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Chapter 4 一般の場合
4.9 Transformation
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クレイトン+が階段にクラッキングをかけ、僕と姫様は13階層まで下ってきた。
【第29代魔王、なんか宿ってない?】
【魔神ですね。私の推定では】
聞きたくなかった。
【魔神が意志を持って、実世界に介入してくるわけ?】
【言ったでしょう、面倒な例外だと】
魔神は僕たちの住む世界に実在するモンスターに関連する神とされている。
終わりなき殺意で襲ってくるのは間違いないし、逆に討伐なんかしてしまえば、僕たちの世界に影響が出るだろう。
そもそも神の相手は僕たちには難しい。ただ、実在するのは宿主である魔王だと考えれば何とかなるかな?
【召喚勇者と魔王に神が宿って、半神もいて、《魔王城》の中だけ神話時代みたいだ】
【無駄口を叩かずに、作業に集中してください】
【ごめんごめん。特異点がある浅層は惡魔でも動きやすいから、つい口もね】
【まずは、手分けして賢しい召喚者を処理していきましょう】
クレイトン+が召喚者向けに作成したGUIは、超自然的な能力の存在に気付かれにくい基本設計がなされている。
ところが、超然能力に気付いて使いこなす召喚者も一定数いるらしい。
後でまとめて対応するために、超然能力を行使する勇者の位置は、限られた範囲内に絞りこんでおく必要がある。
【設計不備を運用でカバーとは、我ながら情けない話です】
【召喚者自体が超自然的だし、設計不備とは違うと思うよ】
【こうして手作業に頼ることを、不備と呼びます】
特記事項として、この階層にいる勇者2名はそれぞれ以下の固有スキルを備えているとのこと。
1) モンスターの使役
2) 任意対象への変身
ひょっとすると、惡魔である僕や姫様が使役されたり、変身対象にされたりするかもしれない。
詳細は良くわからないものの、これらはある種の変換魔法と解釈できるだろう。
1) モンスターの状態について、通常状態から使役状態に、変換する魔法現象
2) 自分自身の状態について、通常状態から変身状態に、変換する魔法現象
そしてこれらの変換が作用するとき、変換の前後で変化しないもの、すなわち、変換に対して対称性のある構造があるはずだ。
例えば、使役や変身した際に、モンスターや自分自身が完全に消え去ってしまうといった不便な現象は起きないと推定される。
この場合、モンスターや自分自身について、変換の前後で変化しない部分があると言える。つまり、変換に対して対称性を有する構造があると解釈できる。
こういう対称性に注目し、変換魔法が作用した際の魔力応答を解析するというのが、僕がよくやるアプローチだ。
ただし今回は既にクレイトン+がGUIへの入出力情報を解析している。その解析結果から、魔法に必要な魔力応答はあらかじめ分かっている。
時間もないから、力業になりそうだ。
曲がり角から姿を現した勇者の女の子に、僕はお辞儀をした。
「こんにちは」
「こ、こんにちは…?」
怯えた様子を見せる彼女を守るように、大きい狼の形質を有するモンスター、フェンリルが前に出て低く唸った。まともに攻撃を受けたらすぐに粉砕されそうな威圧感だ。
「もうひとり、勇者を見ませんでしたか? この近くにいるはずなんですが」
「あ、あの、あなた達はいったい、誰…ですか?」
「僕たちは魔王の手先で、神の力を有する勇者を消して回れと言われています」
無言で後ずさる勇者に、僕はバッグから小袋を取り出して見せる。さっき魔王から貰ったものだ。
「シュークリーム!? そ、それ! どこでっ」
「勇者を消す。つまり、元の世界へ送還しようと、異世界から来た勇者を探しているんですよ」
「元の世界…。い、家に帰れるんですか?」
「魔法により送還可能です」
特異な固有スキルに代表される、神に付与された能力を魔力源に用いることで、簡単に行き来できない超自然的な召喚に対しても、送還を実現できる。
僕はしゅーくりーむの袋をしまい、代わりに魔導書を取り出した。
「送還の拒否は、おすすめできない事態を招くと思います。例えば、」
「こんな事態のこと?」
背後からした声に振り向くと、眠っている姫様の首元にナイフを突きつけた男の子が僕を睨んでいた。
【Caution: Enemy Attacking】
【Using autospell (動法《並進:[100]》)】
受け得る攻撃の先進波を魔法で検出し、横移動の自動詠唱で緊急回避した。その僕の身体に、小さな瓦礫が弾け飛んでくる。
フェンリルの突撃により、壊れないはずのダンジョンの床面が瓦解している。《魔王城》の構造物そのものを損傷するほどの1撃は、やはりとても危険だ。
危機回避システムが突破されると死んでしまうので、妙なことをされる前に僕は魔力を行使した。
すると、勇者の男の子がナイフを突きつけていた姫様は、ただのクッションに戻った。
僕が持ち込んだクッションは合成スライムで作られていて、魔力次第で任意の物性を満足する。だから、魔力操作によって動かしたり、色々な応用が効く。
普通は精巧なドールみたいに操作するのは不可能だけれど、現階層は普通じゃなくて、極端に言えば何でも起こり得る。
神の力で超自然的な振る舞いが許されており、今の僕は惡魔で、さらに姫様の魔力の一部を行使できる。であれば、感覚的にはクッションを身代わりにすることも簡単だ。
警戒したように距離を取る勇者達に、僕はさっきと同じ調子で話しかける。
「お探しの姬樣は特異点にいるので、認識しにくいでしょう。ところで、どうして僕たちに攻撃を?」
「願望を利用して騙すのが悪魔。僕たちを騙すならもう少しうまくやるんだね」
「希望を与えて後から取り上げるなんて、…酷いことを」
悪魔に何かされたことがあるんだろうか。
魔王の袋を出しても信用を得られないとは。
「信じて貰えないのは残念ですが、君たちに帰郷願望はあると解釈します」
僕は説得を止め、動法《転進》で姫様の近くまで戻った。そして、姫様の魔力を遮断するように構築していた防衛魔法を解除した。
ただちに勇者達と使役されていたフェンリルが絶命し、姫様の手に魂が握られる。
僕はそれらを急いで取り上げ、勇者ふたりの魂を選別した。
力業。まるで惡魔の所業だ。
「ねえ、かしあありあの食む魂」
「この2つは、ちゃんと還してあげないといけません」
「こっちの墮落した知性は缺片だけなのに」
特異点に染みつく姫様は不満を漏らしながらも、使役されていたモンスターの魂を食む。
僕は姫様を特異点から降ろし、その特異点を解消する魔法を行使した。
あと、勇者のふたりは元の世界に戻しておいた。
超自然的に召喚された対象が存在する、あるいは存在した。これらの現象は本当に不安定で、甚大な、とてつもなく甚大な魔力を要する。
死ぬ前の時間に戻して元の世界に送還する方が、遥かに簡単な程に。
僕たちの住む世界では、時間は過去から未来に向けて一方向に進んでいく。
前後左右に動き回れる空間と違って、時間では動きに制約があるのが特徴的だ。
もちろん魔法を用いれば、時間の中で、空間と同じように逆方向への動きを扱うことはできる。具体的な応用としては、さっき機能したような、先進波を利用した危機管理システムがある。
もっとも、長い時間を遡るほどに甚大な魔力が必要になり、様々な制約も生まれる。日常的な意味で時間を逆行できるとしたら、本当に類稀なることだ。
送還を済ませた後、別の階層にいるクレイトン+と状況を報告し合う。
【こちらは順調です。ルークンと連携すると魔法がサクサクで良いですね。引き続きテンポ良く処理していきましょう】
【本当は、ひとりひとりと面談してから送還したいんだけれど】
【必要な魔力応答はGUIへの入出力情報から取得済みではないですか】
クレイトン+のGUIで魔法やスキルを操作したことがあれば、その入出力を解析することで、使用者に特有な魔力応答が精度よく取得できる。
視界に表示される画面を見たり触ったり、あるいは発声や注視だけで魔法やスキルが使えるのであれば、良く知らなければ便利に使ってしまうだろう。
クレイトン+は、そうやって集めた魔力応答を利用して召喚者の魔法を禁制することで無力化し、片っ端から強制送還しているようだ。
【集団召喚において面談など非効率です。召喚者が暴力を振るってくるケースもあり、むしろ回避すべきリスクです】
【効率ばっかり追い求めるのもなあ】
視界に映る《魔王城》の階層グラフを見ると、クレイトン+の担当領域では召喚勇者を示す黄色の印がほぼ消失していた。
僕の10倍以上の範囲を請け負ったクレイトン+の仕事により、勇者たちの分布は特定の経路に早くも集中しつつある。
【王都の働き方はおかしいよ】
【超自然的かどうかを問わず、殺して強制送還することを前提に自動処理すると高効率ですよ】
【勇者たちは悪意を振りまいてるわけでもないのに、自動処理っていうのはあまりにも心が…】
【心とやらを気にして手遅れになれば犠牲が増えます。結果が全てです】
クレイトン+の感覚は、僕たちの住む世界からかなり逸脱しているように感じる。こんな調子でよく術理院外で生活できるな。
【第29代魔王、なんか宿ってない?】
【魔神ですね。私の推定では】
聞きたくなかった。
【魔神が意志を持って、実世界に介入してくるわけ?】
【言ったでしょう、面倒な例外だと】
魔神は僕たちの住む世界に実在するモンスターに関連する神とされている。
終わりなき殺意で襲ってくるのは間違いないし、逆に討伐なんかしてしまえば、僕たちの世界に影響が出るだろう。
そもそも神の相手は僕たちには難しい。ただ、実在するのは宿主である魔王だと考えれば何とかなるかな?
【召喚勇者と魔王に神が宿って、半神もいて、《魔王城》の中だけ神話時代みたいだ】
【無駄口を叩かずに、作業に集中してください】
【ごめんごめん。特異点がある浅層は惡魔でも動きやすいから、つい口もね】
【まずは、手分けして賢しい召喚者を処理していきましょう】
クレイトン+が召喚者向けに作成したGUIは、超自然的な能力の存在に気付かれにくい基本設計がなされている。
ところが、超然能力に気付いて使いこなす召喚者も一定数いるらしい。
後でまとめて対応するために、超然能力を行使する勇者の位置は、限られた範囲内に絞りこんでおく必要がある。
【設計不備を運用でカバーとは、我ながら情けない話です】
【召喚者自体が超自然的だし、設計不備とは違うと思うよ】
【こうして手作業に頼ることを、不備と呼びます】
特記事項として、この階層にいる勇者2名はそれぞれ以下の固有スキルを備えているとのこと。
1) モンスターの使役
2) 任意対象への変身
ひょっとすると、惡魔である僕や姫様が使役されたり、変身対象にされたりするかもしれない。
詳細は良くわからないものの、これらはある種の変換魔法と解釈できるだろう。
1) モンスターの状態について、通常状態から使役状態に、変換する魔法現象
2) 自分自身の状態について、通常状態から変身状態に、変換する魔法現象
そしてこれらの変換が作用するとき、変換の前後で変化しないもの、すなわち、変換に対して対称性のある構造があるはずだ。
例えば、使役や変身した際に、モンスターや自分自身が完全に消え去ってしまうといった不便な現象は起きないと推定される。
この場合、モンスターや自分自身について、変換の前後で変化しない部分があると言える。つまり、変換に対して対称性を有する構造があると解釈できる。
こういう対称性に注目し、変換魔法が作用した際の魔力応答を解析するというのが、僕がよくやるアプローチだ。
ただし今回は既にクレイトン+がGUIへの入出力情報を解析している。その解析結果から、魔法に必要な魔力応答はあらかじめ分かっている。
時間もないから、力業になりそうだ。
曲がり角から姿を現した勇者の女の子に、僕はお辞儀をした。
「こんにちは」
「こ、こんにちは…?」
怯えた様子を見せる彼女を守るように、大きい狼の形質を有するモンスター、フェンリルが前に出て低く唸った。まともに攻撃を受けたらすぐに粉砕されそうな威圧感だ。
「もうひとり、勇者を見ませんでしたか? この近くにいるはずなんですが」
「あ、あの、あなた達はいったい、誰…ですか?」
「僕たちは魔王の手先で、神の力を有する勇者を消して回れと言われています」
無言で後ずさる勇者に、僕はバッグから小袋を取り出して見せる。さっき魔王から貰ったものだ。
「シュークリーム!? そ、それ! どこでっ」
「勇者を消す。つまり、元の世界へ送還しようと、異世界から来た勇者を探しているんですよ」
「元の世界…。い、家に帰れるんですか?」
「魔法により送還可能です」
特異な固有スキルに代表される、神に付与された能力を魔力源に用いることで、簡単に行き来できない超自然的な召喚に対しても、送還を実現できる。
僕はしゅーくりーむの袋をしまい、代わりに魔導書を取り出した。
「送還の拒否は、おすすめできない事態を招くと思います。例えば、」
「こんな事態のこと?」
背後からした声に振り向くと、眠っている姫様の首元にナイフを突きつけた男の子が僕を睨んでいた。
【Caution: Enemy Attacking】
【Using autospell (動法《並進:[100]》)】
受け得る攻撃の先進波を魔法で検出し、横移動の自動詠唱で緊急回避した。その僕の身体に、小さな瓦礫が弾け飛んでくる。
フェンリルの突撃により、壊れないはずのダンジョンの床面が瓦解している。《魔王城》の構造物そのものを損傷するほどの1撃は、やはりとても危険だ。
危機回避システムが突破されると死んでしまうので、妙なことをされる前に僕は魔力を行使した。
すると、勇者の男の子がナイフを突きつけていた姫様は、ただのクッションに戻った。
僕が持ち込んだクッションは合成スライムで作られていて、魔力次第で任意の物性を満足する。だから、魔力操作によって動かしたり、色々な応用が効く。
普通は精巧なドールみたいに操作するのは不可能だけれど、現階層は普通じゃなくて、極端に言えば何でも起こり得る。
神の力で超自然的な振る舞いが許されており、今の僕は惡魔で、さらに姫様の魔力の一部を行使できる。であれば、感覚的にはクッションを身代わりにすることも簡単だ。
警戒したように距離を取る勇者達に、僕はさっきと同じ調子で話しかける。
「お探しの姬樣は特異点にいるので、認識しにくいでしょう。ところで、どうして僕たちに攻撃を?」
「願望を利用して騙すのが悪魔。僕たちを騙すならもう少しうまくやるんだね」
「希望を与えて後から取り上げるなんて、…酷いことを」
悪魔に何かされたことがあるんだろうか。
魔王の袋を出しても信用を得られないとは。
「信じて貰えないのは残念ですが、君たちに帰郷願望はあると解釈します」
僕は説得を止め、動法《転進》で姫様の近くまで戻った。そして、姫様の魔力を遮断するように構築していた防衛魔法を解除した。
ただちに勇者達と使役されていたフェンリルが絶命し、姫様の手に魂が握られる。
僕はそれらを急いで取り上げ、勇者ふたりの魂を選別した。
力業。まるで惡魔の所業だ。
「ねえ、かしあありあの食む魂」
「この2つは、ちゃんと還してあげないといけません」
「こっちの墮落した知性は缺片だけなのに」
特異点に染みつく姫様は不満を漏らしながらも、使役されていたモンスターの魂を食む。
僕は姫様を特異点から降ろし、その特異点を解消する魔法を行使した。
あと、勇者のふたりは元の世界に戻しておいた。
超自然的に召喚された対象が存在する、あるいは存在した。これらの現象は本当に不安定で、甚大な、とてつもなく甚大な魔力を要する。
死ぬ前の時間に戻して元の世界に送還する方が、遥かに簡単な程に。
僕たちの住む世界では、時間は過去から未来に向けて一方向に進んでいく。
前後左右に動き回れる空間と違って、時間では動きに制約があるのが特徴的だ。
もちろん魔法を用いれば、時間の中で、空間と同じように逆方向への動きを扱うことはできる。具体的な応用としては、さっき機能したような、先進波を利用した危機管理システムがある。
もっとも、長い時間を遡るほどに甚大な魔力が必要になり、様々な制約も生まれる。日常的な意味で時間を逆行できるとしたら、本当に類稀なることだ。
送還を済ませた後、別の階層にいるクレイトン+と状況を報告し合う。
【こちらは順調です。ルークンと連携すると魔法がサクサクで良いですね。引き続きテンポ良く処理していきましょう】
【本当は、ひとりひとりと面談してから送還したいんだけれど】
【必要な魔力応答はGUIへの入出力情報から取得済みではないですか】
クレイトン+のGUIで魔法やスキルを操作したことがあれば、その入出力を解析することで、使用者に特有な魔力応答が精度よく取得できる。
視界に表示される画面を見たり触ったり、あるいは発声や注視だけで魔法やスキルが使えるのであれば、良く知らなければ便利に使ってしまうだろう。
クレイトン+は、そうやって集めた魔力応答を利用して召喚者の魔法を禁制することで無力化し、片っ端から強制送還しているようだ。
【集団召喚において面談など非効率です。召喚者が暴力を振るってくるケースもあり、むしろ回避すべきリスクです】
【効率ばっかり追い求めるのもなあ】
視界に映る《魔王城》の階層グラフを見ると、クレイトン+の担当領域では召喚勇者を示す黄色の印がほぼ消失していた。
僕の10倍以上の範囲を請け負ったクレイトン+の仕事により、勇者たちの分布は特定の経路に早くも集中しつつある。
【王都の働き方はおかしいよ】
【超自然的かどうかを問わず、殺して強制送還することを前提に自動処理すると高効率ですよ】
【勇者たちは悪意を振りまいてるわけでもないのに、自動処理っていうのはあまりにも心が…】
【心とやらを気にして手遅れになれば犠牲が増えます。結果が全てです】
クレイトン+の感覚は、僕たちの住む世界からかなり逸脱しているように感じる。こんな調子でよく術理院外で生活できるな。
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信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。
少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。
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※お気に入り、感想がありましたら励みになります
※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。
※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります
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