白線

伊吹 藍 (いぶき あおい)

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「いってきまーす」
 ランドセルを背負って決まった時間に家を出る。なんてこともない通学である。家の門を出て、いつもと変わらない風景の中、学校への歩みを進める。
 ……曲がり角をいつも通り曲がった時だった。私と同じように小学生が通学しているわけだが、いつもと様子が違ったのである。有り体に言えば、ランドセルが一直線に列を成していた。
(なんだこりゃ)
 異様な光景だった。集団登校の日だったか……いや集団登校にしても列の整いがすぎるし、うちの小学校に集団登校なんて存在しない。しかし、異様な光景とはいえ、みなランドセルを背負って学校へ向かっている事は、間違いなさそうだった。
 ひとまず列へ近づく。高速道路の渋滞にも似たその列には入る隙が無い。別に列に入らなくても学校へは行けるが、人間の心理か本能か、列に入って学校へ行かなければならない気がしてならない。
困ったもんだと一人であわあわもたついていると「おはよう。どうしたんだい?そんな露骨にもたついて」と列の中にすっぽりと納まった友人が声をかけてきた。
「おはよう、列に入れなくて困っているんだよ……」
「ふふっしょうがないな。私の前に入るといいよ」
 友人はそう言って私を列の中へと入れてくれた。
「いやぁ助かった。このまま一生列に入れず、学校へ行けないかと思ったよ」
「大袈裟だな。ちゃっかり割り込んでしまえばよかったのに」
「これだけきれいな行列を作られちゃ割り込みもしにくいだろ?」
「まぁ気持ちも分からなくはないがね」
 友人と会話をしながらも行列は、まるで訓練された軍隊のごとく一定のペースでスタスタと学校へ向かっている。



「しかし、なんだいこの行列は」
「なんだ君、気づいていなかったのかい?」
 友人が驚いた顔でそう言う。はて、やはり臨時の集団登校かなにかか。
「足元を見たまえよ」
「足元?」
 友人に言われるがまま足元を見る。足元には白線があった。正確に言えば路側帯だ。
「白線があるね……これになにかあるのかい?」
「自分の足元じゃなくて、そうだな、前の連中の足元を見てごらんよ」
 再び友人の言いなりになって、列の前の方へ目を向ける。足元を見て、なるほどと思った。みな白線の上を綱渡りのようにして歩いていた。後ろの方を見ても同じくだった。
「みんな綱渡りみたく歩いているから、列ができているんだよ」
「はぁ……しかしなんでまた急にこんな事になったんだい?」
「そりゃ私も知りたいところだね。しかし、列の長さを見るに、なにかを知っていそうな先頭集団は既に登校しているだろうし、群集心理みたいなものじゃないかな。前の人が白線を綱渡りみたいにして歩いていたから、その後ろを同じように歩いてみた。すると、また別の誰かが来て同じく白線を綱渡りみたいにして歩く。そうして結果的にこの列ができたのだと私は推理するよ」
「なるほどね。しかし、危ないじゃないか。白線を綱渡りみたく歩く気持ちは分からなくはないけれど、本来私達は、この白線の内側を歩くべきだろ?」
「うむ、確かにその通りだね。だけどね君、今、ここは白線を綱渡りしても安全なのだよ」
「そりゃまたなんでだい?」
「ここはスクールゾーンだからだよ。スクールゾーンは時間帯によって車両の通行が禁止されているからね」
「はーなるほど」
 そんな友人との雑談もそこそこに、列の中にいる私達は学校の校門をくぐった。校門をくぐると列は解消され、みな思い思いに散り散りになる。やはり、白線の上を綱渡りのようにして歩いていたので間違いなかったみたいだ。しかし、不思議なこともあるもんだ。明日も明後日も、この調子で登校する羽目になるのではなかろうか。そう思っていたが、その日の朝会で先生から注意があった。「あのように列を成して登校するのは、近隣の方の迷惑になるし、危険が伴うからやめるように」と。



 次の日、あの曲がり角を曲がると行列は無かった。ランドセルはまばらに登校している。
「やぁおはよう。今日もいい天気だね」
「おはよう。結局あの行列はなんだったんだろうね」
「さてね。それより、今日は算数のテストがあるみたいだよ」
「げっマジか」
 結局、あの日以降、白線の行列を見ることは無かった。あれはいったいなんだったのだろうか。
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