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Chapter 1 ある召喚者の場合
1.8 Geodesic
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「今日は来てくれてありがとう」
「とんでもありません。ところでるー君、その格好は、もしや荒事ですか?ならば不肖わたくし、惡魔の端くれとして、全ての害敵を消し去りましょう」
白いブラウスに深紅のネクタイを巻き、その上から黒い礼装を着た惡魔の莫大な魔力が、さらにデタラメになる。
「害なす悪魔は召喚の余波で消し飛んじゃったから、もう大丈夫」
「ああ、さっきのあれ…。たかが事務員の前に立つことさえできないとは、軟弱ですね。ああ、るー君、頬が汚れてしまっていますよ。綺麗にするので、動かないで…」
惡魔の事務員さんは黒手袋の先に持ったハンカチで僕の顔を拭いてくれた。
「ありがとう。それで、呼んだ理由なんだけれど、パーティメンバーがふたり死んじゃって。召喚の余波で身体も消えちゃったんだ。それをうまいこと生き返らせて欲しい」
「なるほど、惡魔にとっては容易なことです。しかしるー君、蘇生といえば手順がありまして、對價を頂戴することになります」
「何をすれば良い?」
「命を全てか、姬樣の屋敷に向かってきて頂くかのどちらか、御選びください」
僕の召喚に応じてくれる惡魔たちは、今のところ全て地界にある屋敷に住んでいる。
そして、何かをお願いした時は毎回この2択を提示する。事実上の1択だ。
「屋敷に向かうよ。今回は何日くらい?」
「姬樣もるー君がいらっしゃるととても喜ばれます。きていただくのは、ふたりの蘇生となると、そうですね、三億年程度でしょうか」
「-----え?」
あまりの長期間に呆然とする。
「……んふふ、驚きました?」
ややあって、サニアさんが冗談めかして付け足し、僕にウインクした。
「びっくりしたなあ、もう。ちょっと本気かと思った」
「不肖わたくし、これでも惡魔なので、時にはそれらしく振る舞わなくてはなりません。それではるー君、前と同じ長さにてお願いします」
「よろしくね」
「姬樣以下、るー君にきて頂くことをたのしみにしていますね。後ほどお迎えに上がりますので、こちらをお持ちください」
僕はサニアさんから深紅の封筒に入った招待状を受け取り、大切にポケットにしまう。
「今日はどうもありがとう。本当に助かったよ」
「また、いつでもお喚びください」
サニアさんは深々と礼をすると、魔法陣の光と消えていった。
後ろを振り返ると、さっき死んでしまったふたりが静かに寝息をたてて横たわっている。まるで何事もなかったかのように。
「ふたりが起きるまでに、この超階を調査しておこう」
一般的に、地図で見たいのは位置と距離だ。
例えば紙面上に2つの点を書いたとき、その2点の最短距離はどういう線になるだろうか。
それは直線だ。
2点間をまっすぐな線で結べば、その長さが最短距離になる。直感的にも明らかだ。
しかし、この考えのもとで実際に地図を見ながら歩いてみると、面倒が起きることがある。
例えば、目の前に山がそびえていたらどうだろう。極端に尖った大きい山だったら、横回りの方が距離は短いかも。
2点間を結ぶ直線が必ず最短距離になるのは、紙面のような、縦と横の2つの次元を考えれば良い場合だけだ。
横、縦、奥行きの3次元空間での最短距離は、一般に直線にならない。
じゃあどうするのかと言うと、仕方ないので、まっすぐ進んでいるように見える線を全て探して距離をくらべてみるしかない。その中で一番短いものを見つけたら、それが最短距離だ。
例えば山の例では、縦走している者を真横から見ると弧を描いて進んでいるように見える一方、真上から見ればまっすぐ進んでいるように見える。逆に、横回りしている者を上から見ると弧を描いているように見える一方、それを真横から見ると直線上を動いているように見える。
