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男のプライド?

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 翔が、俺の彼氏面をする。
 例えば、部活帰りに俺のカバンを持ってくれたり、家まで送ってくれたりする。頼んでないのに。昼休みはパンを分けてくれるし、飲み物を奢ってくれたりする。全く頼んでないのに。そして、試験勉強を教えてやるからと、部屋に来たりする。一度も頼んでないのに。

 俺は中田右京。そして、翔とは佐伯翔太。高校になって知り合った友人だった。一年も二年も同じクラスで、同じ弱小卓球部の部員で、気の合う仲間だった。この間までは。
 ふた月ほど前、うっかり翔に掘られてしまってから、おかしなことになったのだ。
翔が甘ったるいセリフを吐いて、隙あらば俺を抱こうとする。まさか俺を彼女扱いしているわけではないだろうが、なんだか彼氏面されていると感じるのだ。
 翔はいわゆるイケメンだ。女子にモテる。たまに告白されたりするし、バレンタインの時は沢山チョコレートを貰ったりもしていた。一年の時は彼女だかセフレだかもいたように思う。俺は女の子に縁がないから、翔とそういう話はしてこなかった。だから詳しくは知らない。でも、後輩の多田良和、通称良は噂好きでおしゃべりだから、良経由でそれなりに耳に入ってくる。女慣れしている翔が俺のことも女と同じ扱いをしているのかと考えると、頭が痛い。
 俺は、翔よりでかい。数センチだが背も高いし、横幅もある。趣味が筋トレだから、腹筋は六つに割れているし、腕も足も太い。女に不自由しないはずの翔が、なんで俺なんかに拘っているのかは謎だ。右京は俺のだ、などと言うが、変な話だ。俺は俺だ。翔の持ち物ではない。

「なぁ、部活終わったら、部屋へ行っていいか? 」
「構わねぇけど、今日はしねぇぞ」
「えぇ、なんでだよ? 」
「なんでじゃねぇんだよ」

 しつこく食い下がってくる翔を振り切って、俺は部室へ急いだ。

 翔とのエッチは気持ちいい。オナニーなんか目じゃないくらい半端なく気持ちがいい。だから、困るのだ。もっと欲しいと思ってしまう。際限なく、欲してしまう。
 俺は淫乱ってヤツなのか?

 だいたい、俺の方がでかいのだから、俺が翔に突っ込んだっていいと思うのに、いざその時となると、そんなこと頭から抜け落ちて、ただ、翔のなすがままに喘いで、気が付いたらわけが分からなくなっていて、翔のちんこ、尻の穴に入れられて、あんあん言っているのだ。

 こんなのはおかしい。そう思うのに、今までずるずると流されてきてしまったが、そろそろ目を醒まさないといけない。
 俺は男だ。断じて、翔の女じゃねぇ。
 もう二度と、翔とやったりしない。
 握りこぶしを作って、俺は誓った。絶対、もう二度と流されないと。

 部活が終わって、俺の家で、翔と二人でいる。
「なんか食う?」
「俺、右京の塩焼きそば食いたい。それから、右京も食いたい」
「俺は食いもんじゃねぇっつうの。塩焼きそばな。了解。中華スープはインスタントでいいか」
 フライパンを用意して、キャベツをざく切りにし始めたら、翔はダイニングテーブルに宿題を広げて勉強し始めた。意外なことに、翔は勉強ができる。頭が悪いとモテないとか言って、一年の時から成績上位をキープしている。弱小卓球部なんかに入らず、サッカー部とか野球部とかに入っていたら、もっとモテたんじゃないかと思うのだが、そう言ったら、部活に青春を奪われたくねーの、と嘯いていた。
 翔は細身だがよく食べる。まぁ、男子高校生だから当たり前か。好き嫌いもないから、何を作っても綺麗に平らげた。俺の飯を食うたびに、嫁に来いなどと言うが、冗談じゃない。俺は男だっての。

「ほんとにしねぇの? 」
 塩焼きそばを食い終わって、歯磨きもした翔が、未練たらしく聞いてくる。
「しねぇ」
「なんで? 明日土曜で、おまけに部活もねぇのに? 」
「だからって、なんでお前としなきゃいけなくなるんだよ。俺は男だっつうの」
「そんなの今更だろ。右京。何度したと思っているんだよ」
 そう、何度もした。だからこそ、ちゃんとけじめをつけなければ。
「俺はもう二度と翔とセックスしねぇ。今までがおかしかったんだ。俺はてめぇの女じゃねぇんだよ」
「は? 俺がいつ右京のこと女扱いしたよ? ふざけんな」
「女扱いしてないつもりかよ? 嫁に来いとか言うくせに? 」
「それは言葉の綾だろ」
「いいから、もう止める。お前はただの友達だ」
「ふざけんな! 右京、マジで言ってるのかよ? 」
 バッと肩を掴まれた。視線が絡み合う。翔の怒りを含んだ、それでいてどこか傷ついたような表情に、俺の心臓がキュッとなった。
「マジだよ。俺は、お前と友達以上になるつもりなんてもともとなかったんだ」
「……っ、くそったれ」
 
 翔はカバンを引っ掴んで荒々しく家を出て行ってしまった。
 これでよかったんだよな? 
 その問いに、俺は、上手く答えを出せなかった。
 ただ、翔の泣き出しそうな表情が、いつまでも俺の目に焼き付いていた。


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