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Chapter 4 一般の場合
4.16 T-symmetry
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街に戻ってひと息ついた後でギルドに顔を出すと、魔力板にメッセージがきた。
【Hello, world!】
ギルド内を見渡してクレイトン+を探す。
クエストカウンターの奥に、椅子に押し込められたように座る大柄な猫獣人の中年男性を見つけた。あれがクレイトン+の分体かな?
疲れのにじむ顔で受付に座るカナリアoさんに聞いてみる。
「こんにちはカナリアoさん。あの奧の方は王都からきた要員ですか?」
「これは……こんにちは。仰る通り、彼は魔王への対応で不足している職員の応援で、シーボルと言います」
シーボルと名乗っているらしい中年男性は窮屈そうに椅子に座っていた。
黒い猫耳を立てながら、尋常ならざる速度で書類を確認したり、魔力板を操作したりと忙しない。
王都の仕事ぶりをあっけにとられて見ていると、シーボルは席を立ちあがって、黒い尻尾を不規則に揺らしながら、のしのしと歩いてきた。
「カナリアo、面倒な雑務の処理は完了しました。残りは急ぎではありませんし、他の職員で対応できる内容です」
「もう終えたのですか…。当ギルドでは王都とは変わった案件もあったかと思いますが、支障はありませんでしたか?」
「クエスト中に発生した冒険規定外の事態のうち、支障が出るのは、最終的に《グランドマスター》に報告が行かない場合のみです」
こっちをちらりと見るカナリアoさんにつられて、シーボルがぎょろりと顔を向ける。
無言の圧力をかけるふたりに、魔法収納から取り出したクレインの核を提出した。あの世界から転移する際にこっそり受け取っていたものだ。
「《魔王城》の情報がこの中に入っています」
「……シーボル、お願いしても?」
「請け負いましょう。当支部のギルド長と異なり、私は連続勤務に耐性があります」
カナリアoさんは呆れたようにため息を吐いた。
別室にて、シーボルは魔力板に接続した核を解析しながら低い声でぼやいた。
「惡魔の姿で今のギルドに顔を出すなど、馬鹿ですか貴方は」
「羽根と角は隱して、きがえてきたから良いでしょ」
「ギルドの受付職員は感じ取るものです。全く気の抜けたことを」
シーボルから僕の魔力板に情報が送られてきた。
送還された第29代魔王に変わる、行儀の良い魔王の特徴だ。
最前線の勇者は魔王の階層までは到達しているものの、未だ討伐には至っていないらしい。
「うわ、魔王は屍王なんだ。でも、猫獸人の形質は珍しいね」
「何者かが蘇生したクレインを魔王に据えたんですよ。屍王を生成するなど、惡魔の所業以外にありません」
クレインの核の解析を続けるシーボルは、瞳孔の開いた猫目を僕に向けた。
「何を迂闊なことをやってるんです、ルークン。いえ…今は敢えてルーンと呼称しても良いですが」
「僕のせいになるの? 姬樣がみんなを蘇生するのを手つだっただけだよ」
「みんな、にクレインを入れ込んだでしょう。総体としてのクレイトン+が生存しているのに、分体のクレインを蘇生した。その矛盾が屍王を生んだと推定されます」
僕にはそんなことまで予見できなかった。
シーボルは椅子の背から出した尻尾を激しく振り回している。
「さらに後処理もせずに《魔王城》から去ったようですね」
「目的は《魔王城》を自然な構造にすることだったからね」
「その結果が魔王クレインですよ。下手をすれば術理院会員が魔王に加担したと捉えられかねません」
「そんなの今さら言われても」
そもそもクレインは魔王の側近として加担していた事実があり、代理として魔王になるのは全く自然な流れだ。
魔王の情報源の解析をさらに続けるシーボルは、鼻を鳴らして目を細めた。
「…なるほど。神話時代の絶滅種族の目撃事例はこれですか。これは使える情報です」
「《魔王城》の奧にいた半神たち、この世界に実在できているんだね」
「カミシマという新奇な信仰対象の庇護下にねじ込めるようです。絶滅種族に関する面倒事は片っ端から押し付けて様子見ですね」
超自然的に実在している状態じゃなければ、絶滅した種族が生きていけるのは喜ばしいことだと思う。
核の解析を終えたらしいシーボルはこれからまた雑務だと立ち上がり、尻尾を左右にパタパタと振っている。
「そういえば、エピックマンは? 先に離脫してたよね」
「エピックマンは《タイム・ダッシュ》の最中です。ちょうど、来るようですね」
労多き男の哀愁を漂わせるシーボルは、伏せていた黒い猫耳を不意にピンと立ててドアの方に視線を送る。
緑の全身鎧はちょうど扉を通る所だった。
