1 / 1
白線
しおりを挟む
「いってきまーす」
ランドセルを背負って決まった時間に家を出る。なんてこともない通学である。家の門を出て、いつもと変わらない風景の中、学校への歩みを進める。
……曲がり角をいつも通り曲がった時だった。私と同じように小学生が通学しているわけだが、いつもと様子が違ったのである。有り体に言えば、ランドセルが一直線に列を成していた。
(なんだこりゃ)
異様な光景だった。集団登校の日だったか……いや集団登校にしても列の整いがすぎるし、うちの小学校に集団登校なんて存在しない。しかし、異様な光景とはいえ、みなランドセルを背負って学校へ向かっている事は、間違いなさそうだった。
ひとまず列へ近づく。高速道路の渋滞にも似たその列には入る隙が無い。別に列に入らなくても学校へは行けるが、人間の心理か本能か、列に入って学校へ行かなければならない気がしてならない。
困ったもんだと一人であわあわもたついていると「おはよう。どうしたんだい?そんな露骨にもたついて」と列の中にすっぽりと納まった友人が声をかけてきた。
「おはよう、列に入れなくて困っているんだよ……」
「ふふっしょうがないな。私の前に入るといいよ」
友人はそう言って私を列の中へと入れてくれた。
「いやぁ助かった。このまま一生列に入れず、学校へ行けないかと思ったよ」
「大袈裟だな。ちゃっかり割り込んでしまえばよかったのに」
「これだけきれいな行列を作られちゃ割り込みもしにくいだろ?」
「まぁ気持ちも分からなくはないがね」
友人と会話をしながらも行列は、まるで訓練された軍隊のごとく一定のペースでスタスタと学校へ向かっている。
※
「しかし、なんだいこの行列は」
「なんだ君、気づいていなかったのかい?」
友人が驚いた顔でそう言う。はて、やはり臨時の集団登校かなにかか。
「足元を見たまえよ」
「足元?」
友人に言われるがまま足元を見る。足元には白線があった。正確に言えば路側帯だ。
「白線があるね……これになにかあるのかい?」
「自分の足元じゃなくて、そうだな、前の連中の足元を見てごらんよ」
再び友人の言いなりになって、列の前の方へ目を向ける。足元を見て、なるほどと思った。みな白線の上を綱渡りのようにして歩いていた。後ろの方を見ても同じくだった。
「みんな綱渡りみたく歩いているから、列ができているんだよ」
「はぁ……しかしなんでまた急にこんな事になったんだい?」
「そりゃ私も知りたいところだね。しかし、列の長さを見るに、なにかを知っていそうな先頭集団は既に登校しているだろうし、群集心理みたいなものじゃないかな。前の人が白線を綱渡りみたいにして歩いていたから、その後ろを同じように歩いてみた。すると、また別の誰かが来て同じく白線を綱渡りみたいにして歩く。そうして結果的にこの列ができたのだと私は推理するよ」
「なるほどね。しかし、危ないじゃないか。白線を綱渡りみたく歩く気持ちは分からなくはないけれど、本来私達は、この白線の内側を歩くべきだろ?」
「うむ、確かにその通りだね。だけどね君、今、ここは白線を綱渡りしても安全なのだよ」
「そりゃまたなんでだい?」
「ここはスクールゾーンだからだよ。スクールゾーンは時間帯によって車両の通行が禁止されているからね」
「はーなるほど」
そんな友人との雑談もそこそこに、列の中にいる私達は学校の校門をくぐった。校門をくぐると列は解消され、みな思い思いに散り散りになる。やはり、白線の上を綱渡りのようにして歩いていたので間違いなかったみたいだ。しかし、不思議なこともあるもんだ。明日も明後日も、この調子で登校する羽目になるのではなかろうか。そう思っていたが、その日の朝会で先生から注意があった。「あのように列を成して登校するのは、近隣の方の迷惑になるし、危険が伴うからやめるように」と。
※
次の日、あの曲がり角を曲がると行列は無かった。ランドセルはまばらに登校している。
「やぁおはよう。今日もいい天気だね」
「おはよう。結局あの行列はなんだったんだろうね」
「さてね。それより、今日は算数のテストがあるみたいだよ」
「げっマジか」
結局、あの日以降、白線の行列を見ることは無かった。あれはいったいなんだったのだろうか。
ランドセルを背負って決まった時間に家を出る。なんてこともない通学である。家の門を出て、いつもと変わらない風景の中、学校への歩みを進める。
……曲がり角をいつも通り曲がった時だった。私と同じように小学生が通学しているわけだが、いつもと様子が違ったのである。有り体に言えば、ランドセルが一直線に列を成していた。
(なんだこりゃ)
異様な光景だった。集団登校の日だったか……いや集団登校にしても列の整いがすぎるし、うちの小学校に集団登校なんて存在しない。しかし、異様な光景とはいえ、みなランドセルを背負って学校へ向かっている事は、間違いなさそうだった。
