MARVELOUS ACCIDENT

荻野亜莉紗

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第五章 深い絆で守られし秘密

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 あれだけ、飛華流が心待ちにしていた冬休みが、気づけば終わってしまっていた。今日は始業式。この場に、葉と勢安の姿が無い事に、飛華流の心はすっきりとしていた。
 
 狭苦しい教室の中に座らされた生徒らは、見慣れない顔をした男子教師の面を見つめる。

「ええ、皆さん……大変ショックな出来事なんだけど……冬休み中に、加藤先生が亡くなりました。ええ、今日から僕、石次いしじがこのクラスの担任になります」

 石次と名乗る男性教師の言葉で、生徒達が騒ぎ出す。

「えっ? まじで、カトヨウ死んだの?」

「お前、ニュース見てないのか? ネットでも話題になってるけど、カトヨウは遺体バラバラ事件の被害者だぞ」

「……そうそう。遺体は、原形をとどめていなかったらしいわ。転がった首で、加藤先生だって分かったらしいからね」

「……ほら、勢安もレッドアイに襲われて、入院してるだろ? カトヨウをやったのも、あいつだって話だよ」
 
 彼らは皆、何も知りやしない。葉が、どの様に殺されたのかを――それを知っているのは、飛華流だけであり、彼がそうさせた様なものだった。

 生徒から「カトヨウ」というあだ名で呼ばれ、自分は親しまれているのだと勘違いしていた、クソ間抜けな教師がこの世を去った。

 その事実が、飛華流にとって滑稽だった。口角が上がらぬ様、彼は表情を管理するのに必死だ。

「あーあ、飛華流が死ねば良かったのになー」
 
 飛華流に向かって暴言を吐く坪砂に、凛が注意する。

「坪砂君! そんな事、言わないでよ。飛華流君は、ちゃんと必要な子なんだから」
 
 美しく綺麗で女神みたいな凛が、自分を「必要」だと言ってくれた。それでも、僕が存在価値の無い人間である事には変わりない。

 けれど、凛の優しい言葉が、飛華流は素直に嬉しかった。

「はい……皆でね、亡くなった加藤先生に黙祷をしましょう。それでは……黙禱!」
 
 石次の指示で、騒がしかった教室が静まった。そして、彼らはそっと目を閉じる。

 笑わせるな。あんな人として終わっていた駄目教師に、わざわざ祈りを捧げるなんて冗談じゃない。あいつを死へ追いやったのは、この僕だぞ。

 黙祷をするふりをして――飛華流は、汚れた醜いモノばかりを映して疲れた目を休ませていた。
 
 お前は、僕に負けた――散々馬鹿にしていた出来損ないの生徒に、お前は簡単に殺されたんだ。僕の恐ろしさを、思い知ったかっ! 悔しいか? 恨めしいだろう? ざまあみろ! お前は地獄に落ちて、永遠にもだえ苦しめ。

 心の中で、飛華流は葉へそんな攻撃的な言葉を放った。とても気分が良くなり、飛華流は思わず口元を緩ませた。

「はい。黙祷終了!」
 
 潰れた様な石次の声で、生徒らは一斉に目を開ける。その途端に、彼らはまたやかましくなる。

 改めて葉の居ない教室を見ると、飛華流は晴れやかな気持ちになった。死んでくれてありがとう――加藤先生。溢れそうな笑みを隠し、彼は心で笑い狂っていた。


 休み時間、飛華流は机に顔を伏せていた。優は、無事に生きているだろうか。あの時、永戸の暴走を止める事には成功した。けれど、優の生存確認が出来なかった事が心残りだ。
 
 あの日――飛華流は、体の傷が酷かったので、レッドアイに襲われた事を家族に話した。それまで、イナズマ組と一緒だったという事も説明した。
 そうすると、イナズマ組を強く嫌っている直志に、飛華流はこう言われてしまった。

「もう、イナズマ組とは関わるな」

「でも……でもね、優さんは、僕らをレッドアイから守ってくれたんだ」

 懸命に飛華流が説明したが、直志の考えは変わらなかった。その時の事を頭で思い浮かべながら、飛華流は酷くネガティブになってしまっていた。

 優が危険な目に遭ったのも、全ては僕のせいだ。僕は人の役に立つどころか、周りに迷惑をかけてしまっている――どうしようもない、ゴミ人間だ。
 
 ガヤガヤと騒がしい教室の中で、飛華流はウトウトとしていた。このまま、永遠の眠りにつけたら――どれほど楽だろうか。そんな事を思いながら、飛華流はまぶたを閉じた。
 
 数分が経ち、そろそろチャイムが鳴るだろうと、飛華流が顔を上げようとしたその時――
 
 バリーーーーーーンッ!

「キャーーーー! み、三島永戸が……三島永戸が出たーー」
 
 窓ガラスが割れる音とともに、女子生徒の悲鳴が飛華流の耳へ入ってきた。今の飛華流に、その男の名は恐怖そのものだ。彼は、体の震えを止められないでいる。

 随分と大胆な登場じゃないか――というか何故、永戸がこんな所に? 一度、殺されかけたから二度と会いたくなかったんだけど。

「飛華流……ちょっと来い」
 
 永戸に呼びかけられるが、飛華流は聞こえないふりをし、そのまま顔を隠していた。何をされるか分からないという、怖さからだ。
 
 
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