EX HUMAN

ゆんさん

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5章.憧れと、「憎い」

6.逃げ場所

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「そうさね‥」
 おじ様はいやに勿体ぶって、たっぷりりためてから
「逃げ場所だな」
 言った。
 え? あんだけ勿体ぶって、これ?
「逃げ場所? 」
 僕は首を傾げる。
 なに、逃げ場所って。
「人間、いろいろいる。
 里の中での暮らしが当たり前で、これで満足~って人間も、
 ここでは不満! 外の世界に出て行きたいって人間も。
 ‥止められないよ。
 だって、人それぞれなんだから」
 僕は首を傾げたまま、更に眉を寄せる。
 え? でも、生れついた環境は、もう運命だと思ってあきらめるしかなくない? 
 そりゃね、向き不向きはあるよ。
 喜和ちゃんの一族にだって運動神経の関係で、コイツは暗殺は無理‥って子がいたけど、その子は自分の特性を考えて情報部に養子に入ったよ? ‥そういうもんじゃない?
 外の世界に出て行きたいって人間?

 例えば‥こんなのかな? (← 想像してみる)
 ポン太郎(16歳)
 外見(設定)文系の家に生まれた、だけどそう優秀ではない三男。家業に向いておらず、また里での暮らしに不満がある。やせ型、貧弱(← 里の者全員共通の鍛錬をさぼっているから。真面目な鳴門は健康なのに鍛錬を怠る人間が大嫌い)気合の感じられない軽薄な雰囲気の優男。

 俺はこの家に向いてね~そもそも、里で終わる人間じゃね~、よし、日本国民になろう。あ、戸籍とかないか。‥そこは、「何とかして」とにかく日本国民になって‥(← 鳴門の思う「悪い奴」だから、違法とか全然厭わない)
 放課後マックとかスタバとか行って、スマホとか買って、可愛い彼女作って朝まで通話しちゃったりして、カラオケでAll(朝までカラオケすること。Allって‥古くね? )したりして。(← 鳴門の思う、軟弱で「遊んでる奴」のお決まりのパターン。勿論、偏見)
 髪の毛とか染めちゃって、しかもイケてる頭にするぜ!? (← どんな髪型がイケてるかは分からない。鳴門的に髪の毛を染めるとかは、有り得ない愚行なんだ)
 ピアスとか開けるぜ? 三つも四つも開けちゃうぜ? で、タトゥーとかいれてさ、バイク乗り回しちゃうぜ? (← ここまでくると、不良なんだかよく分からなくなってくる)
 とにかくさ! 朝まで明るい街で住みたいわけ! 里とかってさ、昼でも薄暗いわけよ。‥そういうの、嫌なんだよね! 

 みたいな奴‥嫌じゃね? 人として終わってるよ。考えただけで腹立ってきた。何も考えてなさそう。志とかなさそう。
 ‥そんな奴里にいる??

「僕は‥少なくとも里の外の世界に行きたいと思ったことはありません」
 僕は首を傾げたまま言った。おじ様がふふっと苦笑いする。
「さっきの想像でさ、ポン太郎は、違法で日本の戸籍とか手に入れてたじゃない? だけど‥それって常識的に考えてかなりリスクが高いわけ。日本政府は里の人間をこれでもかって程敵対視してるからね。ちょっとした違法だって見逃さないって思う。
 だから、そこで豊臣。
 豊臣の家に養子に入る。
 そしたら、日本国民としての戸籍が手に入る。合法で」
 移民受け入れ的に、豊臣は里を出たい人間の支援をしている。
「だけど、その制度が犯罪に利用されたらいけない。‥日本政府はそこらもきちんと見張っている。
 養子に入った子供は毎日その行動を日本政府に見張られる。
 そもそもね、日本国民となった時、国によって「枷」がつけられるんだ。
 過去の総てを調べられ、把握され、管理される。うそ発見器的なものも普通に使われる。それだけじゃない血を抜かれ、身体中を調べられる。
 「助け合い保険」という臓器マッチングアプリの為にね」
 おじ様が抑揚のない声で言った。表情は穏やかだけど目が笑っていない。
 ゾッとした。
 助け合い保険。裕福な者が保険金を払い、裕福でない者の生活をサポートする政府公認の特殊な保険制度。
 サポートされる側は、「有事の際には、ドナーとなる」という契約をする。(これが担保みたいなもん? )健康維持に努め、年に何回か健康状況を報告するのが義務。(保険によっては、飲酒等を規制される場合もある)
 契約者に何もないまま一生を終える場合が殆どだが、もし契約者に何かがあれば、サポートされてきた側は、臓器を有無も言わず提供する。‥そういう、非人道的な保険。
 マッチングのデータとして、日本国民は常に健康状態その他を日本政府に管理されている‥という噂だ。(で、自己破産とかになって生活が困難になった場合は、半強制的にサポート側として保険に加入させられるらしい。文字通り身体で払えって奴だな)
 冷や汗が頬を伝って一筋落ちた。
「臓器マッチングアプリ‥。だけど、全員が助け合い保険に加入しなければいけないわけじゃない。
 スペアの臓器として他人に管理される人間は‥そう多くないって聞く」
 微かに震える声で僕がそう言うと、おじ様は
「里からの養子は全員加入が義務付けられる。
 適合者がいてもいなくても全員。つまり、変な行動を見せたら移植に見せかけて始末するぞって牽制だ。‥勿論、普通に適合者が見つかり、有無も言わさず臓器提供させられる奴もいる。
 養子に入った者は、新しく日本国民になったから、当面は資金面で不便があるでしょ? そんな時、この保険から月々出る生活費は貴方の生活を助けてくれる唯一の収入になりますよ。
 ってのが、日本政府側の親切心らしい」
 静かな声でそう言った。
「‥そんなの‥そんなの分かってて、誰が日本国民になりたいって思う? 少なくとも、里の人間の中にはそんな人間いないよ」
 やけに喉が渇く。ひり付く喉からようやく声を絞り出す。
 顔が‥強張る。
 おじ様はふ、っと寂しそうに微笑み。
「いる」
 って言ったんだ。

「それでも‥そうだとしても、里を出たい人間は‥いるんだ」
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