このように、ある区間をまっすぐ進んでいるように見える線を、測地線と呼ぶ。本当はまっすぐ進むということを、測地的曲率が0になるという風に定義するけれど、正確な解説は成書に譲ることとする。
測地線は応用が効くので、導入しておくと便利な概念だ。
ここから実際に、測地線を使った調査に移りたいと思う。
ダンジョンは4次元以上の空間だ。ところが、普通僕たちは横、縦、奥行きの3次元しか認識していない。
3次元的にはまっすぐ歩いているつもりでも、4次元の世界から見たらぐにゃりと曲がっているかもしれない。
紙の地図を指でなぞってまっすぐに進んでいるつもりでも、実は山に登っているかもしれないのと同じように。
しかし、空間の曲がりを見ることは、僕たちにはとても難しい。
「よし、準備できた」
こういう時は、魔法を使えば良い。魔法はどんな次元でも使えて便利だ。
まず、部屋の壁一面に魔法陣を展開しておく。描くのは大変なので、射影で写しておくと簡単だ。魔法陣の影をのばしておけばいい。
次に、魔力光を壁に向かってまっすぐ照射する。
魔力光線は見かけ上真っ直ぐに見えたとしても、空間の形にそって曲がって進んでいて、その後で壁の魔法陣に当たる。
そして魔法陣で反射して帰って来るので、この反射光を検出器で測定する。
これを色んな方向で試して、結果を解析すれば空間の情報が取得できる。
僕が歩く代わりに、魔力光をまっすぐ飛ばして調べるというわけだ。この際、魔力光の軌跡は測地線となり、その軌道から空間の曲がり方を算出できる。
光に限らず、様々な作用の軌跡が測地線になる。これはとても基本的な原理から導かれる結果だ。
もし成立しないのであれば、超然現象の影響が強いことが言える。
魔力光が何もない所で途切れたり、変な動きをしたりすれば、この超階が非常に超自然的であることが示される。
調査を続けていると、朝陽のような明光とともに入口の扉が吹き飛んできた。
「大丈夫かっ!?」
「ああ先生、お迎えありがとうございます。測定が終わるまでもう少し待ってください。ところで、何やら大勢でいらっしゃって、どうされたんですか?」
「術理院会員はこれだからな…」
先生は盛大にため息をついて、マヒロ君とリズィちゃんを起こしにかかった。
「とんでもありません。ところでるー君、その格好は、もしや荒事ですか?ならば不肖わたくし、惡魔の端くれとして、全ての害敵を消し去りましょう」
白いブラウスに深紅のネクタイを巻き、その上から黒い礼装を着た惡魔の莫大な魔力が、さらにデタラメになる。
「害なす悪魔は召喚の余波で消し飛んじゃったから、もう大丈夫」
「ああ、さっきのあれ…。たかが事務員の前に立つことさえできないとは、軟弱ですね。ああ、るー君、頬が汚れてしまっていますよ。綺麗にするので、動かないで…」
惡魔の事務員さんは黒手袋の先に持ったハンカチで僕の顔を拭いてくれた。
「ありがとう。それで、呼んだ理由なんだけれど、パーティメンバーがふたり死んじゃって。召喚の余波で身体も消えちゃったんだ。それをうまいこと生き返らせて欲しい」
「なるほど、惡魔にとっては容易なことです。しかしるー君、蘇生といえば手順がありまして、對價を頂戴することになります」
「何をすれば良い?」
「命を全てか、姬樣の屋敷に向かってきて頂くかのどちらか、御選びください」
僕の召喚に応じてくれる惡魔たちは、今のところ全て地界にある屋敷に住んでいる。
そして、何かをお願いした時は毎回この2択を提示する。事実上の1択だ。
「屋敷に向かうよ。今回は何日くらい?」
「姬樣もるー君がいらっしゃるととても喜ばれます。きていただくのは、ふたりの蘇生となると、そうですね、三億年程度でしょうか」
「-----え?」
あまりの長期間に呆然とする。
「……んふふ、驚きました?」
ややあって、サニアさんが冗談めかして付け足し、僕にウインクした。
「びっくりしたなあ、もう。ちょっと本気かと思った」
「不肖わたくし、これでも惡魔なので、時にはそれらしく振る舞わなくてはなりません。それではるー君、前と同じ長さにてお願いします」
「よろしくね」
