異世界召喚でわかる魔法工学

M. Chikafuji

文字の大きさ
39 / 56
Chapter 4 一般の場合

4.3 Tetration

しおりを挟む
 《魔王城》は複数の入口から続く経路が、徐々に集約されていく構造だ。ブレイドメル近郊きんこうから入って、第1の合流地点は8階層にあった。

 合流地点にはベースキャンプが設営され、これはさらに深い階層を攻略するための拠点となる。

 広大で開放的なフロアには既にいくつかの簡易建築や天幕が並び、宿屋や冒険者ギルドの出張所が構えてあった。
 その他、多くの露店商が冒険者相手に商売をしており、全体として活気に沸いている。

「既に市場が形成されている.ベースキャンプの整備はよく進んでいるようだ」

「想像していたよりも浅層は、行儀がいいね。昔はキャンプを積極的に攻撃する魔王もいたらしいから」

 ダンジョンマスターは、魔力さえあればダンジョン内の規定を自由に変えることができる。

 ただし自由といっても、“魔王城はダンジョンではなく獣人族ヒューマルである”というような自由すぎる規定では、僕たちはそもそも入ることができないので成立しない。

 僕たちの住む世界と繋がるダンジョン、という時点で、ダンジョン内の規定はある程度の制約を受けるのだ。

 僕たちの住む世界による制約は強力で、例えば以下のような攻略不可能なダンジョンは僕たちの世界には普通出現しない。

規定1) 《魔王城》には勇者パーティしか入れない
規定2) 《魔王城》は勇者パーティには攻略できない

 ところが、ダンジョン内で超然現象が発生すると、普通ではあり得ない規定が実現することがある。
 そうなると勇者による攻略ができなくなる恐れがあるので、有り得ない規定を解消する必要がでてくる。

 術理院ではこの場合、ダンジョンの“特異点”に注目する。

 ダンジョンの特異点とは、超然現象の影響を受けたダンジョン内の特異な構造のことだ。特異点が増えるほど、ダンジョン内で有り得ない規定が実現しやすくなることが知られている。

 逆に、この特異点を解消して、特異な構造を自然な構造に変えることで、ダンジョン内の特異な規定が解消されることも、また知られている。

「まずは,特異点の分布を大まかに調べるか」

「そうだね。そのうちクレイトン+も来るだろうし」

 幅広い階層で特異点の分布を調べたい。ただし、1階層ずつ進んでいくのは時間がかかるので、ショートカットする。

 ダンジョン内で階層間の移動を担う構造は階段だ。そして僕たちはこれまでに、階層を移動する際の魔力応答をゴーレムの演算機能で解析してある。

「手始めにランク2の階層まで進むとしよう」

「そうだね。順に進めたいし…ん? エピックマンの後ろに魔力応答だ」

Caution注意Magion detected魔力検出

 歩く緑鎧の後ろに、僕のではない魔法陣が出現している。すぐに、大きな赤いハットを被って長い杖を抱えた女の子が姿を表した。

「エピ兄さま、ランク2ってどのくらいなの?」

「リズィか.《魔王城》にいることは予想していたが,もうワープができるようになったとは.進歩が早いな」

「転移魔法はちょうど練習中よ。鎧が見えたから来てみたら、ルークンもいたのね」

 肩に乗せられた緑のガントレットを硬いと払うこの娘は、リズィ・ロザリンドという。この間お世話になったロザリィさんの子どもで、僕とは入門クエストでパーティを組んだ仲だ。

