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第四章 闇に包まれた謎
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しおりを挟む「クッハハハ……君で遊ぶのも飽きてきたしー、そろそろ首をちぎって壊してあげるよ」
優の首を掴む手に、永戸は更に力を入れた。永戸は、素手で優の首を胴体から取り外そうとしている様だ。
もがき苦しんでいた優の瞳から、生気が失われていった。そして、両手をダラッと下げると、優は白目をむき完全に動かなくなってしまった。細長い優の首から、血が絶え間なく噴き出している。
飛華流には、優が殺されてしまったのか気絶しているのか区別がつかなかった。それでも彼は、何とかして永戸を止めようと考えていた。
しかし、永戸が優の首の骨を折るのも時間の問題な為、悩んでいる暇など微塵も無い。
このままでは、優は間違いなく死んでしまう。とりあえず、僕が永戸の気を引くしかない。足元に転がっている小石を、飛華流は永戸に咄嗟に投げつけた。
「優さんに何するんだ永戸――っ! ぼ、僕がお前の相手だ覚悟しろーっ!」
「あっれー。ラッキー。僕のおもちゃが戻ってきたー。クフッ……やったね」
背中に石をぶつけられ、永戸は二人の方へ体を向けた。そして、舌なめずりをしながら、永戸は狂った表情で二人に飛び掛かる。狙い通りにはなったが、次は自分らに命の危機が迫ってしまう。
僕らだけでも助かる方法を選べば良かったのに――僕はなんて、愚かなんだろう。物語の主人公が、薄情な臆病者では魅力が無い。
そんなこだわりの方が、命よりも大事だというのか。飛華流は、本気で生きる事を諦めていた。悲しみの雫で頬を濡らす飛華流を庇う様に、ワンダが永戸の前に立ちはだかる。
ワンダは最後まで、僕みたいな無価値な人間を守ろうとしてくれているのか。こんな事に、ワンダを巻き込んだら駄目だ。
ワンダだけでも避難させるという、まともな判断が僕はあの時に出来なかったのだから――その責任は必ず果たすぞ。そう決意した飛華流は、ワンダの体を包み込み、自分が縦になろうとした。
「ヒルッ! 何、してる……危ない。離れろ」
「よく聞いてワンダ……僕がやられたら、その隙に逃げて」
飛華流の腕から解放されようと暴れるワンダを、飛華流は強く抱きしめて離さない。
「お前、馬鹿。ヒル、死ぬ……俺、嫌」
「僕は、いつどこで死んでも問題ない人間だけど……ワンダは、こんな所で死んだらいけない。勿体ないからね」
飛華流は、本心を吐き出した。その頃には、永戸は二人の直ぐ側まで迫ってきていた。危機的状況の中で、トラックのエンジン音が聞こえる。
そのトラックは、彼らの背後を通り過ぎようとしていた。そこで、飛華流はある無謀な事を閃いた。
「お、お前なんか死んじゃえーーっ! うわぁーーーーっ!」
飛華流は両目をギュッと閉じ、両の手を永戸に向かって力強く突き出した。すると、永戸は勢いよく後ろへ飛ばされていき、走ってきたトラックの道を塞いだ。
けたたましいトラックのクラクションの音が、小さな町へ鳴り響く。その直後、尻もちをついた永戸に、トラックが激しく衝突した。とてつもない衝撃を受けた永戸の体は、高く舞い上がり硬いアスファルトへ叩きつけられた。
フィクションの様な、摩訶不思議な現象が起きた事が飛華流は信じられないでいた。永戸を押し飛ばし、トラックに轢かせる事は計算の内だったが――なんと、飛華流は触れる事なく、永戸を自分から突き放したのだ。その瞬間、何か目に見えない力が働いた様だった。
「ワ、ワンダが……やったの?」
自分のパワーが発動したという可能性を真っ先に疑い、飛華流はワンダに問う。しかし、口をあんぐりとさせていたワンダは、「俺、違う。ヒル、やった」とそれを否定した。
状況を確認しても、飛華流は今起きた現象が現実だと思えずにいた。当然ではあるが、飛華流がこんな体験をするのは生まれて初めてだった。
自分に不思議な能力が秘められていると考えるより、奇跡が起きたと捉えた方が彼の中では納得がいく。まさか、謎のパワーに秘密が隠されているなんて、飛華流は考えもしなかった。
頭を混乱させている飛華流に、次なるアクシデントが襲いかかる。なんと、トラックに跳ねられた永戸が、スラッとした体をふらつかせながら、立ち上がったのだ。
血塗れの状態で動き出す永戸を目に、飛華流の顔が青ざめていく。あり得ない――どうして、生きているんだよ。トラックと言っても、小型だったからか?
トラックの運転手が、思いっきりブレーキを踏み、スピードを落としていたせいでもあるだろう。何より、三島永戸は人間の形をした化け物だから――彼が死ななかった、一番の原因はこれだろう。
小さな体を震わせ怯える飛華流に、永戸は不気味に笑いかける。
「アッハハハ……痛い、痛いよ。君、よくもやってくれたねー。バラバラになる覚悟しなよ?」
「そ、そんな……もう終わりだ」
あまりの絶望から、飛華流は心の声を漏らした。抵抗する事をやめた飛華流に容赦なく、永戸は爪を立てて素早く襲い掛かる。
自分の方へ急接近してくる赤目の化け物が、飛華流の視界にぼやけて映る。ここが、僕の墓場だ。飛華流は本気でそう感じ、大粒の涙をこぼしながら失神した。
鋭く尖った永戸の爪が、バランスを崩し倒れていく飛華流の腹を切り裂こうとしていた。その直前で、永戸はピタッと動きを止め、周囲を見渡すと驚いた様子で目を見開いた。
「こ、これは……ちっ、またやっちまったのか」
瞳から赤々とした光が消え、永戸はいつものあどけない顔をした少年に戻った。狂気じみたモノが、永戸から完全に抜けた様だ。永戸に向かって、ワンダは拳を振り上げて威嚇する。
「お前、嫌い。俺、倒す」
「悪い……俺は、優を運ぶ。お前は、飛華流を頼むぞ」
永戸は一切、ワンダと戦う気を見せなかった。重傷を負った優を背負い、永戸はどこかへと走り出す。
道路の真ん中で、飛華流を寝かせておく訳にもいかず、ワンダは永戸の後を追わなかった。仕返しがしたいという気持ちを必死に抑え、彼の背中をワンダは睨み続けた。
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