僕の想いが君に通じますように

木野葉ゆる

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 誰もいない教室で、彼は傲慢に命令した。
 僕に、跪いて奉仕をしろと。
 机に腰掛けた彼は、少し大きめの青いシャツにジーンズで、歳よりも幼く見えた。
 意地悪そうにこちらを見遣るその瞳に、僕はいつだって逆らえない。
 身長だって体重だって、彼よりもよっぽど僕の方が……。
 力なら、負ける筈はない。
 だから、僕が彼の言いなりなのは、ただ、惚れた弱みなのだ。
 彼の股間に唇を寄せると、彼はそっと僕の頭を撫でてくれた。
 彼のそんな不器用な優しさは、僕だけが知っている。
 
 彼の名前は相沢久敬《あいざわひさたか》。夜間定時制高校の同級生だ。
 僕は飯森智《いいもりさとる》。
 出席番号一番と二番。だから、ぽつぽつと話すようになるのに、そんなに時間はかからなかった。
 彼と僕とは同級生だが、歳は離れている。彼は十七歳。学年通りの年齢だが、僕は二十三歳。六つも離れている。
 彼が夜間定時制高校を選んだ理由は知らない。特に昼間に働いている素振りもない。そして、彼は抜群に勉強が出来た。
 僕が夜間定時制高校に通っているのは、いじめが原因で高校を中退したが、仕事の関係で高校卒業免許が必要になったからだ。昼間は不動産会社で働いている。
 
 彼を好きになったのは、一年の終わり、バレンタインの頃のこと。
 誰もいない教室で静かに涙を溢す彼が綺麗で、僕は目が離せなくなった。
 何があったのか知らない、だけど、彼に笑って欲しいと思ったんだ。
 
「……誰だ? 」
 気付かれたことにびっくりして、立ち去りそびれた。
「飯森……」
「ごめんね、誰かいると思わなかったんだ。忘れ物取りに来て……」
 間が悪い僕は、ヘラヘラと愛想笑いをした。だけど、心臓はドクドクと煩い。彼の涙は止まっていたけれど、その表情はいつもと違う。迷子の子供のようだった。
「誰にも言うな! 言ったら殺すから」
 物騒な言葉に、僕はただ首を振るしか出来なかった。
 彼が立ち去ろうとしたのを、その手を掴んで引き留めてしまったのは、自分にも抑えきれない衝動。そんな自分がいたことに、今でも僕は驚いている。
 
「相沢君、好きだ……」
 彼は驚いて、そして、その瞳に静かな怒りをこめて、僕の手を振り払った。
「何のつもり? 同情? 生憎、そんなもん必要ないから」
「そんなつもりじゃない……。本当に、そんなんじゃないんだ」
「……ふん。じゃあ、飯森、あんたを下僕にしてやるよ。俺はあんたなんか好きじゃない。だけど、あんたは俺のことを好きなんだろ? じゃあ、下僕でいいよな? 」
 意地悪な物言い、そして、その瞳に魅せられて、僕はまた、頷いていたのだ。
 
 そうして、僕の下僕生活は始まった。 
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