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第四章 闇に包まれた謎
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しおりを挟むこれは、よくある恋愛ドラマの展開に似ている。まさか、僕はエミナーに告白されるのか? まだ、心の準備が出来ていないぞ。勝手に思考を巡らせ、胸を高鳴らせる飛華流に、エミナーは一枚の紙切れを突き付ける。
「率直に伺います。飛華流さん……これは、貴方が家族に宛てた遺書ですね? 貴方は自分の覚悟が決まり次第、近いうちに市販の風邪薬を大量摂取し、自殺を図ろうとしていた……そうですね?」
実行しようと試みていた自殺計画を、エミナーにズバズバと言い当てられ、飛華流は困惑する。魔法でそこまで分かるのか……恐るべき魔女。
あの遺書は、学習机の中にしまってあったのに。急に、推理ドラマみたいな流れになってしまったよ。いつの間にか飛華流は、探偵に罪を暴かれ追い詰められた、犯罪者みたいな感覚になっていた。
潤んだ瞳が乾く程に目を見開き、飛華流は返事をせず硬直している。すると、飛華流がメモ用紙に書いた遺書を、エミナーが読み上げていく。
「ママ、パパ、真誠へ。生まれてきて、ごめんなさい。迷惑ばかりかけて、ごめんなさい。僕は誰からも必要とされていないし、関わる人を不幸にしちゃうんだ。これ以上、むやみに生きていく意味が見つからないから、僕はもう死ぬね。こんな存在価値の無い、ゴミクズ同然な僕を、ここまで育ててくれてありがとう。幸せになってね。僕は、家族が大好きだよ。さようなら」
「エミナーさん……やめて下さいよ。僕が死のうと、貴方には関係ないじゃないですか」
自殺の邪魔をされ、腹を立てた飛華流は勢いよく立ち上がった。弱々しい瞳から、飛華流はいくつもの悲しみの雫を垂らしていた。涙で濡れた、丸みを帯びた彼の頬に、エミナーはそっと白く綺麗な手を添える。
「飛華流さん……私の使命は、人々を救う事です。ただの商売で、この仕事をしている訳ではありませんからね。……貴方が現在、どれ程の苦しみに耐えて生きているのかは、私がよく知っていますよ。貴方の様子を、時折見させて頂いているので……お辛いですよね」
「だ、だから何ですか……周りには、攻撃してくる敵だらけ。存在さえ拒まれ、居場所はどこにも無い。……貴方に、そんな僕の何が分かるって言うんですか!」
「……飛華流さんのお気持ち、私には痛いほど分かりますよ。私も貴方と同じく、いじめられていましたから」
突然すぎるエミナーのカミングアウトに、飛華流は目を丸くさせた。
「ですが……私はその、あまりの苦しさに身が持ちませんでした。そこで、相当な魔力を消耗し、こちらの世界へやって来たのです」
「……エミナーさんは、元は異世界の人って事ですか?」
オカルト好きな飛華流は、思わずエミナーに質問した。
「その通りです。……ですが、貴方の味わっている悲劇は、私の比ではありません。私が貴方なら、とっくに自殺していますよ。それなのによく、私の様に逃げもせず、日々頑張っていますね」
一呼吸置き、エミナーは言葉を考えてから、こう発する。
「……飛華流さんが、死を選んでしまいたくなるのも無理はありません。しかし、何があっても、自殺だけはしないで下さい。……自ら命を絶つという行為は、神が固く禁じた違反行為です」
「……どうして、自殺を神様が許さないって分かるんですか?」
「それは……私は仕事の関係で、自殺者達を魔力で霊視した事があるからです。自殺者達の魂は全て、死んだ事を深く後悔していました。神様から、かなり説教された挙句……その魂達は、地獄よりも恐ろしい空間をいつまでも一人きりで、彷徨う事になってしまうんです」
そう語る、エミナーのミステリアスな瞳からは、輝きが失われていた。
「地獄よりも恐ろしい空間って……何ですか?」
「……自殺さえしなければ、行く事が無い場所ですよ。自殺しない飛華流さんには、知る必要の無い事です」
エミナーは、あっさりと飛華流に答えた。そして、飛華流の遺書を彼に差し出す。
「飛華流さん……私の前でこの遺書を破り捨て、いかなる理由があっても自殺をしないと、誓って下さい」
「はあ……なんで、僕がそんな事を貴方に誓わないといけないんで……」
ため息交じりな飛華流の言葉を遮り、エミナーは真剣な表情で強く発言する。
「自殺をしてしまった魂は、救われない。死んでも尚、苦しみ続ける。……真実を知った私には、自殺者を減らす義務があります。……さあ、どうか思いとどまって下さい」
エミナーの熱い想いに心動かされた飛華流は、彼女の前で遺書をビリビリに破いた。文字がまともに読めなくなり、紙くずと化したそれを飛華流はゴミ箱へ捨てた。
そんな飛華流を見届け、エミナーは嬉しそうに微笑みながら、彼の部屋から一瞬で姿を消したのだった。
地獄よりもヤバい場所へなんて、飛華流は当然、行きたくはなかった。死後の世界を信じている飛華流は、エミナーの言葉を真面目に受け止めていたのだ。
死んでからも苦しみから解放されないなんて、冗談だとしてもきつい。相変わらず、自殺する勇気も無い為、もう少し何とか生き延びていこうと彼は考えたのだった。
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