MARVELOUS ACCIDENT

荻野亜莉紗

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第四章 闇に包まれた謎

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「被害者の少年が、あの謎の生物にレッドアイと名付け、これからはその名前で呼ばれていくとの事です。今までの多数の失踪事件も、レッドアイと何かしらの関係がある可能性が高いとして、警察が慎重に調査を進めています」
 
 最後にちらりとニュースを見て、飛華流は塾のリュックを背負うと玄関を出た。凍える風に冷やされた飛華流の首に、守莉はそっと赤いマフラーを巻く。

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

「……行ってきます」
 
 飛華流は守莉に手を振り、自転車にまたがると、重い足でペダルをこぎ出した。そうして、オレンジがかった綺麗な空の下を、飛華流は十分くらい走行する。

 すると、古びた紺色の小さな建物が見えてきた。まだ授業が始まってもいないというのに、飛華流は帰りたくて仕方がなかった。

 学校が休みでも、塾があったら同じじゃないか。そんな不満を抱きながら、飛華流は自分の席に力無く腰を下ろす。
 
 ここには、飛華流をいじめる者は一人も居ない。けれど、同じ学校の生徒がちらほら来ていた。ガヤガヤとした息苦しい教室の中、飛華流は一人でポツンと先生を待っていた。

 答えを丸写ししただけの宿題を先生に提出し、一時間半ボーッと問題集や黒板を眺めていた飛華流。ほとんど何も理解できないまま授業を終え、この時間は無意味だと飛華流は本気で感じていた。
 
 チャイムが鳴った途端、飛華流は机の物をリュックにしまい込んだ。そして、誰よりも早く、足早に教室から出ていった。

 外は、だいぶ暗くなっていた。ペダルを素早く回転させ、飛華流は家へ急ぐ。あんな恐ろしいニュースを見た直後なので、臆病な飛華流が夜の町を怖がらないはずがなかった。

 何事も起こりません様にと、願う飛華流だが――不運な事に、彼の望みは叶わなかった。

「ギャーーーーーー! だ、誰か……助けてくれーー。レ、レッドアイが出たーーーー!」
 
 若い男性が悲鳴を上げ、飛華流の方へ必死に走ってくる。何事かと足を止め、飛華流は前方を覗き込む。

 すると、男性の背後に、目を赤々とさせた人影を発見した。暗闇の中で怪しく光る、狂気じみた一つの瞳。それは、飛華流が先程、テレビで見たあの謎の何かと完全に一致していた。

 嘘だろ。レッドアイだ――まさか、あの化け物とこんな早くに遭遇してしまうなんて。どうしよう。このままでは、奴に殺される。

 電柱に隠れ、飛華流はガタガタ震えていた。自転車のライトのせいで、僕はレッドアイに気づかれているだろうな。

 もしかして、これは僕への呪いなのか? いつも、死ぬ事ばかり考えている飛華流だが、いざ命の危険に遭うと逃げたくなるのだった。

「アッハハハハ……安心しなよー。楽しく殺してあげるからさー」
 
 手を伸ばし、必死に救いの手を求める男を、不気味な笑い声を響かせながらレッドアイは追いかける。その姿はまるで、獲物を狙う猛獣の様だ。

「ううっ、うがぁーー! お、俺は……俺はーーっ! こ、高学歴で勝ち組な、優れた教師だぞっ! 金に飢えた、低レベルな馬鹿共とは違う。この俺が……こんなクソド田舎で死んでたまるっ……」
 
 気を狂わせ、聞くに堪えない腐ったセリフを泣き叫ぶ男性の声が、突然ピタリと止まった。ドサッ――と、無機質な音がした後、飛華流の足元にボールくらいの大きさの塊が転がってきた。

 切れかけた街灯と自転車のライトに照らされたそれは、人間の生首だと分かる。そのニキビだらけの男性の顔を、飛華流はよく知っていた。

 よし、やったぞ。呪いが成功したんだ。いい気味だ。ざまあみろ。これは、お前が僕を苦しめた罰だ。

 今の飛華流は、レッドアイに対する恐怖より、担任の教師である加藤葉を殺せた喜びの方が遥かに勝っていた。

「加藤先生……残念だけど、あんたの人生は無価値で無意味だったよ。だって、あんたがこの世で手に入れたモノは、教科書の中にある誰かが決めた答えだけだったんだからね」
 
 葉の生首に語り掛け、飛華流はその汚い面をグチャグチャと踏みつける。

「あんたは、勝ち組じゃない。何も知らない憐れなあんたに、僕が最後に教えてあげるよ。人生に、勝ち負けなんて本来は存在しないんだよ。……ただ、人に恨まれてあっさりと死んじゃったあんたは、この世で唯一の負け組みたいだ」
 
 首だけとなった葉を嘲笑い、飛華流は自転車に乗ると、全力で走り出す。幸いな事に、葉の体内から臓器を抉り出すのに夢中になっていたレッドアイは、飛華流を襲おうとはしなかった。
 

 これで二人目だ。残るは坪砂ただ一人――覚悟しろ坪砂。僕の呪いからは、逃げられないぞ。復讐心と殺意にみなぎる飛華流からは、サイコパスの様な危険な笑みが溢れ出していた。




 冬休みも後、数日で終わってしまう。なんだか、飛華流は悲しく寂しい気分になっていた。もう直ぐ、またあの地獄の日々が始まるのか。

 それまでに、呪いによって坪砂が命を落としてくれないかと、飛華流は切実に祈っていた。あのまま、勢安も消えれば良かったのに。
 
 現在、飛華流は永戸と優とワンダの四人で、隣町にあるファミレスに訪れていた。この飛華流にとって貴重な休みは、彼らと共に同じ時を過ごす事で、どんどん減っていくのだった。
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