「姬樣以下、るー君にきて頂くことをたのしみにしていますね。後ほどお迎えに上がりますので、こちらをお持ちください」
僕はサニアさんから深紅の封筒に入った招待状を受け取り、大切にポケットにしまう。
「今日はどうもありがとう。本当に助かったよ」
「また、いつでもお喚びください」
サニアさんは深々と礼をすると、魔法陣の光と消えていった。
後ろを振り返ると、さっき死んでしまったふたりが静かに寝息をたてて横たわっている。まるで何事もなかったかのように。
「ふたりが起きるまでに、この超階を調査しておこう」
一般的に、地図で見たいのは位置と距離だ。
例えば紙面上に2つの点を書いたとき、その2点の最短距離はどういう線になるだろうか。
それは直線だ。
2点間をまっすぐな線で結べば、その長さが最短距離になる。直感的にも明らかだ。
しかし、この考えのもとで実際に地図を見ながら歩いてみると、面倒が起きることがある。
例えば、目の前に山がそびえていたらどうだろう。極端に尖った大きい山だったら、横回りの方が距離は短いかも。
2点間を結ぶ直線が必ず最短距離になるのは、紙面のような、縦と横の2つの次元を考えれば良い場合だけだ。
横、縦、奥行きの3次元空間での最短距離は、一般に直線にならない。
じゃあどうするのかと言うと、仕方ないので、まっすぐ進んでいるように見える線を全て探して距離をくらべてみるしかない。その中で一番短いものを見つけたら、それが最短距離だ。
例えば山の例では、縦走している者を真横から見ると弧を描いて進んでいるように見える一方、真上から見ればまっすぐ進んでいるように見える。逆に、横回りしている者を上から見ると弧を描いているように見える一方、それを真横から見ると直線上を動いているように見える。
このように、ある区間をまっすぐ進んでいるように見える線を、測地線と呼ぶ。本当はまっすぐ進むということを、測地的曲率が0になるという風に定義するけれど、正確な解説は成書に譲ることとする。
測地線は応用が効くので、導入しておくと便利な概念だ。
ここから実際に、測地線を使った調査に移りたいと思う。
ダンジョンは4次元以上の空間だ。ところが、普通僕たちは横、縦、奥行きの3次元しか認識していない。
3次元的にはまっすぐ歩いているつもりでも、4次元の世界から見たらぐにゃりと曲がっているかもしれない。
紙の地図を指でなぞってまっすぐに進んでいるつもりでも、実は山に登っているかもしれないのと同じように。
しかし、空間の曲がりを見ることは、僕たちにはとても難しい。
「よし、準備できた」
こういう時は、魔法を使えば良い。魔法はどんな次元でも使えて便利だ。
まず、部屋の壁一面に魔法陣を展開しておく。描くのは大変なので、射影で写しておくと簡単だ。魔法陣の影をのばしておけばいい。
次に、魔力光を壁に向かってまっすぐ照射する。
魔力光線は見かけ上真っ直ぐに見えたとしても、空間の形にそって曲がって進んでいて、その後で壁の魔法陣に当たる。
そして魔法陣で反射して帰って来るので、この反射光を検出器で測定する。
これを色んな方向で試して、結果を解析すれば空間の情報が取得できる。
僕が歩く代わりに、魔力光をまっすぐ飛ばして調べるというわけだ。この際、魔力光の軌跡は測地線となり、その軌道から空間の曲がり方を算出できる。
光に限らず、様々な作用の軌跡が測地線になる。これはとても基本的な原理から導かれる結果だ。
もし成立しないのであれば、超然現象の影響が強いことが言える。
魔力光が何もない所で途切れたり、変な動きをしたりすれば、この超階が非常に超自然的であることが示される。
調査を続けていると、朝陽のような明光とともに入口の扉が吹き飛んできた。
「大丈夫かっ!?」
「ああ先生、お迎えありがとうございます。測定が終わるまでもう少し待ってください。ところで、何やら大勢でいらっしゃって、どうされたんですか?」
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