1 / 9
⑴
しおりを挟む
誰もいない教室で、彼は傲慢に命令した。
僕に、跪いて奉仕をしろと。
机に腰掛けた彼は、少し大きめの青いシャツにジーンズで、歳よりも幼く見えた。
意地悪そうにこちらを見遣るその瞳に、僕はいつだって逆らえない。
身長だって体重だって、彼よりもよっぽど僕の方が……。
力なら、負ける筈はない。
だから、僕が彼の言いなりなのは、ただ、惚れた弱みなのだ。
彼の股間に唇を寄せると、彼はそっと僕の頭を撫でてくれた。
彼のそんな不器用な優しさは、僕だけが知っている。
彼の名前は相沢久敬《あいざわひさたか》。夜間定時制高校の同級生だ。
僕は飯森智《いいもりさとる》。
出席番号一番と二番。だから、ぽつぽつと話すようになるのに、そんなに時間はかからなかった。
彼と僕とは同級生だが、歳は離れている。彼は十七歳。学年通りの年齢だが、僕は二十三歳。六つも離れている。
彼が夜間定時制高校を選んだ理由は知らない。特に昼間に働いている素振りもない。そして、彼は抜群に勉強が出来た。
僕が夜間定時制高校に通っているのは、いじめが原因で高校を中退したが、仕事の関係で高校卒業免許が必要になったからだ。昼間は不動産会社で働いている。
彼を好きになったのは、一年の終わり、バレンタインの頃のこと。
誰もいない教室で静かに涙を溢す彼が綺麗で、僕は目が離せなくなった。
何があったのか知らない、だけど、彼に笑って欲しいと思ったんだ。
「……誰だ? 」
気付かれたことにびっくりして、立ち去りそびれた。
「飯森……」
「ごめんね、誰かいると思わなかったんだ。忘れ物取りに来て……」
間が悪い僕は、ヘラヘラと愛想笑いをした。だけど、心臓はドクドクと煩い。彼の涙は止まっていたけれど、その表情はいつもと違う。迷子の子供のようだった。
「誰にも言うな! 言ったら殺すから」
物騒な言葉に、僕はただ首を振るしか出来なかった。
彼が立ち去ろうとしたのを、その手を掴んで引き留めてしまったのは、自分にも抑えきれない衝動。そんな自分がいたことに、今でも僕は驚いている。
「相沢君、好きだ……」
彼は驚いて、そして、その瞳に静かな怒りをこめて、僕の手を振り払った。
「何のつもり? 同情? 生憎、そんなもん必要ないから」
「そんなつもりじゃない……。本当に、そんなんじゃないんだ」
「……ふん。じゃあ、飯森、あんたを下僕にしてやるよ。俺はあんたなんか好きじゃない。だけど、あんたは俺のことを好きなんだろ? じゃあ、下僕でいいよな? 」
意地悪な物言い、そして、その瞳に魅せられて、僕はまた、頷いていたのだ。
そうして、僕の下僕生活は始まった。
僕に、跪いて奉仕をしろと。
机に腰掛けた彼は、少し大きめの青いシャツにジーンズで、歳よりも幼く見えた。
意地悪そうにこちらを見遣るその瞳に、僕はいつだって逆らえない。
身長だって体重だって、彼よりもよっぽど僕の方が……。
力なら、負ける筈はない。
だから、僕が彼の言いなりなのは、ただ、惚れた弱みなのだ。
彼の股間に唇を寄せると、彼はそっと僕の頭を撫でてくれた。
彼のそんな不器用な優しさは、僕だけが知っている。
彼の名前は相沢久敬《あいざわひさたか》。夜間定時制高校の同級生だ。
僕は飯森智《いいもりさとる》。
出席番号一番と二番。だから、ぽつぽつと話すようになるのに、そんなに時間はかからなかった。
彼と僕とは同級生だが、歳は離れている。彼は十七歳。学年通りの年齢だが、僕は二十三歳。六つも離れている。
彼が夜間定時制高校を選んだ理由は知らない。特に昼間に働いている素振りもない。そして、彼は抜群に勉強が出来た。
僕が夜間定時制高校に通っているのは、いじめが原因で高校を中退したが、仕事の関係で高校卒業免許が必要になったからだ。昼間は不動産会社で働いている。
彼を好きになったのは、一年の終わり、バレンタインの頃のこと。
誰もいない教室で静かに涙を溢す彼が綺麗で、僕は目が離せなくなった。
何があったのか知らない、だけど、彼に笑って欲しいと思ったんだ。
「……誰だ? 」
気付かれたことにびっくりして、立ち去りそびれた。
「飯森……」
「ごめんね、誰かいると思わなかったんだ。忘れ物取りに来て……」
間が悪い僕は、ヘラヘラと愛想笑いをした。だけど、心臓はドクドクと煩い。彼の涙は止まっていたけれど、その表情はいつもと違う。迷子の子供のようだった。
「誰にも言うな! 言ったら殺すから」
物騒な言葉に、僕はただ首を振るしか出来なかった。
彼が立ち去ろうとしたのを、その手を掴んで引き留めてしまったのは、自分にも抑えきれない衝動。そんな自分がいたことに、今でも僕は驚いている。
「相沢君、好きだ……」
彼は驚いて、そして、その瞳に静かな怒りをこめて、僕の手を振り払った。
「何のつもり? 同情? 生憎、そんなもん必要ないから」
「そんなつもりじゃない……。本当に、そんなんじゃないんだ」
「……ふん。じゃあ、飯森、あんたを下僕にしてやるよ。俺はあんたなんか好きじゃない。だけど、あんたは俺のことを好きなんだろ? じゃあ、下僕でいいよな? 」
意地悪な物言い、そして、その瞳に魅せられて、僕はまた、頷いていたのだ。
そうして、僕の下僕生活は始まった。
0
あなたにおすすめの小説
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる