異世界召喚でわかる魔法工学

M. Chikafuji

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Chapter 4 一般の場合

4.10 Logistic map

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 集団召喚組に属する勇者を送還して、特異点を解消して回っているうちに、僕はくたびれていた。

「しんどい」

「みんないつかそうなるの。ルーン、かしあありあと魂を食も」

「あむ。んむんむ…」

 47階層の特異点で姫様とよどむ。

【馬鹿正直に会話や送還魔法を実行しているから疲弊するんですよ】

【それぞれに心があるんだから、誠実に対応してあげないと】
 
【心がどうであれ、特異点の範囲も上手く限定されてきました】

 クレイトン+から僕の魔力板にデータが共有される。
 魔力板に表示された図は《魔王城》浅層の特異点の分布を示したもので、上に行くほど階層が浅く、下に行くほど深い階層を表す。



【うわ、さっきと全然違う。典型的なカオスだ】

【典型的、つまりカオスに振る舞う領域は限定されています。そしてこの領域は、召喚勇者を抑え込んだ範囲と概ね対応しています】

 いちばん下から線を辿ると、はじめは単なる分岐だけれど、少し進むと決まった範囲の中に乱雑に点が分布するようになる。かと思えば、いきなり窓が開いたみたいに点が少なくなるところがあったりして、全く先が読めない。
 
