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Chapter 4 一般の場合
4.17 Fermat primes
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ギルド内を出る前に、シーボルに買い取りカウンターに呼ばれた。
大柄な猫獣人は鼻をスンと鳴らすと、魔法収納の箱をカウンターにドンと置いた。
「この箱は何? 僕にプレゼント?」
「ポーションの納品依頼に決まっているでしょう。期日は明日の朝まで、可能な限り等級の高い品を100個ほどお願いします」
「明日までに100個って。休憩なしでも無茶な量だよ」
「今代魔王である屍王が分霊を撒き散らしているせいで、物資が不足しているんです」
ギルドと教会の子ども達だけでは製薬が回っていないらしい。
魔法収納の中身を確認してみると、普通ではまったく使わない素材ばかりだった。
「こんな藥草でどうしろっていうわけ」
「自慢の製薬技術があるでしょう。ポーションひとつで救われる生命があるかもしれない、その可能性に手を尽くさない理由はありません」
紫色の隈を擦りながら希望を語るシーボルに、疲れたからいやだとは言えなかった。
魔法収納の箱を抱えようとしたところ、ふいに両肩に重みがかかって、僕はバランスを崩して倒れ込む。
「ルークン、やっと見つけた...! マヒロを、マヒロを探すのを手伝って!!」
「……リズィ・ロザリンド。銀星1等級の冒険者が《魔王城》攻略を放棄せざるを得ない状況、というわけですか」
「話をするなら、まず僕の上からどいてくれる…?」
僕の上に《転移》してきたらしい金髪の小さな魔法使いの下から這い出る。
どっかりと椅子に座り直したシーボルに促され、リズィちゃんは赤いハットを目深にかぶり直して話を始めた。
「《魔王城》で変な感じがしたのよ。そうしたらマヒロが、俺は行かないと、俺の事情に巻き込めない、って、弾き出されたみたいに、感じられなくなって…」
「一部勇者の失踪は承知していますが、マヒロ・ウミゴエも銀星1等級、自力で帰還できないほど貧弱ではないでしょう」
「冒険には何があるかわからないでしょ! そんなときに仲間がいなくてどうするのよ! 今さらひとりで行っちゃうなんて…!」
両手で長杖を握りしめるリズィちゃんの横で、魔導書から魔法陣を転写する。
「僕のところに来たってことは、マヒロ君はこの世界にも《魔王城》にも感じられないってことだよね」
「そうよ。だからマヒロのいる世界にリズィを送って、ルークン! ......ルークン、よね? なんか変な感じがするわよ」
首をかしげてこちらを覗き見るリズィちゃんから僕の惡魔の部分を隠すように、転写した魔法陣を押し付ける。
「世界閒を移動する魔法には、この魔法陣を使う」
「たしか、半端な数の角があるのよね」
魔法陣は円に内接する正257角形。257は素数で、1と257以外では割り切れない特別な数だ。
魔法陣を描く際に、円を書く、点と点を通る直線を引く、を有限回繰り返す操作だけにすると、魔法に対して強い制約条件を要請できる。
円と直線で描ける図形は無数にあるけれども、その中で正素数多角形は、3、5、17、257、65537の5つしか知られていない。
これらの正素数多角形を魔法陣に選ぶことで、さらに強い制約が課される。
「いまの僕だと地界に移動させちゃいそうだから、リズィちゃんが魔法を使ってね」
「リズィが!? ......事情を聞くのは後にするわ。その時間がもったいないもの」
リズィちゃんは両目を瞑って小さく息を吐いた。
「たとえ違う世界にいても、マヒロ君にあいに行く。魔王城の中で、その强いイメージを魔法にすれば大丈夫だから」
「冒険規定外の行為を大丈夫などと。職員としては自重を願う所です」
「それでもリズィは行くわよ。マヒロを、助けに行かないと!」
彼女がギルドの外へ《転移》し、僕もギルドを後にする。帰り際、シーボルは黒い猫耳を立てて言った。
「《魔王城》攻略も佳境です。ポーションの納品、くれぐれもよろしくお願いします」
「納品クエストの受注はする。でも、かなり强引な手段になるよ」
「手段など選んでいる状況ではないでしょう」
明日までに100個以上だったっけ。僕だけでは厳しいので、少し工夫することになる。
大柄な猫獣人は鼻をスンと鳴らすと、魔法収納の箱をカウンターにドンと置いた。
「この箱は何? 僕にプレゼント?」
「ポーションの納品依頼に決まっているでしょう。期日は明日の朝まで、可能な限り等級の高い品を100個ほどお願いします」
「明日までに100個って。休憩なしでも無茶な量だよ」
「今代魔王である屍王が分霊を撒き散らしているせいで、物資が不足しているんです」
ギルドと教会の子ども達だけでは製薬が回っていないらしい。
魔法収納の中身を確認してみると、普通ではまったく使わない素材ばかりだった。
「こんな藥草でどうしろっていうわけ」
「自慢の製薬技術があるでしょう。ポーションひとつで救われる生命があるかもしれない、その可能性に手を尽くさない理由はありません」
紫色の隈を擦りながら希望を語るシーボルに、疲れたからいやだとは言えなかった。
魔法収納の箱を抱えようとしたところ、ふいに両肩に重みがかかって、僕はバランスを崩して倒れ込む。
「ルークン、やっと見つけた...! マヒロを、マヒロを探すのを手伝って!!」
「……リズィ・ロザリンド。銀星1等級の冒険者が《魔王城》攻略を放棄せざるを得ない状況、というわけですか」
「話をするなら、まず僕の上からどいてくれる…?」
僕の上に《転移》してきたらしい金髪の小さな魔法使いの下から這い出る。
どっかりと椅子に座り直したシーボルに促され、リズィちゃんは赤いハットを目深にかぶり直して話を始めた。
「《魔王城》で変な感じがしたのよ。そうしたらマヒロが、俺は行かないと、俺の事情に巻き込めない、って、弾き出されたみたいに、感じられなくなって…」
「一部勇者の失踪は承知していますが、マヒロ・ウミゴエも銀星1等級、自力で帰還できないほど貧弱ではないでしょう」
「冒険には何があるかわからないでしょ! そんなときに仲間がいなくてどうするのよ! 今さらひとりで行っちゃうなんて…!」
両手で長杖を握りしめるリズィちゃんの横で、魔導書から魔法陣を転写する。
「僕のところに来たってことは、マヒロ君はこの世界にも《魔王城》にも感じられないってことだよね」
「そうよ。だからマヒロのいる世界にリズィを送って、ルークン! ......ルークン、よね? なんか変な感じがするわよ」
首をかしげてこちらを覗き見るリズィちゃんから僕の惡魔の部分を隠すように、転写した魔法陣を押し付ける。
「世界閒を移動する魔法には、この魔法陣を使う」
「たしか、半端な数の角があるのよね」
魔法陣は円に内接する正257角形。257は素数で、1と257以外では割り切れない特別な数だ。
魔法陣を描く際に、円を書く、点と点を通る直線を引く、を有限回繰り返す操作だけにすると、魔法に対して強い制約条件を要請できる。
円と直線で描ける図形は無数にあるけれども、その中で正素数多角形は、3、5、17、257、65537の5つしか知られていない。
これらの正素数多角形を魔法陣に選ぶことで、さらに強い制約が課される。
「いまの僕だと地界に移動させちゃいそうだから、リズィちゃんが魔法を使ってね」
「リズィが!? ......事情を聞くのは後にするわ。その時間がもったいないもの」
リズィちゃんは両目を瞑って小さく息を吐いた。
「たとえ違う世界にいても、マヒロ君にあいに行く。魔王城の中で、その强いイメージを魔法にすれば大丈夫だから」
「冒険規定外の行為を大丈夫などと。職員としては自重を願う所です」
「それでもリズィは行くわよ。マヒロを、助けに行かないと!」
彼女がギルドの外へ《転移》し、僕もギルドを後にする。帰り際、シーボルは黒い猫耳を立てて言った。
「《魔王城》攻略も佳境です。ポーションの納品、くれぐれもよろしくお願いします」
「納品クエストの受注はする。でも、かなり强引な手段になるよ」
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