異世界召喚でわかる魔法工学

M. Chikafuji

文字の大きさ
53 / 56
Chapter 4 一般の場合

4.17 Fermat primes

しおりを挟む
 ギルド内を出る前に、シーボルに買い取りカウンターに呼ばれた。
 大柄な猫獣人キャットヒューマルは鼻をスンと鳴らすと、魔法収納の箱をカウンターにドンと置いた。

「この箱は何? 僕にプレゼント?」

「ポーションの納品依頼に決まっているでしょう。期日は明日の朝まで、可能な限り等級の高い品を100個ほどお願いします」

「明日までに100個って。休憩なしでも無茶な量だよ」

「今代魔王である屍王リッチが分霊をき散らしているせいで、物資が不足しているんです」

 ギルドと教会の子ども達だけでは製薬が回っていないらしい。
 魔法収納の中身を確認してみると、普通ではまったく使わない素材ばかりだった。

「こんな藥草でどうしろっていうわけ」

「自慢の製薬技術があるでしょう。ポーションひとつで救われる生命があるかもしれない、その可能性に手を尽くさない理由はありません」

 紫色のくまを擦りながら希望を語るシーボルに、疲れたからいやだとは言えなかった。

 魔法収納の箱を抱えようとしたところ、ふいに両肩に重みがかかって、僕はバランスを崩して倒れ込む。

「ルークン、やっと見つけた...! マヒロを、マヒロを探すのを手伝って!!」

「……リズィ・ロザリンド。銀星1等級の冒険者が《魔王城》攻略を放棄せざるを得ない状況、というわけですか」

「話をするなら、まず僕の上からどいてくれる…?」

 僕の上に《転移》してきたらしい金髪の小さな魔法使いの下から這い出る。

 どっかりと椅子に座り直したシーボルにうながされ、リズィちゃんは赤いハットを目深にかぶり直して話を始めた。

「《魔王城》で変な感じがしたのよ。そうしたらマヒロが、俺は行かないと、俺の事情に巻き込めない、って、弾き出されたみたいに、感じられなくなって…」

「一部勇者の失踪は承知していますが、マヒロ・ウミゴエも銀星1等級、自力で帰還できないほど貧弱ではないでしょう」

「冒険には何があるかわからないでしょ! そんなときに仲間がいなくてどうするのよ! 今さらひとりで行っちゃうなんて…!」

 両手で長杖を握りしめるリズィちゃんの横で、魔導書から魔法陣を転写する。

「僕のところに来たってことは、マヒロ君はこの世界にも《魔王城》にも感じられないってことだよね」

「そうよ。だからマヒロのいる世界にリズィを送って、ルークン! ......ルークン、よね? なんか変な感じがするわよ」

 首をかしげてこちらを覗き見るリズィちゃんから僕の惡魔の部分を隠すように、転写した魔法陣を押し付ける。

世界閒せかいかんを移動する魔法には、この魔法陣を使う」

「たしか、半端な数の角があるのよね」

 魔法陣は円に内接する正257角形。257は素数で、1と257以外では割り切れない特別な数だ。

 魔法陣を描く際に、円を書く、点と点を通る直線を引く、を有限回繰り返す操作だけにすると、魔法に対して強い制約条件を要請できる。

 円と直線で描ける図形は無数にあるけれども、その中で正素数多角形は、3、5、17、257、65537の5つFermat primesしか知られていない。

 これらの正素数多角形を魔法陣に選ぶことで、さらに強い制約が課される。

「いまの僕だと地界に移動させちゃいそうだから、リズィちゃんが魔法を使ってね」

「リズィが!? ......事情を聞くのは後にするわ。その時間がもったいないもの」

 リズィちゃんは両目をつむって小さく息を吐いた。

「たとえ違う世界にいても、マヒロ君にあいに行く。魔王城の中で、そのつよいイメージを魔法にすれば大丈夫だから」

「冒険規定外の行為を大丈夫などと。職員としては自重じちょうを願う所です」

「それでもリズィは行くわよ。マヒロを、助けに行かないと!」

 彼女がギルドの外へ《転移》し、僕もギルドを後にする。帰り際、シーボルは黒い猫耳を立てて言った。

「《魔王城》攻略も佳境かきょうです。ポーションの納品、くれぐれもよろしくお願いします」

「納品クエストの受注はする。でも、かなり强引な手段になるよ」 

「手段など選んでいる状況ではないでしょう」

 明日までに100個以上だったっけ。僕だけでは厳しいので、少し工夫することになる。




 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

処理中です...