 たくさんの点は、限られた範囲の中にしか出てこない。しかし、これらの点がどこに出てくるかは、混沌としていて予測ができない。

 この予測できない範囲が《魔王城》全域に広がると大変なので、さっき絞り込んでいたというわけだ。

【それより、ルークンの方に何か来ていますね。ギルド所属ではないようで、詳細は不明です】

 起き上がろうとする僕を、姫様が引き留めた。
 姫様は僕を横から包み込むように腕を回していて、両手首にはめられた灰色のリングが僕のお腹にあたっている。

「そとは危険がいっぱいなの」

「そうはいっても、お客様ですし」

 次の瞬間、空間に寝そべる僕たちのお腹の前に、お客様の影がかかる。
 紅白の衣、巫女服を纏った女性は、大きく胸を張って語り掛けた。

「おやおや、お休みの所失礼したね」

「こちらこそ、お見苦しい所をすみません」

 この女性はラムネさんといって、僕たちの住む世界で暮らしている。

 具体的には、カミシマさんという異世界からの召喚者を、神様だとあがめる集団の巫女として。

「それはそうと何か御用ですか? ラムネさん」

「へえ! おーい聞いておくれよ神様、私たちも有名になったもの…っと、んん?」

「どうかしました?」

 後ろに手を振りかけたラムネさんは、僕たちを色々な角度から見物すると、赤いリボンが通った袖で口元を隠して妖しく笑った。

「くふ、くふふふ。なかなかどうして、楽しいことになっているようだね。名前は、なんて言ったかな?」

「墮落の地界は、かしあありあ。お世話はルーンがするの」

「私のことはラムネと呼んでくれたまえ。よしなにね」

 ラムネさんに少し遅れて、ふたりの奴隷少女を連れた男性が歩いてきた。先日に冒険者ギルドの酒場で会ったカミシマさんだ。

 僕は上体を起こし、特異点に腰かけるように浮かんだ。

「こちらは私たちの神様だよ」

「カミシマだ。二人は、ここで何を?」

「第29代魔王に言われて、神の力を用いる勇者を消して回っていたところです」

 僕の言葉に反応した奴隷ふたりが、ずいと前に出てくる。47階層には不釣り合いな粗末な貫頭衣と、魔道具らしい首輪を着けている。

 褐色肌の少女が、灰色の髪を揺らしながら僕に急ぎ寄った。

「その首輪、あなたも奴隷、です?」

「不本意ながら、そうなのかもしれませんね」

 もうひとりは、ふわりと癖のついた黒色の前髪をいじりながら首を傾げる。

「ますたぁがいるのに嫌があるの、はてな」

「ご主神様はみんなの、絶対な幸せ、です」

 ありとあらゆる奴隷の主君はカミシマさんであるという確信が伺える。そしてカミシマさんが絶対的に素晴らしい主君であると。

 崇高な輝きに満ちたふたりの間に、割り込むようにラムネさんが顔を覗かせた。

「総ての生と死から信仰されるべき神様は、総ての生と死に幸せをくれるのだよ」

「かしあありあは生と死も墮落の地界。幸せもいらないの」

「まあまあ、いらなくても受け取っておくれ」

「一応言っとくが、普通に断ってくれていいからな」

 カミシマさんの言葉に肩をすくめたラムネさんは、胸元から棒状の飴を取り出して僕に手渡した。

 僕が姫様の口元に持っていくと、ひと食みして動きを止めた。そして、自分から上体を起こして、僕の隣に腰かけるように浮かんだ。

「このおおきい墮落は、とても久しい」

不躾ぶしつけな神性のなれの果てさ」

「神の魂、こんなものどこで手に入れたんですか?」

「存在だけならともかく、勇者に宿って実在しているもんだから、とっちめてやったのさ」

 とっちめた、って。超然なる神をこんな形にするなんて。いったいどうやったんだろうか。

「くふふふ、実在する神様は唯一だよ。ねえ、エリちゃん」

「ん。だって、ますたぁのほかに、ますたぁはいないもん」

「間違ってこの世にいることを、教えてあげるだけ、です」

 信仰者から視線を集めるカミシマさんは、頭を片手で押さえた。

「そんなこと言われても、俺は何もしてないし、できないんだがな」

「私たちの信仰を受けとってくれているよ」

「ますたぁ、しゅきしゅき、だいしゅき…」

 複雑そうなカミシマさんの両側から抱き着くラムネさんとエリちゃんを背後に、アリサちゃんが姫様の前で無垢に笑いかける。

「カシアアリアちゃんも、ご主神様の奴隷に、なります」

 姫様は食みかけの魂を虚空にしまうと、腕を大きく斜めに伸ばしてあくびをした。

「キミの渴望は、かしあありあとの契約には至らないの」

 姫様はそう言うと、階段の方につい、と顔を向ける。やや遅れて、僕の視界にアラートが表示された。

【Caution: Magion Detected】

 暗がりに金色の瞳が浮かび、やがて星降ほしふるポンチョを羽織った猫獣人キャットヒューマルがゆっくりとこちらに歩いてきた。

 僕は姫様と特異点から地面に降りてクレインに近寄る。

「クレイン。こんな所でどうしたの?」

「どうしたもこうしたもないでしょう。休憩だけならまだしも、要員の引き抜きなど言語道断です」

 クレインはポンチョ背面のスリットから出したピンクブロンドの尻尾を左右に大きく振りながら、歩み寄った姫様と僕とすれ違うようにカミシマさんたちの前に出て、金色の両目を細めた。

「一方、勇者無力化への貢献は有難いことです。御礼に私から入信者をいくらか紹介させてください」

「これ以上増えてもな…」

「で、どこにいるんだい? その入信者たちとやらは」

「そうキョロキョロせずとも、後ほど出くわすでしょう」

 クレインがポンチョから飛び出ている尻尾の先をわずかに曲げた。

「勿論、それまで生き残っていればの話ですが」

 僕たちのいる階層に異変が起こり始めた。

 ダンジョンの階層構造を無視するような、酷く強引な現象が起きている。きっと空間はこんがらがってしまっているだろう。

 そして、その特殊な階層には、何やら不思議な誰かがいた。





「プルゥェェェェ(^_-)-☆ェェエエイイイイイアっ!!!?!?!?ぇン◎じェゥルっッアアアアぁぁぁあ~~♡♡♡、悪魔チャンΨΨ巫女しゃんメメメイドしゃんΦ猫耳Φしっぽ~~☆彡、ンわァァァァァ萌え=エモのぴょんがぴょん吉かぁ~~~!?!?!? まみむめもめむぅぅん? みんなが拙者のサモンでヤッホーというわけでは無さそうユユュ????、、、、ぎょむっぎょぎょむッ。。。解・決・完・了(`・ω・´)! 至極とうぜんの構えにて(シャキーン!!)、セイヤッサァっ=3=3と参りつかまつりそうろぅかぁ~~! ヌハァーーー(藁)おっとっとwww吾輩ついつい興奮して赤いお汁など、、、♡♡…みゅおっ、空に隙間っ、お 空 に 隙 間でござるっ。サモォォォォォン!!!???」





 僕たちみんなは無言でクレインに視線を送った。

 その、感極まり手首を自傷しながらまくし立てる、第29代魔王を指差して。




 
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