 そして遠くから、珍しい黒服に身を包み、細身の剣を腰に差した男の子が走ってくる。

「リズィ、勝手に動くなって…エピックマン!? それにルークンも?」

「マヒロも来ていたか.《ドラゴンケイブ》以来だな」

「ふたりとも久しぶり。エピックマンとも知り合いだったんだね」

 マヒロ君は異世界からの召喚者で、僕の担当エリアにて対応したことがある。

 マヒロ君とリズィちゃんは一緒に旅をしていて、エピックマンとも共同でクエストをしたことがあるようだ。

 僕とクエストに行った時は銅星1だったのに、この短期間で随分と成長したみたいだな。

 エピックマンは、咳ばらいをして僕たちの注目を集めた。

「ランクについて述べよう.調査の便宜べんぎ上,我々は有限数の大きさを0から21のランクに区分している.冒険者ギルドの星等級分類に近い」

「ふぅん。ランク2っていうなら、リズィたちも少し深くまで行くから、途中まで一緒に行かない?」

 エピックマンは首を横に振る。

「銀星等級の冒険者では,これから行くランク2の階層は危険だ」

「エピックマンも銀星等級じゃないか。うちのパーティには金星のロザリィさんもいるよ」

「認識に違いがある.まずはそれを正そう」

 エピックマンはかがみこんで目線を合わせ、ふたりに説明する。

「0から6までの数,これがランク0だ」

「なら、ここは8階で6より大きいから、ランク1でしょ? あと少しじゃない」

「ランク1の範囲は6から100万だ」

 マヒロ君とリズィちゃんが固まる。

「ひゃ、百万って、そんなにあるのかよ?」

「6から一気に増えすぎよ!」

 困惑する顔に、エピックマンは魔力板を見せる。

「そして,ランク2の範囲は100万から,ここまでだ」

「何よこれ!? えーっと、百万が1,000,000だから0が6個でしょ。だからこれは、えーっと、これ、どこまで続くの?」

「0が100万個ある」

「馬鹿じゃないの!?」

 0をたくさん書くのは大変なので、0が100万個あることを以下のように表記する。

10↑1,000,000

 この↑は、10を何個かけ算するかを表していて、今は10を100万個掛けた数になっている。

 小さい数から例にとっていくと、

10↑1=10
10↑2=10×10=100
10↑3=10×10×10=1,000
10↑6=10×10×10×10×10×10=1,000,000

 100万を10↑6と表せるので、10を100万回かけた数、すなわち1の後ろに0が100万個ならぶ数は、次のようになる。

10↑1,000,000=10↑10↑6

この書き方ではランク1は、
6から10↑6
までの範囲。

ランク2は、
10↑6から10↑10↑6
までの範囲になる。

「ランク2の上限は,1の後ろに,100万個だけ,0を並べた数,だった.ランク3では,1の後ろに,0が100万個ある数だけ,0を並べた数,が上限となる」

「もういいわ。もういい」

ランク3は、
10↑10↑6
から、
10↑10↑10↑6
までの数になる。

ランク4は、
10↑10↑10↑6
から、
10↑10↑10↑10↑6
までの数になる。

ランク5は、
10↑10↑10↑10↑6
から、
10↑10↑10↑10↑10↑6
までの数になる。

 数はどんどん増やせるけれど、このままだと表記が長くなってしまう。そこで、↑が10回出てくる時にまとめてしまって、次の書き方を始める。

10↑↑10
=10↑10↑10↑10↑10↑10↑10↑10↑10↑10

 これがランク6だ。
 同様に、以下の数を作る。

10↑↑↑10
=10↑↑10↑↑10↑↑10↑↑10↑↑10↑↑10↑↑10↑↑10↑↑10

 これは、↑↑が10回出てくる数であり、↑が100回出てくる数となる。

 この10↑↑↑10がランク7。

 21まであるランクのうち、7程度でさえ、数をイメージすることは僕たちには難しい。

 なお、ランク8はもっとずっとずっと大きくなるから、また後で考えることにしよう。

「我々は少なくともランク8の階層までは確認する予定だ」

「もうエピ兄たちが魔王倒しなさいよ」

「我々の目的は魔王にはなく,《魔王城》そのものにある」

 僕たちの目的は、超然現象の影響を《魔王城》から無くして、勇者が攻略可能な、自然な状態を保つことだ。

 幸い、特異点と呼ばれる構造を解消することで、超自然的影響を無くすことができる。

「僕たちは魔王の討伐依頼じゃなくて、《魔王城》の攻略そのものについて依頼を受けているんだよ。だから、第29代魔王がいるよりも深くまで進むんだ」

「そういうものなのね」

「ところで、ルークン達はそんな高ランクの階層までどうやって行くんだ?」

 質問にどう答えようか迷っていると、エピックマンがマヒロ君とリズィちゃんの前にゴーレムを持ってきた。

 颯爽さっそうと地面に立たせたゴーレムの頭に、ガシンと手を据える緑の全身鎧。

「マイティ・マジカル・ジェットパックだ!」

「俺には……ゴーレムに見える」

 エピックマンは腰を屈め、マヒロ君の前で兜を傾げる。
 
「マイティ・マジカル・ジェットパックを知っているのか?」

「いや、知らないけど…」

「これがそうだ」

 堂に入った態度でゴリ押すエピックマン。

 通常、階層の移動は、現在の階層に+1する操作と対応する。今は8階層にいるので、階段を用いて移動していくと、自分のいる階層が次のように増えていく。

8 + 1 = 9
9 + 1 = 10
10 + 1 = 11 

 階段で階層を移動するのに1しか増えないと、深い階層にいくのに時間がかかる。そこで、魔法を用いて+1の操作を変更する。例えば+1を+2という操作に変えれば、もっと早く進める

8 + 2 = 10
10 + 2 = 12
12 + 2 = 14

 さらに言えば、↑2という操作に変えると、10階層から階段を3回利用するだけで1億階層まで進める。

10↑2 = 100
100↑2 = 10,000
10,000↑2 = 100,000,000

 僕たちが階段で階層を移動する際に、ダンジョンコアにクラッキングCrackingをかける魔法を作用させれば、このような操作を実現できる。

「マイティ・マジカル・ジェットパックにより,深層へのジェット・ワープが可能となる!」

「というわけだから、僕たちは先に進むよ」

 マイティ・マジカル・ジェットパックを用いて魔法を作用させ、僕たちは階層を移動した。




 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

処理中です...