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2 鉛白の章
トールの過去。
しおりを挟む「なにかしら。また爆音?……しかも後ろから?」
スカーレットは最初の爆音の場所に向かっていたのだ。
後ろから爆音が聞こえるとは何事か。
「なんだお前は!」
「うわ。見つかった。」
研究所の警備隊に見つかった。スカーレットは頭をかかえる。今はとにかく速く移動したかった。
「イゾルテ解除っっ!」
警備員たちは,各々のイゾルテを即座に解除する。
10人くらいはいるだろうか。
「あああー。面倒だわっ。」
――――トールは大丈夫だろうか。
ふと、スカーレットは思った。
純白の冬景色。
そして旭川の研究所。
トールの悲しい過去を凝縮したかのような土地だ。
あの、むせかえるような血の匂い。
この場所にいるだけで、スカーレットは当時の悪夢を思い出してしまう。
「早く東京に帰らなくちゃ。」
スカーレットは気合を入れた。
「イゾルテ解除っ!」
スカーレットは美しい漆黒で鋼鉄の翼を広げた。
そしてせまい廊下を匠に飛び回る。
「こ、鋼鉄のスカーレットかっ?」
警備隊たちは驚愕を表情。
スカーレットは,適合率の低い警備員たちにどうこうできる相手ではなかった。
目にもとまらない速さで飛びまわり、1人、また1人と気絶させていった。
思えば、なるべく殺傷しない今のスタイルも、過去のトールの事件が発端だった。
「ここにいると……トールがっていうより、私が暗くなるわ。」
スカーレットはそうつぶやくと、トールの元へ戻ろうと踵を返した。
その時。
「スカーレット。」
今一番心配していた声が聞こえた。
トールの声だ。
いつの間にか,スカーレットに追いついている。
「トール……。なんでここに?ラリーは?」
「お前も変わらないな。」
落ち着き払った口調,声は同じであるが異変を感じたスカーレット。
「トール?」
もう一度,呼びかける。トールはスカーレットの表情を見て笑う。
「久しぶりだな。お前にも晴らしたい恨みがたくさんあるぜ。」
「……。」
「俺の邪魔ばかりしやがって。」
スカーレットは暗い表情を浮かべながら,今起きていることを整理した。
「……今のトールじゃないわね。」
「今だろうが,昔だろうが俺はトールだ。」
「……あんたは死んだわよ。」
「生きている。摩訶不思議だろ?無念を晴らすためさ。それに使命がある。」
「……トール……。」
「邪魔するなら、お前でも殺す。もっとも、お前だって目的のためには手段を選ばないよな。今度は、油断しないぜ。」
「……。」
間違いない。
このトールは過去のことを知っている。
だが、なぜ。
「……トールはあの時死んだのよ。あんたはただのコピー。」
「なんでもいいさ。だが、俺はお前を始末してここから進むぜ。もう、背中は見せないぜ。」
「……。」
スカーレットは、過去に思いをはせる。
イゾルテを解いたままだ。
だが、どうしてもトールに剣は向けることができない。
純白の冬景色。
そして、吹雪の前をおぼつかない足取りで歩く人影。
自分の所業。
スカーレットは、初めて、手が震えた。
トールは死んだのだ。
目の前にいるトールは偽物。
わかっている。
体は遺伝子上トールであっても、記憶があるわけがないのだ。
だが、なぜ正確な記憶を持っている。
スカーレットしか知るはずの無い、死の間際のことを知っている。
「……。」
頭が混乱している。
どうすればよい。
自分はもう、トールのためにしか動かないことを決めていた。
それはただの自己満足だとは理解している。
だが、トールの姿をした人間に、次こそは幸せになってほしいと願ったのだ。
旭川に行くとトールが言った時。
嫌な予感はした。
「でも……どういうことなの……?」
トールの記憶がないのは当然だ。
オリーブに救出されてからしか、彼の人生がないのだから。
だが、なぜ、記憶がある。
なぜ、過去を知っている。
「……どうして。」
スカーレットは生まれて初めて、うろたえた。
「さあ、長く続いたお前との関係も終わりだ。お前が俺を殺せないなら、勝負ありだ。俺は、許すつもりはない。お前達、ホワイトナイトを……!」
久しぶりに、そう呼ばれた。
ホワイトナイト。
胸がつぶされるような、響きだ。
「死ね!」
トールがアルテミスでスカーレットに近づき、剣をあげて切りかかった。
――――その時。
「―――――右腕だ。」
スカーレットの耳に、聞いたことの無い声が聞こえた。
聞いたことがないのに……どこか懐かしい。
「右腕に、秘密がある。そこを攻撃すれば、あなたの望みは叶う。」
(……右腕?)
トールの剣を辛うじてかわしたスカーレット、そして鋼鉄の翼バルバロッサを開く。
自分の剣をしっかりと握り、切りかかってくるトールの右腕めがけて切りかかった。
「トールっっっっ!!!」
右腕に近づくと、トールとスカーレットの純白の粒子が激しく衝突した。
「うわああああ!!」
トールの叫び声。
そして、スカーレットも粒子激突の衝撃で跳ね返される。
「いたたた……。」
スカーレットは頭を押さえながら立ち上がり、トールの様子をうかがった。
トールは気絶していた。
「トール……。」
スカーレットは周囲を見渡した。
誰もいない。
あの声はなんだったのだろう。
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