ひとまず列へ近づく。高速道路の渋滞にも似たその列には入る隙が無い。別に列に入らなくても学校へは行けるが、人間の心理か本能か、列に入って学校へ行かなければならない気がしてならない。
困ったもんだと一人であわあわもたついていると「おはよう。どうしたんだい?そんな露骨にもたついて」と列の中にすっぽりと納まった友人が声をかけてきた。
「おはよう、列に入れなくて困っているんだよ……」
「ふふっしょうがないな。私の前に入るといいよ」
友人はそう言って私を列の中へと入れてくれた。
「いやぁ助かった。このまま一生列に入れず、学校へ行けないかと思ったよ」
「大袈裟だな。ちゃっかり割り込んでしまえばよかったのに」
「これだけきれいな行列を作られちゃ割り込みもしにくいだろ?」
「まぁ気持ちも分からなくはないがね」
友人と会話をしながらも行列は、まるで訓練された軍隊のごとく一定のペースでスタスタと学校へ向かっている。
※
「しかし、なんだいこの行列は」
「なんだ君、気づいていなかったのかい?」
友人が驚いた顔でそう言う。はて、やはり臨時の集団登校かなにかか。
「足元を見たまえよ」
「足元?」
友人に言われるがまま足元を見る。足元には白線があった。正確に言えば路側帯だ。
「白線があるね……これになにかあるのかい?」
「自分の足元じゃなくて、そうだな、前の連中の足元を見てごらんよ」
再び友人の言いなりになって、列の前の方へ目を向ける。足元を見て、なるほどと思った。みな白線の上を綱渡りのようにして歩いていた。後ろの方を見ても同じくだった。
「みんな綱渡りみたく歩いているから、列ができているんだよ」
「はぁ……しかしなんでまた急にこんな事になったんだい?」
「そりゃ私も知りたいところだね。しかし、列の長さを見るに、なにかを知っていそうな先頭集団は既に登校しているだろうし、群集心理みたいなものじゃないかな。前の人が白線を綱渡りみたいにして歩いていたから、その後ろを同じように歩いてみた。すると、また別の誰かが来て同じく白線を綱渡りみたいにして歩く。そうして結果的にこの列ができたのだと私は推理するよ」
「なるほどね。しかし、危ないじゃないか。白線を綱渡りみたく歩く気持ちは分からなくはないけれど、本来私達は、この白線の内側を歩くべきだろ?」
「うむ、確かにその通りだね。だけどね君、今、ここは白線を綱渡りしても安全なのだよ」
「そりゃまたなんでだい?」
「ここはスクールゾーンだからだよ。スクールゾーンは時間帯によって車両の通行が禁止されているからね」
「はーなるほど」
そんな友人との雑談もそこそこに、列の中にいる私達は学校の校門をくぐった。校門をくぐると列は解消され、みな思い思いに散り散りになる。やはり、白線の上を綱渡りのようにして歩いていたので間違いなかったみたいだ。しかし、不思議なこともあるもんだ。明日も明後日も、この調子で登校する羽目になるのではなかろうか。そう思っていたが、その日の朝会で先生から注意があった。「あのように列を成して登校するのは、近隣の方の迷惑になるし、危険が伴うからやめるように」と。
※
次の日、あの曲がり角を曲がると行列は無かった。ランドセルはまばらに登校している。
「やぁおはよう。今日もいい天気だね」
「おはよう。結局あの行列はなんだったんだろうね」
「さてね。それより、今日は算数のテストがあるみたいだよ」
「げっマジか」
結局、あの日以降、白線の行列を見ることは無かった。あれはいったいなんだったのだろうか。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です*
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
お月さまのポケット
ほしみ
絵本
静かな夜。
小さなうさぎのミーミは、まんまるお月さまに出会いました。
お月さまのおなかには、ふしぎなポケット。
そこには、だれかの大切な「なにか」が、やさしくしまわれています。
お月さまとミーミの、小さくてあたたかな夜のお話。
※単体のお話として完結しています
※連載中の投稿作品「人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―」の作中作の絵本
お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
悪女の死んだ国
神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。
悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか.........
2話完結 1/14に2話の内容を増やしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる