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第四章 闇に包まれた謎
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しおりを挟む住宅の屋根の上から、赤金髪の少年が彼ら二人を見下ろしていた。いつの間に現れたのか、陽翔はこんな危険な場所で何かをするつもりの様だ。
「ちぇ、永戸の野郎……また気狂ったか。まあ、あの腐った女の始末は、この武寧陽翔様に任せるんだなー」
「陽翔さん、来てくれてありがとうございます! そっちは、お願いしますねー」
優に礼を言われ、調子に乗った笑みを浮かべ、陽翔は屋根からサッと飛び降りた。そして、革ジャンのポケットから折り畳み式のナイフを取り出し、その刃先を中年女性に向けて接近する。その彼の姿は、殺気に満ちていた。
恐怖に支配された瞳を潤ませ、中年女性は後退りする。
「嫌、やめてーー。こっちに来ないでちょうだい」
「おーっと、悪く思うんじゃーねーぞ。一番悪いのは、これを見ちまったお前なんだからよー。綺麗な姉ちゃんなら、助けてやっても良かったが……こんなババアじゃ話にならねー」
慣れた手つきで、陽翔は中年女性の左胸をナイフで突き刺した。心臓を一突きされた中年女性は、あっさりと陽翔に命を奪われてしまった。
「フォーーッ! 俺様って、ちょーイケてるぜーー。キラーンッ!」
地面へ転がった中年女性の遺体を担ぎ、陽翔は満足気にこの場から姿を消したのだった。そんな物騒で奇妙な光景を、飛華流とワンダは駐車していたトラックの後ろに隠れて観察していた。
あの遺体を、陽翔はどこへ運ぶつもりなのだろうか。イナズマ組には、何か隠したい秘密があるのかもしれないな。それ以上に、飛華流には疑問に思っている事があった。それは、豹変した永戸についてだ。
レッドアイの正体は、永戸だったというのだろうか。それなら、イナズマ組はそれを知っていたのかな。
でも、これでレッドアイに一つしか目が無い様に見えていた訳は分かった――永戸が片目を隠していたからだ。結局、永戸は何者なんだ。人間ではないのか。飛華流は、ちっとも頭の整理が追いつかなかった。
永戸の行く手を遮り、優は彼を押さえつけた。
「なあ、永戸……もう暴れるな」
「ちょっとー、邪魔しないでよねー。君はそんなに、早く死にたいのー? それなら、僕が直ぐにでも君を殺してあげようかー?」
声のトーンが上がり、どこか気狂った口調になっていた永戸に、飛華流は驚きを隠せなかった。今のは、本当に永戸の声なのか? 変わったのは外見だけではなく、彼の人格やあらゆるモノ全てらしい。
永戸は優の腕を素早く振り解き、彼を拳で突き飛ばした。
「うがぁーーーーーーっ!」
痛々しい叫び声を上げ、優が腹部を押さえる。
「そんなに弱いのに、たった一人で僕を止められる訳ないでしょー? フッハハハハーー」
気味の悪い笑い声を、永戸は町に響かせた。こいつは、僕の知っている永戸じゃない。一体、誰なんだ。完全に別人と化した永戸に、飛華流は違和感を覚えた。
血の雫がポタリポタリと落ち、アスファルトを紅に染めていく。何度も永戸に攻撃を仕掛ける優だったが、力が彼に及ばず、殴り飛ばされ続け――頭から血を流してしまっていた。
「永戸……お前の事は、よく分かってるぞ。お前は不器用だけど、実は優しい奴だもんな。俺はちゃんと、お前の良さを知ってるぞ」
「フッハハ……誰が優しいってー? 僕は、果てしない憎悪に支配された生物なんだよー」
永戸は不気味な笑みを浮かべ、堂々とした足取りで優に接近していく。彼の言う、「果てしない憎悪」と言うのが、飛華流は気になっていた。過去に、何かあったのだろうか。
「違う……そうじゃない。人間なら誰でも、多少の恨みや憎しみを抱えてるもんだろ。俺は、素のお前の話をしてるんだぜ」
「耳障りだよ……僕はね、ただ生物の命で遊べればそれで良いんだ。君とのお喋りも飽きたから、早く息の根を止めてあげるね」
そう言うと、永戸は目にも留まらぬ速さで、優に飛び蹴りを仕掛ける。しっかりと構えていた優だが、永戸の攻撃をまともにくらってしまい、宙を高く舞った。
下りてくる優を楽しそうに待っていた永戸は、勢いよく彼を地面へ叩きつけた。その直後に、身を潜めている飛華流達の方を向き、永戸はニヤリと笑った。
どうやら、二人の存在に気づいているみたいだ。永戸と目を合わせてしまった飛華流は、恐怖で背筋が凍りつきそうだった。
「やったー。あっちにも、命があるよ。逃げないうちに、仕留めておかないとー」
「はっ? ……飛華流、どうしてここに居るんだよ。早く逃げろっ! 殺されるぞー」
飛華流達がこの場に居る事に驚き、少し苛立ちを見せると、優は二人に必死に呼びかけた。
「君達の存在に、僕が気づいていないとでも思ったかーい? 匂いや気配で、直ぐ分かる。初めから、気づいていたんだよ」
狂った表情を浮かべ、永戸が飛華流に話しかけた。逃げなければ――そう思っても、足に力が入らず、飛華流は体が上手く動かせない。まずい。このままでは、殺される。
そこそこ離れた距離に居た永戸が、一瞬にして二人の目の前に現れた。もう、駄目だ。皆、全滅して終わりだ。
力無く崩れ落ち、飛華流はガクガクと震える。そんな彼に、頼りない小さな背を向け、ワンダが永戸の前に立った。
「俺、守るヒル」
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