんも、愛してるよ。ずーっと、一緒に居ようね」
菜月が少年に返したその言葉に、噓偽りは無かった。永戸ではなく、こちらの少年が菜月の本命の相手だった。
こうして、純な愛を確かめ合う二人は、傍から見たらただのバカップルだった。けれど、激しく美しい愛を求めあう二人の若い男女にとったら、そんな事はどうでもいい事だった。
町を走り抜けて森の中へと入り、飛華流達はアジトの近くまでやって来た。そして、菊谷家が暮らす洞窟の側でバイクを降りる。
スケルトンホースバイクを初めて目にしたワンダは、疑問を口にする。
「死んだ馬……動く。はてな?」
「まあ、初めてこいつを見ればびっくりしちまうよなー。これはな、魔法のバイクなんだぜ」
風の様に素早く走り去っていく二台のバイクを、不思議そうに眺めているワンダに、優がそう説明した。
「マオウノ……バイク?」
「アッハッハハ……姉ちゃん、面白い事言うなー。最高だ」
ワンダの言い間違いをジョークだと捉え、優は愉快に笑い出す。当然の事だが、理解できない日本語が彼女にあるだなんて、優は思ってもいなかっただろう。
薄暗い穴の前で、赤髪の大きな男と幼い男の子が腰を下ろしていた。今日も立派に、菊谷は父親として、仁の面倒を見ている。
落ち葉の山で転がる、痩せこけた犬を二人は心配そうに眺めていた。小さな手に握られた赤い木の実を、仁は犬にそっと差し出す。
「ワンちゃん、大丈夫? これ食べて、元気になってね」
犬がパクリと木の実を口へ入れると、菊谷は安心した笑みを浮かべた。そして、ボロボロで薄汚れた犬の体を優しく撫でる。
「心配するな犬っ! お前は、必ず助かる。俺達に任せろ」
「……菊谷さん! その犬、どうしたんですか?」
衰弱した犬を見るなり、優は菊谷達の元へ駆け寄る。飛華流らも、優の後に続いた。
「ああ……こいつはな、仁と町を散歩している時に会ったんだ。段ボールの中で倒れていたから、放って置けなくてな」
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