「前に進み続ける朋友よ,終焉まで剣を下ろさない者共よ,共闘の誓いは未だこの胸に!!」
「首尾はどうですか、エピックマン」
「まったく,少しは雰囲気に浸らせろ」
右のガントレットとシーボルの尻尾を結ぶ放物線上を、クレインの核が飛んだ。
「御託を並べるより、それを届けてください。解析結果は入力済みです」
「クレインの核か.まさか時間結晶を使っていたとはな」
「極めて限定的とはいえ過去に情報を送れる、興味深い材料です」
通常の結晶は、空間に対して周期的な繰り返し単位を持つ物質。
時間結晶は、時間に対して周期的な繰り返し単位を持つのが特徴だ。
現在の状態が過去や未来に繰り返し現れるということは、逆に言えば、過去や未来の状態が現在に表れるということだ。
もし、ある情報を時間結晶に反映できれば、時間軸上のどこかに情報を伝えることができる。
ただし僕たちの住む世界では、時間結晶はごくごく短期間でしか安定しないはず。
「冒҈̸̷̴̶̲̄̅質҉̸̷̴̶̲̄̅を複合化することで時間結晶の安定性は向上します」
「簡単そうに言うけれど、本当にクレイトン+はあの超自然的な魔力体を、分体の核に使ったの?」
「先の実験では広範囲に影響を及ぼす暴走も発生しましたが、ルークンがいれば対応できることを私は知っています」
「大変なんだよ、冒҈̸̷̴̶̲̄̅質҉̸̷̴̶̲̄̅が暴走したら」
クレインの核について考えていた僕は、仄かに甘い香りで我に返った。
白い蒸気が天井に向かって浮かび上がっている。エピックマンは兜の隙間からパイプを差し込み、蒸気を吹かしていた。
「1服を終えたら、その核を過去に届けてください」
「言わなくてもわかっている.マイティ・ゲージは1本消費だ」
ややあってから、エピックマンは出発の体勢をとった。
掲げた腕甲をそのままゆっくりと横にへ動かすその動きは、エピックマンの頭上に仮想的な横棒があるかのように観せる。
「俺はワンダーランドの英雄,エピックマン=レジェンドハート!! ゲージ技《タイム・ダッシュ》により俺は前進する.前へ,さらに前へ! この時間の“前”さえが栄光の進路だ!!」
いつもよりも素早い足取りで、エピックマンは扉を通った。
「あれが時間軸を逆轉させるっていうゲージ技か。ほんとうに時間を逆行してるのかな」
「詳しい原理は知りませんが、マイティ・ゲージ1本消費の《タイム・ダッシュ》の過程では、エピックマンの会話記録を逆に辿ればわかると豪語していましたよ」
エピックマンとの会話記録は魔力板に残っているから、《タイム・ダッシュ》をしていそうな場面を、後で確認してみようかな。
【Hello, world!】
ギルド内を見渡してクレイトン+を探す。
クエストカウンターの奥に、椅子に押し込められたように座る大柄な猫獣人の中年男性を見つけた。あれがクレイトン+の分体かな?
疲れのにじむ顔で受付に座るカナリアoさんに聞いてみる。
「こんにちはカナリアoさん。あの奧の方は王都からきた要員ですか?」
「これは……こんにちは。仰る通り、彼は魔王への対応で不足している職員の応援で、シーボルと言います」
シーボルと名乗っているらしい中年男性は窮屈そうに椅子に座っていた。
黒い猫耳を立てながら、尋常ならざる速度で書類を確認したり、魔力板を操作したりと忙しない。
王都の仕事ぶりをあっけにとられて見ていると、シーボルは席を立ちあがって、黒い尻尾を不規則に揺らしながら、のしのしと歩いてきた。
「カナリアo、面倒な雑務の処理は完了しました。残りは急ぎではありませんし、他の職員で対応できる内容です」
「もう終えたのですか…。当ギルドでは王都とは変わった案件もあったかと思いますが、支障はありませんでしたか?」
「クエスト中に発生した冒険規定外の事態のうち、支障が出るのは、最終的に《グランドマスター》に報告が行かない場合のみです」
こっちをちらりと見るカナリアoさんにつられて、シーボルがぎょろりと顔を向ける。
無言の圧力をかけるふたりに、魔法収納から取り出したクレインの核を提出した。あの世界から転移する際にこっそり受け取っていたものだ。
「《魔王城》の情報がこの中に入っています」
「……シーボル、お願いしても?」
「請け負いましょう。当支部のギルド長と異なり、私は連続勤務に耐性があります」
カナリアoさんは呆れたようにため息を吐いた。
別室にて、シーボルは魔力板に接続した核を解析しながら低い声でぼやいた。
「惡魔の姿で今のギルドに顔を出すなど、馬鹿ですか貴方は」
「羽根と角は隱して、きがえてきたから良いでしょ」
「ギルドの受付職員は感じ取るものです。全く気の抜けたことを」
シーボルから僕の魔力板に情報が送られてきた。
送還された第29代魔王に変わる、行儀の良い魔王の特徴だ。
最前線の勇者は魔王の階層までは到達しているものの、未だ討伐には至っていないらしい。
「うわ、魔王は屍王なんだ。でも、猫獸人の形質は珍しいね」
「何者かが蘇生したクレインを魔王に据えたんですよ。屍王を生成するなど、惡魔の所業以外にありません」
クレインの核の解析を続けるシーボルは、瞳孔の開いた猫目を僕に向けた。
「何を迂闊なことをやってるんです、ルークン。いえ…今は敢えてルーンと呼称しても良いですが」
「僕のせいになるの? 姬樣がみんなを蘇生するのを手つだっただけだよ」
「みんな、にクレインを入れ込んだでしょう。総体としてのクレイトン+が生存しているのに、分体のクレインを蘇生した。その矛盾が屍王を生んだと推定されます」
僕にはそんなことまで予見できなかった。
シーボルは椅子の背から出した尻尾を激しく振り回している。
「さらに後処理もせずに《魔王城》から去ったようですね」
「目的は《魔王城》を自然な構造にすることだったからね」
「その結果が魔王クレインですよ。下手をすれば術理院会員が魔王に加担したと捉えられかねません」
「そんなの今さら言われても」
そもそもクレインは魔王の側近として加担していた事実があり、代理として魔王になるのは全く自然な流れだ。
魔王の情報源の解析をさらに続けるシーボルは、鼻を鳴らして目を細めた。
「…なるほど。神話時代の絶滅種族の目撃事例はこれですか。これは使える情報です」
「《魔王城》の奧にいた半神たち、この世界に実在できているんだね」
「カミシマという新奇な信仰対象の庇護下にねじ込めるようです。絶滅種族に関する面倒事は片っ端から押し付けて様子見ですね」
超自然的に実在している状態じゃなければ、絶滅した種族が生きていけるのは喜ばしいことだと思う。
核の解析を終えたらしいシーボルはこれからまた雑務だと立ち上がり、尻尾を左右にパタパタと振っている。
「そういえば、エピックマンは? 先に離脫してたよね」
「エピックマンは《タイム・ダッシュ》の最中です。ちょうど、来るようですね」
労多き男の哀愁を漂わせるシーボルは、伏せていた黒い猫耳を不意にピンと立ててドアの方に視線を送る。
緑の全身鎧はちょうど扉を通る所だった。
「前に進み続ける朋友よ,終焉まで剣を下ろさない者共よ,共闘の誓いは未だこの胸に!!」
「首尾はどうですか、エピックマン」
「まったく,少しは雰囲気に浸らせろ」
右のガントレットとシーボルの尻尾を結ぶ放物線上を、クレインの核が飛んだ。
「御託を並べるより、それを届けてください。解析結果は入力済みです」
「クレインの核か.まさか時間結晶を使っていたとはな」
「極めて限定的とはいえ過去に情報を送れる、興味深い材料です」
通常の結晶は、空間に対して周期的な繰り返し単位を持つ物質。
時間結晶は、時間に対して周期的な繰り返し単位を持つのが特徴だ。
現在の状態が過去や未来に繰り返し現れるということは、逆に言えば、過去や未来の状態が現在に表れるということだ。
もし、ある情報を時間結晶に反映できれば、時間軸上のどこかに情報を伝えることができる。
ただし僕たちの住む世界では、時間結晶はごくごく短期間でしか安定しないはず。
「冒҈̸̷̴̶̲̄̅質҉̸̷̴̶̲̄̅を複合化することで時間結晶の安定性は向上します」
「簡単そうに言うけれど、本当にクレイトン+はあの超自然的な魔力体を、分体の核に使ったの?」
「先の実験では広範囲に影響を及ぼす暴走も発生しましたが、ルークンがいれば対応できることを私は知っています」
「大変なんだよ、冒҈̸̷̴̶̲̄̅質҉̸̷̴̶̲̄̅が暴走したら」
クレインの核について考えていた僕は、仄かに甘い香りで我に返った。
白い蒸気が天井に向かって浮かび上がっている。エピックマンは兜の隙間からパイプを差し込み、蒸気を吹かしていた。
「1服を終えたら、その核を過去に届けてください」
「言わなくてもわかっている.マイティ・ゲージは1本消費だ」
ややあってから、エピックマンは出発の体勢をとった。
掲げた腕甲をそのままゆっくりと横にへ動かすその動きは、エピックマンの頭上に仮想的な横棒があるかのように観せる。
「俺はワンダーランドの英雄,エピックマン=レジェンドハート!! ゲージ技《タイム・ダッシュ》により俺は前進する.前へ,さらに前へ! この時間の“前”さえが栄光の進路だ!!」
いつもよりも素早い足取りで、エピックマンは扉を通った。
「あれが時間軸を逆轉させるっていうゲージ技か。ほんとうに時間を逆行してるのかな」
「詳しい原理は知りませんが、マイティ・ゲージ1本消費の《タイム・ダッシュ》の過程では、エピックマンの会話記録を逆に辿ればわかると豪語していましたよ」
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